「なりもの入り」が定番?実野菜の話、トマト編
農業の後継者不足が叫ばれるようになって久しい。今まさに、国内のあらゆる農村は高齢化で様々な生産活動が衰え、作りたいけど体力的に作れないとか、村の人員がいなくて用水路の整備が行き届かないとか、ニュースでもおなじみの問題に直面している。
新規就農の促進を。とか、いや地域看取りで地方再編だ、非効率な山村はいっそ無くさねばならない。だとか、貸し農地の流動化を、とか、生産効率のよい農業法人を増やして組織化を進めるんだ。とか。問題に対して色々な対策が考えられている。
暇庭には上に書いたような、難しいことは考えられない。学者でもなんでもないからだ。しかし、新規就農に関しては応援したいし、ものを書く趣味ついでに、働くにあたって肝心要のお金のことについて書こうと思う。企業勤めもそうだがみんな金のために働くのだから。儲けばかり追いかけるのも違うが儲けが無くては話にならない。
ということで、百姓の語る儲かる作物についてのいろいろを、いくつか語ってみようと思うのだ。
新規就農を目指す方、実家に戻って畑があるので管理しなきゃいけないんだよねという方、大都市の暮らしは自分には合わないかも……という方。余りカッチリ真面目に考えず、娯楽作品と同じように読んでいっていただきたい。こういうのは楽しさも大事だ。
前置きが長くなった。話を始めようと思う。
新規就農者で比較的、安定してスタートを切り軌道に乗るのも早い野菜がある。
それはトマト、なす、ピーマン、きゅうりなど、実のなる野菜である。百姓や八百屋ではしばしば「なりもの」と呼ぶ。私の知っている範囲では、この中でも殊にトマト栽培で新規就農した方の中に成功者が多い印象がある。
どのくらい儲かるのか。ひとつ具体例を出そう。
個人情報は伏せるが、2021年に新規就農したAさんの話だ。
Aさんはもともと東京生まれで長らく東京に住んでいた。IT系の仕事に就いていたが、熾烈な競争で職場環境はどんどん悪化し、仕事と寝床の往復という荒んだ生活が嫌になって田舎に来たのだという。折しもコロナ禍の真っ只中であり、仕事を辞めるのは相当に勇気が要ったと聞いた。
東京を離れ、東北の、山に囲まれた田舎町にやって来たAさんは、町営住宅に暮らしながら、今後の収入源のため、新規就農者支援事業を受けることになった。
各県、各市町村で様々な支援事業がある。内容も様々あるのだが、ものによっては大変厚いサポートがついて生活を保障してくれたりする。Aさんが受けたのはトマトの支援事業だったが、ほぼ1年間、勉強をしながら実地作業も行い、補助金が月12万円ほど貰える。決して楽とは言えないが、以前働いていた時に貯めた貯金とあわせて衣食住を十分にまかなえるくらいであったそうだ。
さて、補助金で乗り切った1年目を越えて2年目、畑を借りる目処もつき、学んだノウハウを確認できるようにまとめ、機械を購入し軽トラックも用意して、Aさんはいよいよ農家としての一歩を踏み出した。そして、Aさんが思っていたよりも、トマトの売り上げは大きかったのだ。
5月から11月半ばまでで露地栽培トマトの売上は実に500万円。半年でこの額は素晴らしい実績だ。そして驚くのがその額を稼ぐのに必要だった畑の面積である。
なんとたったの18m×34m。イメージしにくい方もいると思うので身近なもので例えると、小学校のプールは10m×25m。あれよりタテヨコが1.5倍くらい長いと思ってもらえればいい。
それってすごいの?と思うかもしれないが、これがもし田んぼで同じ額の売り上げを取ろうと思ったら、おおよそ10倍の面積で頑張らないといけない。収入源として見たときの実野菜のよいところは面積あたりの収入が大きいこと、これに尽きる。夏場の作業はつらいが、頑張った分はもれなく収入に反映される。
さらにトマトのよいところは、露地栽培ならばそこまでたくさんのコストがかからないことだ。
耕すのにもそこまで大きい畑でなければトラクターは必要ない。手押しの耕うん機があればいい。草を生やさないように黒いビニールで覆うマルチングも、ひとりで作業を完結することができる。支柱組みだけ少し大変だが、ひとりで出来ないことはない。
何を隠そう、暇庭家の畑の近く、隣村の耕作放棄地だった場所に、なんだか地元民じゃない雰囲気を醸す男が毎日来るようになったということで気になってはいたのだ(我ながら嫌な田舎しぐさだ)。そこで畑の整備再生作業を行っていたのがAさんだった。互いの自己紹介ついでに、なりゆきで暇庭はAさんの支柱組みをほんの少しばかり手伝ったのだ。大都市に生まれ育った人との会話はやはり新鮮でテンポも良く、楽しかった。歳も同じぐらいで世代的にも共通の話題が多いのがこれまたよかった。
初期投資は機械、土地、資材等諸々含めて400万円ていどだとか。今は軽トラックがめちゃくちゃに高いので回収までにはそれなりにかかるが、ローンを組んで地道に頑張る甲斐がある。
Aさんはトマトを作っていた先の畑のほかにももうひとつ畑を借りていて、そこはAさんが自分で食べる用の野菜や、田舎では通貨の代わりとしても機能する豆類を育てていた。初めての畑仕事で豆類を育てるあたりにAさんの農村への理解度の高さが垣間見える。
食べきれなくて余ったから……と突発的に貰い物をしたりするといつでもお返しにあげられるものが必要になる。乾燥させた豆類は保存が効き扱いやすく物々交換には便利。狙ったのかは分からないが実に素晴らしいセンスだ。というかAさんは生まれながら商売の素養を持っている気がしてならない。ニュースなどから「今はこういうのがいいらしい」と読み解くのが上手であり、暇庭のほうが勉強させてもらっているほどだ。
脱線した。話を戻そう。
そんなわけでトマト農家としてスタートを切ったAさんは、去年までコンスタントにトマトだけで年間約500万円の売り上げを出している。去年に限ってはさらにサブの作物として枝豆も少し作ったようで、その利益を指して盆小遣いと言っていた。鮮度が最大の売りになる枝豆を作るあたりがやはり商才を感じる。
差し引きで残るいわゆる粗利益だが、生産のための諸経費と機械・車のローンを差し引いても250万円前後だという。
これを年収と見ると少ないような気がするが忘れてはいけない。これはトマトが実る間のたった半年そこそこで得られる収入だということを。トマトのオフシーズンならばアルバイトに行ってもいいわけだ。Aさんは冬季はパートタイマーとして働いていて、そこでの収入は純粋にプラスだ。
さらに百姓の食費は自分で野菜を作っている以上、企業勤めの人よりかなり安くできる。あふれるほど野菜があるため主菜用のお肉とお魚、調味料以外に買うものがないなんてこともあったりする。
加えて軽トラックに使うガソリンなどの減税も農業従事者として適応され手取り以上に生活は良い。これがローンを払い終われば利益はさらに大きくなる。
ちゃんとひとりで管理できる畑2つでここまでのことができるのが百姓である。どうだろうか、3K仕事と呼ばれる農家の仕事も、作物によってはなかなか悪くないように見えてこないだろうか。「なりもの入り」のトマトは、実は比較的間口の広い農業入門なのかもしれない。
トマトは年による儲かる、儲からないの差が比較的少ないのも嬉しいところ。作中では触れなかったがB級品や変形果を売ることのできる販路を持っていると実ったトマトが無駄にならない。どの作物でも言えるが規格外品をお金に変えられる売り先はあって損はない。




