03 チンピラの窮地打開劇
まずは、この二人の誤解を解くことが先決だ。
この二人は完全に俺の事をチンピラだと思ってる。
相手を刺激することなく、俺は穏便に済ませる方法に出た。
「あの、俺は別にチンピラじゃないんだが・・・」
俺は決して間違えたことを言っていない。
異世界に召喚された際に、この場所へと召喚されただけであって、日陰を好んでこの場所に迷い込んだわけじゃない。
かといって、何かを企んでいるわけでもない。
だが、俺の主張は呆気なく否定される。
「嘘だな、この場所は密輸やり取りで有名な路地裏だ。お前の密輸に関わる関係者だろう?」
「いや、密輸って何?俺そんな裏事情知らないんだけど」
「とぼけるな!証拠はすでに挙がっている!」
一歩踏み出している男の傍らで、女がここぞとばかりに証拠品を指さす。
その指さした先にいるのは、見間違えることがなく俺自身なわけで。
「は?証拠品って・・・俺?」
「そう!この場所にいるからあなたはチンピラなのさ!」
「いやいやいや、その理屈だとあなた達もチンピラなのでは?」
痛い所を付かれた女な胸を抑えながら、「ぐぅ・・・」と一言漏らした。
そんな女をすかさずフォローする形で男の方が剣を引き抜き、俺に向けて構えてくる。
--おいおい、マジかよ。
あいにく、俺は単に武器を使用するどころか、スキルすら使える状況だ。
こんな状態で戦闘になれば、誰もが見据える未来へと辿り着いてしまうだろう。
男の構える剣は何やらぼんやりと青く光っていた。
発光源は不明だが、相当な力を秘めている剣だということを、遠距離専門の俺でさえも容易に理解できた。
「待て待て、俺は本当にチンピラなんかじゃないんだ」
「それなら証拠を出せ。出せないのなら、君の証言を信じるわけにはいかないな?」
「そう!証拠を出しなさい!」
証拠を出せと言われても、異世界生活初日の今日。
証拠として提示する一品すら、あるはずがない。
この二人を説得させるには、それなりの証拠が必要なわけだが、いくら思考を膨らませても思いつかない。
スキルの使い方を教えてもらったところで、この状況を打破できるとは考えにくい。
--だとしたら、どうしろって言うんだよ。
行き詰まる俺の思考回廊とは裏腹に、物語はさらなる発展を見せる。
「どうやら、証拠不十分のようだな。君を密輸に関係するチンピラということで間違いなさそうだ」
「お、俺はチンピラなんかじゃない!俺は今日この世界に飛ばされて・・・そう、異世界人なんだ。だから手持ちも何もないんだ!だから・・・」
すると、男はやれやれと言いたげな様子で溜息を吐きながら首を横に振る。
俺を信用していないようだった。
「あのだなー、そんな見たことのない服装をしていて、さらにこの路地裏に滞在していたら、誰でもチンピラだと思うぞ?」
「そうだよ!チンピラ以外はそんな奇妙な格好をしないんだから!」
俺の服装は、彼らに言われるような奇妙な格好ではない。
普通のTシャツに、普通の短パン。
そして、髪色も純粋な黒だ。
確かに、この国と比べられたら奇妙な格好をしている俺だが、チンピラだと断言させられるのはあまりにも理不尽だ。
「俺の元居た世界では普通の格好なんだが?」
「君・・・、まだそんな戯言を口にするのか?聞いていてとても痛々しいぞ?異世界人など聞いたこともない」
「そんなことを言われてもだな・・・」
聞いたこともないと言われても、事実は事実だ。
彼らが俺のことを異世界人だと信じなくても、その真実だけは捻じ曲げることはできない。
向けられる剣先に警戒をしながら、俺は回避の体勢を取った。
まあ、ゲームでありがちの回避の仕方を実践しているだけなのだが。
「もう言い残すことはないかな?密輸の関係者は、万死に値する。心苦しいが、君を殺さないといけないんだ。いくら反省の弁を述べても、一度関わってしまったらおしまいなんだ。恨んでくれるなよ?」
「密輸に関わらなければよかったんだから、自業自得だよね!」
