15 二千年の呪い
「死ねええええええええええええええええええええええええええっ!」
咒いの淚尽が叫び声を上げると、その体を覆う闇のオーラが大きく膨れ上がり、まふゆに向けた左掌の先に、赤い光がまだらになって入り混じった直径六十センチの闇の塊が出現した。
「この『憤怒の咒弾』で、骨一つ残さずに消滅しろおおおおおおおおおおおっ!」
憤怒の咒弾がまふゆを狙って発射され、まふゆが慌てて横に移動してそれをかわすと、憤怒の咒弾はまふゆの背後の壁に命中して半径百五十センチの範囲に広がり、その部分にあった壁を一瞬で消滅さた。
まふゆは背後の壁に開いた直径三メートルの穴を見た瞬間、目を丸くした。
『こ、こんなのが直撃したら、一瞬で体が消滅してしまう……。な、何て強力な呪いの力なの……?』
もみじは咒嗟の攻撃を足捌きでかわしながら、蔵に顔を向けて目を見張った。
「な、何だよ、今の膨れ上がった呪いの力は……? 咒怨が攻撃したのか……?」
咒嗟が表情のない死体の顔で言った。
「怨咒の咒靈力は、もっと強くて大きいのであるぞ。蓋しあの少年が放射した咒靈力の塊であろう」
もみじは愕然として叫んだ。
「ナツだと? まふゆが殺される!」
怨咒が神子に言った。
「確かにこの少年は、普通の人間の肉体には耐えられないほどの膨大な咒靈力を扱っていますわ。わたくしには遠く及ばないにせよ、肉体を持ったままでこれだけの量の咒靈力を扱うとは驚異的ですわ」
神子は満面の笑みを見せた。
「であろう? しかも、咒いの淚尽が自らの感情で生み出し続ける激しい怒りが入り混じった咒靈力は、驚くほど強大なのだ。余は何と素晴らしい持ち駒を手に入れたものか!」
咒いの淚尽は無表情のまま、燃え上がるように赤く光る瞳でまふゆを見つめた。
「お前に死に方を選ばせてやる。闇と咒いの槍で串刺しになるのと、憤怒の咒弾で消滅するのと、どちらか好きな方を選ぶがいい」
目を大きく見開くまふゆの心の中に、額に包帯を巻いて左頬にガーゼを貼っている母の笑顔が浮かんだ。
『お母さん……。あたし……、もうすぐナツに殺される……。もう……、打つ手が何もないよ……』
まふゆは闘志と生きる意欲を失って茫然と立ち尽くし、体から力が抜けていくのを感じていた。
「うわああああああああああああああああああああっ!」
暗い川辺に鏡太朗の悲鳴が響いていた。
式神に支えられて川面の上に滞空し、川の中央にいる切子をショットガンの形の式神で狙っていた咒恨は、驚いた顔を川岸に向けて目を見張った。
「な、何だ、あれは?」
咒恨が驚愕して見つめる先では、鏡太朗がさっきまで立っていた場所で黒い雲の塊が蠢いていた。その近くには、投げ捨てられたお札が落ちていた。
「こ、この咒靈力のとんでもない量は一体何だ? それに咒靈力が高濃度に圧縮されたようなあの黒い雲の隣に落ちているあの護符……、もの凄い量の御神氣を感じる……。 何が起こっている? 」
目を大きく見開いた咒恨の顔に、冷や汗が流れた。
「うわあああっ!」
黒い雲の中から弾丸のようなスピードで石が飛んできて、咒恨が手にしていたショットガンの形の式神に激突すると、咒恨は驚きの声を上げ、式神は大きく吹き飛んで川の中に落下した。
