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「護衛して頂けるんですか、でも私達さっき言った様に金品奪われてしまっていて」
そこでジャンヌが手で制した
「私達はしがない旅人です、目的も無く歩き回っているのでそのくらい大丈夫ですよ」
ジャンヌの衣装も相まって神々しく見えた、その姿はまるで聖母だ
「と言っても私達も懐が寒いので節約した旅になりますが」
ジャンヌは気恥ずかしそうに口元を隠した
「近くにダンジョンがあるのでそこでお金稼ぎしても良いかも知れません、と言ってもそこで逆に巻き上げられたのが私達ですが」
ヤチョウがそこまで言って涙目になっている
「ダンジョン!行きたい行きたい!」
アルテナが飛び上がり喜んでいる、それにジャンヌは呆れた顔をしている
「やられても回復出来る回数が限られているんだよ、前みたいに闇雲に突撃しないなら連れて行くよ、良いかい」
ジャンヌが優しく語りかけるがアルテナの耳には届いているか否か
「約束しまーす」
勢い良く振り上げた串から魚が遠くに飛んで行った、アルテナは力は強いがまだ制御が出来ていなかった。そんな様子にジャンヌは不安そうにするが、背に腹を変えられない状況に首を振るしかなかった
翌朝ジャンヌとアルテナは日の上がらないうちに目を覚ませ身支度をしていた、魔女たちはその物音で目を覚ますがまだ眠たそうだ
「随分と速いんですね」
「ダンジョンの魔物もこの時間眠っているから狙うなら今だからね」
「ダンジョンって日が入らないのに魔物達はちゃんと夜と朝と区別が付いてるんですよ、不思議ですよね」
「ダンジョンの事に詳しいんですね」
「まあ、何度か痛い目にも会いましたが」
ジャンヌは頬を掻きながら苦笑いした、アルテナも苦い顔をしている、何度か挑戦した様だ。魔女たちも支度を済ませ四人でダンジョンに向かった、山を登り中腹にダンジョンの入り口があった
「いつ見ても人工的ですよね、魔物に建築技術があると思うとちょっと複雑です」
「何が複雑なんだい」
「だって人間から技術を学んだってことなんですよね、一度は人間と暮らしたのに今や人間を襲うアリの巣を作ったんですから」
「確かに、蟻地獄のようだね」
キッカも激しく頷いた
「とても危険でしたが中にはお宝が沢山あって目が眩むほどでした」
ヤチョウが額を手で覆った
「ミミックにまでお宝があるんじゃないかってツッコんで行ったときは肝が冷えました」
「それで一体何に追われてあそこの川まで逃げたんですか?」
ジャンヌが首を傾げた
「グレムリンです、一匹はたいして強くは無かったんですが数が多くずる賢かったです」
「足掛け紐を使ったり落とし穴まで上手く誘導されたり、されるがままでした」
「なるほど、今回はアルテナは控えてもらおうかな」
「なんでですか!」
「これは知恵比べになりそうだよ」
「それなら致し方ありませんね」
アルテナは自信満々に腰に両手を置き仁王立ちした、一同頷きダンジョンに入って行った、しばらく歩くが中にはモンスターらしき姿もなく順調に歩いていた、一室に入ると宝箱があった
「あれミミックっぽいですね」
「範囲に入れば動くからそれを目安にしようか」
ジャンヌが一人でじりじりと宝箱に近づく、宝箱はそこに鎮座していた。その瞬間アルテナが走り出した
「これは宝箱に違いありません!」
「アルテナ危ない!」
アルテナの手が宝箱に届き蓋の部分に手を置いた瞬間紫色の霧が噴出した
「トラップだ!」
ジャンヌがアルテナを引っ張り上げダッシュで部屋を出た、霧は部屋に充満しとぐろを巻いている
「アルテナちゃん危ないじゃない!もう少しで私たちも巻き添えよ!」
「えへへー宝箱かと思いました」
反省の色がないアルテナには目もくれずキッカが部屋に向かって呪文を唱えた、霧は呪文に反応し一か所に集まり球体になった
「これで部屋に入れますよ、おそらくあの宝箱お宝が入っています」
「おお、これが魔法」
キッカの雄姿にアルテナは感激していた、アルテナを置いて三人は宝箱に近づき中を確認し、宝箱には確かに宝石が入っていた
「正解でしたね」
ジャンヌが嬉しそうにするとヤチョウは苦笑いした
「このダンジョン二回目なので」
四人は再び廊下を歩きだした
「アルテナちゃんはまだ子供なのに旅をしているなんて偉いね」
「むう!お姉さんたちより長生きしています」
「おねえさんと言っている時点でもうおこちゃまなんだな」
キッカがアルテナをからかっていると後ろから轟音が響いてきた
「何の音ですかこれ」
「これはアレですね」
ヤチョウ達が後ろを振り返り、ジャンヌとアルテナも後ろを振り返った。そこには廊下の奥から廊下いっぱいの巨大な鉄球が転がってきていた
「ありがちですね」
「走れ!」
四人は一斉に走り鉄球はすぐそこまで来ていた
「この先に分かれ道があります!右に避難所があるのでそこに行きましょう!」
ヤチョウの声に従い分かれ道まで来ると、先頭を走っていたアルテナは左へ曲がった
「右ですって!」
「私が行きます!」
キッカがアルテナの後を追い左へ曲がった、鉄球は右へと曲がり左は安全かと思われたが後ろから新たな鉄球が現れそれは左へ曲がってきた
「アルテナちゃん止まらないで!」
「ニャー!!」
アルテナが途中にある一室の扉を蹴破るとその中に入って難を得た
「なんて危険なの!」
「お師匠からもよく言われます」
アルテナはニコッと答えた、すると足音が聞こえ廊下を覗くと、リザードマン達がこちらに歩いて来ていた
「まずい、さっきの物音で目が覚めたみたいだ」
「だいぶ騒いじゃいましたね」
「アルテナちゃんのせいとも言える」
アルテナはまたニコッとした。ジャンヌ達は来た道を引き返そうとしていたが、ゴブリン達に道を塞がれていた
「すみません、ここが見張られていたとは、前回は居なかったのですが」
ヤチョウの謝罪にジャンヌは頷いて答えた
「毎回同じじゃないのがダンジョンですから仕方ありません」
飛びかかってきたゴブリンをジャンヌは一突きで串刺しにし、壁に投げつけた
「だが一匹の力は大したことありませんね」