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8 降臨した呪いの化身

 暗い蔵の中では、もみじが吹き飛ばした扉と引き戸が雷で着火して燃えていた。

 もみじが自分の足元を見ると、自分の下の直径九十センチの範囲の床が大きく歪んで波打つように揺れ動いており、もみじが自分の体に目をやると、もみじの胴体も、脚も、腕も、左手で持つ懐中電灯も大きく歪んで揺れ動いていた。

『あたしと周囲の空間が歪んでいる? しまった! 体が全く動かねぇ!』

 愕然としているまふゆの視線の先では、不気味な笛の音が蔵の内部を満たす中、炎で照らされたもみじの姿が、全身を歪ませながらゆっくりと宙に浮かび上がっていった。


 怨咒(えんじゅ)の声が暗闇の中から響いた。

咒嗟(じゅさ)は今、この蔵の中に保管されている千三百四点の悪霊が取り憑いた咒魄(じゅはく)(ぶつ)に命じて、咒靈力(じゅれいりょく)をあなたの周囲の空間に集中させて、その空間を歪ませていますのよ。あ、でも、咒嗟(じゅさ)が普段から奴隷のように扱き使っている漆咒魄(しつしゅはく)を構成する七点は、今の数には入っていませんわ。

 今、あなたの周囲の空間は、その外側にある空間とは別の世界になっていますのよ。重力さえも歪んで、あなたの体とその周囲の空間が浮かび上がったのですわ。空間が歪んでいる限り、あなたがそこから抜け出すことは不可能ですのよ。

 あなたの体は神子(みこ)様の憑代(よりしろ)にすることが決まったのですから、あなたの魂なんてどうなっても構わないけど、あなたの体だけは大切にしなければなりませんの」


 もみじは床から足までが三メートルの高さに到達した位置で上昇が止まり、もみじは歪んだ空間の中で必死に藻掻いていたが、歪み続ける手足をバタバタ動かすだけで、もみじがいる位置は全く変わらなかった。もみじが手放した懐中電灯は、もみじの左肩の前で宙に浮いており、形を歪ませながら歪み続ける光を放っていた。

『ちくしょおおおおおおおっ! この空間から出られねぇええええええええっ!

 そういや、怨咒(えんじゅ)は今憑代(よりしろ)って言ったよな? 魂の入れ物ってことか? 神子(みこ)の奴、自分の年老いた体を捨てて、若くて超絶美しいあたしの体に乗り換えるつもりか? ふざけやがって! 車の買い替えじゃねぇんだぞ! 神子(みこ)は、あたしのような者が来ることをずっと待っていたって言いやがった。膨大な霊力を扱っても、それに耐えることができる体の持ち主を待ってたんだ! しかも、あたしはめっちゃ美しい! 乗り換えるなら最高の憑代(よりしろ)じゃねぇかーっ!』


 蔵の中には不気味な笛の音が響き続け、怨咒(えんじゅ)の声が暗闇の中から再び聞こえた。

神子(みこ)様が『長年待ちわびた大きな霊力を扱う者どもが、村の近くに来ておる』と仰ったから、さっきは憑代(よりしろ)としての適性を見極めるために、あなたと遊んであげたのですわ。あなたとの闘いはなかなか面白かったから、本当はもっと楽しみたいところだけれど、あなたの体を傷だらけにして神子(みこ)様の機嫌を損ねると面倒ですわ。残念だけれども、今すぐにあなたの魂を体から追い出して差し上げますわよ」


「もみじさん! ちくしょう! 動けない!」

 まふゆは目を大きく見開き、周囲の空間と一緒に体を歪ませ続けているもみじを見上げ、必死に体を動かそうとしたが、闇でできた棘だらけの枝が両腕と両脚、胴体に絡みつき、身動きがとれなかった。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおっ!」

 まふゆの目には涙が滲んでいた。まふゆの脳裏に、ナツと一緒に泣きながら母の遺体に呼びかけ、揺すり続けた五歳の時の記憶が蘇った。

『嫌だ。嫌だよ……。もみじさんまで死なせたくないよ……』

 まふゆは涙を散らして絶叫した。

「嫌だああああああああああああああああっ!」

 

