表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.05 続三剣士殺人事件 ~リモート探偵校庭に立つ~
51/89

Remote.05 続三剣士殺人事件 5/8

「……ペンネーム、ねえ」


 ハンドルを握る大輔(だいすけ)は、助手席に座る(とも)から、“もうひとりの漫画部の()(もり)”が生まれたいきさつを聞き、呟いた。


「そ、そうだよ。だ、だから、もし、(はす)()さんが“漫画部の戸森”を捜してるなら、千奈(ちな)っちゃんに行き着いてしまう、か、可能性は、ある……」

「おまけに蓮田は、お前の顔を知らねえしな……」

「う、うん……」ごくりと唾を飲み込んだ智は、「あ、兄貴、今、何時?」

「一時半だ」

「あと、どのくらいで、つ、着く?」

「十分てところだな」

「か、回転灯を付ければ、スピード違反、じょ、上等で走行できるんでしょ」

「これは俺の車だ。覆面パトじゃねえ」

「千奈っちゃんの、き、危機なんだぞ……」

「心配すんな。(みず)()さんたちも、警官を総動員して学校に向かってる。蓮田はもう袋のネズミだよ。だからな、わざわざ俺やお前が行かなくたって……」


 そこまで言って助手席に横目をやった大輔は、妹の真剣な表情を目にして、


「それによ、今はまだ午後の授業中の時間だろ。部外者がそう簡単に校内に侵入できるはずはねえから、蓮田がお前――実際は学校にはいないんだが――を狙おうとしたら、放課後を待つか、来客を装って校内に入り込むはずだ。放課後までにはまだ時間があるし、警察から学校に蓮田の写真も送ってある。蓮田が学校を訪れたら、足止めをしてくれる手はずになっているし、すぐに警察に通報も入れてくれる。蓮田は、お前の友達に指一本触れられやしねえよ。まあ、お前の気持ちも分かるけど……だから、少しは安心しろって」

「じゃ、じゃあ、せめて、千奈っちゃんに、で、電話で知らせ……あ、スマホ、も、持ってこなかった……」

「そもそも、授業中だから電源切ってあるだろ。心配すんな」

「う、うん……」



 それから十分後、大輔と智は東城(とうじょう)高校に到着。来客用駐車場に入ると、大輔は駐車スペースに車を滑り込ませた。


「やっぱり、まだ蓮田は来てねえみてえだな。平和な学園生活そのものって感じだ」


 駐車場から見渡せる校庭では、体操着姿の生徒たちがトラックを走り、あるいはサッカーに興じている様子が見られる。と、そこへ、校門の外から背広姿の男性が駆けてきた。()(なべ)有斗夢(あとむ)巡査だった。それを見つけた大輔は車から降りて、


「おう、ユートム」


 と手を上げる。


「おう、じゃないですよ先輩。どうして先輩がここにいるんですか? 自宅で智ちゃんの警護に就いてるって、(みず)()さんからは聞きましたけど?」

「その智がな……」


 大輔が助手席に視線を向けると、有斗夢も腰をかがめて車内をのぞき込み、


「……あ! 智ちゃん?」


 と声をかけたが、窓越しで声が伝わらなかったのか、智は不安な表情を浮かべたまま正面を向き、じっとしているだけだった。


「こいつのことはいいから」大輔はドアから有斗夢を引き剥がして、「で、どうなんだ? やっぱり、まだ蓮田は現れてねえんだな」

「そうですよ。あからさまに学校で張ってたら感づかれると思ったんで、僕たちは学校の周りを固めて見張ってたんですよ。そうしたら、見たことのある車が駐車場に入っていったものだから、慌てて来てみたんです」

