05 死の宣告
『人神剣サタルダス』を仕舞い込み、兵士長に連れられるがままに王城へと向かっていた。
過ぎ行く街並みを見つめながら、俺は頭の中で色々なことを思い浮かべていた。
この世界の事、どうしてこの世界に迷い込んでしまったのか、『十宝剣』とは一体何なのか、帰る手段はあるのか。
聞きたいことは山ほどある。
だが、俺が一番にして聞き出したいことを挙げるとするなら、やはり『金』だろう。
どの世界線でも、通貨という概念は深く浸透している。
だからこそ、今後の生活においても『金』は必要不可欠なのだ。
元の世界へ帰られるのなら、そんなことを考えるまでもないのだが、まあ恐らく無理だろう。
俺の口から溜息がこぼれると同時に、馬車らしきものを引く兵士長が、「着きましたよ」と一言告げる。
俺の視界は、過ぎ行く街並みから前方へと向けられる。
すると目の前には、国会議事堂の三倍くらいの建物が佇んでおり、それと裏腹に、俺の気は完全に委縮していた。
--でけえな・・・いや、でけえな!
それ以外の言葉が見つからなかった。
それほどまでの王城の圧巻な姿に目を奪われていたのだ。
門兵の通門許可が下りたところでさっそく王城の中へ。
すると初めに俺を出迎えたのは、綺麗な黒髪ロングがお似合いのメイドさんだった。
透き通る黒髪がとても魅力的で、俺はどのくらい見惚れていたのだろうか。
微動だにしない俺にメイドさんは首を傾げながら尋ねた。
「大丈夫ですか?気分でも悪くされましたか?」
「あ、ああ、大丈夫です。大丈夫ですよ」
俺は慌てて馬車から下馬し、メイドさんの元へと歩み寄る。
無事に俺を送り届けたことを確認した兵士長はメイドさんに、「まだ業務中ですので、これにて失礼!」とだけ言い残し、来た道を戻っていく。
その後ろ姿を二人で見送った後、メイドさんに案内されるがままに王城の中へと足を踏み入れたのだった。
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「これはまずい、非常にまずい」
王城の中は高価なものであふれていた。
それこそ、国会議事堂と比べ物にならないくらいの、大学生の感性をくすぐるものだかりだ。
だからこそ、盛大にやらかしてしまった。
高価なものを破損してしまったとのような死刑レベルではないが、これもこれでかなりやばい状況だと言える。
辺りを見渡しても、どこにもメイドさんの姿はなく、俺の周りは静寂に包まれていた。
どうやら、高価なものに目を奪われている間にメイドさんとはぐれてしまったらしい。
この無駄に広い王城の中で迷子になってしまったのだ。
「おいおい、迷子なんて小学生低学年以来だぞ・・・」
まあ小学生低学年と比べれば、俺は大学生であり、もっとも社会人に近い人間だ。
この程度で慌てるような年頃ではない。
俺はまず、この状況をどうするかを必死に頭を回転させる。
そして、俺の脳が指示したこの状況の最前案は、
「よし、動かずここにいよう」
迷子になった時にはむやみに動き回ってはいけない。
その行動こそ、遵守すべきルールと言っても過言ではないだろう。
俺がしばらく高価なものに目を奪われていると、遠くの方からゆっくり「コツコツ」と歩く音が聞こえた。
--メイドさん・・・じゃないよな。
この足音から推測するに、恐らく誰かの鎧から放たれた足音だ。
鎧を纏った時の足音が確かこんな感じのような音だった気がする。
長年のゲームの感が、そう俺に言い聞かせる。
だが、この状況を抜け出せる絶好の機会だということには間違いなかった。
--よかった、助かっ・・・
俺が安堵したその時だった。鋭い光の魔法が俺の方へと目掛けて飛んできたのだ。
急に狙われたわけで、大学生の俺が簡単に避けられるはずもなく、その光魔法の餌食となってしまう。
まあ、この魔法も無効化にしてしまうのだが。
--一体、何が起こって・・・!?
