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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.04 三剣士殺人事件 ~リモート探偵と迫る文化祭~
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Remote.04 三剣士殺人事件 5/15

(さか)()()(ろう)さん、改めて確認させていただきますが、この聴取には、県警が捜査協力を仰いでいる探偵も加わります。承諾いただけているということで、よろしいですね」

「ああ、団員全員にも話してある。構わないよ。こちらとしても、民間探偵に聴取を受けるだなんて、脚本や演技の参考になりそうで、ありがたいよ」


 ホールの応接室で、ローテーブルを挟み、篠原(しのはら)(みず)()()もり大輔(だいすけ)()(なべ)有斗夢(あとむ)の三人の刑事は、“劇団ノーザンベース”団長、酒木治郎と相対していた。襟こそ付いているが、皺の目立つシャツにデニムパンツという、かなりラフな服装をしていた。

 酒木は、テーブルの短辺に位置するひとりがけのソファに、ちらちらと視線を送っている。水希たちが並んで腰を下ろしている長ソファには、もう人が座るスペースは残されておらず、まさか探偵が聴取対象である自分の横に座るはずもなく、したがって、残るひとりがけソファが、これから登場する探偵の座席となるはずだ、と考えているのだろう。


「昼間に警察から聴取されたことと同じことを話していただく可能性もありますので、そこのところもご了承を」


 酒木が頷いたのを見ると、「では」と水希は、懐から取り出したスマートフォンをダイヤルした。


「おいおい、今から呼びつけるのかよ……」


 スマートフォンを耳に持って行く水希を見て、酒木は呆れ顔をした。


「大丈夫? ……うん、じゃあ、始めるわね」水希は、スマートフォンをテーブルに置くと、「事情がありまして、探偵は音声通話の形で参加させていただきます」

『よ、よろしく……お、お願い、します……』


 酒木が面食らった表情をしたのは、まさか探偵がリモートで参加してくるとは、ということと、スピーカーモードにされたスマートフォンから聞こえてきたのが、若い女性のものだったこと、その双方に対してのものに違いなかった。

 まず、死体発見時について話を訊くことになった。


「午後十二時五十……いや、もうほとんど一時に近い時間だったと思う。通し稽古を一時から始める予定だったんで、ホールには団員のほとんどがもう集まってた。普段から開始の五分前には集まるよう演者やスタッフに言っていたから。でも、まだそのときは全員集まってはいなかったな」

『い、いなかったのは誰か、わ、分かりますか?』

「……いや、そこまでは。()(どう)がいなかったことは明らかだが」

『し、死体……というか、廊下に血だまりがあるのを、は、発見して、それを知らせに来た、から、で、ですね?』

「そうだ。血相変えてホールに飛び込んできて……俺はまた、主演という立場を自覚して、稽古に遅刻しちゃいけない、という焦りからのものだったと思ってたんだが……」

『そ、それで、その場にいた、ぜ、全員を引き連れて、現場に、む、向かった』

「ああ」

『た、確かに、ホールにいた全員がついてきて、い、いましたか?』

「……それもいちいち確認はしなかったが……間違いないと思う。というのも、現場に着いて、用具室のドアの下から血が流れ出ているのを見て、咄嗟に俺は、ついてきた全員の顔を確認したんだ。ひとりを除いて、スタッフも含めた劇団員全員がそろっていた」

『そ、その、いなかったひとりというのが、し、死体で発見された、新川(しんかわ)さん』

「そうだ。だもんで、このドアの向こうで血を流しているのは、その新川麗依(れい)に違いないと思ったんだ」

『お、お話によると、その場にいた顔ぶれを、か、確認する前に、まず、ドアを開けようとした、とか』


 酒木は頷いて、


「ああ、だが、施錠されていた。最初に発見した須藤も、自分も開けようとしたが鍵がかかっていた、と言ってきて……」

『そ、その直後、救急への、つ、通報と、ドアの鍵を借りてくるよう、そ、その場にいたメンバーに言いつけたんですよね』

「そのとおりだ。誰と誰が向かったかは……警察にも話したけれど、正直、憶えていないけれど」

「それについては」と水希が言葉を挟み、「ロビーの公衆電話に通報に行ったのが、蓮田(はすだ)富賀美(ふかみ)さん、事務室に鍵を借りに行ったのが、()(やま)(せい)さんだったと、本人たちの証言から確認が取れています」

「ああ、そうか。俺も、行ってくれたのは舞台衣装を着ている誰かだと、おぼろげに思っていたんだが」


 “雷の剣士”の蓮田富賀美、“炎の剣士”の海山星良、被害者と同じ剣士役を演じる俳優が、奇しくも重要な役目を担ったということになる。


『ち、ちなみに、ですが……。み、皆さん、スマホや、け、携帯電話は、そのとき、誰も、も、持っていなかった、そ、そうですね?』

「そうだ。俺の方針でね。通し稽古のときには、演者、スタッフとも、スマホの持ち込みは一切禁止している。まあ、スタッフはともかく、演者は舞台衣装に着替えているから、そもそもスマホを持ち歩けないんだけどな」

『わ、わかりました。で、通報と、鍵を取りに行った二人――富賀美さんと、星良さん、が、も、戻ってきたわけですが……お、お二人が戻ってくるまで、ど、どれくらいの時間が、か、かかりました、か?』