『ちくしょおおおおおおおおっ! 動けねぇええええええええっ!』

 もみじのすぐ目の前に、いつの間にかビスクドールの怨咒(えんじゅ)が浮かんでおり、その右目に嵌め込まれた黒い水晶から闇の陽炎のようなものが立ち上っていた。怨咒(えんじゅ)が小さな右掌をもみじに向けると、その掌にソフトボール大の闇の塊が出現した。

「さあ、あなたの魂を体から追い出して差し上げますわ。全身に激しい痛みと苦しみが駆け巡るけど、もう大人なんだから、それくらい我慢できるでしょう?」

 もみじは冷や汗を流しながら、大きく見開いた目で怨咒(えんじゅ)の右手の先の闇の塊を見つめた。

『逃げられねぇ!』

「もみじさあああああああああああああああん!」

 蔵の中にまふゆの絶叫が響いた。


 神社の本殿では、灼熱之槍を構えるナツと正対する神子(みこ)が、薄ら笑いを浮かべて両腕を水平に広げていた。

『な、何だ? この呪いの力の急速な高まりは?』

 愕然としたナツの頬を冷や汗が伝った。

 神子(みこ)の体から、立体になった影のような半透明の黒い人間が出てきた。その姿は二メートルを超えるスレンダーな長身で、手足が異常に長く、その横顔には高くて尖った鼻と口の輪郭があった。半透明の人間の横顔の口角が上がり、ニヤリと笑みを浮かべたように見えた。

『呪いの力の源は神子(みこ)じゃない! 神子(みこ)の中に身を潜めていた動く影みたいなこの化け物から、とんでもない強力な呪いの力を感じていたんだ!』

 ナツの灼熱之槍を握る手に力が入り、神子(みこ)は笑い声を上げた。

「ふふふふっ! 余は神の声を聞く者、闘うことはない。しかし、いつも余の内には、咒靈力(じゅれいりょく)の塊からつくり出した(のろ)いの式神を常に秘しており、愚かにも余に逆らった者はその式神が葬り去ってきたのだ。その式神の名は『惨狂(さんきょう)』という。さあ、惨狂(さんきょう)よ、この少年の左腕を斬り落とすのだ」

 ナツは緊張した表情で、灼熱之槍を立てて左手で持った。

「まふゆを助けるまでは、この左腕が必要なんだ! 絶対に斬り落とされてたまるか! 古より時節の移ろいを司りし青朱白玄之尊しょうすはくげんのみことよ! その御力(みちから)を宿し給え! 蝉時雨之破砕(せみしぐれのはさい)!」

 ナツは叫びながら親指と小指を伸ばした右拳を前に突き出すと、右拳を人差し指の第一関節を突き出した形に変えて額の前方で静止させ、右手を開いて掌を惨狂(さんきょう)に向けて突き出した。ナツの右掌から夥しい数の蝉の鳴き声が大音量で発せられ、(さん)(きょう)に向かって伸びていった。

「な、何っ?」

 愕然とするナツの視線の先では、惨狂(さんきょう)の体を通り抜けた大音量の蝉の声がその背後の壁に命中し、その部分を激しく振動させて破壊していた。

「こいつの体は物質ではないのか……?」

 惨狂(さんきょう)が長い脚を一歩前に踏み出し、ナツの左腕を目がけて長い右腕を外側から振り出した。ナツは体を翻して惨狂(さんきょう)の右腕をぎりぎり避けたが、惨狂(さんきょう)の右手の先に掠った赤いサマーカーディガンの裾が切り裂かれていた。