「そ、そういうことか……」


 大輔は、ばつの悪い顔をする。と、そこに、


「智ちゃん?」


 と、またひとり、智の名を呼ぶ声がかけられた。その声の持ち主は、体操着姿で校庭から走ってきていた。


「あっ」大輔も、その女子生徒の姿を認めて、「えっと、確か、智の友達の……」

稲口(いなぐち)千奈都(ちなつ)です」


 千奈都は、大輔に向かってぺこりと頭を下げてから、助手席側のドアに走り、「智ちゃん」と再び智の名を呼ぶと、


「――千奈っちゃん?」


 今度は窓越しでも車内にまで声は届き、智は返事をした。智はドアを開け、勢いよく車外に足を踏み出したが、


「うわっ!」


 体勢を崩して転びかけたが、「ほい!」と千奈都に体を受け止められた。


「大丈夫? 智ちゃん」

「ち、千奈っちゃん……あ、ありがと……」気恥ずかしさから、顔を赤くした智は、「ひ、久しぶりに、そ、外に出たから……め、めまいが……へへ……」

「もう、気をつけてよ、智ちゃん」千奈都はため息をついて、「智ちゃん、松葉杖は?」

「えっ?」

「持ってきてないの?」

「……あ! そ、そうだった、つ、つい……うっかり……」

「駄目じゃないの、もう……」


 千奈都は、そのまま智を抱えて、もとのように助手席シートに座らせた。


「ご、ごめんね、千奈っちゃん……」

「そんなの気にしないの。でも、どうしたの?」

「あ、あの、そ、それはね……で、でも、千奈っちゃんのほうこそ、よく、わ、私が来たのが、わ、分かったね……?」

「体育の授業の最中に、たまたま駐車場を見てたらさ、見たことのある車が入ってきて、あ、智ちゃんの家にある車に似てるなって思ってたら、助手席に智ちゃんらしき女の子が乗ってるじゃない。で、もしかしてと思って……」

