02 逆強制イベント
気が付けば、俺は一通りの少ない路地裏らしき場所に仰向けになって寝転んでいた。
当然、なぜ俺がこんな場所に寝転んでいるかは不明であり、そもそもここがどこなのかも知りもしなかった。
時間軸の歪みに紛れ込んでしまったのかと思わせるほどの、雲一つない快晴の空。
本来なら、深夜の0時なので太陽が見えていることがまずおかしい。
俺はここで二つの仮説を立てた。
一つ目は、海外へと何らかの形で飛ばされてしまったのか。
日本が深夜0時だとしても、海外では正午だという国は少なからず存在する。
もしこの仮説が正しいとするなら、まずはここがどこの国なのかを調べる必要があった。
「いや、そもそも俺日本語以外喋れないんだよな・・・」
俺は外国語を苦手とする純性日本人だ。
ドイツ語やポルトガル語ならともかく、英語すらもまともに喋ることができない。
まあ、ジェスチャーでなんとかするしかないのだが。
行動を起そうと上体を起こした俺の視界、約数メートル先に何やら動物らしきものが走り抜けた。
一瞬の出来事だった故に、その動物を確認することができなかったのだ。
俺はその正体を確かめるために、大通りと思われる場所へとゆっくりと近づいた。
そして、ここからが二つ目の仮説。
俺の視界全体に、太陽光が満遍なく広がり、しばらくの間は景色を拝観することができなかった。
「クソ・・・!まぶしいな」
手を日傘代わりにして、ようやく景色がぼんやりと瞳に映し出される。
その光景に、俺は目を奪われてしまった。
地理や歴史のような社会学の授業では見たことのない街並みと荷台を運ぶ馬たち。
その馬たちでさえも、俺の知っている馬とはかけ離れた姿をしていた。
商売をしている人間の髪色は色とりどり。
その口からは日本語を話しているが、どう考えても日本人ではない。
「まさか・・・これって・・・」
そして、ようやく俺の中に立てられた二つ目の仮説が立証されたのだ。
「俺、ゲームの世界に紛れ込んだのかー!?」
俺の声は町全体に響き渡り、この世界の住人が俺を見つめる中、元の世界への帰還方法を探す旅が幕を開けたのだった。
~~~~~~~~~
「さて、これからどうしたものか・・・」
住人の視線に耐え切れなくなった俺は、再び路地裏へと身を潜めていた。
行く当てもなく、この世界の金を一銭たりとも持っていない。
正直、つんでいた。
ここがゲームと同じ世界線だとするなら、おそらくは魔物を倒してそれを金に換えたりとか、討伐報酬とかで稼ぐとかが定番なやり口だろうが、そもそも俺は武器を持っていなかった。
かといって、商売を展開させるだけの代物もない。
二度言おう、かなりつんでいる。
「どこかにバイト・・・ってゲームの世界にバイトなんかねーよなー」
深く考える前に、アルバイトという概念を否定する。
ゲームの世界にアルバイトなど、聞いたこともないのだから。
「さて、どうしたものか・・・」
大学の知恵では、あまりにもこの状況を打開するのは困難を極める。
無いもの尽くしの俺に一体何ができるというのだろうか。
絡み合った思考の中、俺はふとあることを思い出した。
それはゲームをこなす上で最も大切となる、成績表のようなものだった。
「ステータスは?ステータスはどこから開けるんだ?」
俺はステータスを必死に探した。
コントローラーがない以上、ボタンではなく何かしらのアクションをこちらから起こさなければならない。
自身の体を隈なく障る俺の視界の左端に、半透明の二重丸が存在していることに気が付いた。
半透明だったがゆえに、認知しづらかったのだ。
「これか・・・?」
俺は躊躇することなくその視界に映るボタンをタップすると、自身に備わっているスキルなどが一気に表示された。
無事に、ステータス画面を閲覧する方法を発見できたのだ。
ということは、つまりーーーー
「ログアウトボタンがあるんじゃね!?」
ステータス画面を探していた時のように、ログアウトボタンを隈なく探した。
だが、それらしきボタンはステータスの中には存在していなかった。
まあ、この程度でこの世界線から抜け出せるようなら、最初からここまで苦労をしていないのだが。
「まあ、とりあえずステータスを確認しなくてはな」
ログアウトという緊急脱出ボタンの捜索をやめて、俺はステータス画面に意識を集中させた。
どうやら、この世界には攻撃力や防御力などのパラメーター概念は存在していないらしい。
そこに表示されていたのは、所有するスキルのみだった。
「ユニークスキル『操作人』?って一体何なんだ?」
ユニークスキルのすぐ下に説明が施されており、そこにはこう書かれていた。
『スキル一つを自由自在に操ることができる』と。
このユニークスキルは、他のスキルを所有していない限りどうも使い物にならないらしい。
しかし、俺にはもう一つのスキルが存在していたのだ。そのスキルはというとーーーー
「エクストラスキル『十宝剣』って、十個の剣でも召喚するのか?」
どうやらこのエクストラスキルは、ユニークスキルを介して使用するものらしい。
十個の剣を思いのまま操ることができるのは、初期スキルなら上々なものといえるのだが、問題があるとするなら言うまでもなく俺のほうにある。
そもそも、俺は近距離攻撃を主体としない戦闘スタイルの人間だ。
どう考えても剣を振るって戦えるわけがない。
「このスキルたちは完全なお蔵入りスキルだな・・・ん?『十宝剣』?」
そのパワーワードが、やけに脳裏にこびりつく。
確かこのゲームのタイトルが「『十宝剣』に選ばれなかった異端者」というものだったはず。
そこで俺は、魂の叫びをこの路地裏に食らわせた。
「完全なパッケージ詐欺じゃねーか!」
選ばれなかった異端者だったはずが、まさかの選ばれた異端者だった。
ということは、異端者の部分にも何か隠蔽された意味合いがあるのではないか?
