20 咒いの神の言葉
土手の上では、最終形態の鏡太朗が咒恨に襲いかかろうとしていた。
その時、鏡太朗の足元から、紫と闇のまだらの光が火柱のように噴き上がり、光に全身を包まれた鏡太朗は、全身に激痛が走り、鏡太朗の顔と全身で蠢く顔が苦しみながら絶叫した。
「がああああああああああああああああああっ!」
光が止むと、鏡太朗は表情がない顔で肩で息をしており、咒恨は何ごとが起こったのかがわからずに呆然としていた。
『我が子よ、その人間を殺してはならぬ』
「誰だ? 俺たちの心の中に語りかけているな?」
鏡太朗は表情がない顔で周囲を見渡しながら叫んだ。
『我はこの土地に宿りし咒いの神。人間たちは我を禍忌凶怨咒尊と呼ぶ』
「咒いの神だと? 俺たちがあの忌々しい水晶玉に閉じ込められていた時、色々と話しかけてきた奴だな?」
『その通りだ、我が子よ。その人間は、我が食する人間の魂、神饌を集めている『神に神饌を捧げる者』。我にとって必要な存在なのだ。殺してはならぬ』
「な、何だ? 何も聞こえないぞ? こいつは誰と話をしている……?」
咒いの神の声が聞こえない咒恨は、目に見えず、声も聞こえない誰かと会話する鏡太朗の姿を呆然として見つめていた。
『我が子よ。よくぞ完璧な憑代を我が身とし、この地に帰ってきた。
汝の体は不安定な霊体であるが故、憑代に取り憑いていなければ次第に崩れ去っていく。しかし、人間の体は脆く、汝の強力な咒靈力に耐え得るのは十二分が限度なのだ。
しかし、その憑代の少年は汝の咒靈力に耐え得る体を持っており、汝の絶大な力を納める鞘となるのだ。その憑代は、この先いつまでも汝の強力な咒靈力に耐え続けるであろう』
「何っ? それは本当か?」
『我は記憶を時の彼方に置いてきた古の時より、その少年の体を憑代とした汝の姿の幻視を幾度となく視てきた。我は繰り返し視える幻視を現実とし、汝を誕生させるため、神の声を聞く者に命じ、水晶に十万体の悪霊を封印させたのだ。
汝の前につくった二つの十万体の悪霊の集合体は、失敗作であった。
一体目は人間が四十九年かけて浄化に成功した。十万体の悪霊が一つに結合していれば、浄化されて消滅することなどなかったが、十万体の悪霊は水晶の中で結合せずにバラバラのままであったので、一体ずつ浄化され、最後には全ての悪霊が消え去ったのだ。
二体目は水晶が割れ、破滅の十二分の後で悪霊たちは消え去った。十万体の悪霊が一つに結合していれば、自分たちの強力な咒靈力に耐えることができたが、悪霊たちは一つに結合していなかったために、自分たちの咒靈力に耐え切れずに一瞬で消え去ったのだ。
二体の失敗を踏まえ、汝については水晶の中に十万体の悪霊を封印した後、一つに結合するための時間として三百年の時を経てから、憑代探しに送り出したのだ。三百年の時の中で汝は見事に十万体の悪霊の結合に成功して一つとなり、しかも、我が幻視で視た少年を憑代として我の元へ帰ってきたのだ。
我が子よ。汝はいずれ咒いの神の子として、この世を咒いで治めるであろう。我は汝の誕生を待っていたのだ。さあ、汝には今やらねばならぬことがある。我の導きに従え』
「よくわからねぇが、忌々しい水晶玉に封印されていた頃から、お前は俺たちを気にかけ、色々と役に立つことを教えてくれた。今はお前の言う通りにするぞ。ただし、気に入らないことがあれば、お前には従わない。覚えておけ」
最終形態の鏡太朗は、大勢の男女が同時に喋る声で言った。
「はぁ、はぁ、はぁ」
