♰♰♰ 牢獄に入った後の囚人たちの末路 ♰♰♰
大勢の生徒が恐縮しながら学校名が書かれてある校門の下をくくり抜けていた。
この刑務所の門をくぐった多くの者は流されて門を入って
流されて門を出て行くなんの意思もない囚人のようなものだった。
そして流されて大学へ行き、
流されて就職して、
流されて結婚し、
流されて転職し、
流されて奴隷として働き、
流されて路頭をさまよう意思のない囚人としては優秀に出来上がり、
そして流され流れ着いたその先は墓場を立てた事だけが生きている間でした唯一の自分の偉大な事となっていく。
校門の真下に立っている原先生はまるで法隆寺の門の左右にいる金剛力士像のよう。3年生の岩塚由里は門の下をくぐろうとする男子生徒の集団にうまく紛れ込みながら原先生の目線をかわして門に入ろうとしたのだが、煩悩を見張る金剛力士像の目線からは逃れられずに原先生に首根っこをつかまれてしまった。
「なんか甘い臭いがするなぁ~岩塚ぁ~」
「信じてくださいよー先生。誓って私、チョコなんて持ってきておりません!」
岩塚由里が弁解するとこの世のあらゆる煩悩を察知する金剛力士の目が光った。原先生は岩塚由里のかばんを奪い、かばんをひっくり返すと中から弁当箱に化粧道具やコテなどなぜか学校に持っていくのに必要がないものばかりが地面に落ちてきた。
「あら、教科書がひとつも見当たらないわねぇ~あんた、学校に何しに来ているのよ。」
原先生の刺すような目線を避けようと岩塚由里は目を宙にそらした。原先生は目線を足元に戻すとかばんの中から落ちてきた物の中にお洒落なハートのデザインのロゴが描かれてあるビニール袋が見つかった。
「先生っ!これはけしてバレンタインデーのチョコじゃないですよぉ~最新式のチョコ鉛筆です!ほら~チョコの先で文字がかける~。」
岩塚由里はあわてて自身が持ってきたチョコを包装紙から取り出してチョコの先で包装紙にでたらめな数学を書いてみせると原先生が歯をくいしばりながら自身の顔の横にこぶしをあげるとこぶしを強く握り、手の平に爪が食い込んで血が流れ出た。原先生は岩塚由里の手に持っている包装紙を奪い取ると包装紙に自身の血で「次はお前だ。」と書き、血文字が書かれた包装紙を岩塚由里の顔の前に見せつけた。
「チョコで文字を書かなくても自分の血で文字を書けばいいでしょっ!自分の血でっー!チョコは没収!!」
「そんな~!!」
原先生にチョコを取り上げられた岩塚由里は肩をがっくしと下げて何もかもムダになってしまったと落胆した。するといきなり強い光が岩塚由里の目を遮った。岩塚由里は目を微かに開くとそこには原先生がハサミを顔の前に持ち出してハサミを開いて閉じたりしていた。
そのハサミの鋭い刃に前髪をぱっつんされた未来の自分の姿が見えた。
「やめてぇ~~~~~!!!!」
その時、岩塚由里の叫びに呼ばれたかのように原先生の背後で一足早い防音と風がふりかかった。原先生と向い合せに立っていた岩塚由里は一部始終を目撃していた。
原先生の背後でヘルメットにゴーグルをつけてスクーターを運転する男子生徒の背後に水色のマニュキュアを塗った手でしがみつく女子生徒が原先生の存在を無視するかのように後ろを通り過ぎていったのだ。どこからか学校に登校してきた男子生徒の声がした。
「うわっ、名城だ!」
名城は黒川亮と岩塚由里と同じ3年生だ。
監獄のような学校でも名城だけは鬼のような刑務官達の言うことを効かずに好き勝手にやってきた。名城からしたら岩塚由里の事を知らないだろうが、年齢が違う下級生や他校の生徒にもその存在は知られていた。
そして名城にしがみついている女子生徒は1年生の子だった。長いつけまつ毛が60年代のフレンチな映画女優のようにオシャレで妖精を思わせる。茶色に染めた長くてウェーブをかけた髪が風になびいてチラッと耳につけたピアスが見えた。上級生の男の先輩達と複数、関係を持っていて岩塚由里の同級生の友人達からは自分の彼氏を取られるのじゃないかと何かと目を付けられている有名な子だった。本人は先輩達から敵視されている目線を気にする事もなくむしろ自慢の種にしていた。到底自分より年下には思えない。
あの二人はもうすでにこの監獄から一足早く外に出て大人の門をくぐっている格別な雰囲気があった。スクーターが去った後は煙ったい臭いだけが残った。
「かっこいいなー」
自分達には出来無い事を平気で出来てしまう人達につい憧れを持ってしまう。その憧れが時には犯罪や暴力など間違った方向へ向かってしまうのが思春期の危うさだった。
「ちょっとぉ!かっこいいじゃないでしょ!」
原先生は岩塚由里の目を覚まさせようと岩塚由里の頭を軽く叩いた。
「こらっー!名城に港ぉー止まりなさーーーい!!!!!!!」
原先生の静止を呼びかける声に振り返る事なくスクーターはどんどん加速していき坂を降りて行った。原先生は諦めに近いため息を吐くと改めて岩塚由里の方へと向き直した。
「ったくどうしようもないわねーあら?岩塚がいない。岩塚から取り上げたチョコが入った袋もないっ!」
姿を消した張本人は原先生が名城達に目を奪われているその隙に原先生からチョコを奪い返し、一目散に校内へと走って逃げて行った。
「ああっ!待ちなさーいっ!もう!どいつもこいつもぉおお!」