復讐本位で購入したゲームは、どうやら訳ありゲームということらしい。
完全なクソゲーと化したこの世界で、俺は無事に生き残れることができるのだろうか?
見たところ、HPバーの類なる物も存在していなさそうだ。
この世界で死ねば、向こうの世界でも死んだことになるのだろうか。
ゲームの世界だからそんなことはないと胸を張って言いたいところだが、そういうわけにもいかないようだ。
俺は試しに自分の右腕の皮膚を優しくつねってみた。
ゲームの世界なのだが、痛覚は存在している、普通に痛い。
あまりにも仮想感のないこの世界が、タダのゲームの世界だととても思えなかった。
「どうにかして生き残る手段を見つけねーと。でないと、元の世界に戻るなんて夢のまた夢だ」
俺は、とりあえず生き残る手段を探した。
考えて考え抜いて、また考え直して考えて。
思考を重ね、俺が辿り着いた解は、誰でも容易に発想できるあまりにも簡単な手段だった。
「ユニークスキルとエクストラスキルを使いこなすしかないのか・・・」
そうと決まれば、近距離攻撃を強いられることになり、剣を振るうだけの筋力が必要になるわけだ。
いや、本当にこの調子で生き残れるのか?
だが、弱音を吐いたところで現状は全く改善されない。
「というか、俺は何でこのユニークスキルとエクストラスキルを持ってるんだ?他のはなかったのか?」
この二つのスキルを一体どこで得たのか、心当たりがこれっぽっちもなかった。
このスキルたちを所有しているのは、それなりの理由があるはずなんだが、俺にはそれが分からなかった。
「まあ深く考えても仕方ないよな。まずはこのスキルたちをどう使うかなんだが・・・」
この世界でのスキルの使い方が分かるはずもない。
ゲーム感覚で言うなら、コマンド入力でスキルが使用できたのだが、この世界にそもそもコマンドはない。
ついでにコントローラーも。
「さて、コントローラーもないことだし、どうやって使うんだろうなー?」
ユニークスキルに『操作人』と記されてあるが、実体がないため、俺の知るコントローラーとは恐らく別物だ。
そんなスキルの使用方法に頭を抱え込む俺の元へ、二人の鎧を纏った人間がこちらへと向かってくる。
目視しうる限り、俺と同じくらいの大学生だろうか。
腰には立派な剣を備えてつけており、まるで俺に威嚇しているようだった。
その腰の剣は、チンピラなどのお祓い避けとしての効力を発揮しているのだろうが、チンピラでもないし、何もやらかしてない俺には全く害のない無効力の代物だった。
俺はゆっくりと腰を上げると同時に、二人に話しかけようとしたところ、二人の内の一人が俺よりも先に口を開いた。
まるで悪を見逃さないような眼光で。
「君は、チンピラか?ここはお前らの悪人がいていい場所じゃないんだ。僕たちに斬られたくないのならさっさとこの場から離れることを進めるよ」
「って、俺がチンピラ扱いかよ」
生涯一度もグレタことがないというのに、まさかの異世界ではチンピラ扱い。
どちらにせよ、めんどくさいことに巻き込まれたのには間違いなかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます!
剣二がなぜこのユニークスキルを持っているのかは分からない設定で書きました。
人はパニック状態に陥った時に、その時の状況を上手く把握していないと思ったので・・・
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