「な、何が起こった?」
咒恨が再び川岸に顔を向けると、黒い雲はすでに消えており、ハッとした咒恨が川の中央に目を向けると、七歩袖の白いルーズTシャツを着た青黒い怪物が水面の上に跳び上がり、切子を捕らえていた二体の式神に拳と足を叩き込んで粉砕していた。鏡太朗が変身した第一形態である青黒い怪物は、銀色の髪が伸びて下顎には銀色のひげが生え、両目は黒一色になり、コウモリの翼の形の両耳まで大きく広がった口には、鋭い牙が並んでいた。
蔵の外の広場では、もみじが二つの螺旋状に回転する雷、稲妻之旋風を両手で操って咒嗟を攻撃していたが、咒嗟は雷の直撃を受けても平然としてもみじ目がけて突進し、大小の刀で攻め立て、もみじは足捌きでかわし続けた。突然もみじは何かに気づき、目を見張った。
『このあり得ねぇほどの強力な呪いの力……、鏡太朗の奴、お札を剥がしやがったな! 悪霊たちの力を解放しなけりゃならないなんて、あいつは一体何と闘っている?』
もみじは険しい顔で目の前の咒嗟を睨み、その胸中では大きな不安が広がっていた。
蔵の中では、怨咒が愕然としていた。
「み、神子様……。い、今、とんでもなく大きな咒靈力が突然村の結界の中に出現しましたわ。こ、こんなに高密度に圧縮された咒靈力なんて、感じたことがありませんわ。まるで何万体もの悪霊が一箇所にいるみたい……」
神子は喜色満面で怨咒に言った。
「怨咒よ。これほど強大な咒靈力を持つ者など、この世には存在し得ぬ。もし、存在し得るとするのであれば、その答えはたった一つしかない。
ははははっ! 我が咒いの神、禍忌凶怨咒尊様。長年に渡り待ち望んだあなたの御子が、憑代を手に入れて帰ってきましたぞ! ははははっ!」
その時、村全体の地面が微かに揺れた。まるで、呪われた大地が笑っているようだった。
暗い川では、第一形態の怪物に変身した鏡太朗が、水面の上に跳び上がって二体の式神を粉砕した後、川の中に着地していた。第一形態の鏡太朗は、驚きのあまり凍りついたように固まっている切子を両腕で抱き上げると、もの凄いスピードで水飛沫を上げながら川の中を駆け抜け、川から上がって切子を河原に下ろした。
「あ、あなたは……誰?」
目を見開いて涙を浮かべながら怯える切子に、第一形態の鏡太朗は粗暴な口調で答えた。
「ぎゃははははははっ! 俺は十万体の悪霊どもに体を支配された鏡太朗さ! いいか、あと三分ちょっとで俺は悪霊どもに心を乗っ取られて、お前のことも襲い始める。今の内にできるだけ遠くに逃げて身を隠すんだ。俺が悪霊どもに心を乗っ取られた後、八分間逃げ切ればお前は助かる。さあ、行け! あのふざけた式神遣いは俺が今すぐにぶっ倒す!」
「で、でも……」
切子は怪物に変貌した鏡太朗を心配そうに見つめたまま、身動きしなかった。
「お前がいると足手まといなんだーっ! 俺の邪魔をするなあああああああっ! 早く行けえええええええええええっ!」
切子は鏡太朗の言葉にショックを受けたように目を見開いて言葉を失い、やがて俯きながら河原の横の土手に向かって走って行った。
パチ、パチ、パチ!
