応援
病院の朝は人の群れでごった返している。この国のどこにでも見られる風景。受付を済ませた患者の多くがまず向かうのが採血室だ。診察の前に血液検査を行い、その結果を以て異常がないかを確認する。だから、採血室はいつも人に溺れる。
「採血番号七十八番の方、採血室にお入りください」
感情の無い機械音声が次の患者を招く。前の患者の採血が終われば次の患者が入ってくる。当たり前だが、『当たり前』だという事実が心を削る。こんなところで永遠を感じても虚しい以外の感想は湧かない。明らかに採血待ちの患者の増加速度に対応が追い付いていない。採血ができなければその後の診察の開始時間が遅れ、患者の待ち時間が増加し、不快指数が急上昇して、最終的にはクレームとしてこちらに返ってくる。看護師の吉沢は止血テープを貼りながら声を上げた。
「採血、応援お願いします!」
すると、採血待ちの患者の一人――おそらくは六十絡みの、髪を短く刈り込んだ実直そうな男がおもむろに立ち上がり、病院のフロア一帯に響く大声を張り上げた。
「フレー、フレー、さ・い・け・つ! フレ、フレ採血! フレ、フレ採血!」
その場にいた看護師全員が「何事か?」と男に視線を集める。男はどこか晴れやかな、やりきった、とでも言うような達成感をその顔に滲ませ、一礼して腰を下ろした。その凛とした声援に周囲から自然と拍手が沸き上がる。それは、
――急がんでええよ。できる範囲でおやりなさい
という温かい感情に満ちた音だった。
「ありがとうございます。頑張ります」
吉沢は待っている患者に向かって笑顔でそう言うと、
(……そうじゃ、ないんだ――)
目尻の涙をそっと拭い、患者の処置に戻った。
欲しいのは、人手なんだ――




