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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.06 覆面レスラー殺人事件 ~リモート探偵VS.ザ・ブレイド~
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Remote.06 覆面レスラー殺人事件 15/19

 石塚(いしづか)の病室を辞した(みず)()たちは、病院内で営業している喫茶店の一角に場所を移した。


「しかし、まあ、こうなると、(とり)()さんに護衛を付けることになるのは免れないな」


 運ばれてきたコーヒーに口を付けて、水希が言った。中身はブラックのままだ。


「そうですね」とこちらはミルクだけを投入して大輔(だいすけ)が、「とはいえ、了承しますかね、あの取手さんが?」

「そこはもう、何とか言い含めるしかないだろうな。こうして実際、石塚さんが襲われることになってしまったわけだし」

「そこなんすけど」

「なんだ?」

「俺はやっぱり、今回、石塚さんが命まで奪われなかったってところが、どうも引っかかるんすけど」

「まあ、確かに。映像を見る限り、襲撃犯は石塚さんの安否を確認するような動きまで見せているしな」

「狂言なんじゃ? よくある手じゃないっすか。容疑者圏外に逃れるため、犯人に襲われたふりをするってのは」

「そうは言うがな、大輔。石塚さんが襲われる一部始終が、ばっちりと防犯カメラで映像に残されてるんだぞ」

「もちろん、襲った――襲った振りをしたのは共犯者ですよ」

(たか)()さんのときも、お前は共犯者説を唱えてたな」

「あのときは、真犯人はエル・ゴリオンこと蔦岡(つたおか)さんだと思ってたんですけど、実はそうじゃなかったんです」

「だとしてもだ、昨日も言っていた、共犯者を実行犯にする不自然さ、という壁がまた立ちはだかることになるぞ。共犯者の弱みを握っていたのだとしても、そこまで強い繋がりがあるのなら、捜査で必ず暴かれるというのも、昨日話したとおりだ。それにだ、だいたい、犯人に襲われた振りの狂言ってのは、真犯人が容疑圏内に置かれている状態だからこそ効果を発揮するわけだ。ところが、今度はどうだ。第一の犯行で鷹野さんが殺されたとき、石塚さんは現場に居合わせている。言わば鉄壁のアリバイを持っているわけだ。そんな安全地帯にいるのに、わざわざ狂言襲撃を仕掛けて自分に疑いの目を向けさせるだなんて、愚の骨頂だ、やぶ蛇だ。……だよね、(とも)ちゃん」

『――は、はいっ! 水希さんの、言うとおり……』


 急に話を振られ、スマートフォンの向こうから虚を突かれた智の声が返ってきた。


『そ、それに、ですね。も、もし、あれが狂言だったのなら、もっと上手くやるはずです。え、映像では、襲撃犯は最後に、石塚さんの安否を確認するような仕草を、し、していたんですよね。ちょくちょくカメラ目線になってたそうだし、襲撃犯が防犯カメラがあることを意識していたのは、め、明白です。だったら、いかにも“やってやったぞ”的な芝居をしても、よ、よさそうなもの、なのに……』

「……そうだよね」

「ぬう……」


 大輔は唸ってコーヒーカップに口を付けた。


『そ、それに、わ、私は、石塚さんを襲った犯人が、何とかっていう首を絞める技しか使わなかったっていうのも、ひ、引っかかってるんです』

「スリーパーホールド、な」

『そうそう、その、スリーパーなんとか。パラドクス――鷹野さんには、キックを使ったっていうのに……』

「あのときは、試合開始直前で、周りには大勢選手たちがいたんだ。犯行後即座に逃げられるように、キックを選んだんじゃねえか? スリーパーで相手を絞め殺すにはどうしても時間がかかる。そんな悠長に構えてる暇はなかったんじゃ」

『く、屈強なレスラーが大勢いるプロレスの試合開始直前に、わざわざ殺人なんて、す、する? 殺人には最も適さない環境じゃん。そんな状況で、殺人行為に及ぶなんてのが、そ、そもそもおかしいんだよ。それに、本気で鷹野さんを殺すつもりだったのなら、は、刃物でも持ってきたほうが、確実……』


