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「ああ、あったあったこれだよ」
キッカが鞄から本を出した、その表紙には妖精と少女が描かれている
「灰被り少女?変なタイトルですね」
「巷の女の子には大好評だよ」
アルテナが本を開くとそこにはページいっぱいに敷き詰められた文字だった、アルテナはまだ字を完全に覚えていなくその様相に引いていた。だが絵が描いてあるページを見つけ、その可憐な絵に心惹かれていた
「読んであげようか?」
キッカの提案にアルテナは尻尾を太くした
「良いんですか、お願いします」
「悟空もいらっしゃい」
キッカが手を振ると、悟空は照れ臭そうに背中を向けながら近くに寝そべった。キッカは優しく囁くような声で滑らかに読んでゆく、その声を聴きアルテナと悟空はいつの間にか眠ってしまった。
「悟空もまだまだ子供ですね」
猪八戒が悟空に毛布を掛け、キッカはアルテナが起きないように優しく肩にもたれかかっていたのをだき抱え寝かせてあげた
「この先に村があるのでそこで食料調達しましょう」
朝になり身支度をしていた、地図を見ながら方角を確認していた。皆バンに乗り悟空だけが雲に乗り込んでいた
「それで良いんですか?」
「この金斗雲はじいちゃんから貰った宝物だ、使わなくてどうする」
「人を見下す道具でもないですけどね」
「何だとー!」
「車出してください」
のろのろとゆっくり進みだすと、あぜ道に出た、舗装されていない道なのでガタガタと揺れている。しばらく走るとアルテナが車酔いしたようだ、窓から顔を出し涼んでいる
「ほらな、この金斗雲の方が立派だろ!」
「うるさいですね」
「この道を抜けたらましになると思うよ」
キッカが柴漬けの乾燥した物を出した、それを咥え吸っていると少しづつ気分もよくなってきていた。数時間走るとレンガ道の舗装された道に出た、スライムが点在し、くねくねと曲がりながら進むと、またアルテナは酔ってしまった
「三半規管が鋭い人は酔いやすいっておばあちゃんが言ってたけど、アルテナちゃん獣人だから酔いやすいのかな」
「いや外を見すぎると酔うって聞いたよ」
「何にせよ難儀だね」
それぞれアルテナを慰めていると、面白くない悟空がバンに向かって如意棒を突き立てた、それを避ける様に大きく曲がると何かに乗り上げ大きく揺れた
「なにするんですか!」
「へっ」
反省の意がない悟空はそっぽを向いた、その時後ろから火柱が上がり地面を震わすほどの鳴き声が聞こえた。皆後ろを見ると、紅い龍が炎を口に蓄えこちらを凝視した
「さっき乗り上げたのアイツだ!」
「逃げろー!!」
スライムがぶつかろうとお構いなくバンを急発進させた、大きく激しく揺れる車内に、アルテナは少しばかり楽しくなっていた、悟空が旋回し紅い龍に向かった
「俺っちがやっつけてやる!」
如意棒を伸ばし龍の口に突っ込んだ。龍は噛み砕こうとするが、如意棒があまりにも固くアグアグとしていた、すると口の中に炎を蓄えだした、その熱が如意棒に伝わってきた
「あっち!」
如意棒を縮ませると同時に龍は炎を吹き出した、その炎に触れるか否かのところでジャンヌが飛び上がり悟空を抱えバンに着地した
「ここは一旦任せておくれ」
ジャンヌはそう言うと剣を構え片方の手で魔法陣を描いた
「アイシス」
静かに呪文を唱えると、剣から勢いよく氷柱が放たれ、龍は氷漬けになった
「炎の龍は氷が苦手なのさ」
「「「今のうちだ!!」」」
皆声を揃え猛スピードアクセル全開で逃げた、何とか街に着き、食料を急いで買い出しまた車にのり走り出した
「これでゆっくり出来ますね」
「龍は懲り懲りです」
皆安堵で座席にもたれかかった、西の果てまであと半分のところまできていた、何日も野宿を繰り返し、丘を車で登っていた
「あの森、西の果てですね」
アルテナが遠くを眺め喜んだ、皆が目を凝らしたが何も見えなかった
「お、本当だ、なんか森があるな」
悟空もそんな事を言う
「悟空って目が良かったんですね」
ジャンヌがそう言うと悟空はそっぽを向いた、あの龍の事があってからジャンヌを無視している。しばらく車を走らせていると大きな森に着いた、ご丁寧に(西の果てアラバス)と書かれた看板があり、入り口らしき門を潜る人たがりが出来ていた
「あそこが入り口か」
「車をしまうのでみんな降りてー」
皆がバンから降りた時、運転席の赤いボタンを押し猪八戒が急いで降りた瞬間バンはキューブ状に縮んだ。それを鞄にしまい皆に向き直った
「では行きましょう」
門に行ってみると受け付けがあり、そこでチケットを買うようだ
「遊園地みたい」
「どちらかと言えば博物館とかが近いかも」
チケットを買う列に並び、アルテナはキョロキョロと当たりを見渡した、観光客から僧侶まで人間から亜人まで様々な人で溢れ返っている
「西の果ては昔は禁域でしたが、ある日龍の神のルクト神がその知恵を民に与えよと言ってくれたおかげで、そこに住まうエルフ達の長年の知恵を与えて貰える様になったんですよ」