ホットケーキ執事
「ぬわああん疲れたもおおおおおおん!!」
野獣のごとき咆哮を上げながら、『エーデリア』お嬢様が屋敷に帰ってきた。
「『パトリック』!聞いてよパトリック!」
「はいはいどうされましたかお嬢様、まぁた婚約破棄でもされましたか?」
「なんで分かったのおかしくない?」
お嬢様が野獣の咆哮を上げて帰ってくる際は婚約破棄された時だと言うのは、これまでのお嬢様の行動パターンで予測済みだ。
「何なのあのボンクラ公爵令息&クソ役令嬢あぁもぉ思い出すだけで腹立ってきたふぁっきんしっとー!!」
「お嬢様お嬢様、令嬢としてその言葉遣いはお控えください、作品ジャンルが変わってしまいます」
「と言うわけでパトリック!ホットケーキ焼いてちょうだい!」
「はいはい、かしこまりました」
何が「と言うわけ」なのかは知らないが、お嬢様が大好物のホットケーキをご所望されたなら、執事としてはそれに御応えするのみだ。
ふんわりほんわり焼き上げたホットケーキに、惜しみ無いメープルシロップを添えて。
「はむはむもぐもぐ……もぃふぃ!やっぱりパトリックのホットケーキは最高ね!」
「お褒めに預かり光栄です」
お嬢様はどれだけ嫌な目クソな目に遭おうとも、僕が焼いたホットケーキでたちまちご機嫌だ。
しかし分からない。お嬢様は真に国の繁栄のために尽力されているのに、それを無下にする婚約破棄者達は人を見る目が腐っているのか。
「もうあれよね、この国おしまいよね、見捨てていよね?」
「あはは、それならいっそ僕と駆け落ちでもします?」
「そ れ よ !!」
お嬢様は椅子を蹴倒して立った。
「パトリックと結婚すれば万事解決よ!」
「……え?」
「そうよこんな国早晩滅ぶんだからさっさと亡命しましょそうしましょ!」
「あの、お嬢様ー?」
その日即日に、僕とお嬢様は隣国に亡命し、お嬢様は後宮の小役人として忠務されるようになった。
お嬢様の宣言通り(?)に結婚させられた僕はと言うと。
「はぁー、やっぱりパトリックのホットケーキは最高ね」
「お褒めに預かり光栄です」
正直、結婚前とあまり変わらないのだけど、お嬢様としてはそれくらいでちょうどいいのかもしれない。
――さぁ、明日も愛するお嬢様のために政務をこなし、ホットケーキを焼くぞ。