「そうね……」と智の言葉に考え込んだ水希は、「ねえ、というか、智ちゃん」

『は、はい?』

「智ちゃんはまだ防犯カメラの映像を見ていないのね?『していたんですよね』とか『なってたそうだし』とか、明らかに見ていない前提の言い方をしてたから」

『あ、じ、実は、そうなんです……』

「大輔、お前、どうして早く見せてあげないんだ。実際に映像を見ることで、何か手がかりを掴めるかもしれないだろ」

「ああ、それは……すんません。失念しておりました」

「ばか丁寧に頭を下げるな、気持ち悪い……。智ちゃん、映像はあとで必ず送らせるからね。というか、メモリに入れて大輔が持って行くか?」

「そ、そうっすね……」

「あー!」


 声が上がった。席に着いてから、無言でタブレットの映像を凝視していた有斗夢(あとむ)の口からだった。


「どうした? ()(なべ)?」

「とうとうおかしくなったか?」


 水希と大輔は、そろって有斗夢を見やる。が、二人の声も耳に入っていないように、有斗夢は画面に視線を刺したまま、


「……違う」

「なにが?」


 隣に座る大輔もタブレットを覗き込む。


「違うんですよ!」

「だから、何が?」

「マスクです」

「マスク?」大輔は、さらに顔を画面に近づける。そこには、石塚襲撃後、立ち去る襲撃犯が画面手前にフレームアウトしていくシーンが停止され、さらに被っているマスクを拡大した画像が映し出されていた。


「み、見て下さい!」有斗夢は、水希にも見えるようにタブレットをテーブルに置くと、「ここ、ここです!」


 マスクの側面部分を指さした。


「……なにが?」


 が、興奮した様子の有斗夢とは正反対に、水希と大輔は首を傾げるばかりだった。そんな二人の反応をもどかしく感じるように、有斗夢は、


「あ、あのですね、ザ・ブレイドのマスクには、何種類かパターンがあって……」

「ああ、昨日もそんなこと言ってたな。エル・ゴリオンのマスクの話のときに」

「そう、そうなんです。で、ブレイドが最後の試合で被っていたのは、マスク側面に翼をデザインした模様が入っている、俗に“飛翔タイプ”と呼ばれるものだったんです。なのに、この襲撃犯が被っているマスクは、側面の模様が刀をデザインしたものになった“侍タイプ”なんですよ!」

「……そうなのか?」


 ただでさえ解像度の低い映像を、さらに拡大しているため、はっきりと視認できるほどではないが、確かに石塚襲撃犯が被ったマスクの側面に入れられている模様は、細長い刀を模しているようなデザインに見えた。


「確かなのか? 実は一昨日に鷹野さんを殺した犯人が被っていたのも、その“侍タイプ”だったんじゃないのか?」

「絶対に違います。見て下さい……」


 有斗夢は、同じタブレットから別の映像を再生した。パラドクスこと鷹野が殺害されたときのものだ。有斗夢はスライダーを動かし、鷹野殺害犯のマスクの側面が映るシーンを探しだして停止させると、同じように拡大させた。


「……確かに、翼だな、これは」


 水希は静止画像を見て頷いた。パラドクス殺害時の映像は、ネットでの配信用に撮影されたもののため、防犯カメラよりも解像度は高く、拡大してもそれが翼をデザインしたものだということが明白に見て取れた。


「いちおう、見比べてみましょう」


 有斗夢は先ほどの防犯カメラの静止画を呼び戻し、試合のものと左右に並べた。その二つの静止画を交互に見て、水希は、


「……明らかに違うな。どうだ? 大輔」

「ええ、違いますね。防犯カメラは試合のものと比べてずっと解像度が低いけれど、それでも別の模様だと分かるくらいに違う」

「でしょ」

「どういうことなんだ?」テーブルの上に上体を乗り出していた水希は、もとのように椅子に腰を落ち着けると、「パラドクス――鷹野さんを殺した犯人が被っていたのは、資料室から盗み出されたマスク。なのに、石塚さんを襲撃した犯人は、それとは違うマスクを被っていた……」

「なくしたとか? で、石塚さん襲撃にあたっては、急遽別のマスクを被った」


 大輔が言ったが、


「いや、資料室に忍び込むリスクを冒してまで奪ったものを、そう簡単になくすか? そもそも犯人は、他にもたくさんマスクがあるにも関わらず、あのブレイドのマスクを狙って盗んでいったんだぞ。別のブレイドのマスクがあるなら、最初からそれを被ればいいじゃないか」

「……ですよね」

「ねえ、智ちゃん、このことについて、どう思う?」

『……』

「……智ちゃん?」

『……あっ、は、はい』

「何か思いついたのね?」

『水希さん……わ、分かったかも……』

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