第一形態の鏡太朗が、拍手が聞こえた川の上方に目を向けると、二体の羽ばたく式神に両腕を支えられて川面の上で滞空する咒恨が、笑顔で拍手をしていた。
「うん、うん、感動したよ〜! 君はわざときつい言い方をして、お友達を助けたんだね〜。嫌われてもいいから、お友達の命を守ろうとするなんて、何と素晴らしいことだろう! 何しろ、君はもうすぐ十万体の悪霊に心を乗っ取られて、お友達のことも襲うことになるんだろう?」
咒恨が冷たい笑みを浮かべて口にした言葉を聞いた瞬間、第一形態の鏡太朗は驚愕した。
「なぜ、そのことを知っている?」
「君は咒怨魂……、村の人たちは親しみを込めて呪い玉と呼んでるけどさ〜、君はその呪い玉を割ったんだろう? この村は呪い玉の誕生の地なのさ〜。この村を支配する神の声を聞く者、神子様が、咒いの神様、禍忌凶怨咒尊様に命じられてつくったものなんだよね〜。
俺はやっと全ての状況を理解したよ〜。君が呪い玉を割ったのだとしたら、破滅の十二分の後で、君は十万体の悪霊に体も魂も食い尽くされて消滅し、ここには存在していないはず。なのに君は生きている。しかも、さっきは自分の意思で十万体の悪霊の力を解放したね? そんなことは普通ならあり得ないよ〜。
君の足元に落ちている護符はさ〜、さっきまで君の体に貼っていたんだね? と言うことは、その護符の力で十万体の悪霊を君の中に封印していたんだね? その護符からは、とんでもなく膨大な御神氣を感じるんだよ〜。
俺は君を初めて見た時、微かに御神氣を感じた。とんでもなく強力なその護符を体に貼っていたというのに、その時君から感じた御神氣は、神社で買ったお守りを身につけている程度の微かなものだったんだよ〜。ということはさ〜、その護符って、君の体に貼っている間は君の内側に向けて御神氣を集中して放射していて、十万体の悪霊を抑え込んでいるってことだよね〜。だから、その護符は君に貼っている間、外側へは御神氣をほとんど放たないんだね〜。うん、うん! 状況を理解したよ〜」
鏡太朗は咒恨の話を聞いて苛立っていた。
『こいつの話に、これ以上付き合っている暇はねぇ! さっさとこいつをぶっ倒して、悪霊どもに心を乗っ取られる前にお札を体に貼らねぇと……』
鏡太朗は咒恨を目がけて川の中を突進したが、咒恨の両上腕にしっぽを巻きつけている式神が羽ばたき、咒恨は三十メートル上昇した。
「逃げるんじゃねええええええっ! 俺と闘ええええええええっ!」
「この高さだと届かないみたいだね〜。残念だったね〜。君に同情するよ〜。それにね、俺って、とっても弱いんだよ。弱い者いじめをしたらダメなんだよ〜。俺って、痛い思いをするのが怖いから、誰かと闘ったりはしないんだよ〜」
「ふっ、ふざけるんじゃねえええええええええっ!」
第一形態の鏡太朗は腹まで川に浸かりながら、咒恨を見上げて激高した。
「俺は自分は闘うことなく、式神を闘わせるのさ」
咒恨の目に一瞬狂気の色が滲んだ。
「君の咒靈力って、とんでもなく凄すぎて、咒いの神、禍忌凶怨咒尊様を除くと、咒いの力で君に勝てる者なんて存在しないよ〜。『今は』ね」
咒恨の笑っている口が、一瞬狂気を帯びて歪んだ。
「君〜、俺が手首につけているこの水晶の数珠を見てよ〜。かっこいいだろ〜?」
咒恨は両手首を上げて、左右の手首につけている数珠を鏡太朗に見せた。数珠はそれぞれ十八個の水晶を繋いでつくられており、水晶の中では紫色の光と暗闇がまだらになって揺らめいていた。
「この土地から放射される咒靈力って強過ぎるからさ〜、長年浴びていると心と体に蓄積されて、心が壊れて体も死んじゃうんだよね〜。だから、俺はね〜、自分の心と体に蓄積された咒靈力をこの水晶に送って、正気と健康を保っているんだよ〜。この水晶の数珠は二千年以上使っているからさ〜、今ではとんでもない量の咒靈力を蓄えているんだよね〜。前から一度、この水晶を使って式神をつくってみたかったんだ〜」
