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リモート探偵 戸森智  作者: 庵字
Remote.04 三剣士殺人事件 ~リモート探偵と迫る文化祭~
33/89

Remote.04 三剣士殺人事件 2/15

『来い! キングキャリッジ! ……とうっ! 合体完了! キングエドガード! いくぞ! 宇宙犯罪組織デスクライム! 貴様らの罪、このエドガードが暴いてみせる! 宇宙探偵団の名にかけて!』


 台詞のあとに、ビームの発射や金属同士の激突などの効果音の入り交じった、激しい戦闘シーンの音がテレビのスピーカーから流れ出た。

 ()(もり)(とも)は、ベッドに寝転び、布団から顔を出した状態で、テレビのリモコンを手にしている。


「はぁー……わ、我らが(はや)様が、ち、地上波放送のロボットアニメ、『勇者探偵エドガード』の、しゅ、主役、エドガード役に、ば、抜擢されようとは……。こ、これで速見様も、一躍全国区。わ、我ら声優オタ女子の癒しから、ぜ、全国のちびっこたちのヒーローに……。よ、喜ぶべきことでは、あるけれど……や、やはり、複雑な、き、気分……。こ、ここで一首……お、推し声優、メジャーアニメで名を知られ、う、嬉しくもあり、さ、寂しくもあり……」


 智が一首詠み終えたところで、スマートフォンの着信音が鳴った。智はテレビリモコンのボタンを押し、録画映像のアニメを画面から消すと、サイドテーブルに置いてあるスマートフォンを掴む。


『もしもし、智ちゃん』


 発信者は稲口(いなぐち)千奈都(ちなつ)だった。


「千奈っちゃん、きょ、今日は、ど、どうしたの?」

『あのね、智ちゃんに相談というか、お話があって……。今、電話しててもいい?』

「か、かまわんよ」

『ありがとう。で、話っていうのはね』

「う、うん」

『ピンチなの』

「ふぁっ?」

『文化祭のことなんだけどね』

「あ、も、もう、そんな時期か……」

『そう。漫画部でも、文化祭用の作品を何点か掲載した冊子を出してるじゃない』

「う、うん。毎年、三年生が、た、担当するんだよね」

『そうなんだけどね……実は……その冊子がね……落ちそうなの!』

「えっ? お、落ちる?」

『そうなのよー……』

「な、何が起きた?」

『文化祭の冊子に掲載する作品って、毎年、主に三年生が担当するじゃない』

「な、ならわしで、そうなってるね。さ、三年間の部活動の、しゅ、集大成だからって」

『で、その冊子って、部の伝統で、六本の作品を載せることになってるじゃない』

「う、うん。『漫画部六歌仙(ろっかせん)』でしょ。な、何が六歌仙なのか、し、知らんけど……」

『で、うちの三年は七人いるじゃない。そのうちの四人もがね、「空きはひとり分あるし、自分が描かなくても大丈夫だろう」って、いっさい新作を描いてなかったのよー』

「えー!」

『無責任にも程があると思わない?』

「だ、だね……。で、お、落としたのは、誰よ? あ、言わなくても、だいたい分かるわ」

『うん、多分、智ちゃんが思ったとおりのメンバー。その言い訳がね、受験に備えて勉強してたからだっていうのよ。ひどいと思わない? あの先輩方、受験勉強に身を削るってタマかよ。部活動を、青春を何だと思ってんだよって、私……言ってやったわ』

「ま、まじで? 千奈っちゃん、すげー……」

『……心の中で』

「心の中でかよ!」


 智はベッドの上でずっこけた。


『だからね、このままだと、冊子には三本しか作品が載らないことになっちゃうんだよ。六歌仙、崩壊の危機なんだよ』

「そ、それは、さ、さすがに寂しいね」

『部に代々残るものだから、発表済みの作品を使い回すわけにはいかないでしょ。そんなことしたら、「あの代の部の六歌仙は、作品の使い回ししよった」って、私たちまで、子々孫々に至るまで馬鹿にされ続けちゃうよー』

「そ、そこまでかな……」

『でね、話っていうのはね……』

「も、猛烈に悪い、よ、予感がしてきたぞ……」

『先輩方が空けた穴を、智ちゃんに埋めてもらえないかと思って』

「やっぱりなー!」

『ここは、二年の私らが頑張らないとでしょ』

「そ、そうは言っても……」

『智ちゃん、文化祭までの一ヶ月で、一本、十六ページくらいの作品を描ける?』

「そ、それは……で、でも、落ちる原稿は、さ、三本、でしょ? わ、私ら二年は、えーと……六人いるから、他にも描き手はいる、は、はずじゃあ……」

『智ちゃんがいいの!』

「ふえっ?」

『会長にこのことを話したらね、「それは是非、戸森さんにお願いするべきだ」って』

「か、会長って……き、霧島(きりしま)会長が?」

『そう』

「そ、そんなの、え、越権行為じゃん。生徒会が、ま、漫画部の活動内容に、く、口出ししてくるなんて……。そ、そんな絶大な権力を持った生徒会、ま、漫画やアニメの中にしか存在しないと、お、思ってたわ……」

