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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.04 三剣士殺人事件 ~リモート探偵と迫る文化祭~
43/89

Remote.04 三剣士殺人事件 12/15

 翌朝の昼、(とも)は、いつものようにベッドの上に横になり、


「う、うーん……。な、何か、ひ、引っかかってるんだよなぁ……」


 事件のこと、昨日、(みず)()から聞いた話、容疑者たちへの聴取のことを思い返していた。


「な、何だろう……。み、密室のこと? きょ、凶器のこと? アリバイ……は、今回の事件には、あまり関係ないか……。あとは……、ど、動機……?」


 智は、ごろりと寝返りをうつと、


「こ、この事件には、ふ、二つの動機が……。ま、まず、犯人が被害者を殺害した動機……。も、もうひとつは……被害者が現場を密室にした動機……。こっちが、と、解ければ、自然と、み、密室の謎も解かれるかもなんだが……」


 そこに、着信音が鳴った。稲口(いなぐち)千奈都(ちなつ)からの着信を知らせるメロディだった。智は、サイドテーブルからスマートフォンを取り上げる。


『もしもし、智ちゃん』

「千奈っちゃん……」

『ねえねえ、智ちゃん、もしかして、ホールで起きた事件の捜査、してるの?』

「あ、う、うん」

『やっぱり。新聞で読んで、これは智ちゃんの出番だなって、私、思ったよ』

「そ、そう……」

『事件があるんだったら、そう言ってくれればよかったのに』

「えっ?」

『文化祭の原稿のことだよ。智ちゃん、今は事件抱えてないなんて、嘘ついてさ』

「あ、あれは……」


 昨日の電話の時点では、智のもとに捜査協力依頼が来ていなかったのは本当のことだ。事件の一報も、今朝の朝刊で初めて報道されたはずだ。


『もう……私が心配すると思ったんでしょ』

「えっ?」

『だから、事件を抱えてるって言ったら、私が心配すると思って、嘘ついたんでしょ』

「あ、ご、ごめん……。で、でもね、し、心配は、無用なんだ」

『ん? どうして? だって、探偵って、危ないこともするんでしょ? ()(がみ)(れい)()だって、“陽炎(かげろう)頭巾”と戦った事件のときには、危うく爆死させられるところだったし』