切子は右手でお札を握りしめたまま、必死に森の中を駆け回っていたが、悪霊に支配された村人たちの狂気に満ちた声はあらゆる方角から聞こえていた。
『こんなの、逃げられないよ! 誰か助けて!』
切子の心に、変身する前の鏡太朗の優しい笑顔が浮かんだ。
『鏡太朗さん! そうだ、鏡太朗さんは今わたしのために闘ってくれているんだ。逃げなくちゃ! このお札がないと、鏡太朗さんは元の姿に戻れないって言っていた! 絶対にこのお札を守り抜いて、鏡太朗さんに渡すんだ!』
切子の憔悴し切った顔に、力強い決意が漲った。
「殺してやるーっ」
悪霊に支配されたおじいさんが、桜の木の陰から切子の目の前に飛び出し、切子の左首筋に向かって鎌を振り下ろした。
「きゃああああああああっ!」
切子が思わず両手で頭を抱えてしゃがみ込むと、おじいさんの鎌は空を切り、切子に向かって前進していたおじいさんは、切子につまづいて前方に転がった。
切子はおじいさんが倒れた姿を一瞥すると、前に向かって駆け出した。
「どこじゃ? 朝死川村はどこにあるんじゃ?」
來華とさくらは、戦闘モードに変身したコアちゃんにしがみついて夜空をゆっくりと低空で飛び、眼下に朝死川村の手がかりを探していた。
「移季節神社から帰る途中で朝死川村に行ったんだとしたら、きっとこのルートから近い場所にあるはずだよ。移季節神社の住所を調べるのに時間がかかり過ぎちゃった。急がないと!」
さくらと來華は地上の様子を真剣な表情で見ていたが、來華の胸には大きな不安が渦巻いていた。
『さっきから胸騒ぎがするんじゃ! 鏡太朗に危機が迫っている気がしてならないんじゃ!』
まふゆは大粒の涙を溢しながら、心臓の鼓動が停止したもみじの胸に両掌を当てて心臓マッサージを始めた。
「絶対に死なせない! 絶対にもみじさんは死なせないんだから!」
「まふゆ……」
まふゆの頭の上で浮遊するもみじの魂は、嬉しそうに微笑みながら、まふゆが必死に心臓マッサージをする姿を見つめていたが、まふゆの次の行動を見た瞬間に激しく狼狽した。
「まふゆ……、ちょっと待て! 早まるな!」
まふゆはもみじの下顎を上げ、もみじの鼻を指でつまんでいた。
「あ、あたし、ファーストキスもまだなんだぞ! 早まるな!」
まふゆは、もみじの口に口を当てて人工呼吸を始めた。
「まふゆーっ! あたしのファーストキスがああああああああああああっ!」
もみじは目を開いて叫び声を上げた。その時、もみじの魂はすでに体の中に戻っていた。
「もみじさん!」
まふゆは涙を散らしてもみじに抱きつくと、声を出して泣き始めた。
「よかった……。よかったよお……」
もみじは溜息をつくと、まふゆの頭を優しく撫でながら微笑んだ。
「……ま、いいか……。さすがにもう動けねぇ……。体中ボロボロだ……。な、何だ?」
もみじとまふゆは、何かに気づいて同時に愕然とした表情を浮かべた。
「な……、何なんだよ……? このとんでもねぇ強力な呪いの力……。こんなにすげぇ力……、感じたことねぇぞ……」
「も、もみじさん……。この呪いの力……、凄いスピードで近づいてくる!」
「来るぞ!」
もみじとまふゆが同時に目を向けた先では、最終形態の鏡太朗が疾風のような猛スピードで黒いしめ縄の下をくぐり、神社の境内に駆け込んでいた。
「きょ、鏡太朗だと? 今までとは桁違いの呪いの力だぞ!」
鏡太朗は蔵の壁に開いた穴の前で立ち止まると、その左肩で蠢く亡者の顔が一斉に悲鳴を上げた。それらの顔の前方の空間が歪み、歪んだ空間は凄まじい勢いでもみじとまふゆに向かって広がった。
「ぎゃああああああああああああああああああっ!」
