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実はいっぱい食べる腹ペコギャルが二股されてたから、胃袋を掴んでクズ彼氏から略奪することにした  作者: 蒼唯まる


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驟雨を裂くのは

本日2話目の更新です

 二人が店を出て行った直後だ。

 俺は無事に話し合いが済んだことに一人胸を撫で下ろした。


「……これでどうにか別れられたか」


 八町に詰め寄られた時はどうなるかと思ったが、どうにか事なきを得て本当に良かった。


 一応、カップルの破局ではあるからそのこと自体は素直に喜べない。

 それでも当初の予定通りに事を進められたことには安堵しても良いだろう。


 ともかく、これで俺の役目は終わった。

 これ以上は俺が近くで見守る必要もなく、出る幕もない。


 でも、何故だろうか。


 ——なんだか嫌な予感がするのは。


 これが俺の思い過ごしであればそれで構わない。

 だけど、もしそうじゃなかったら……?


 根拠は何一つとしてない。

 ただ漠然とした不安が襲っているだけだ。


 ここで解散にならなかったからか?

 ……いや、それは何か違うような気がする。


 話し合いの後、どこか別のところに行く可能性は織り込み済みだった。

 予想していた範疇を出てはいない。


 じゃあ、なんで——。


 しかし、強迫観念にも近い焦燥に駆り立てられる。

 直感が告げている。

 まだ俺の役目は終わっていないと。


 これが単なる杞憂であるのならそれでいい。

 念の為だ。念の為、二人がどこに行こうとしてるのを見届けてから帰ろう。

 そう言い聞かせて、俺も急いで店を後にした。




   *     *     *




「ねえ、どこに行くつもりなの?」


「んー、もうすぐに分かるさ」


 雫の質問に八町は適当な返事しか返さない。

 さっきから何度かこのやり取りを繰り返しているが、ずっとこの調子だ。


 胡乱に思いつつも、これが最後だからと黙って八町の後ろをついていく。

 そうこうしている間に駅の反対側にあるもう一つの繁華街に来ていた。


 さっきまで雫がいたのは駅の東側で、大型商業施設がいくつもあり、学生や若い人が集まりやすくなっている。

 対して線路を挟んだ先にある西側の繁華街は、飲食店などが多く並んだ歓楽街となっていて、こっちに足を運ぶ人の年齢層は高くなっている。

 なので、雫も西側の繁華街に来ることは滅多になかった。


 ——なかったのだが、先週は珍しくここに訪れていた。


 隣を歩く男の浮気現場を目撃してしまった後のことだ。

 土砂降りで全身がずぶ濡れになっていることにすら気づかずに茫然自失となって彷徨い歩くうちに、いつの間にかこちら側に来ていた。

 そして、朧げな思考と唐突な空腹の末、吸い寄せられるようにして辿り着いたのが、彼のいたラーメン屋だった。


 そうだ、後ですおーくんにお礼言わなきゃ。

 傍で見守ってくれてありがとう、約束のお弁当忘れないでよねって。


 そんなことを考えながら歩いているうちにふと気づく。


 八町が繁華街から外れた方に向かって歩いていることに。

 ここから先に店とかはないと記憶している。

 それ以前に二人で一度も来たこともないのに、なぜ八町は足取りに迷いがないのか不審に思う。


「ねえ……ホントにどこに向かってるの?」


「あとちょっとで分かる」


 結局、答えの分からぬまま連れられたのは、車一台通るのがやっとの人気のない路地だった。

 そこに立ち並ぶホテルを見た途端、雫は身体の芯から凍るような悪寒が走り、まるで周りの酸素が急激に薄れたみたいに息が苦しくなった。


 八町は躊躇うことなく奥へ進んでいき、三つ目のホテルの前で立ち止まった。

 そこで雫は改めて八町に訊ねる。


「ここって——」


「見て分かるだろ」


 言って、八町は引き寄せるように雫の肩に腕を回す。

 はっと目を見開き、雫は咄嗟に八町の腕を振り払った。


「いや!」


 ——しかし、直後に手首を掴まれてしまう。


「っ痛……!」


 あまりに力強く握られ、痛みで顔が歪んでしまう。

 湧き上がってくる恐怖で全身が強張り、思考が固まる。

 でも、不思議と涙は一滴たりとも流れなかった。


 あ……人って、本当に怖いと泣くことすらできないんだ。


 乾いた感情で雫は冷静にそう思う。

 雫を見る八町の瞳は、氷のように冷め切っていた。


「お前の我儘で別れるんだぞ。これくらい聞き入れろよ」


 呆れる気配を隠すことなく八町から、はあー、と大きなため息が聞こえてくる。


「雫さあ、お前、今まで一回もヤらせてくれなかったじゃん。何度も断ってさ、俺に悪いと考えたことはねえの? 中学の頃、誰のおかげで孤立せずに済んだと思ってんだ? この俺のおかげだろうが。本当に感謝してるっていうんなら、今ここでその恩を返せよ」


 淡々と、けれどどこかドスの効いた声。

 それが雫を更に萎縮させる。


 ——ぽつり、と空から大粒の水滴が頬に落ちてきた。


 頬を伝い、地面に滴り落ちた時には、既に新たな水滴が大量に降り注いでいた。

 瞬く間に周りが白く霞むくらいの驟雨となって、雫の髪も服もぐっしょりと濡らした。


「チッ、うぜえな。降ってくんなよ」


 悪態をつきながら、八町は雫の腕を強引に引っ張る。


「おら、さっさと入るぞ」


 今ここで片桐と浮気をしていた事実を突きつければ、もしかしたらこの場を逃れられるかもしれない。

 けれど、実行に移すだけの気力が雫に残されていなかった。


 ——もう、いいや。

 ——これで恩を仇で返すことなく終わらせられる。


 初めてはもっと大事にとっておきたかったけど仕方ない。

 諦めてホテルの中に入ろうとした時だった。




「離せよ」




 土砂降りの轟音から割り込む低い声。

 直後、八町の掴んだ手が引き剥がされ、声の方に身体を引き寄せられる。

 振り向けば、黒いキャップ帽を被った少年の姿があった。


 雫より一回り大きな身体。

 大きな(ひさし)の下には、猛禽類のような眼光を放つ切長の瞳が隠れていた。


「すおー、くん……?」


 駆けつけてくれたのは、絶望の淵に追いやられていた雫を近くで見守り続けてきてくれた少年だった。

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