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06 実験

 生き残る術を探し始めてから早くも五分が経過し、俺は未だ生き残る術を見つけ出すことができないでいた。

 そもそも、俺が狙われる意味が分からない。

 なぜあの勇者は俺に攻撃を仕掛けてきたのだろうか。

 魔物のようなオーラを感じると言っていたが、ちゃんと手足に指が五本ずつ生えているし、それこそ魔物らしき外的特徴もない。

 だからこそ、勇者の言うことが一言たりとも理解できなかったのだ。

 それに彼が最後に放った言葉。


 --責任をもって殺さないといけないって一体どういう・・・

 

 その言葉を勇者が言い放つ時は、悪の存在に向けられる場合が多い。

 それを告げられたということは、俺が悪の存在に他ならない。

 全力で否定してやりたいところだったのだが、なぜか勇者の勘違いだと思えなかったのだ。

 俺の心の中に不快感がずっと残っており、俺の気持ちはあやふやなままだった。


 --俺って一体この世界ではどういう存在なんだろうか・・・


 いくら時間を割いても、存在意義を見つけ出すことはできないと思った俺は、これを最後に勇者の言葉の真意を読み解こうとすることをやめた。

 俺がどんな存在であろうと、生き残るためには全力で勇者から逃げないといけない事実は変わらない。

 深く考えるだけ時間の無駄なのだ。

 それを考えるくらいなら、他のことを考えているほうがよっぽど効率がいい。

 

 --まあそんなことより、まずは・・・


 俺の前方を歩いていたメイドさんが王室と思われる扉の前で立ち止まり、俺も彼女と同時に立ち止まる。

 兵士長の話から推測するに、『人神剣サタルダス』に選ばれたからこの場まで案内されたのだろうが、そもそも彼らが一体何のために『人神剣サタルダス』を求めているのか。

 まずはそれを聞き出すために、俺はメイドさんの手によって開かれる豪勢な扉の先の世界へと足を踏み入れる。

 扉の先の世界は予想を遥かに凌駕する光景で、薄っすらを光り輝くシャンデリアが均等感覚で天井に配置されており、全ての光力は最小限に抑えられているが、それが一つとなって眩いほどに輝いていた。

 そして壁には、歴代の国王と思われる肖像画が数にして十五ほど飾られており、この国がいかに長い歴史を持っているのかを物語っていた。

 豪華な部屋づくりに圧倒される俺に、前方で居座る一人の若い男が話しかけてくる。


 「君が『人神剣サタルダス』に選ばれた者かな?私が国王のゲランデ・マルクスだ。これからよろしく」

 

 この国の国王は、壁を一切作らないタイプのようだ。

 親しみやすく話しかけてくるゲランデは、金髪の髪をしており、首には金でできたドラゴンのネックレスをしている。

 誰がどう見ようと金持ちにしか見えなかった。

 そんな彼の挨拶に人見知りながらしっかりと応じた。


 「あ、こちらこそよろしくお願いします。ところで、なぜ俺はこの場に呼ばれたのでしょう?」

 「そうだね、ちょっとした実験を二つほどしたくてね」

 「実験・・・ですか?」

 「そんなに怯えなくても簡単な実験だよ?痛くも痒くもない実験さ」


 そういうと、ゲランデは俺の意思を尊重することなく、さっそく実験内容を提示した。


 「『人神剣サタルダス』を今この場で召喚させてくれないかな?」

 

 真実かどうかを確かめたいのだろうか?

 俺はユニークスキル『操作人(コントローラー)』を駆使して『十宝剣』である『人神剣サタルダス』を取り出した。

 今までと同じように、光の泉から剣が徐々に姿を現す。

 

 「ほほう、『人神剣サタルダス』で間違いないな。ありがとう、もう仕舞っていいぞ?」

 「あ、はい」


 指示通りに『人神剣サタルダス』を仕舞う俺に、すぐさま次の実験が実施された。

 ゲランデは横に控える兵士に視線を送ると、兵士は全てを理解したようにコクリと一回頷いた後、「入れ!」と一言大声で叫んだ。

 その叫び声と同時に、俺の後ろから一人の女性が、二人の兵士に挟まれながら入場してくる。

 

 --次の実験って・・・何すんだ?