もみじとまふゆは悲鳴を上げながら、粉砕された地面とともに三十メートル吹き飛び、地面に落下して気を失った。歪んだ空間が当たった場所には、直径三メートルの穴が開いていた。
「げへへへ……。お前たちは、後で俺たちが食ってやる。俺たちには時間の制限がなくなったんだからな。お前たちが目を覚ましてから、お前たちの恐怖と絶望と激しい痛みと悲鳴を長い時間かけて楽しみながら、体と魂を少しづつ味わってやる。げへへへ……」
最終形態の鏡太朗は表情のない顔を蔵の中に向けたまま、大人数の狂気に満ちた声で嗤った。
最終形態の鏡太朗は蔵の中に入ると、蔵の中央で再び大きくなって天井まで達した炎の前に立ち、瞳がない目で炎を睨んだ。鏡太朗が鋭い視線を向けた瞬間、まるで炎が鏡太朗を恐れたかのように見る見る小さくなって消え去った。蔵の中には、咒魄物やその燃え残り、残骸に取り憑いている悪霊たち、取り憑いていた咒魄物が燃え尽きたり、粉々になってしまい、蔵の中を漂っている悪霊たちがおり、とんでもなく強力な呪いの力を発散している鏡太朗を鳴りを潜めて怯えた表情で見つめていた。
鏡太朗の頭の中に、咒いの神の言葉が響いた。
『我が子よ。この蔵の中には、咒魄物に取り憑いた千三百四体の悪霊がいる。汝のために、神の声を聞く者に命じ、世界中から集めさせた強力な咒靈力を持つ悪霊たちだ。この悪霊たちを吸収し、汝と結合させるのだ』
「げへへへ……。そんなことは簡単なことだ」
最終形態の鏡太朗の体中から触手のような黒い雲が無数に出現して蔵中に伸び、さらに悪霊たちに向かって枝分かれを繰り返し、瞬く間に悲鳴を上げる悪霊たちを呑み込んだ。蔵の中の全ての悪霊を呑み込んだ黒い雲の触手は見る見る縮んで鏡太朗の体の中に消えた。その瞬間、鏡太朗の体の輪郭が波打ち、揺らめき始めた。
「こいつら、俺たちの中で吸収に抵抗して暴れていやがる!」
『我が子よ。次は隣の建物へ行き、中で汝を待つ神の声を聞く者に会うのだ』
「はぁ、はぁ、はぁ」
森の中で走り続ける切子の左側から、五挺の鎌が回転しながら切子を狙って飛んできた。
「きゃああああっ!」
四挺の鎌は切子のすぐ目の前とすぐ後ろを通過して、切子の右側の木の幹と紫蘇が生い茂る地面に突き刺さり、一挺の鎌は切子の頭の上を掠めて紫のヘアターバンを切り裂き、木の幹に突き刺さった。切子が愕然として左側に顔を向けると、悪霊に支配された五人の村人が、悪鬼のような形相で三十メートル先からこちらに向かって駆け寄っていた。
『立ち止まったらダメ! 逃げるんだ! 鏡太朗さんのお札を守るんだ!』
切子は再び駆け出したが、その時、左側から駆け寄るおばあさんが立ち止まり、首を左右に振りながら『お前を殺させろおおおおおおおおおおおおっ!』と絶叫すると、その口から黒い光線が斜め上に向かって発射され、光線は切子の周辺の八本の木の幹を切断した。
幹を切断された木が切子の目の前に倒れてきたため、切子は驚いて足を止め、慌てて周囲を見渡すと、周りの木々が次々と自分の近くに向かって倒れ始めており、切子は目をつぶって頭を抱えながら悲鳴を上げた。
「きゃああああああああああああっ!」
木が地面に衝突した音が連続して森の中に響き、その音が収まると、切子は目を開けて周囲の様子を確認した。切子の前方と左右は木が倒れて行く手が塞がれており、左側から迫っていた五人の悪霊に支配された村人は、倒木によって姿が見えなくなっていた。
『倒れた木が邪魔で、後ろに戻るしかない』
切子は唯一進むことができる後方を振り返ると、愕然として目を見張った。
『そ、そんな……』