「何だと?」
第一形態の鏡太朗は、咒恨の話を聞いて愕然とした。
「ねぇ、君〜。君の十万体の悪霊の力と、俺が二千年以上蓄積してきた咒靈力を持つ式神のどっちか強いのか、勝負をしてみない?」
狂気の表情で笑う咒恨の両手が、闇の塊で包まれた。
「水晶たちよ。我が咒靈力により、咒いの式神として我に仕えよ」
咒恨の両手を包む闇の塊が両手首につけた水晶の数珠を呑み込むと、数珠の紐が切れ、合計三十六個の水晶は、咒恨の六メートル前方まで飛んで行って宙に浮かび、卓球のボールくらいの大きさにまで膨らみ、闇がまだらに混じった紫色の光を放出した。水晶が放出する光は塊になり、少しずつ形を変えていった。
第一形態の鏡太朗は、咒恨の前方で変形していく光の塊を愕然として見上げていたが、何かに気づいてハッとした表情を見せた。
『式神が完成した時に今の位置関係だと、ほぼ真上からの攻撃を受けることになって、避けることも、反撃することも難しい。しかも、川の中じゃあ思うように動けねぇ……。移動するなら今のうちだな』
鏡太朗は光の塊を睨むと、高い水飛沫を上げながら川岸に向かって疾走した。河原に到達した鏡太朗が、川の上で滞空する光の塊を見上げると、光の塊は人の形になっており、次第に物質に変化していた。
咒恨は物質化していく光の塊を喜悦の表情で眺めていたが、ふと何かに気づいて斜め下方に目を向けると、土手の上で身を伏せて鏡太朗を見守っている切子の姿を発見した。
『お友達、見い〜つけた!』
咒恨の顔がニタ〜ッと笑った。
『鏡太朗さん……』
切子は土手の上に身を隠しながら、不安な表情で第一形態の鏡太朗を見つめていた。
蔵の中では、神子と怨咒が驚愕していた。
「何ごとじゃ? 急激に膨れ上がっていくこの咒靈力は一体何なのだ?」
目を見開いて叫んだ神子に、怨咒が呆然として言った。
「この滅茶苦茶に膨大な咒靈力の量……、十万体の悪霊の咒靈力の量を遥かに上回っていますわ……」
神子と怨咒の前では、棒立ちになったまふゆが、闇と咒いの槍を構える咒いの淚尽と向かい合っていた。咒いの淚尽がまふゆに言った。
「どうした? なぜ構えない? 今のお前からは闘志が感じられない」
「もうあきらめたのさ。何をしても無駄だってわかったからね」
まふゆが自嘲するような笑いを浮かべると、咒いの淚尽は冷たい笑みを浮かべながら闇と咒いの槍を消し去った。
「それなら、かつてお前の兄であった俺からの最後の情けだ。痛みや苦しみを感じることなく、一瞬で消滅させてやろう」
咒いの淚尽の体を覆う闇のオーラが大きく膨れ上がり、まふゆに向けた左掌の先に憤怒の咒弾が出現した。
まふゆは目に涙を溜めて悲しい表情を浮かべ、自分を消滅させようとしている咒いの淚尽を見つめた。
『お母さん、今お母さんの処へ行くからね。ひいじいちゃん、おじいちゃん、おばあちゃん、さくら、來華、河童、桃花、火車、グリーンマン、鏡太朗……、みんな、さよなら……。もみじさん……、もみじさんともっとお話したかったな……』
悲しく笑うまふゆの目から涙が溢れた。
「まふゆ!」
蔵の外で咒嗟の刀による連撃をかわしていたもみじが、ハッとして蔵に目を向けた。咒嗟も立ち止まり、表情がない死体の顔を蔵に向けて呟いた。
「この咒靈力の高まり……、あの娘、死ぬのであるぞ」
もみじは目を大きく見開いた。
咒いの淚尽が冷たい表情でまふゆに言った。
「これでお前の全てが終わりだ」
咒いの淚尽の左手から、まふゆ目がけて憤怒の咒弾が放たれた。
「まふゆーつ!」
その時、もみじが体中から血を噴き出しながら、蔵の外から駆け込んできた。
「もみじさん!」
