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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.04 三剣士殺人事件 ~リモート探偵と迫る文化祭~
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Remote.04 三剣士殺人事件 7/15

 次に呼ばれたのは、()(やま)(せい)だった。舞台では“炎の剣士”役を演じる俳優だ。

 (さか)()と同じく、三人の刑事と対面して、星良はソファに座った。稽古が始まる直前で事件に遭遇し、そのまま警察の聴取を受けていたためか、未だ――薄い赤色をした“炎の剣士”の――舞台衣装に身を包んだままだった。女性としては長身で、調った顔立ちは舞台映えがすることだろう。先に警察だけで聴取を行った際には、“炎の剣士”という役柄にふさわしい、勝ち気な性格だな、という印象を水希は持っていた。

 酒木と同様、聴取を行う探偵の参加がリモートという形であることに驚きを見せたのち、死体発見時のことを話し始める。


「私が稽古場のホールに入ったのは、十二時五十分は過ぎていたと思います。通し稽古は一時に始まる予定で、監督が時間――特に稽古の集合時間、にはうるさいものですから」

『そ、それまでは、ど、どこで、何を?』


 (とも)の質問に、星良は、


「楽屋代わりの会議室にいました。楽屋は、男女別に二部屋用意されていて、女性の楽屋を出たのは、私が最後でした」

『そ、それで、ホールにいるときに、()(どう)さんが、か、駆け込んできた』

「そうです。何事が起きたのかと思いました。血相を変えて走ってきたかと思ったら、用具室のドアの下から血が流れている、なんて、言い始めて……。それを聞いた監督は、私たちにもついてくるように言って、圭祐(けいすけ)――須藤さんと一緒に、ホールを出ました」

『そ、その場にいた全員が、ふ、二人のあとを追ったんですね?』

「だと思います。確認なんてしませんでしたから、はっきりとは言えませんけれども。そうして、用具室前に着いたら……本当に、ドアの下から真っ赤な液体……血が、流れ出ていて……監督がドアを開けようとしたんですけれど、鍵が、掛かっていて、救急への通報と、鍵を借りに行くようにと、監督が私たちに指示を出しました」

『海山さんが、か、鍵を借りに事務室に行った、わ、わけですね』

「ええ。通報には、(はす)()富賀美(ふかみ)が走ったはずです。私や……麗依(れい)と同じ、剣士役の演者です」

『は、はい、確認は、取れています。酒木さんは、と、特に、誰かを指名して、通報と、事務室に行くように言った、わ、わけではなかったんですよね?』

「そう記憶しています」

『海山さんが、ま、真っ先に、事務室に行ったのは、ど、どうしてですか?』

「どうしてって言われても……。直前に、監督がその場にいるメンバーを確認して、麗依の姿が見えないから、室内にいるのは麗依だ、って、そう叫んでいたので、この部屋の中で、麗依が血を流すような目に遭っているんじゃないかって思ったら……何とかしなきゃってなって。富賀美が通報に行ってくれたので、じゃあ、私が鍵を借りてきて、麗依を助けなきゃって、そう思って……。私は、ちょうどみんなの最後尾にいたから、行きやすかったというのも、あります」

『わ、分かりました。つ、続きを……』

「事務室には、職員の方が二人いました。自分でもどう言ったかは憶えていないんですけれど、用具室の鍵を貸してほしいという訴えと、私の様子から、緊急事態だというのは、伝わったのだと思います、すぐに職員のひとりがケースから鍵を取り出して、事務室を飛び出して、私も、あとに続いて、用具室前の廊下まで戻りました。途中、通報から戻ってきた富賀美と合流しました」

『じ、時間は、どれくらいかかりました、か?』

「……たぶんですけれど、一分もかかっていないと思います」

『で、ドアの鍵を開けたのは、しょ、職員の方、だったんですね?』

「そうです。事務室での私の様子に加えて、廊下の血だまりも目にして、改めて一大事が起きていると思ったみたいです。すぐにドアに飛びついて、鍵を開けてくれましたから。それで……ドアを開くと、中で……麗依が……」


 そこまで語ると、星良は声を詰まらせ、すみません、と断ってから、ハンカチで洟をかんだ。目にも涙が滲んできている。


『つ、つらいことを、お、思い出させてしまって……す、すみません』


 姿は見えずとも、喋り方で察したのだろう。智は詫びの言葉を入れた。


「ごめんなさい。もう、大丈夫です……」


 涙を拭った星良が言うと、智の聴取が再開される。


『な、亡くなった新川さんとは、普段から、し、親しくされていたそう、ですね』

「はい。富賀美も一緒に、三人でよく遊びに行ったりしていました。私たち三人は年齢も近く、ここに入った時期もほとんど同じだったので、自然と意気投合するようになっていったんです」