切子の後ろには、鎌を手にした十三人の悪霊に支配された村人が立っており、狂気に満ちた笑いで顔を歪めていた。
切子は愕然として後退りしたが、すぐに背中に倒木の枝が当たった。
『に、逃げられない……』
「殺してやるぞ! 殺してやる!」
「お前の恐怖で凍りつく顔が心地いいぞ。お前の怯える姿をじっくり楽しんで、お前の恐怖が極限に達した時に、お前の体を滅多刺しにしてやる。うひひひ…‥」
十三人の悪霊に支配された村人たちは、鎌を高く掲げて邪悪な表情に嬉々とした笑みを浮かべながら、じわじわと切子に歩み寄っていった。
『わ、わたしがどうなったとしても、鏡太朗さんのお札だけは守るんだ……』
切子は絶望的な表情を浮かべて体を震わせながら、心の中で固く決意をした。
体の輪郭が波打ち、揺らめき続ける最終形態の鏡太朗が、神社の本殿に土足で足を踏み入れると、奥でナツが気絶して倒れており、その手前で正座する神子が自分に向かって平伏していた。その前には三方と呼ばれる神仏への供え物を置くための木製の台が置かれ、半紙が敷かれた三方の上にはビー玉の大きさの水晶玉が置かれており、その水晶玉の中では闇が渦巻いていた。神子が平伏したまま口を開いた。
「咒いの御子よ。来るべき咒いが統治する世界の王となるお方よ。わたくしの手下どもが、勝手に貴方様の憑代を襲ってご無礼を働き、誠に申し訳ございません。
この度、咒いの神、禍忌凶怨咒尊様のご命令により、四万九千二百三体の悪霊を封印せし咒怨魂を献上いたします」
「咒怨魂だと? 俺たちが封印されていた呪い玉の後継か?」
鏡太朗は右手の人差し指と親指で呪い玉をつまみ上げると、中で渦巻く闇を瞳がない目で見つめた。
咒いの神が、鏡太朗と神子だけに聞こえる声で言った。
『我が子よ。その咒怨魂を割り、中に封印せし四万九千二百三体の悪霊を吸収するのだ。その悪霊たちと一体になった時、汝は究極の姿となり、完全なる力を得ることができるであろう』
「げへへへへ……。それは面白いな。お前の言葉が正しければ、この体はこの先ずっと俺たちの咒靈力に耐えられるんだよな? 俺たちはさらなる絶大な力を手にし、全ての人間を咒い、咒いの力でこの世を支配してやるぜ。げへへへへ……」
鏡太朗は呪い玉を噛み砕き、呑み込んだ。神子が少しだけ頭を上げるとニヤリと笑い、土地全体が喜び笑っているかのように地面が揺れた。
「ぐわああああああああああああああっ!」
鏡太朗の体の輪郭がさらに激しく波打ち、皮膚のあちこちが亡者の顔や手の形になって盛り上がっては消えていった。鏡太朗の体の中から、数万人の老若男女の悲鳴が聞こえてきた。
「こ、こいつら、俺たちの中で、一つになることに激しく抵抗しやがる!」
『我が子よ。いかに強靭な憑代とは言え、このままでは暴れ続ける五万五百七体の悪霊の力に耐え切れず、その体が崩壊することになる。今から汝を魔封じの護符がある場所まで導く。汝は魔封じの護符の力により、五万五百七体の悪霊とともに憑代の心身の奥深くに封印されるのだ。それにより、五万五百七体の悪霊の抵抗は止み、緩やかに結合して全てを一体とすることができる。さあ、この咒靈力のつむじ風の導きに従うのだ』
本殿の床から高さ二メートルの紫と黒のまだらの光のつむじ風が出現して廊下を通って外へ出て行き、鏡太朗は体の輪郭が激しく波打ち、体のあちこちが亡者の顔や手の形になって次々と盛り上がり、体中から悲鳴を響かせながら、森に向かって進むつむじ風を追い、もの凄い速度で夜道を駆けて行った。