『権力とか、そんなんじゃないよ。そのことを部員のみんなにも話したらね、満場一致で、智ちゃんがふさわしい、ってなったよ』

「な、なんですと?」

『極めて民主的に選ばれました』

「ま、待てーい!」

『残りの二人は、私と、あと、板東(ばんどう)くん。描きかけの新作を持ってるのが、私と板東くんしかいなかったんだ』

「ば、板東? あ、あいつの描く漫画は、い、異様に作画カロリー高いのに、だ、大丈夫なの?」

『そこで、IT革命により新規導入しされたタブレットだよ。あの秘密兵器を使えば、作画にかかる時間が大幅に短縮できるんだ。インクをこぼしたりとかのアクシデントからも解放されるし。それにね、板東くん、電算部の友達に頼んで、ロボットの3Dモデルを作ってもらったんだって。そのモデルに好きなポーズを取らせた画像を原稿に取り込んで、回転とか拡大縮小を駆使すれば、かなり労力の短縮になるらしいよ』

「は、はあ……。す、凄いね、そりゃ……」

『でも、智ちゃんは、まだ紙にインクのアナログ執筆でしょ』

「……」

『え? もしかして、密かにデジタル作画環境を構築してたとか?』

「えっ? ち、違うよ……」


 智は、電話であるのに、ぶんぶんと手を振った。


『だよね。だからさ、今くらいから描き始めないと、間に合わないかなって思って』

「……って、だから、ま、待てーい!」

『どうしたの? 智ちゃん』

「わ、私が、いつ、ひ、引き受けるって、言った」

『えっ? だ、駄目……なの?』


 途端に、千奈都の声のトーンが落ちる。


「い……いや……。そ、そもそも、な、何で会長は、わ、私を指名したり、し、したの?」

『智ちゃんの漫画を読んで、すごく気に入ったみたいだったからかな』

「はっ? 読んだ? わ、私の漫画を?」

『うん、この前、部室の移動を手伝ってもらったときに』

「な、何を……よ、読ませた……?」

『部室に残ってるアーカイブを、全部』

「なにー!」

『会長には、現在の所属部員の作品、ひととおりに目を通してもらったの。そのうえで智ちゃんを指名したんだから、会長のお眼鏡に(かな)ったってことだよ』

「か、適いたくなかった……」

『智ちゃん……描いてくれないの?』

「うっ……」


 千奈都の残念そうな声を聞き、智は言葉に詰まる。


『あ、もしかして、事件の捜査で忙しいとか?』

「いやっ……そ、そういうわけ……じゃ……」


 今のところ、智に抱えている事件はなかった。


『あっ! それとも……智ちゃん、まだ、漫画を描けるような体調じゃ、ない、の?』


 智は、しばらく無言でいたが、


「そ、そうなんだよ……」

『そうなんだ……。ごめんね、私、この前、智ちゃんと会ったとき、松葉杖をついてたけど、それ以外は何ともないみたいに見えちゃったから、早とちりして……』

「い、いや……それは……」

『智ちゃんのことを考えないで、自分の都合ばっかり押しつけちゃって……』

「そそ、そんなこと……ない……から。……わ、私こそ……ご、ごめん……」


 トーンが落ちていく千奈都の声に、智は言葉でも、そして心の中でも謝った。


『ううん。本当に、ごめんね。』と、少し明るさを取り戻したような千奈都の声が、『……あのね、智ちゃん』

「な、なに?」

『私、すごく楽しみにしてたんだ。一緒の本に、智ちゃんと作品を載せられるかもって』

「ち、千奈っちゃん……」

『本当に、ごめんね、無理言っちゃって』

「い、いや……」

『じゃあ、急いで、作品を描いてくれる部員を捜さなきゃ』

「あ、がんばって……」

『うん、がんばる。突然電話して、ごめんね』

「そ、そんなことないよ……千奈ちゃん、ま、また、いつでも電話、して……」

『ありがとう』

「うん、それじゃ……」


 通話が切れたのち、


「ごめんね……千奈っちゃん……」


 もう一度声に出し、智は千奈都に謝った。ふう、とため息をついた智は、


「……き、気を取り直して、速見様のかっこいい必殺技ボイスを、き、聞こうかな……」


 片手に持ったままだったリモコンのスイッチに指を伸ばした、そこに、


「うおっ!」


 着信音が鳴った。千奈都からのものとは違うメロディだった。智は、サイドテーブルに置きかけたスマートフォンを、再び耳に持って行き、


「ま、まさか、本当に事件が?」


 呟きながら応答すると、


『もしもし、智ちゃん』


 スピーカーからは、篠原(しのはら)(みず)の声が聞こえてきた。

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