「攻撃する瞬間、自分の武器となる前腕だけが実体化するだと?」

 ナツは惨狂(さんきょう)の半透明の体を呆然として見つめた。

 惨狂(さんきょう)の横顔の口が動いた。

「ひっひっひっ……。オレは、咒靈力(じゅれいりょく)の塊が心を持った式神なのさ。完全には物質になっていない半物質のオレは、痛みを感じることも、傷を負うことも、死ぬこともない。だが、攻撃する瞬間だけ、攻撃する部位を物質に変化させるのさ。さっきはお前に腕を振り出した瞬間に、右前腕と右手を物質化して鋭い刃物に変えたのさ。こんな風にな」

 惨狂(さんきょう)が掲げた右前腕が一瞬だけ銀色に鈍く輝く刀に変化し、すぐに元の黒い影に戻った。

「オレはお前を好きなだけ斬り刻むことができるが、お前には何一つ俺に痛手を与えることはできないのさ」

 惨狂(さんきょう)は、斜め下に広げた両腕の肘から先を一瞬だけ刀に変化させて自分の武器を誇示すると、ニヤリと笑ったかのようにその横顔の口角を上げた。

『こ、こいつとは、どうやって闘えばいい……? どうやったら倒せる……?』

 ナツは目を見開いて顔を強張らせ、激しく動揺していた。


「切子ちゃーん! にゃおーっ!」

 鏡太朗は葬儀屋のおばあさんと並んで歩き、暗い森の中で切子とにゃおの名を叫びながら、前方を懐中電灯で照らして切子とにゃおの姿を探していた。暗い森の中では、黒い花弁が舞い落ち続け、枝に吊るされた壊れた日本人形たちが揺れ続け、人形に取り憑いた悪霊たちが、村人たちには聞こえない声で呪いの言葉を叫んでいた。

「切子ちゃーん! にゃおーっ!」

 鏡太朗と葬儀屋のおばあさんの後ろでは、八人のおじいさんとおばあさんも、切子とにゃおの名を叫びながら、懐中電灯で周囲を照らして森の中の様子を確認していた。

「あ! 切子ちゃん?」

 鏡太朗の前方でうずくまる切子の後ろ姿が、懐中電灯の灯りで浮かび上がった。

「……鏡太朗……さん……」

 振り返った切子の顔は深い悲しみに沈んでおり、その目からは大粒の涙が溢れ、体が小刻みに震えていた。

「切子ちゃん……。な、何があったの……?」

 鏡太朗は切子のすぐ近くまで近づいた時、愕然として目を見開いた。鏡太朗の目に映ったのは、切子の腕の中で血まみれになって息絶えているみゃおの遺体だった。みゃおの体は全身を刃物で滅多刺しにされ、その近くには血まみれの鎌が落ちていた。

「そ、そんな……。みゃおが……、あの可愛かったみゃおが……」

 鏡太朗は体を震わせながら涙を流し、言葉を詰まらせた。その時、鏡太朗を見上げる切子の目が大きく見開いた。

 切子の目に映ったのは、鏡太朗の背中を狙って鎌を大きく振りかぶっている葬儀屋のおばあさんの姿だった。葬儀屋のおばあさんは、眼球が黒一色になり、顔や手には黒くなった血管が浮かび上がっており、邪悪な笑みを浮かべながら、体中が黒いオーラに包まれていた。葬儀屋のおばあさんの背後では、八人のおじいさんとおばあさんも同様の変貌を遂げており、邪悪な笑みを浮かべながら、手にした鎌や棒を振りかぶって鏡太朗の背後に迫っていた。

『きょ、鏡太朗さん! こ、怖くて、声が出せない!』

 切子の表情に怯えの色が浮かんだ。

 切子の目の前で、邪悪な様相に変わった葬儀屋のおばあさんが振りかぶる鎌の鋭い刃が、号泣して状況に気づいていない鏡太朗の背中に向かって振り下ろされた。


 神社の本殿では、惨狂(さんきょう)が長い両腕をナツに向かって様々な角度で振ったり、突いたりして、連続して攻め続けており、惨狂(さんきょう)の前腕は、ナツの体に近づいた瞬間にだけ鋭い刀に変化し、ナツは灼熱之槍で必死に惨狂(さんきょう)の素早い攻撃を受けていた。ナツが隙を突いて灼熱之槍による刺突や斬撃で惨狂(さんきょう)を攻撃しても、灼熱之槍の炎で包まれた穂先は惨狂さんきょうの体を通り抜けた。