「あ、あれは、ドラマだから……。そ、それにさ……」

『うん?』

「わ、私は、現場には、い、行かないんだ」

『現場に行かないって、どういうこと?』

「い、いわゆる、“安楽椅子探偵”、なんだよ……」

『“人間椅子探偵”?』

「た、ただの変態じゃねーか! あ、安楽椅子! よ、要は、その場から動かないで、は、話を聞いただけで事件を解決する、ってタイプの探偵のこと、だよ……」

『へぇ、そうなんだ』

「ま、まあ、私の場合は、で、電話を使って、容疑者に聴取したり、す、するから、厳密な意味での“安楽椅子探偵”じゃ、な、ないけど、ね……」

『そっか、そういうやり方もあるんだ』

「ぶ、文明の利器、だね……」

『じゃあ、“安楽椅子探偵”じゃなくって、“リモート探偵”だね』

「えっ?」

『かっこいいと思わない? “リモート探偵”』

「そ、その呼び方、は、流行ってんの?」

『ん? 今、考えたんだよ』


 人って、同じようなことを考えつくものなんだなぁと、智は変に感心した。


「あ、そ、そうだ、千奈っちゃん」

『なに?』

「も、もしもの……話でさ」

『うん』

「わ、私が、千奈っちゃんを、こ、殺しちゃったとして、さ」

『えっ? 智ちゃん、私のこと……』

「ちち、違うよ! た、例えばの話だって……」

『うん……』

「そ、それでさ、じ、自分はもう助からない、って思ったときに、自分の死を、じ、自殺に見せかける手段が、あ、あったとしたらさ……そ、そうする?」

『それって、他殺を自殺に見せかけて、智ちゃんのことを、かばうか、かばわないか、ってこと?』

「そ、そうそう、わ、我が意を得たり……」

『……かばう』

「ほ、本当?」

『うん、私、智ちゃんに殺されるんだったら……仕方ないって、そう、思うから……』

「ち、千奈っちゃん?」


 急に声のトーンが落ちた千奈都のことを、智は怪訝に思った。


「千奈っちゃん……ど、どうした?」


 スピーカーからは、すすり泣きのような声が聞こえてきた。


『……ううん、何でもない。ごめんね』


 最後に、洟をすするような音を立てて、千奈都の声は元に戻った。


「ご、ごめんね……へ、変なこと訊いて……」

『ううん。もしかして、事件に関係あることだったの?』

「じ、実は、そ、そうなんだ……」

『じゃあ、嬉しいな、智ちゃんの役に立てて。ねえ、役に立った?』

「も、もちろん! ……かばう……かばうか、やっぱり……。で、でも、誰のことを……?」

『智ちゃん、忙しそうだね』

「あ、い、いやいや、そういうんじゃなくって……あ、そ、そういえばさ、千奈っちゃん、な、何か用事があったんじゃ、な、ないの?」

『あ! そうそう、原稿のことなんだけどさー』

「ぶ、文化祭用の?」

『うん。原稿を埋め合わせる目処がたったんだよー』

「ほ、本当? だ、誰が描くの?」

『先輩方』

「え? せ、先輩っていうと、さ、三年の?」

『そう。さすがに申し訳ないと思ったんだろうね。原稿よりも受験を取った四人が、合作で一本描いてくれることになったんだよ』

「よ、よかったね!」

『それにさ、何せ、一本に対して四人がかりだから、完成も早いと思う』

「う、うん」

『いやー、めでたし、めでたし』

「うん、め、めでたい……」

『智ちゃん、まだ電話、いい?』

「わ、私は、全然……。千奈っちゃんのほうこそ、いいの?」

『うん、昼休みはまだあるから……あ、ねえ、聞いてよー』

「なになに?」

『昨日ね、いたみんが面白いことになって』

「いたみんが? な、何したの?」


 “いたみん”とは、漫画部の顧問を務めている、伊丹(いたみ)教諭のニックネームだ。


『いたみんがね、部室の時計の電池を交換しようとしてたんだよ』

「あ、ああ、あの、変な時計」

『そうそう。何代か前の先輩が持ち込んだ外国のお土産だから、不気味なんだけど捨てられなくってさ……。で、その時計を裏返してね、いたみんが電池蓋を開けようと、蓋のネジをドライバーで回してたんだけど』

「うんうん」

『いたみん、「固ーい!」って言って、苦戦してたのね。ネジが全然回らないみたいで。で、それを見かねた板東(ばんどう)くんが助けにいったら……』

「い、いったら?」

『いたみん、ネジを逆に回してたらしいの』

「えー」

『板東くんがね、「先生、ネジを緩めるのは反時計回りですよ」って』

「いたみん、き、機械とかに、よ、弱そうだもんね」

『うん。開けるつもりが、余計に閉めちゃってたんだよね』

「――!」

『いっそのこと、あのまま壊してもらってたら、堂々と捨てる大義名分が付いたのにねって、あとでみんなで笑ってたんだけど……智ちゃん?』


 電話の向こうで、千奈都も智の異変に気づいたらしい。


「そ、それだ! 千奈っちゃん!」

『え? な、なにが……?』

「……それに、時計……。わ、分かった……何に、ひ、引っかかってたのかも……じ、時間、だった……つ、通報時間……」

『智ちゃん?』

「――あ、ご、ごめん、千奈っちゃん、あ、あのさ……、き、切っても、いい?」

『う、うん。なになに? 事件のこと?』

「そ、そうなんだ……。千奈っちゃんは、い、いつも私に、答えをくれる……」

『なにそれー、私、もしかしてかっこいい?』

「か、かっこいい……!」

『ありがと。急ぐんでしょ、じゃあ、切るね』

「う、うん、わ、私のほうこそ、あ、ありがと……」

『また電話するね、かんばれ、リモート探偵!』

「うっ……」


 千奈都との通話が切れると、智はすぐさま水希に連絡を取る。


『智ちゃん、どうしたの?』


 水希が応答すると、


「水希さん、あの、し、調べて欲しいことが……」

『うん、何でも言って』

「は、はい……ま、まず、こ、殺された新川(しんかわ)さんの、じ、自宅を、調べてみて欲しいんですけれど」

『自宅? 何を調べるの?』

「か、鍵、です」

『鍵?』

「は、はい。新川さんの、じ、自宅の、サムターンが付いているドアを」

『サムターン?』

「よ、よく使うドアのサムターンに、あ、ある特徴が、み、見つかると、思うんです……」

『オーケー、調べるわ』

「も、もうひとつ……あるんですけど……」

『うん』

「じ、時間を」

『時間? 何の?』

「げ、劇団の皆さんが、()(どう)さんの案内で、げ、現場に到着した、せ、正確な、時間です……。は、話によれば、午後一時の、ちょっと前だと思われるんですけれど……そ、その時刻を、より正確に、わ、割り出すことは、出来ないかなって……」

『劇団の人たちの記憶力に頼ることになるわね。でも、もちろん、やってみるわ』

「あ、ありがとう……ございます」

『その二つで、全部?』

「と、とりあえずは……」

『分かった。すぐに調べる。吉報を待ってて』

「は、はい。よ、よろしく、お願いします……」


 通話の切れたスマートフォンをサイドテーブルに戻し、智はベッドに横になった。


 水希からの報告があったのは、それから二時間後のことだった。

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