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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.04 三剣士殺人事件 ~リモート探偵と迫る文化祭~
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Remote.04 三剣士殺人事件 4/15

『つまり、現場である用具室への施錠が、室内から被害者自身の手によってされたことが確実視されている以上、そうされた理由を探ることが、すなわち、事件の謎――ひいては、犯人を特定する根拠となるのではないかと、警察としては、そう考えているってわけ』

「は、ははあ……」(とも)は、一度深呼吸をしてから、「そ、それを、こ、考察するためには、ひ、被害者の人間関係を知る必要が、あ、ありますね」

『もちろん、調べてあるわよ。幸いにも、被害者の交友関係は、家族を別にしたら、ほぼ劇団内部の人たちに限定されていたみたいだからね』

「そ、そういえば、被害者は、は、俳優だったと……」

『事件の起きた日――って、今日なんだけど――は、数日後に控えている舞台演劇の通し稽古をやる日でね、俳優、スタッフも含めた劇団所属者が、全員集まっていたのよ。その中で、被害者と殺人――あるいは自殺――沙汰になるような関係を持っていたと思われている人は、三人に絞られているわ』

「さ、三人」

『そう、すなわち、三人の容疑者と言い換えても構わないわね。で、その容疑者のことを話す前に、稽古していた演目について話したほうが、理解しやすいと思うんで、それに少し触れておくわね』

「は、はい」


 智はベッドの上で居住まいを正し、聴く姿勢を整えた。


『“劇団ノーザンベース”が公演予定だった演目は、劇団長であり、演出兼脚本も担当している、(さか)()()(ろう)さんのオリジナル作品で、「三剣士の(うた)』というものなの。どういう話かというとね、世界の命運を握る“光の王子”が、“(ほのお)”、“(みず)”、“(いかづち)”の、三本の聖剣にそれぞれ選ばれた三人の(けん)()とともに、この世の混沌を封印するための旅に出る、というものよ』

「な、なんだか、ゲームみたいな、は、話ですね」

『酒木さんは、色々なジャンルの芝居をやりたがる人だそうで、この前の演目は、何の変哲もない男女が出会ってから結ばれるまでを描いた、恋愛ものだったんだって。まあ、それはともかく、容疑者と黙されている三人は全員が俳優で、しかも、三人ともが、いま言った配役を受け持っているの。ちなみに、被害者の新川(しんかわ)麗依(れい)さんは、“水の剣士”役だったわ』

「と、ということは、“炎の剣士”、“雷の剣士”、“光の王子”の三人が、それぞれ、よ、容疑者だ、と?」

『そういうこと。まず、“炎の剣士”役が、()(やま)(せい)さん。“雷の剣士”役が、蓮田(はすだ)富賀美(ふかみ)さん、そして、“光の王子”役が、()どう圭祐(けいすけ)さん、という名前よ』

「あ、“光の王子”役の人って、だ、第一発見者の?」

『そう。さっきも名前を出したわね』

「で、け、剣士役の役者さんたちは、な、名前の感じからして、ぜ、全員が女性?」

『大当たり。演出の酒木さん言うには、「お姫様を守る男性剣士」というファンタジーお決まりの構成を逆にすることによって生まれる、定型構文へのカウンターが狙い、だそうだけれど、今どき、こういう話ってたくさんあるわよね。それこそ、ゲームとかアニメなんかに』

「い、いわゆる、“ハーレムもの”って、や、やつ、ですね」

『そういうジャンルが確立されてるの? まあ、確かに、その“ハーレム”っていう呼称は間違ってないかもね。今回の事件についても』

「そ、それって、も、もしかして……」

『そう。“光の王子”役の須藤さんて人が、とにかくモテる男でね。付き合いのある女性たちの中でも、同じ劇団に所属している三人と、特に親しくしていたらしいわ』

「そ、それが……」

『うん、剣士役の三人、ってわけ』

「つ、つまりは……さ、三角関係を超えた、し、四角関係?」

『端的に言えば、そういうことだったみたいね。剣士役の三人ともが須藤さんのことを好きなんだけど、須藤さんのほうはといえば、正式に誰と付き合うと決めるでなく、全員と友達のように付き合って、遊んでいたんだって。――あ、この“遊ぶ”って、言葉どおりの意味でのことだからね。カラオケ行ったりとかの』

「――わわ、わかってますって!」


 顔を赤らめた智は、これが電話で助かった、と思った。


『智ちゃんが誤解するといけないから、念のため』

「う、うーん……ま、まあ、それでも、ま、まさに、ハーレム状態、ですね。お、大人の関係に、な、ならないところも、“ハーレムもの”っぽい……」

『でもね、その四角関係に、最近になって決着が付きそうな気配があったらしいの』

「な、なんですと?」

『須藤さんが、三人のうちのひとりと正式に付き合うことを決めた、というか、結婚まで視野に入っているらしいと、劇団の中で噂になっていたそうなの』

「い、一気に、ですね……。で、でも、『らしい』とか、あ、曖昧な言い方、ですね」

『実際に誰と付き合い始めたとか、須藤さんも、その相手も、口にしたのを誰も聞いたことがないんだって』

「な、なのに、そういう、う、噂が流れたのには、ど、どういう?」

『劇団長の酒木さんに、須藤さんが相談ごとを持ちかけたんだって。どこかの会社で正社員になって、劇団を辞めたい、って』

「や、辞める?」

『智ちゃんは知ってるかわからないけど、こういう劇団の俳優やスタッフって、それ一本で食べていける人なんて、ほんのひと握りだそうよ。ほとんどの人は、バイトなんかの掛け持ちをして、ようやく生活を成り立たせているんだって』

