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実はいっぱい食べる腹ペコギャルが二股されてたから、胃袋を掴んでクズ彼氏から略奪することにした  作者: 蒼唯まる


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奔走したご褒美

 どうにかこうにか調理台の上に五人分のカレーとサラダ、それと何品かのトッピングを並べるに至った。


 鈴木がやらかしたハンバーグは、つなぎが多くなって想定よりずっと柔らかめになってしまったが、逆に肉汁たっぷりになったと考えれば悪くないだろう。

 丁寧に空気抜いて、細心の注意を払って焼いたから爆発させずに済んだし。


 完成したことに安堵していると、周囲から驚嘆するような視線が向けられる。

 それと若干、引き攣った声でのひそひそ話も聞こえてくる。


「すげえ、ちゃんと完成させちゃったよ」「しかもちゃんと美味そう……」

「どうしてあれで失敗しないの?」「蘇芳君、すご……」

「というか、なんで俺らのとこより作るの早いんだよ」


 あの、それって一応褒めてんだよな……?

 ……まあ、いいや。


 それらを聞き流しつつ、俺は丸椅子にどっかりと腰を下ろす。


「あ゛ー、マジで疲れた……」


「お疲れ。いやー、マジ助かったよ。サンキューな、蘇芳」


「ほんとそれな。一から十までお世話になった感あるわ。おんぶに抱っこってこういうことを言うんだって実感したよねー」


「わっかる〜。梨乃亜たちだけじゃこうはいかなかっただろうし」


 悪怯れることなく言うギャル三人。

 これには俺だけでなく、隣に座る雫も頭を抱えて嘆息を漏らしていた。


「まさかアンタらがここまで料理下手とは思わなかったし……」


「いやー、それほどでもー」


「全然褒めてないから……!」


 照れくさそうに笑う笹本に呆れ顔ですかさずツッコむ雫。

 その姿がちょっと新鮮でちょっとだけ微笑ましくなる。


 一息ついてから、俺はエプロンとバンダナを外しながらギャル達に言う。


「とりあえず、冷めないうちに食おうぜ」


 提案すれば、向かいのギャル達はいただきますもそこそこに、完成した料理に手をつけ始める。

 俺も雫が「いただきます」両手をしっかりと合わせたのを横目で見届けてから、彼女達に倣うことにした。


 まずはサラダを食してみる。

 鈴木が分量ガバってドレッシングを大量に作る羽目になったので、グリーンサラダというよりは生野菜のフレンチドレッシング漬けみたくなってしまったが、味は悪くない。

 塩分量を誤魔化す為、本来のレシピより結構多めに黒胡椒をぶち込んだが、そこまで辛くならずに済んでいた。


「……うん、ちゃんと美味しいよこれ! イケるイケる!」


 明るく言って、雫はフォークで掬い上げたサラダをどんどん口に運ぶ。

 三浦と笹本も同様の反応を取り、鈴木はちょっとだけ胸を撫で下ろしていた。


 ——やっぱり多少はやらかしたことへの罪悪感があったんだな。


 思いつつ、次はメインのチキンカレーにスプーンを伸ばす。


「……うま」


 完全な自画自賛。

 けれど、思わず呟いてしまうくらいに美味かった。


 火を入れたことで旨味だけが残ったトマトと玉ねぎの甘味がスパイス類と絶妙に混ざり合い、ヨーグルトの僅かなコクと酸味が食欲をより掻き立てる。

 それと短時間しか煮込んでいないので、スパイスの香りを十全に堪能できた。


 市販のカレー粉でこれなのだから、スパイスをこだわり抜いて一から調合しているであろう専門店のカレーがもっと旨いのも納得だ。


 鶏もも肉は先にフライパンで皮がパリッとなるように焼き上げ、煮込む直前にスパイス諸々が入った鍋と合流させたおかげで、しっとりとしながらもジューシーな味わいが噛む度に口の中で広がっている。


 今回は固形のルーを使わずに作ったから、普段家で食べるカレーと比べればかなりサラサラしている。

 けれど、玉ねぎや途中で入れたトマト(今回は缶だけど)といった野菜が自然なとろみを出してくれているので、スープカレーのようなシャバシャバ感はなく、問題なくライスと絡んでくれていた。


 そして、地味にいい仕事をしているのがこのサフランライスだ。

 仄かに感じる独特の上品な香りと鮮やかな黄色がよりカレーの本格感を高めてくれていた。


 本来は白米でも問題なかったのだが、個別にサフランを持ってきてサフランライスにしてくれた雫のファインプレーといえよう。


「櫛名、この米——」


 言おうとして、口を噤んだ。

 振り向いた先で雫が至福そうにカレーを頬張っていたからだ。


 ——ああ、なんだかんだ苦労した甲斐があったな。


 心からそう思えた。

 さっきまでのドタバタは、きっとこの笑顔を見る為の小さな試練だったのだと錯覚しそうになるほどに。


 胸の一番深くから温かい感情が浮かび上がってくるのを感じていると、


「ねえ、すおーくん!」


 口に入っているものを飲み込んでから、雫がこちらに顔を向ける。


「このカレーすごく、美味しい……よ」


 いきなり言葉に勢いがなくなった。

 それから尻込みするようにおずおずと上目遣いで俺を見てきた。


「どうした?」


「……ううん、なんでもない。それより美味しいよ、このカレー! 流石すおーくんだよ!」


「当然だろ……って、言いたいところだけど。ぶっちゃけここまで上手くいくとは思ってなかった」


 はにかむように苦笑を溢してから、


「サフランライスにしたのはマジで正解だった。ナイス判断」


 続けて言えば、雫はへにゃりと眉尻を下げる。


「えへへ、それほどでもあるんだけど〜」


「ああ、そうだな」


「……って、そこはあるんかいってツッコめし!」


 軽く肘で小突かかれる。地味に痛い。

 それから、雫は調理台の中央に置かれた小皿に手を伸ばした。


「さてと、そろそろトッピングも食べてみよーっと!」


 雫がトッピングをカレーに乗せてから、俺もそれに続くことにした。

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