Remote.07 アイドル声優殺人事件 4/14
『つまりね……あなたは私の……えーと……おじいちゃんの、おじいちゃん』
『は、はぁー?』
キュイーン、という効果音。
『捜したぞ、新城和也』
『だ、誰ー?』
『待ちなさい! ドリフテン!』
『……エテルノ! 貴様もこの時代に?』
『おじいちゃんのおじいちゃんには、指一本触れさせません!』
『こざかしい……』
激しい戦闘の効果音。
戸森智の部屋のパソコン画面には、新作アニメ『未ラ?来ル!プリンセス』のプロモーション映像がリピートで流されている。
智は、部屋の窓枠に両手を乗せ、そよぐ朝の風を気持ちよさそうに浴びつつ、
「つ、ついに『ラルプリ』のプロモイベントが、昨日、今日と、ここ富山市で……」と大きく深呼吸をして、「お、同じ市内に、速見様がいる……。つ、つまり私は、今、速見様と同じ空気を、す、吸っているということに……ふひっ……」
にやにやと口角を緩めた。
「か、風よ! 速見様の匂いを我が元まで、と、届けよ! はぁっ!」
窓から両腕を突き出した智は、可能な限り鼻の穴を広げると、自らの肺活量を限界まで駆使し、朝の空気をその肺に吸引した。
はあはあ……と、鼻から吸い込んだ空気を口から排出する動作を繰り返していた智のもとに、スマートフォンの着信音が響いた。
「千奈っちゃん」
着信音で、発信者を知った智は窓際を離れ、パソコンの音をミュートにしてから、いつもスマートフォンを置いているサイドテーブルに歩み寄る。端末を取り上げ、智が応答するやいなや、
『智ちゃん! 智ちゃん!』
「ど、どした? 千奈っちゃん……」
稲口千奈都の電話の声に、ただならぬ気配を感じ取った智は、緊張感を孕んだ声で応答した。
『ニュース見てないの?』
「ニュース……? い、いや、見てない」
『大変な事件が起こっちゃったんだよ!』
「な、なに?」
『はっしーが、死んじゃったの!』
「はっしーって? せ、声優の椎橋智登世?」
『そうだよ! しかもね……殺人らしいの』
「さ、殺人? た、確か、はっしーは今、『ラルプリ』のプロモーションで、富山に来てるんじゃ?」
『そう、富山市内のホテルで、死体で発見されたって……』
「ま、まじかよ……」
『今日のイベントも中止だって。私、抽選にあたって行く予定だったのに……』
「あ、そ、そうだったね……」
『智ちゃんのために、何としても速見様のサインをゲットしてこようと思ってたんだけど……って、そんなこと言ってる場合じゃなくなったね……』
「そ、そうだね……さ、殺人って……。犯人とかは、まだ?」
『ニュースだと、はっしーが死体で発見されて、殺人を視野に入れて捜査をしているとしか言ってなかったけど、ネットの情報によると、殺人で間違いないんじゃないかって。で、智ちゃんが知らなかったってことは、お兄さんから捜査協力の要請は来ていないってことだね?』
「そ、そうだね……。わ、私、兄貴に電話してみる」
『智ちゃん、はっしーの仇を討ってよ!』
「お、おう……」
『じゃあ、もう学校に着くから、切るね』
「う、うん。ありがと、千奈っちゃん」
千奈都との通話を終えると、智はすぐさま兄、大輔に電話をかける。数回のコール音のあと、
『んだよ智、今、仕事中だぞ――』
「わ、私も、捜査に加えろ!」
『な、何だ? 急に』
「じ、事件! はっしーの事件!」
『……何だ? はっしー、って』
「せ、声優の椎橋智登世だよ!」
『……ああ、そういうことか。てことは、智、ニュースを聞いたな』
「千奈っちゃんが教えてくれたんだよ。だから、わ、私も……」
『落ち着け、智、これから聴取が始まるんだ』
「ちょ、ちょうどいい、このまま、わ、私も……」
『待てよ。お前に捜査協力するとは言ってねえだろ』
「は、はあ?」
『管内で起きた事件を、どれもこれも、のべつまくなしに素人探偵に話を持っていくわけねえだろうが』
「はああ?」
『特に、今度の事件には、何も“不可能犯罪”っぽい要素はねえし、すでに容疑者も浮かんでる。お前に頼るまでもねえよ』
「よ、容疑者をボコって、は、吐かせて終わり、かよ」
『そうそう、ラリアットでダウンさせて、とどめはトップロープからのムーンサルトプレス……って、バカぁ!』そこまで言うと、大輔の声が小さくなり、『……あ、はい……智ですよ、智。あいつ何だか妙に乗り気で。今度の事件は智の出番はないですよね? ……え? は、はい……』ちっ、と小さな舌打ちのあとに、『水希さんに代わるわ』
スピーカーから聞こえる声は、大輔から水希に交代した。
『智ちゃん』
「水希さん! よかった、あ、兄貴じゃあ、話にならない……」
『智ちゃんのほうから捜査協力したいって言ってくれるなんて、嬉しいわ』
「ど、ども……」
『とりあえず、事件について詳細を教えるわね』
水希は、これまで知り得た事件についての情報を智に話して聞かせた。
「な、なるほど……。三人の、よ、容疑者……」
『そうなのよ。で、これから、その三人を重点的に関係者への聴取が始まるから、同席してもらえる?』
「も、もちろんですっ!」
背後から『ちょ! 水希さん!』という大輔の声が聞こえてきたが、水希はそれに構うことなく。
『じゃあ、改めて、私のスマホからかけ直すわね』
「は、はい」
いったん通話を切った智は、無音でアニメのプロモーション映像が流れたままのパソコンの電源を落とすと、ベッドに腰を下ろして待機した。