無傷だとしても、俺が狙われる理由が全く分からない。
そんな俺に、理不尽にも光の魔法はなお降り注ぐ。
今度は目視して確認できたおかげで、光魔法を回避することができた。
そんな俺に敬意を示すように、一人の男が俺に拍手を送りながら近寄り、その男の姿に俺はこの男が何者かをすぐに理解した。
プラチナメイルの装備に真っ赤に染まる赤いマント。そして、腰に据えられている金色の剣は、あらゆる理不尽すらも切り裂けそうだった。
酷く警戒する俺に向けて、男が口を開いた。
「いやはや、あなたが噂に聞いた大英雄様ですか?あまりにも人間離れした視力。まるで野に生きる『狼人族」のようですね。先ほどの閃光魔法は、人間の視力じゃ避けられないはずなんですが?」
そんなことを言われても、避けられたものは避けられたとしか言いようがない。
俺は狼でも何でもない、タダの人間だ。
だから、男の問いに対する答えは当然決まっている。
「そんなことを言われましても、避けられたことには変わりないじゃないですか。俺はタダの人間ですし、それに・・・」
「すみません、あまりに遠回しに言い過ぎました」
全てを告げる前に男が口を挟み、さらに言葉を綴った。
「単刀直入に伺います、あなた・・・人間ですか?私の目から見れば、化け物にしか映らないのです」
「・・・化け物?」
「そうです、私は今まで様々な魔物たちと戦ってきましたが、あなたからはそれに似たオーラを・・・いや、それ以上の邪悪なオーラを感じるのです」
そんなことを突然言われても、理解できるわけがない。
そもそも俺は人間で、魔物でも何でもない。
だから、俺は男に人間だということを証明しようと話しかけた、その時ーーーー
男はすぐさま剣を引き抜き、俺に向けて振りかざしてきた。
間一髪のところで交わした俺に対して、男は爽やかな表情で告げた。
「人々を騙し、一体何を考えているのでしょう?悪いけど、あなたの思惑通りにはさせませんよ!」
そういうと男は再び、俺をめがけて剣を振り下ろしてくる。
回避することに限界が近づいてきた俺は、男から一旦距離を置き、すぐさま『人神剣サタルダス』を召還した。
ユニークスキルのおかげで、より早く召還することに成功した俺だったが、当然剣なんて振るったこともないため、攻撃の手に移ることができない。
そんな俺を目にした男は、誰にも聞こえないように静かに笑った。
「それが噂に聞いた『人神剣サタルダス』ですか。まあ、どうせ偽物でしょうけど!」
一度は攻撃の手を止めた男はすかさず、次の攻撃の手に移った。
しかも、ギアチェンジしたかのように一段と素早さを増して。
--これ・・・死ぬ!
だんだんと、男の攻撃をとらえられなくなってきていた。
一方的に押される俺の剣を、男は勢いよく振り払い、心臓部にめがけて刃を貫こうとする。
だが、やはり俺の体には刃は通らなかった。
心臓に向けられた刃は、俺の皮膚の上で完全に静止していた。
ーーよかった・・・刃が通らなくて・・・
さすがの男も驚いているだろうと、顔色を伺うと、男は驚愕や恐怖に染まることなく、ただ俺の心臓部を見つめていた。
そして、そのわずか数秒の間に男は、俺から約三十メートルの地点まで後退した。
--一体どうしたんだ・・・?
確かに、俺の体に刃が通らなかったのは予想外の出来事だっただろうが、あまりにもリアクションが薄すぎるし、あっさりと離れていったことに少しばかり違和感を感じていた。
そして男は剣を仕舞った後、未だ剣を構える俺に向けて一方的な約束を交わしてきた。
「いつかあなたの体に刃を通せる日まで、修練に励むとしましょう。あなたの力はあまりにも危険。だから、勇者である私が責任を持ってあなたを殺さないといけません。では、その日が来るまで・・・」
俺からの意思を聞くことなく、男は一瞬にして姿を消した。
それはまるで、隠密偵察の忍者のように。
この場で戦闘が繰り広げられていたとは思えないほどの静寂さが、再び俺の体を飲み込んでいく。
そんな俺を探ししてくれてたであろう先ほどのメイドさんが、長スカートだということも関係なしに、全力疾走で俺の元へと駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?大英雄様!」
「あ、ああ。問題ないです」
「それは何よりです。さ、国王がお待ちになっております、急ぎましょう」
「あ、はい。わかりました」
勇者との戦闘を口にしなかったのは、俺自身の身が危険に晒されると思ったからだ。
勇者という存在が俺をこの世界の害虫とみなした。
殺そうとまでしたのだからその解釈で間違いないだろう。
だとすると、ずっとこの国に留まることは難しい。
勇者が力をつける前に消息を絶たなければなれなかった。
でないと、俺は殺されるわけで。
--生まれて初めて死の宣告をされたな・・・普通にこえぇな・・・
『人神剣サタルダス』を仕舞う俺は、メイドさんの後に続きながら必死に生きる術を考えた。
だが、世の中うまくいかないようにできていることを、この時の俺はすっかり忘れてしまっていたのだった。
本日も最後まで読んでいただきありがとうございます!
勇者と大英雄の違いに疑問を抱く方がいるかと思うので簡単に説明します。
勇者は現世に生きる英雄のことで、大英雄は過去に偉業を成し遂げた勇者ということになります!
力関係でいえば大英雄の方が強い設定になっていますが、剣二は使いこなせていないため、まだ実力を発揮していません!
今後ともよろしくお願いします!