「そうだな……一分くらいだったと思う。用具室前の廊下から、ロビーと事務室までなら、女性の足でもそれくらいの時間で行き来できるだろうし」

『そ、そうですか……つ、続きを、どうぞ……』

「で、事務室に行ったほう――星良は、鍵を持った職員の人と一緒に戻ってきて、ドアの鍵もその職員が開けてくれたんだ。そ、そうして……」

『新川さんの、し、死体を、は、発見した』

「ああ、あれは、さすがにびびったよ……」

『し、死体は、須藤さんが、あ、仰向けにさせたんだとか』

「ああ、現場保存の観点からは申し訳ないとは思ったが、俺も含めて、誰もそれを止められる冷静さを持ちあわせていなかったからな。うつ伏せに倒れている麗依の両肩を掴んで、ひっくり返して、仰向けにさせたんだ。麗依の顔は真っ白で……出血の量といい、これは助からん……いや、もう死んでいるなと、俺は思ったよ……」

「救急隊員が現場に到着した時点で、すでに新川さんは死亡しており、死後数十分程度経過した状態だったであろうことが確認されています」


 水希が補足した。


『きょ、凶器も、現場に、い、遺留していたそうですね……』

「ああ、小道具の短剣だ……。あれは、俺が用意したものだったんだ……」

『お、お芝居に使う……』

「そう、ああいう珍品を扱う雑貨屋で見つけて、今書いている脚本の小道具にぴったりだと思って、三本購入してきたんだ」

『せ、聖剣、という設定、だそうで』

「本来は、もっと長尺の剣を使うほうが、絵として映えることは確かなんだが、あまり長い剣って、帯刀した状態で演者が動き回ると、ふらふらしてしまって、見ている観客が芝居に集中できなくなるからな。それに、いざ抜刀する段になって、あまり長い得物だと、鞘から抜くのにも苦労する。抜刀するときってのは、当然緊迫した場面になるわけで、そこでもたついたりしたら一気に興ざめだ。それに、自然に剣を抜いたり鞘に収めたりするのって、日常では絶対やらない動作だから、結構練習が必要になるんだ。今回の演目は、剣士が女性ってこともあって、小ぶりの短剣でも絵になるんじゃないかと思ってな」

『な、なるほど……。そ、その短剣が、きょ、凶器に使われてしまった、わけですが……』

「それについちゃ、俺も責任は感じないでもないよ……。でもな、だからといって、“聖剣”を安全性を考慮した材質のものにすればよかった、みたいな意見は結果論だよ。誰も、小道具が殺人の凶器に使われるかもしれない、なんてことを考えて演出するわけないんだ。それに、この演目は、三人の剣士が持つ三本の聖剣が、ストーリー上重要な働きをするし、何度も観客の目に触れることになる。段ボールなんかで作った()()()な代物なんかにするわけには絶対にいかなかったんだ。あの短剣は、俺のイメージにぴったりだったし……」

『よ、よく分かります……』


 熱く語る酒木の声が、スマートフォン越しに(とも)に圧を与えたかのようだった。


『け、剣士が持つ聖剣は、さ、三種類あったということですが……こ、購入した短剣も、それぞれ、ち、違ったデザインのものだった、わ、わけですか?』

「いや、短剣は量産品で、すべて同じものだけど、本番に間に合うように、俺が色を塗ったり、色付きのガラス玉をはめたりして改造する予定だったんだ。せっかくの聖剣が、鉄の銀色一色の、いかにもそこらで買ってきました、みたいな見た目じゃあ、締まらないからな。三本の聖剣には、それぞれ、“炎の聖剣・紅火焔(クリムゾン・ブレイズ)”、“水の聖剣・大波濤(タイダル・ウェイヴ)”、“(いかづち)の聖剣・稲妻裂(サンダー・クラック)”っていう名前も付いているし」

『そ、そうなんですか。か、改造とか、き、器用なんですね……』

「こう見えても――って、電話だから探偵さんには分からんか――昔から模型なんかが趣味でね。細かい作業も得意なんだ」


 智には見えていないが、酒木は、がっしりとした筋肉質の体つきをしている。


『そ、それで、ですね……げ、現場は、い、いわゆる、密室だったそうですが……』

「あ、ああ、それは間違いない。真っ先に確認した。あの用具室には窓は一箇所しかなくて、その窓のクレセント錠は確かにかかっていた。俺だけじゃなくて、団員の何人かも見ているはずだ」

「酒木さんの言うとおりよ」と水希が、「数名の団員の方から、窓は施錠されていた、という証言が得られているわ」

『わ、分かりました……。そ、それと、警察からも、聞いていると思いますが、ドアの鍵は、な、亡くなった新川さん自らがかけたものである、と、み、見られていますが、こ、これについては、何か、お考えがあります……か?』

「か、考えも……何も……どうして、麗依がそんなことをしたのか……自殺だったって想像するくらいしか……」

『新川さんが、じ、自殺をするような動機を、何か、ご、ご存じですか?』

「警察にも話したことだが……正直、さっぱりだ」

『で、では、話題を少々、か、変えますが……だ、第一発見者の須藤さんは、近々、げ、劇団を辞めて、ど、どこかの会社に就職するつもりで、い、いたとか』

「ああ、俺が相談を受けたんだ」

『そ、そうする理由について、須藤さんは、な、何かおっしゃっていました、か?』

「いや」と酒木は、首を横に振って、「何も話してくれなかった。ただ、そういうことを考えている、と打ち明けられただけだ。警察も須藤に聴取したんですよね。あいつ、何か言っていましたか?」


 テーブル上のスマートフォンから、対面する三人の刑事に顔を向けた。すると、水希が今度は首を横に振り、


「駄目でした。須藤さんは、『そのことは事件とは無関係だ』の一点張りで……」


 その横では、大輔が仏頂面で腕組みをし、反対側の横で、有斗夢もため息を吐いていた。二人の執拗な聴取にも、結局、須藤は口を割らなかったのだった。

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