「そ、そうなんですか。そ、そういえば、せ、声優さんも、け、結構名前の知られてる人でも、バイトを続けてる、なんて話を、き、聞いたことがあります」

『うん。須藤さんも例外じゃなくて、劇団で俳優をやりながら、いくつかバイトの掛け持ちをしていたそうなんだけど……』

「ど、どこかの会社に就職して、せ、正社員に、な、なりたいと、相談してきた。それは、つまり……」

『生活の安定を求めて、ということでしょうね。どうして、そう考えるようになったかというと……』

「け、結婚……」

『そうね。でもね、これは、須藤さん自身から確認が取れた話じゃないのよ。さっきも言ったけど、三人の中の誰と正式に付き合うことにしたとか、劇団を辞めて正社員になりたいのは結婚のためだ、とかっていう具体的な話を、須藤さん自身の口から聞いた人は、誰もいないから。相談を持ちかけられた酒木さんも、そういう質問をしたんだけど、上手くはぐらかされちゃったそうよ。だから、今言った話はすべて、最近の須藤さんの言動を根拠にした、劇団の人たちの憶測でしかないのよ』

「ど、どうして、須藤さんは、そのことについて、な、何も言わないんでしょう?」

『さあ。照れくさいとか、そういう理由なのかもしれないけれど』

「あ、で、でも、け、剣士役の三人に聞けば、わ、分かりますよね? 須藤さんが、せ、正式に付き合って、け、結婚まで考えている相手なら、ほ、本人にもきちんと伝えている、は、はずです……」

『そこなんだけれどね……』


 水希は、ふう、とため息をスピーカー越しに聞かせてから、


『“炎の剣士”役の海山さん、“雷の剣士”役の蓮田さんの、どちらに訊いても、自分は須藤さんから、そういう話を持ちかけられたことはない、って、こう言うのよ』

「ん? て、てことは、つ、つまり……」

『消去法で、須藤さんの本命は、被害者である“水の剣士”役の新川さんだった、となるでしょ』

「で、ですね……」

『さて、この話を踏まえたうえで、智ちゃんが言った、“被害者が現場を密室にする理由”について、改めて考察してみると、どう? “他殺を自殺に偽装して、犯人をかばう”っていう、今回の密室が、その目的で作られたものだったとしたら』

「は、犯人は、ひ、被害者がかばおうとする、じ、人物……」

『容疑者の中では、ひとりしかいないと思わない?』

「す、須藤さん……」

『そう。仮に、海山さんと蓮田さんが、なにかのきっかけで新川さんが須藤さんの本命になったことを知って、嫉妬心から新川さんを殺害したとするわ。でも、そうであれば、殺された新川さんが現場を密室にする必要なんて、これっぽっちもないわよね』

「で、ですね。しかも、ち、致命傷を負った体を、こ、酷使してまで……。そ、そんなことをする、よ、余力があるんだったら、血で、犯人の名前でも、ゆ、床に書き残すべき……」

『でしょ。まあ、個人的な見解だけど、私だったら、いくら結婚相手とはいえ、自分を殺すような男をかばったりなんて、絶対にしないけれどね』

「あ、あはは……。で、でもですね、水希さん、い、いまの推理は、あ、あくまで、新川さんが、須藤さんの、ほ、本命だった、という仮定での、は、話です」

『そうね』

「ちょ、直接、訊いてみれば、い、いいじゃないですか、須藤さんに……。な、何を理由に、本命の相手を、だ、誰にも教えないのかは、わ、分かりませんけれど、こ、こんなことになってしまった以上、ひ、秘密にしておくこと、ないじゃないですか」

『それがね……教えてくれないのよ』

「えっ?」

『黙秘の一点張り。新川さんが本命だったのかどうか以前に、そもそも結婚を考えている相手がいるのかどうかさえ、一切口をつぐんだままなのよ』

「せ、正社員になろうとした、り、理由は?」

『単に、将来に不安を憶えたから、だって』

「あ、あやしい、ですね……」

『まあ、事件は起きたばかりだから、まだ大輔(だいすけ)()(なべ)たちが聴取を続けてるけどね。あいつらが上手く供述を引き出してくれればいいんだけど』

「あ、兄貴得意の、て、鉄拳制裁で……」

『そうそう、何人もの犯人の口を割った――自供させたって意味だけじゃなく、物理的にも――あの必殺パンチで……って、こら!』

「じょ、冗談、です」

『私のほうも当然冗談だからね。この会話を録音しておいて、ネットに公開するとか、しないでよね』

「す、するわけない、じゃないですか……。み、水希さん、ノリつっこみ、ナイスです……」

『ありがと』水希は、ふふ、と笑って、『とにかく、現在事件について分かっている情報は、これくらいね。智ちゃんが捜査に加わってくれることになったから、関係者に改めて聴取しようと思ってるの、智ちゃんにもリモートで参加してもらってね』

「は、はい」

『事件を嗅ぎつけたマスコミが、うろちょろしたりしてるんで、もう少し落ち着いてから始めようと思うの。そうね……二時間後くらいにまた電話するということで、どう?』

「だ、大丈夫、です」

『それじゃあ、またそのときに。ちなみに、今、智ちゃんに話した内容は、演出の酒木さんをはじめ、全員に話してあるから、聴取のときに出しても問題ないわよ』

「わ、分かりました……」


 ありがとう、と礼の言葉を残して、水希は通話を切った。

 大きくため息をついて、ベッドに寝転がった智は、


「ひ、被害者自身が、か、鍵を掛けた密室……か……」


 呟いて、スマートフォンをサイドテーブルに置いた。

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