Remote.04 三剣士殺人事件 15/15
その日の夜、智は、ボイスドラマを聴くでなく、テレビをつけるでもないまま、暗い部屋の中、ベッドの上に横になっていた。
サイドテーブルに置かれたスマートフォンから着信音が鳴った。そのメロディから、発信者が誰であるか智には分かる。
『もしもし、智ちゃん』
スピーカーから千奈都の声が聞こえた。
「ああ、千奈っちゃん……」
『智ちゃん、事件は解決できたの? 夜のニュースでは、そういう報道はなかったけれど……』
「そ、それはね……」
『あ、待って。言いたくないなら言わなくていいよ」
「え?」
『智ちゃんの思ってることくらい、分かるよ』
「そ、そう?」
『長い付き合いだからね』
「……」
『智ちゃん?』
「あ、ありがと、千奈っちゃん……」
『ふふ、今の、いい感じだったでしょ』
「う、うん……ま、漫画、みたい……あ、漫画と言えばさ、千奈っちゃん、げ、原稿のほうは、す、進んでるの?」
『それ、訊いちゃう?』
「き、訊きたい……」
『じゃあ、言うけどね……さっぱりです! うわーん……』
「さ、さっぱり、か……」
『そうなのー。描きかけの原稿だからね、これはもう、残りのペン入れするだけで完成同然だな、って思ってたんだけどね……』
「な、何で?」
『単純に、つまらないからだよー』
「えー」
『何て言うかさー……描いてて、乗ってこないんだよね……。私、なんだか最近、描くためだけに描いてるって感じがしてる……。手段の目的化、っていうの?』
「そ、そっか……」
『私の本当に描きたい漫画って、何なんだろう?』
「……あ、あのさ、千奈っちゃん……」
『なに?』
「も、もし、よかったらだけどさ……。わ、私が、げ、原作を、た、担当するっていうのは?」
『えー? 本当に?』
千奈都の声のトーンが数段上がり、思わず智はスマートフォンを数センチ耳から離した。
「う、うん……。わ、私もね、ちょっと考えてるネタがあって……」
『ぜひ、お願いします! 戸森先生!』
「や、やめれ……。じゃ、じゃあさ、今度、原稿書いて、送る……って、文化祭に、ま、間に合わないかな?」
『ううん、絶対に間に合わせる。なにせ、うちの部はIT革命を果たしたんだし』
「ち、千奈っちゃん、『IT革命』って、言いたいだけ、なんじゃ……」
『それに、智ちゃんの原作なら、絶対に面白いって決まってるから、ペンの進みも猛烈に速いよ。多分、摩擦で火が出るよ』
「せ、せっかくのタブレット、こ、壊すな……」
『よっしゃ、燃えてきたー! 力を溜め込むため、今日はもう、お風呂入って寝るわ』
「お、おやすみ……」
通話を終えたスマートフォンをサイドテーブルに置いた、その直後、再び着信音が鳴った。水希からのものだった。
『智ちゃん、しくじった……』
「えっ?」
開口一番の水希の声を聞いた智は、全身を襲う嫌な予感に身を震わせた。
『須藤さんが……襲われた』
「……えっ?」
『喉元を短剣で突き刺されたの。一命は取り留めた状態だけど……意識不明で……危険な容体よ』
「た、短剣……?」
『買い物帰りに襲撃されたらしいわ。悲鳴を聞きつけた通行人が通報してくれて、警察官が駆けつけたときには、すでに犯人は逃走後だったんだけど……凶器が現場に遺留されていたの。……例の……芝居で使う小道具だったわ』
「じゃ、じゃあ……は、犯人は……?」
『同時にね……蓮田富賀美さんが……行方をくらましたわ』
「えっ?」
『須藤さんが襲われたと聞いて、すぐに蓮田さんのアパートに向かったんだけど……誰もいなくて……スマートフォンも電源が切られた状態なの。海山さんをはじめ、劇団の人たちや家族にも連絡したけれど……どこに行ったか誰も知らないのよ……。こんなことになるなんて……あのとき、何を言われようが、どんな処分を受けようが、首根っこ掴んででも、蓮田さんを引っ張ってくるべきだったわ……』
「わ、私が……か、確実な、しょ、証拠を……見つけられて、いれば……」
『智ちゃん! そういうふうに考えないで。智ちゃんはよくやってくれたわ。これは、私たち警察の失態。智ちゃんに責任はこれっぽっちもないの。いいわね』
「……」
『分かった?』
「は、はい……」
『よし。じゃあ、また何か力を借りることがあれば、連絡するわね。おやすみ』
そこで通話は切れた。
雷鳴が轟いた。二度、三度。
雨だれが窓を叩き、辺りは激しい雨音に包まれる。
瞬いた閃光のような稲光が、呆然とする智の顔を照らし出した。
「Remote.04 三剣士殺人事件」未解決
~次回予告~
凶刃に襲われた須藤は一命を取り留めるが、予断を許さない意識不明の状態が続く。蓮田の行方も杳として知れない中、「探偵である智も蓮田のターゲットになるかもしれない」と水希は、大輔を智の警護につけて……。
次回『リモート探偵 戸森智』
「Remote.05 続三剣士殺人事件 ~リモート探偵校庭に立つ~」にご期待下さい。




