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いつか貴方と共に夜空に会いに行く

作者: 虹彩霊音
掲載日:2022/08/11


「ふんふーん♪」


「今日はご機嫌だな音廻」


「ぽかぽかお散歩日和だからさっ♪」


とある場所、少女と虎が散歩をしていた。


「………!」


「どうした、音廻」


「姉さん、あれ見てよ」


音廻は指をさす、その先にあったのは大きな檻であった。


「……なんだこれは、こんなものあったかな。置かれてから大分時間は経ってそうだが」




「そいつには近づかない方が良いぜ」



「!」


男の声がした方向を見ると、そこに居たのは黄金の龍だった。


「近づかない方が良いって……」


檻の中を見ると、蒼色の瞳をした銀色の狼が寝座っていた。


「この子は…?」


「人間を酷く嫌ってる狼……いや、人狼だ。しばらく前に姉と妹を人間に殺されちまってな……可哀想な奴なんだ」


「へぇ……」


「………そもそも、元は人狼ですらなかったんだが」


「え?」


「いや、何でもない。とにかくそいつには近づくな。檻の中に少しでもその体を侵入させてみろ、その瞬間…喰われるぞ。俺でも……このザマだ」


龍の体は傷まみれだった。


「…………」


音廻は檻の中に手を伸ばそうとした。


「ガルルルルルッ!!!」


狼は爪と牙を剥き出し、毛を逆立てた。


「………明日も、会いに来て良い?」


龍はしばらく黙っていたが…


「………勝手にしろ」


「この子の名前は?」


「………寂滅だ」


「そっか、寂滅さんって言うんだ。よろしくね寂滅さん、私は音廻って言うんだ」


「私は蒼冬、音廻の姉だ」


「…………」






それから一週間。


「ほらー寂滅さんー、お肉持ってきたよー。狼は肉食だったよね?」


「グゥッ!!!」


「あ゛いだっ!!それは私の手だよー!!」




「グゥゥゥッ!!ガァァァァッ!!!」


「ただブラッシングしてあげたいだけだよっ!体汚いじゃないー!」




二週間…


「寂滅さんっ、これ何かわかる?」


「………」


「アスターっていうんだ!真っ白で綺麗でしょ?これ貴方にあげるね」



           ガジッ



「あらら、食べられちゃった」




三週間………


「いててー、今日も派手に引っ掻かれちゃった」


「音廻」


「ん?」


蒼冬が言う。


「お前、大丈夫なのか?」


「大丈夫って何が?」


「姉さん心配だよ。お前が動物好きで、思いやりが深い奴だってことは姉さんが一番知ってる。だけどな、これ以上あの狼と関わったらお前の命に関わることなんだぞ。それほど……あの狼にこだわる必要があるのか?」


「………………まぁ、あの子の力は本当に強いから、最悪死んじゃうかもしれないね」


「………」


「だけどね―――」




   人間を嫌いなままで、いてほしくないんだ。




「―――私が、あの子の最初のお友達になるよ」


「………ふむ」







「寂滅さんっ、ごはん持ってきたよ!」


檻の中は相変わらず静かだった。静かだったが……


「………寂滅殿?」


「ハァーッ……ハァーッ……」


ぐったりと、狼は倒れていた。


「ちょ、これ不味くないか!?」


「ひ、ひどい熱だよ!この前のドラゴンさん呼ばなきゃ!」









        ………どうして?



     どうして、姉さんと妹を殺したの?



        どうして………?



      何も、悪いことしてないよ?



        どう………して……





「………グゥ」


「あ、起きたな寂滅殿」


「大丈夫…?」


「…………」


「……寂滅殿?」



寂滅は、号哭しながらその口を動かす!!




    「人間(おまえら)なんて、大っ嫌いだ!!!!」




「音廻、危ない!!」


蒼冬は音廻を弾き飛ばす、そのまま寂滅の牙が蒼冬の首根っこに刺さった!!


「姉さん!!?」


「お前、大丈夫か!!?」


「あ…あがぁ………」


「グ……ゥゥゥゥッ!!!」



「はははっ……良いよ…好きなだけ咬めば良い。こんなことじゃ私は死なないからな……貴方の苦しみを、悲しみを、怒りを、辛さを、全て私達が受け止めてやる。だから………これ以上人間(わたしたち)を嫌いにならないでくれ……」






………貴方達が来ると、不思議と家族と一緒に過ごしていたころを思い出すのです。貴方達とは微塵も似ていないのに。今の貴方のように、姉や妹は人狼の私を厭わずによく抱きしめてくれました。そして、あの時思い出したのです。真っ白なアスターを貴方の妹さんが差し出してくれたあの時。よく二人は私に花を採ってきてくれたのです、この前はアサガオやアジュガを採って私にくれたのです。だからこそ、私は人間が憎い、私に向かってオトギリソウを突き出した人間共が……だというのに……



「辛かったよね……苦しかったよね……憎かったよね……人間達が……」



どうして……貴方達はわざわざご飯を持ってきてくれたのですか。


どうして……私を外に出そうとするのですか、人間に害を成すこの私を。


どうして……貴方達は私に慈悲を向けることが出来るのですか。




「どうして………」


「………?」


「貴方達を嫌いでいさせてくれないのですか………」










「やっほ、寂滅さん。調子はどう?」


「普通」


「そっか、それは良かった!それで……一緒にお散歩行かない?」


「……ええ」




「どうしたの、湖覗いちゃって」


「魚は見当たらないが」


「…………」



この姿を見ると思い出すのです。この悍ましい狼の姿を見ると嫌でも思い出すのです。この姿に振り回されたあの日のことが。今となっては私は誰だったのか思い出せない、覚えているのは自分の名前と姉妹の存在だけ。かつての自分が、一体何者だったのかが思い出せないのです。




「……泣いても良いんだよ、ここには私達しか居ないからね」


「…………グギュウ」


「ん…?」


「これは、アゲラタムだな。くれるのか?」


「グゥ」


「えへへ、ありがと寂滅さん!」




………もう、満月に向かって号哭するのはやめましょう。星空に向かって雨泣(うきふ)をするのはやめましょう。夜空に向かって悲歌慷慨(ひかこうがい)を歌うのはやめましょう。



………音廻、よく姉と妹を乗せたこの背中に貴方を乗せて、そして貴方のお姉さんと共にいつか夜空の下を駆けたいものです。もしその時が来たのなら……




      私達と五重奏(クインテット)を奏でませんか。




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