この二人は、世界平和のために悪を断ち切ろうとする正義の心が異常なまでに高い。
この世界線では当たり前のことなのかもしれないが、俺が生きた世界ではここまで異常な正義を振りかざす人間はいなかった。
警察でさえも、ここまでの正義の心を持って業務に当たっていない。
だが、その異常な正義感が正常な判断を全力で邪魔している。
恐らく、濡れ衣を着せられ、この二人のような正義の執行者に殺された人間は少なくないだろう。
俺自身も、理不尽な正義の鉄槌が下されようとしていた。
当然、理不尽に殺されてなるものかと、俺は全神経を集中させて相手の動きを窺う。
逃げる、という選択肢もあったのだが、敵対する相手に背中を見せるのはあまりにも危険だ。
だから俺は、彼らの攻撃を回避することに決めたのだった。
「君の目を見る限り、簡単には死んでくれなさそうだね?」
「当たり前だ、俺は何も悪いことをしていないんだからな」
「大人しく死んでくれれば、痛い思いしなくてよかったのに!あーあ、残念・・・」
無実の俺に対して、鎧を身に纏った二人は姿勢を低くし、完全な攻撃体勢へと入る。
--クソ、『操作人』はどうしたら使えるんだ!そしたら『十宝剣』も使えるというのに・・・
一つのスキルを自由自在に操ることのできるユニークスキルを発動させることができれば、剣で攻撃を受け止めることぐらいはできるだろう。
全く運動をしていない俺に、彼らの攻撃を回避し続けられるとは到底思えなかった。
やはり、この無意味な争いから生き残るためには、回避だけではなくスキルも活用することが必要条件とされる。
「--では、行くぞ!」
男の掛け声と共に、二人は一直線に俺の方へと襲い掛かってくる。
--スキル!スキル!スキル!
二人の攻撃を回避しながら、俺は必死にスキルという言葉だけを頭の中で唱えた。
だが、スキルは一向に発動する気配がなく、俺は一分も経たないうちに息が上がってしまった。
二人の剣先が、確実に俺の首と心臓を捉え、それを回避する気力すらもなくなっていた。
--これで終わりか・・・?
「死」を覚悟すると同時に、二人の剣先が俺を切り裂いた・・・・・・はずだったのに。
「は!?一体どういうことなんだ!?」
ここまで、冷静沈着のイメージを保っていた男が急に声を荒げた。
それだけではない、女の方もプルプルと肩を震わせていた。
まるで化け物を目の前にしているかのように。
まあ、男が驚愕し、女が恐怖するのも無理はない。
なぜなら、切り裂いたはずの俺の体に掠り傷すら残らなかったからだ。
そもそも、二人の剣は俺の皮膚寸前のところで、何かに阻害されているかのようにピタリと静止していた。
当然、俺にも何が起こっているのか分かっていないわけで、
--何々なに!?俺は一体どうしたの!?
不可解な状況を呑み込めていない中、俺はある方法を思いついたと同時にそれを実行に移した。
俺が取った行動はと言うとーーーー
「お、おい!逃げるな!お前、一体何を隠してやがる!おい!」
興奮気味に男が呼び止めるが、俺は足を止めることを止めなかった。
二人の攻撃が入らなかったとなれば、スキルを使えない俺が取るべき最前の行動は「逃走」で間違いないだろう。
「何を隠してやがる!」と言われても、俺自身も何が起こっているのか分かっていないため、彼らに言えることは何一つなかったのだ。
殺されるという恐怖を一度胸に刻まれたのにも関わらず、逃げ出さない人間などいるはずがない。
男の声を完全に無視した俺は、光り輝く人通りへと走り抜けた。
そして、鎧を纏った男を含めた二人は、それ以降ついてくることなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は大学生らしさを醸し出した回となりました!
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