「じゅ、授業中だったんだ、ご、ごめんね……」

「そんなのいいよ。センターバックがひとりくらい抜けたって大丈夫だよ。それより、智ちゃんのほうは?」

「あっ! ち、千奈っちゃん! だ、大丈夫?」

「えっ? なになに? 私?」

「う、うん」

「私は別に……あ、大丈夫じゃないかも」

「えっ?」

「私のチームが得点決められた。やっぱ、突然センターバックがいなくなるのはまずかったみたい」

「はあ……」ため息を吐き出して、智は、「よ、よかった……」


 シートに背中を深く預けた。


「なになに? 話が全然見えないんだけど……」


 千奈都は、智と、彼女の兄、さらに、その隣に立つ男性――有斗夢――の顔を順繰りに見回す。


「いやいや……」と大輔は車のフロントを回り、千奈都のもとに走ってくると、「何もないなら、それでいいんだって」

「えー? えー?」千奈都は、腕組みをしてしきりに首を傾げていたが、「でも……」と笑みを見せて、「智ちゃんが学校に来てくれて、私……本当に嬉しいよ」

「あっ……」


 屈み込んだ千奈都に手を握られた智は、顔を赤くして俯いた。


「どう、智ちゃん、このまま、部室に寄っていかない?」


 続けて、そう言われると智は、


「あっ、い、いや……」


 さらに深く顔を俯かせた。


「あ、ごめんね、智ちゃん、私、無理強いするつもりなんてなくって……」

「い、いいんだよ、千奈っちゃん……」顔を上げた智は、「わ、私のほうこそ……ご、ごめん……」

「どうして、智ちゃんが謝るの?」

「い、いや……そ、それは……」


 智が顔を横に向けると、


「まあまあ、稲口さん」と大輔が入ってきて、「今日のところは、このくらいで勘弁してやってくれ……」

「は、はあ……」


 千奈都は、訳が分からない、といった色を表情に滲ませたまま、ゆっくりと立ち上がった。と、そこに、


「先輩!」有斗夢も大輔のもとに走ってきて、「ちょっと、ちょっと、いったい何がどうなってるっていうんですかー?」


 こちらも、事態が把握できていない、という顔を見せた。


「あ、真鍋さん。い、いたんだ……」

「智ちゃん、そりゃないよー」


 智の言葉に有斗夢は、とほほ、と肩を落とす。


「あ、す、すみません……へへ……」


 智は、ぽりぽりと頭をかいた。


「実はな……」


 大輔は、千奈都と有斗夢に、智を連れてここへ来た事情を話して聞かせた。


「ははあ、そういうことだったんですか」


 有斗夢は納得した声を出し、千奈都もようやく事態を理解したようだったが、


「あ、あの……そんな話を、私が聞いても、よかったんでしょうか……」


 話の内容に重要な捜査情報が含まれていたことを、千奈都は指摘した。


「あっ」大輔は、そのことにようやく気付き、「ま、まあ、いいんじゃねえか……」

「いや、よくはないでしょ」


 有斗夢の突っ込みに対して、


「そう思ってたんなら、早く止めろよ!」

「なんで僕に対して切れてるんですか?」

「切れちゃあいないよ! いいか、ユートム、てめえ、このことは水希さんには絶対に言うなよ!」


 鬼のような形相で有斗夢を睨み付けた。


「も、もちろんです……」頬に冷や汗を流しつつ、有斗夢は、「でも、もし今のことが水希さんの耳に入ったとしても、水希さん、先輩のことを責められないと思いますよ」

「ん? どして?」

「だって、水希さんも事件の情報を漏らしちゃってますから」

「ああ、智にだろ。それはいいんじゃねえの? むしろ、智の立場上は知っとくべきだろうし……」

「違いますよ」

「なにが?」

神代(かみしろ)(ゆう)さんですよ」

「神代って……()(どう)の婚約者の」

「そうですよ。彼女、須藤さんを襲った犯人が、蓮田だって決めつけてるっぽいんですよ」

「どうして?」

「だって、僕も病院で訊かれましたもん。『蓮田さんは、まだ見つからないんですか?』って」

「そんなことがあったのか」

「はい。当然、僕はしらばっくれましたよ。でも、神代さん、犯人は絶対に蓮田だろうって、譲らないんですよ。で、どうしてそこまで決めつけるんですか? って逆に僕が訊いたらですね、彼女、凶器のことも知っているらしくて」

「凶器?」

「そうですよ。須藤さんを刺したのは、劇団の演劇で使う短剣だったんでしょ? って。だったら、もう決まりじゃないですか、と、こう来るんですよ。もう、水希さんが教えたとしか思えないじゃないですか。須藤さんが病院に運ばれた夜に、水希さんは神代さんと会ってるそうなんですよ、そこで、つい、ぽろっと漏らしちゃったんでしょうね」

「はあ……しょうがねえな、水希さん……」


 大輔がため息を吐いたところに、


「そ、その話、ほ、本当なんですか……?」


 智が声をかぶせてきた。


「えっ?」


 有斗夢が智の顔を見ると、


「水希さんが、神代さんに、そ、捜査情報を漏らしたって、こ、こと……」

「い、いや、本人から聞いたわけじゃないし、水希さんもそんな失態、わざわざ僕らに言ったりしないし……。でも、神代さんが凶器のことを知っていたのは事実なんだから、これはもう、水希さん経由で漏れたとしか思えないよ。もしくは、水希さんが捜査内容を電話で話しているのを、こっそりと聞いていたのかも」

「……」


 智は答えず、数十秒ほど無言を続けたあと、


「真鍋さん、け、警察は、蓮田さんを待ち構えるために、こ、こっちに警察官を、ど、動員してるんですよね?」

「そ、そうだよ」

「びょ、病院は?」

「病院? 須藤さんが入院している病院のこと?」

「は、はい。須藤さんを、ご、護衛するために、病院に警察官大勢、は、張り込ませているんですよね……」

「うん、そうだったけれど、病院のほうは何名かを残しただけで、ほとんどの人員はこちらに向かわせたはずだよ」

「神代さんに、つ、付けている護衛も……?」

「そうだね。蓮田の狙いが智ちゃんだと分かった以上、彼女の護衛も不要になるからね」

「――まずいです!」

「え? なにが?」

「は、犯人の狙いは、私じゃ……探偵じゃ、ない……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