Remote.03 霊視能力殺人事件 4/10
「ど、動機面については、ど、どうなんですか?」
智が、さらに尋ねると、水希は、
『そこのところも調べたんだけど……』さらに手帳のページをめくる音がして、『殺された蓼西さんと冥道院さんとの間には何の繋がりも発見できなかったわ。あくまで、表面上はね』
「ふ、含みのある、い、言い方ですね」
『そう、この蓼西さんて人なんだけれど……実は、ちょっとキナ臭い噂のあった人でね』
「な、何ですか?」
『フリーの雑誌記者にしては、仕事量には明らかに見合わない、かなり羽振りのいい生活をしていたらしいのよ』
「な、何か、本業とは別の収入源が、あ、あったっていうことですか?」
『間違いないわね。でもね、調べたところ、蓼西さんが何かの副業をしていたという形跡は発見出来なかったの』
「つ、つまり、表沙汰にできない、ふ、副業?」
『これは、証拠も何もない、あくまで噂段階に過ぎない話なんだけど……どうも、恐喝らしきことをやっていたみたいなの』
「きょ、恐喝……じゃ、じゃあ、表面上には出てこない、う、裏側で、冥道院さんと被害者は、繋がっていたかもしれない? そ、その繋がりというのが……」
『そう、もしかしたら、冥道院さんは何かの弱みをネタに蓼西さんに強請られていて、それが殺害動機になったという可能性が、ないとは言えないわよね』
「ははぁ」
『で、蓼西さんを殺す決意を固めた冥道院さんなんだけれど、ただ殺すだけじゃなくて、彼の死を自分の仕事に利用しようと考えた。それが……』
「つ、綱井ジョーンズさんの生配信チャットに、ら、乱入する、ということですね」
『そう。現場は人の滅多に入らない廃工場で、蓼西さんの死体が第三者に発見される可能性は極めて低い。そこに死体があることを知っているのは、冥道院さんただひとり。そこで、何か手を回して、綱井さんに件の廃工場へ行かせるように仕向けて……』
「な、生配信中のチャットに書き込みをして、し、死体があることを、れ、霊視した」
『「死体が発していた怨念を感知した」なんてデマカセ言ってね。これで、霊能力者、冥道院蛇盤は一躍時の人。恐喝者を亡き者にして、自分の名声も上がり、まさに一石二鳥ってわけ。現場で鞄に付けていたキーホルダーを落としたのは致命的なミスだったけれど、彼には鉄壁のアリバイがあって、警察は手も足も出せない。地団駄を踏む刑事たち。と、そこに颯爽と登場するのは、我らが“リモート探偵”戸森智! インチキ霊能力者よ、お前のアリバイトリック、この私が崩してみせる!』
「……」
後半になるにつれ高揚していく水希の声音に対し、智は無言を貫くしかなかった。
『……あ、ごめん』こほん、と水希の咳払いが聞こえ、『今回の事件、智ちゃんに話が行くことになったのは、こういう経緯があるからなのよ』
「じ、事情は、よ、よく分かりました……」と、今度は智が、こほん、とひとつ咳払いをして、「よ、要は、車で往復一時間かかる行程を、じゅ、十五分で済ませられる手段が、な、何かないか、それを探せ、と……」
『そういうわけなの』
水希の言葉に、そんなもん、あるかーい! と心の中で突っ込んでから、智は、
「ち、ちなみに、死体に動かされた形跡は?」
『それも調べたわ。答えは、ノー。死斑の現れようや、血痕の飛び散り具合から見て、被害者は間違いなく現場で死んで、そこから動かされていないっていう、鑑識のお墨付きよ』
「そ、それじゃあ、休憩時間内に打ち合わせ場所の近くで殺害して、あとから死体を移動させるというのも、む、無理ですね……」
『そうなの、大前提として、死体を移動させた痕跡を消すという高いハードルがあるわけだけれど、それには目をつむって、念のために、冥道院さんが打ち合わせをしていたビルや、その周辺も調べたのよ。人を殺して、一時的に死体を保管しておけるような場所を探して、片っ端から。でも、被害者の毛髪一本、血痕一滴発見できなかったわ。ルミノール反応も出なかったから、血を拭き取った痕跡もないわね』
それを聞くと、智は、うーん、と唸り、
「きょ、共犯の可能性は?」
『それも当たってみたわ。冥道院さんには、マネージャーも含めて何人かのスタッフが付いているんだけど、冥道院さんと一緒に打ち合わせに駆り出されていたり、オフで買い物に出ていたり、別のバイトをしていたりと、全員アリバイの確認は取れているわ』
「そ、そうでしたか……」
『それと、これは私も含めた刑事たち全員の印象なんだけれど、スタッフは誰も彼も、冥道院さんとは仕事上の繋がりだけみたいな関係で、とても殺しの片棒を担いでくれる――さらに言えば、殺しの実行犯を引き受けてくれるくらいに深い仲の人はいないみたいね。スタッフの他に、共犯関係を構築できるほど冥道院さんと近しい関係の人物というのは、今のところ発見できていないわ』
「な、なにせ、殺人事件の共犯、まして、じ、実行犯のほうですからね……。そんなことを手伝ってくれる人間なんて、そうそういませんよね」
『まあ、あくまで現段階では、冥道院さんは最重要容疑者というだけなんだけれどね。……でも、他に被害者――蓼西さんを殺す動機のある人物は浮かんできていないしね』
「ですね……そ、その被害者が本当に恐喝なんてやっていたとしたなら、な、何か恐喝の材料や、恐喝相手のリストなんかが出てくる可能性も、あ、ありますけれど」
『そうね。そんなものが見つかったら、一気に容疑者が溢れ出てくるわけだけれど。……でも、智ちゃん、現場に冥道院さんの指紋が付いたキーホルダーが落ちていたんだし、それに何より……霊視と称して死体があることを言い当てた、あの書き込み』
「そ、そこですよね……その書き込みがある以上、な、何がどうあれ、冥道院さんが事前に死体のことを知っていたというのは、う、動かしようのない事実なわけですからね……」
『冥道院さんが、本当に“霊視”をしたのでもない限りね』
「み、水希さん……」
『冗談よ、もちろん。ところで、智ちゃんのほうこそ、そういうオカルティックな現象は信じていないの?』
「し、信じませんよ、そんなの……。と、特に、“霊視”だなんて、う、嘘くさすぎます……」
『……智ちゃん?』
智の声音に、突き放すようなものが混じったことを感じ取ったのか、水希が心配そうな声を出すと、
「い、いえ……ま、まあ、エンタテインメントの一種として見れば、お、面白いものがあるとは、お、思いますけれども……。と、ところで、捜査のほうは、ど、どうなっているんですか? 冥道院さんのアリバイトリックを、く、崩すにも、本人に話を訊いたりする必要が、あ、あるかと……」
『もちろん用意があるわよ。実は、今日の五時から、冥道院さんに二回目の聴取をする約束を取り付けてあるの。智ちゃんにも、その聴取に立ち会って――じゃなかった、例によって、リモートで参加してもらいたいと思っているんだけど。民間探偵が同席するかもしれないって、話は通してあるわ』
「わ、わかりました」
『場所は、冥道院さんの事務所よ……って、智ちゃんはリモート参加だから、場所は関係ないわね。それじゃあ、五時直前になったら、また智ちゃんに電話するわ』
「は、はい。お、お疲れさまです……」
水希との通話が切れると智は、ばたりとベッドに倒れ込み、大きく深呼吸をした。