「こいつの体には、どんな攻撃も効かない! まるで立体映像を攻撃しているみたいに、全く手応えがない!」

 惨狂(さんきょう)がナツに右前腕を振り下ろし、その右前腕はナツに近づいた瞬間に刀に変わり、ナツは刀に変わった右前腕を灼熱之槍の柄で受けた。その時、 惨狂(さんきょう)の右前腕は半透明の半物質に戻り、灼熱之槍を通り抜けた。

「何っ?」

 ナツは慌てて上半身を反らしたが、再び刀に変化した惨狂(さんきょう)の右前腕がナツのサマーカーディガンの左側を縦に切り裂いた。

 ナツはそのまま四歩後退して惨狂(さんきょう)から距離をとったが、着ているサマーカーディガンの左胸から左腹部分にかけて縦に裂け目が生じ、胸の辺りからは血が滲んでいた。

 ナツは冷や汗を流しながら灼熱之槍を構え、惨狂(さんきょう)を睨んだ。惨狂(さんきょう)の背後で薄ら笑いを浮かべて立つ神子(みこ)が、ナツを嘲り笑った。

「ふふふっ、全く無様なものだな。だが、安心するがよい。余はお前を見放しはしない。数百年経験を積めば、余の眼鏡にかなう働きができるであろう。お前は余の下僕(しもべ)となり、(のろ)いの闘士となるのだ」

 ナツは神子(みこ)の言葉を鼻先で笑った。

「数百年? ふざけるな。俺の命は長くてあと百年、短けりゃああと二日だ」

 神子(みこ)は尊大な口調で語った。

「肉体は単なる容れ物。人間の本質は魂にあるぞよ。余は肉体を取り替えることで、二千年以上生きておるのだ」

「何だと?」

 ナツは神子(みこ)の発言を聞いて愕然とした。

「数百年もすると過去の記憶が断片的となり、過去の自分のことが思い出せなくなくなるものだ。余は数百年生きた頃、過去の記憶を失い始めていることに気づき、これまでの経験を書に記し、これから先の自分自身に記憶を伝えることにしたのじゃ。

 余が記した書によると、今から二千余年前、(のろ)いの化身であられる神様、禍忌凶(かきく)怨咒尊(えんじゅそん)様が天から降臨され、この神社の真下の土地に宿られたのだ。禍忌凶怨咒(かきくえんじゅ)(そん)様は、この地に降臨される前の天上界でのご記憶は全て失っておられた。

 この土地に宿られた禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様は、膨大な咒靈力(じゅれいりょく)を周囲に発散し続け、ここにあった集落にいた人間は、気が触れて泣き叫びながら次々と死んでいった。生き残ったのは、強力な咒靈力(じゅれいりょく)に耐えることができた余と、三人の若者だけであった。

 その時、禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様が頭の中に語りかけてこられたが、その声を聞くことができたのは、余ただ一人であった。

 余と三人の若者は、禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様に命じられるまま、多くの人間を捕えてこの地に連れてきた。この土地に宿られた禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様が放ち続けておられる咒靈(じゅれい)(りょく)に耐えられぬ者は、やがて死んでいき、この地は咒靈力(じゅれいりょく)に耐え得る者だけで構成する村となったのだ。

 余と三人の若者は、禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様に導かれるまま、若くて膨大な咒靈力(じゅれいりょく)を扱うことに耐え得る肉体の持ち主を探し、その肉体を自身の肉体とし、肉体を数十回取り替えながら、二千余年の歳月を生きてきたのだ。

 三人の若者の一人は誰よりも膨大な咒靈力(じゅれいりょく)を扱い、咒靈力(じゅれいりょく)を物質化したり、武器とすることに長けていた。その者が扱う咒靈力(じゅれいりょく)は強力過ぎて、どんなに強靭な肉体に交換しても次々と肉体は死を迎え、其奴はやがて人間の肉体を捨てて人形を体とするようになった。其奴は二千年もの間、怨咒(えんじゅ)と名乗っておる」