森の中では、鎌を大きく振りかぶった十三人の悪霊に支配された村人が、逃げ場を失った切子のすぐ目の前に迫っていた。
切子はお札を胸に抱えて地面にうずくまった。
『わたしはどうなってもいい! 絶対に、絶対にこのお札だけは守るんだ! 鏡太朗さん!』
涙を流して目を閉じた切子の心に、人間の姿の鏡太朗の笑顔が浮かんだ。
切子の背中に向かって十三挺の鎌が振り下ろされた。
突然、村人たちの足元から紫と黒のまだらの光の柱が上に向かって伸びた。
「ぎゃあああああああああっ!」
十三の光の柱はそれぞれ村人を一人ずつ呑み込み、その中では悪霊に支配された村人が苦しみながら絶叫していた。
「か、禍忌凶怨咒尊様は、この娘を殺すなとお考えなのかああああああっ?」
十三人の村人は気を失い、その場に倒れた。
本殿の中では、咒いの神が神子に次なる命令を伝えていた。
『神の声を聞く者よ。我が子の中の十五万五百七体の悪霊が完全に一つになるためには、時間と平穏が必要だ。全てが結合する前に魔封じの護符の封印を解くと、暴れまわる悪霊たちが放つ強烈過ぎる咒靈力によって、やっと見出した完璧な憑代であるあの少年の体は、魂とともにたちどころに消滅し、長い時をかけて集めた悪霊たちは世界中に四散し、我の計画は無と帰すであろう。
神の声を聞く者よ。そうならぬために、憑代の少年には、同行者とともに心置きなく帰途に立たせるのだ。今は憑代の少年が魔封じの護符の封印を解くような事態が発生することは、絶対に回避せねばならぬ。
魔封じの護符の封印の中で十五万五百七体の悪霊が一つに結合し、その封印を解いて究極の姿になる時、我が子がこの村におれば、最初は制御不能であろう完全なる力が開放され、神の声を聞く者である汝も、この村にいる他の者たちも、全ての者が死に至るであろう。だから、今はこの村を去らせるのだ。
神の声を聞く者よ。蔵の外に、汝の手下との闘いにより死にかけている者が二名いる。汝はこの者らが死ぬことがないよう傷を癒やし、回復させるのだ。万が一、その者たちが死ぬことがあれば、憑代の少年は自分を見失うほどの怒りに突き動かされ、魔封じの護符を剥がすことになり、全てが無に帰すであろう』
村に広がる畑の上では、両上腕にヘビの形の式神のしっぽを巻きつかせた咒恨が、眼前で自分を導く紫と黒のまだらの光のつむじ風に従い、式神の翼の羽ばたきによって低空を飛んでいた。
咒いの神は続けた。
『今我は、神に神饌を捧げる者をここへ導いている。我の声が聞こえずとも、我が意図を察し、ここへ向かっている。
神に神饌を捧げる者には、その式神を使い、そこに倒れている者と、外で倒れている二名を村の周囲に張り巡らせた結界のそばまで運ばせるのだ。
さらに、河原に落ちている忌々しき雷の神の力が宿る神器も、この地から速やかに運び出させるのだ。我が宿りしこの咒いの地に、あのような忌まわしき神器が存在することは、決してあってはならぬ』
神子は上体を起こしてニヤリと笑った。
「我らが咒いの神よ。全て仰せのままに」
紫蘇の群生の上でうずくまっていた切子は、しばらくして周囲が静かになっていることに気づき、涙で濡れた顔を上げて周囲を見た。切子に襲いかかろうとしていた悪霊に支配された村人たちは、気絶して紫蘇の群生の上に倒れていた。
「ど、どうなってるの?」
切子は何が起こったのかわからず、村人たちを呆然と見つめ続けた。
「な、何あれ……?」
切子は暗い森の奥に、この世のものとは思えない異様な存在を発見し、全身の血が凍りついていくような恐怖に襲われた。その異様な存在は、もの凄いスピードで切子に迫っていた。