 その異様な光景に戸惑う俺だったが、その戸惑いは、ゲランデの一言ですぐさま驚愕へと強制変換される。


 「選ばれし者よ、今からその女を殺してもらう」

 「・・・・・・はい?」

 

 突飛しすぎているゲランデの発言に、俺は耳を疑ってしまった。

 だが、俺は小さい頃からずっと耳がよかったので、聞き間違いではないはずだ。

 だとしたら、ゲランデはなぜそんな指示を俺に提示してきたのか。


 --いやいや、人殺しなんてできるわけがない。


 ゲームの中と言えど、人としての持つべき心は失われていなかった。

 すぐさま、実験の断りを入れようとしたところ、ゲランデは俺の出方を読んだように先に口を開いた。


 「実験の拒否は認められないな?できないというなら、そこの兵士たちが彼女を殺してしまうぞ?」

 「そ、それはいくら何でもやりすぎじゃないですか!彼女が一体何をしたっていうですか?何もわからないまま彼女を殺すなんて俺にはできません」

 「理由なんてないさ。君の行動を見るために彼女を選んだ、ただそれだけの話だよ」


 罪のない人間を殺そうとするのはあまりにも不条理すぎる。

 それに、なぜこのタイミングで勇者が召喚されないのかが不明だった。

 理不尽にも殺されようとしているのに、ここで勇者が出てこないとするならいつ出てくるというのか。

 俺は必死にゲランデに抗議を申し立てた。


 「どうして、理不尽に人を殺すのですか?彼女を殺して、何を得ようとしているのか全く理解できません!こんなのタダの人殺しじゃないですか!」

 

 俺は決して間違えたことを口にしていない。

 なのに、ゲランデはその生温い思考は不要だと言わんばかりに俺を責め立てる。


 「いいか?実験と執り行うにあたり、代償は必要不可欠なのだ。全てを思いのまま得ようとするのはあまりにも強欲ではないか?」

 「そうだとしても、罪のない人間を殺すのはどう考えてもおかしいでしょう?他にも証明する方法はいくらでもある・・・」

 「いや、この方法しかない」


 俺の話を遮るように、ゲランデが断言する。

 彼女を殺してまで得たいものは一体何なのか。

 どちらにせよ、この国王に激しい憤りを覚えていたことに間違いはなかった。

 俺はろくに扱うこともできない『人神剣サタルダス』を召喚しながら、ゲランデに敵意を向ける。


 「もし彼女を殺したら、俺はお前らを容赦なく殺す。この手を汚そうとも彼女の命を奪ったことを後悔させてやる!」


 俺はゲランデに向けて『人神剣サタルダス』を突き出した。

 国に盾突く人間は、速やかに殺さなければならない。

 それがよくあるストーリーの展開だといえるだろう。

 だが、この世界は明らかにおかしい。

 国家への謀反を起こそうとしているというのにも関わらず、腰に据える剣を引き抜く兵士が一人もいない。

 それどころか、兵士たちは微動だにしなかったのだ。

 気味悪い光景に警戒をしながら、彼女の安否を確認していると、突然ゲランデが口を大きく開いて笑い出したのだ。

 謀反を起こそうとしている愚か者を馬鹿にするのではなく、予想通りに動く俺の姿に笑いを隠しきれなくなったような、そんな感じの笑い方だった。

 そして、盾突こうとする俺にゲランデが笑いながら告げた。


 「君が予想通りの反応で助かったよ。これにて実験は終了だ、お疲れ様」


 そういうと、彼女と兵士二人は和やかな雰囲気でこの部屋から立ち去っていく。

 一体何が起こっているのか理解できていないのは、恐らく俺だけだった。

 動揺する俺に、ゲランデが実験の内容を事細かく話し始めた。


 「今回の実験の目的は大きく分けて二つ。一つ目は、『人神剣サタルダス』を所有しているという真実を確かめたかったこと。そして二つ目は、人間性を確かめたかったんだ」


 一つ目の実験は俺の予想通りだった。

 この世界の住人の反応を見る限り、『人神剣サタルダス』を知らない者は恐らくいない。

 それに、『十宝剣』とタイトルに埋め込まれているぐらいなのだから、強大な力を持っていることは間違いなかった。

 その名で悪用した者が過去にいたから、恐らく実験という名目で確認をしたかったのだろう。

 それに、二つ目の人間性を確かめたかったのは、俺の素性がわからなかったから。

 素性がわからない人間に恐怖を覚えるのは当然の成り行きであり、それを確認するには気合の入った芝居をする必要があった。 

 だから、ゲランデは一芝居打ったのだ。

 にしてもーーーー


 「いや、やりすぎですよ!本当に殺そうとしているのかと」

 「いやいや、殺すわけないだろう?彼女は私の妹なんだから」

 「それじゃあ、妹をもっと大切にしてください」


 俺とゲランデの間に嫌悪感は一切なくなっており、笑いの旋風が巻き起こっていた。

 そして俺は、この国の主であるゲランデに認められる存在になったのだった。 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

更新が遅れてしまい申し訳ございませんでした。

引き続き更新していきますので、これからもよろしくお願いします!


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