「あの怨咒(えんじゅ)か……」

 ナツは、ビスクドールの怨咒(えんじゅ)を思い浮かべた。


「三人の若者の内の一名は、咒魄物(じゅはつぶつ)に宿る悪霊を操る能力が覚醒し、余を通じて禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様から様々な術を伝授された。其奴は咒嗟(じゅさ)と名乗っておる。

 もう一名は咒靈力(じゅれいりょく)を使って式神をつくり、操る能力が覚醒した。式神遣いの其奴の名は咒恨(じゅこん)という」


 一機のヘリコプターが夜空を飛んでいた。ヘリコプターは森の上空を通過しており、周囲に灯りは一切見られなかった。

 ヘリコプターの操縦席で、七十歳くらいの男性パイロットが後ろを振り返った。

咒恨(じゅこん)様。あと十分ほどで朝死川村に到着します」

「ありがとね〜」

 ヘリコプターの後ろの席には、黒衣に黒い袴を身に着け、長い白髪を後ろで束ねた温和な表情の男性が座っており、軽い口調でパイロットにお礼を言った。七十代半ばに見える咒恨(じゅこん)と呼ばれた男性は、身長が百七十センチほどのがっしりした体格の持ち主で、果物ナイフで梨を切って皮を剥き、満面の笑みで梨を食べていた。その左右の手首には、大粒の水晶玉でつくられた数珠がつけられており、その水晶の中では紫色の光と闇がまだらになって揺らいでいた。

「うん、うん! やっぱり、旬の梨は美味いね〜。ヘリコプターに乗る前にデザートを食べる時間がなかったのは残念だけど、この梨の味なら満足だよ〜!」

 咒恨(じゅこん)は懐から手拭いを出して手を拭くと、今度は懐から懐中時計を出し、現在時刻を確認した。古い懐中時計の文字盤には漢字が記されており、短い針は左斜め上に記された『戌』の文字に近い位置にあり、長い針は文字盤の上部にある『子』の文字に近づいていた。

「もうすぐ十時か〜。遅くなっちゃったな〜。やっぱり、夕食時にあの有名な天麩羅屋の行列に並んだのが失敗だったかな〜。でも、いいや。あの店の名物『ごま油飲み放題』は堪能したし〜。いや〜、上手いごま油だった!」

 咒恨(じゅこん)は独り言を言いながら懐中時計を懐にしまうと、右側の窓の外に目を向けた。 

「あれ〜? あれは?」

 咒恨(じゅこん)は、ヘリコプターの外部の右下方向に何かを発見した。


 本殿の中で、神子(みこ)は語り続けた。

禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様が放たれる強大な咒靈力(じゅれいりょく)に気づき、多くの陰陽師や修験道者、神伝霊術遣いがこの地を封印しようとして次々とやって来たが、その多くを怨咒(えんじゅ)咒嗟(じゅさ)咒恨(じゅこん)が葬り去ってきた。命を奪わなかった者の肉体は、余や手下どもの(より)(しろ)となった。

 九百年ほど前、総勢百人の陰陽師や修験道者、神伝霊術遣いが、千人の兵を連れてこの地を攻めてきた。其奴らのことは、怨咒(えんじゅ)咒嗟(じゅさ)咒恨(じゅこん)が簡単に皆殺しにしたが、禍忌凶怨咒尊(かきくえんじゅそん)様がこの地を結界で囲って秘すよう余に命じられた。そこで、千百体の死体から髪を剥ぎ、その髪を余の術で長く伸ばして黒いしめ縄をつくり、其奴らの血を搾り取り、その血を余の術で増大させて血の池とし、紙垂(しで)はその血で汚してつくったものだ。

 そうしてつくった(のろ)いのしめ縄の結界でこの土地を囲み、蠅の如く五月蠅(うるさ)(たか)ってくる者どもから、この地を秘したのじゃ」

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