『じ、事件の、だ、第一発見者である、須藤さんとも親しかったと、き、聞きましたが……』


 スマートフォンから須藤の名が漏れると、悲しみに暮れていた星良の顔が、途端に引き締まった。


「……まあ、少しは」


 答える口調も、明らかに冷淡なものになっていた。


『須藤さんが、げ、劇団を辞めるつもりだったということは、ご、ご存じですよね?』

「ええ、監督から聞きました」

『そ、その理由について、な、何かご存じでは、あ、ありませんか?』


 星良の態度が変化したことを、やはり声色から察したらしい。智の声も、少々遠慮気味になる。


「結婚するつもりだったんでしょ」

『そ、それは、た、確かな情報なんですか?』

「確かも何も……そうとしか考えられないじゃないですか」

『か、考えられない、というのは――』

「警察にも話したことです」

『うっ……』


 智が言葉に詰まった。そこに、


「申し訳ありません、海山さん。警察からの聴取と重複することを伺う場合もありますので――」


 水希が助け船を出した。が、さらに、


「犯人は須藤くんだと思います」


 発せられた星良の言葉に、水希も声を詰まらせてしまった。


『そ、それは、ど、どういった、こ、根拠で……?』


 智の声が復活する。星良は、十秒以上も沈黙を保ってから、


「……すみません、言い過ぎました。今のは聞かなかったことに」


 小さく頭を下げる。


『え、えーと……』


 次の智からの質問が、なかなか出てこないため、水希が聴取の相手を引き受け、


「今回の事件は、須藤さんと新川さんとの間で、何かしらの口論があった末、刃傷沙汰になったことで起きたのだと、海山さんは、そう思われているわけですか?」


 少しの沈黙のあと、星良は、


「……須藤くんがここを辞めたがっていた理由は、結婚を控えているのが理由だということは、たぶん……間違いないと思います。彼、普段から、劇団とバイトの掛け持ちの生活じゃ、もし結婚しても家族を養っていけない、って言っていましたから。そこに来て、劇団を辞めて正社員になりたい、でしょ。見え見えですよ」

「その結婚相手が、新川さん――」

「違うと思いますよ」

「……どうしてでしょう?」

「もし、相手が私たち三人の中のひとりだったら、須藤くんはともかく、告白された人は、他の二人にも話していたはずです。でも、そういったことはなかったんですから」

「須藤さんが口止めしていた、という可能性は?」

「そんなことするはずないですもの。いつか、酒の席で行ったことがあったんです。もし、須藤くんがこの中の誰かと結婚することを決めたら、全員に話してほしいって。須藤くんも、分かったって言ってくれてたし、仮に、須藤が口止めしたのだとしても、そんなこと関係なく、告白された人は、他の二人にきちんと話したはずです。私たち三人は……そういう関係でしたから」

「それなのに、海山さんたち三人の誰も、誰からも、何も聞かされないまま、須藤さんが劇団を辞める、という話が舞い込んできたと」

「そうです。私が――いえ、富賀美も……死んだ麗依も、同じことを思っていたはずです」

「三人ともが、自分は須藤さんの相手じゃないと、確認し合っていたというわけですね」

「……」

「どうかされましたか?」

「少なくとも……富賀美とは話しました。私も、彼女も、須藤からは何も言われていない、って」

「亡くなった新川さんは?」

「麗依は……私たちの中では、一番おとなしくて、色恋沙汰の話題も苦手にしていた子でしたから、そういう話をしづらくって、結局……確認を取ることは出来ないままでしたけれど……」


 再び、星良の目が潤みを帯びる。


「では、新川さんが須藤さんのお相手で、そのことは二人だけの秘密にしておいたという可能性も――」

「だから! 麗依はそんな子じゃないんですって!」

『ひゃあっ!』


 智の悲鳴が聞こえたのは、星良がテーブルを叩いた音が部屋に響いたためだった。


「……ごめんなさい」星良は、逆立てた柳眉をもとに戻すと、「何度も言いますけれども、須藤の相手が麗依だったのなら、彼女は絶対にそのことを私や富賀美に話してくれたはずなんです。それがなかったということは、須藤が結婚しようとしていた相手は、私たち三人の中にはいなかったと、こういうわけです」

「分かりました……」


 個人的主観の上に立脚した不確かな理論ではあるが、とりあえず水希は納得した言葉を出し、


「それが……須藤さんが新川さんを殺害した動機にもなっていると?」

「……」星良は、口を一文字に結び、視線も水希たちから逸らしたが、「麗依が……問い詰めでもしたんじゃないかと思います。須藤が、私たち以外の女と結婚しようとしていることを。それで、口論になって……須藤が……」

「そうだとしても、いくつか疑問点があります。よろしいですか?」

「……どうぞ」

「まず、新川さんを殺害した凶器は、新川さん自身が所持していた短剣でした。須藤さんが犯人だというのなら、彼は新川さんが身につけていた短剣を、わざわざ奪って凶器に使用したということになりますが」

「そんなの知らないわよ。あわよくば自殺として処理されることを狙って、そうしたんじゃないの? 男の力なら、小柄な麗依から武器を奪うことだって簡単だろうし」

「もうひとつ、現場はドアも窓も施錠されている密室状態でした」

「それこそ、須藤が犯人だという証拠じゃない」

「どういうことでしょう?」

「ドアに鍵を掛けたのは、麗依自身よ」

「なぜ、そんなことを?」

「決まってるでしょ。須藤をかばうためよ」

「自分を刺した相手を、ですか。しかも、海山さんの推理が正しいのであれば、須藤さんは、新川さんたちを裏切った男ですよ」

「そういう子なの、麗依は! 最後の最後には……須藤を好きだという気持ちが捨てきれずに……須藤をかばうつもりで、自殺に見せかけようとしたのよ!」


 水希と話すうち、星良の柳眉は再び逆立ちを見せていた。


「新川さんは、友人として以上に、須藤さんのことが好きだったのですか? 蓮田富賀美さんや……あなたよりも?」

「そうよ! 私も、富賀美も……もし、須藤が私たちの中から誰かひとりを選ぶのなら、麗依にするべきだって、そう思っていたのよ」

「……分かりました。では、聴取はこれで終わりにします。ありがとうございました」


 水希の言葉の途中で、星良はソファを立ち、大股で応接室を出て行った。水希が言い終えるのと、ドアが荒々しく閉められる音が響いたのは、ほぼ同時だった。

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