もみじは、涙を流して目を見張るまふゆの前まで一瞬で到達すると、まふゆを抱きしめて身を低く屈め、憤怒の咒弾をやり過ごした。憤怒の咒弾は蔵の中心で燃える小さくなった炎を飛び越えて奥の壁に命中し、直径三メートルの穴を開けた。
まふゆはポロポロと涙を流しながら、もみじの顔を見つめて安心したような笑みを見せた。
「もみじさん……。あたし……、もうダメだと思って、生きることをあきらめてた……」
「まふゆ! 最後の最後まで、ぜってぇに生きることをあきらめるんじゃねぇ! ぜってぇに死ぬんじゃねぇえええええええええええええっ!」
もみじは目に涙を浮かべて全力で叫び、まふゆは涙を流しながら嬉しそうに笑った。
「もみじさん……」
「二人まとめて消し去ってやる」
咒いの淚尽はもみじとまふゆに左掌を向けると、その先に再び憤怒の咒弾を出現させ、もみじはまふゆを抱きしめながら横目でそれを確認した。
『ぜってぇにまふゆは死なせねぇ! ぜってぇにナツにはまふゆを殺させねぇ!』
咒いの淚尽の左手から放たれた憤怒の咒弾は、一瞬でもみじの背中に命中し、もみじが絶叫した。
「がああああああああああああああああああああああっ!」
もみじを追って蔵の中に戻った咒嗟が、悔しそうに言った。
「その女は此方の獲物であるぞよ。横取りされて口惜しいぞよ」
離れた場所で神子が笑いながら言った。
「咒嗟よ、よいではないか。今日は咒いの淚尽の初陣なのだ。大目に見て、この二人が消えゆく姿をともに楽しむがよい」
苦しみながら絶叫するもみじの横顔を見た瞬間、咒いの淚尽は目を見張った。咒いの淚尽の脳裏に、母親が全身を串刺しにされて絶叫している心象が浮かび上がった。
「か……、母……さん……」
咒いの淚尽の頭の中の母が絶叫している姿と、目に映るもみじが絶叫している姿が重なった時、その両目に透明な涙が浮かんだ。
「お、おめぇら……、学習能力がねぇのかよ? あたしは今、膨大な霊力を集めてこの呪いの力の塊を受け止めてんだよ! 体の限界を超えた霊力を扱って、体がバラバラになりそーなんだよおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
もみじは体中から血を噴き出して絶叫しながら、大破した壁の前に立つ咒嗟に背中を向けて裂帛の気合を発した。
「だあああああああああああああああああああああああああっ!」
もみじの背中の三センチ手前で見えない壁に押しつぶされていた憤怒の咒弾は、もみじの背中から放たれた衝撃波に押されて咒嗟に向かって飛んで行った。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!」
咒嗟は赤い光がまだらに混じった闇の塊に全身を包まれ、そのまま衝撃波で蔵の外まで吹き飛ぶと、一瞬で体が消え去った。しかし、咒嗟が姿を消した場所から、貫頭衣を着た長い黒髪の若い女性の魂が出現し、身の毛もよだつような恐ろしい形相で、狂ったような叫び声を上げながら蔵の中に飛び込んできた。
「おのれえええええええええええええええええっ!」
もみじは、鬼気迫る表情で自分に襲いかかろうとする魂を見て、目を見張った。
「こいつが咒嗟の魂か? 古より雷を司りし天翔迅雷之命よ! その御力を宿し給え! 一条之稲妻ああああああああっ!」
もみじが右掌から巨大な雷を放射し、その直撃を受けた咒嗟の魂は雷の中で苦しみ悶えた。
「か、神鳴ぞよおおおおおおおおおっ! た、魂を守る肉体がないと、神鳴には耐えられないぞよおおおおおおおおおおおおっ!」
咒嗟の魂は白い光の粒に姿を変えると、逃げるように空の彼方へ飛んで行った。
全身血だらけのもみじはまふゆに顔を向けると、優しい微笑みを浮かべた。
「あいつの魂は、やっと黄泉の国へ向かったみてぇだな」




