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第62話 白の予選~勝利より価値があるもの




勇者武芸大会2日目。午前中に緑の予選は終わり、残すは午後からの白の予選のみとなった。


「よし。ウォーミングアップはこんなもんだね」


緑の予選終了後、リーマオの道場にてレヴィードとティップは軽く手合わせしていた。


「ホントにオラ、大丈夫かなぁ…」


「大丈夫。さっきくらいの速度に反応できるなら大抵は防げるよ。あとは乱戦だから周囲に気を付ければ何とでもなるさ」


ティップは大柄で鈍重な故、レヴィードは避ける技術よりも防ぐ技術を仕込んでいた。


「…」


それでもティップは不安そうな顔を隠しきれない。


「戦いに勝とうと思うな。負けないよう戦え」


「…?」


「昨日話した僕のじいちゃんの教え…みたいなものかな。勝とうとすれば心が焦って逆に負ける。負けないように耐えて相手が勝とうと焦った時こそ勝てる、という意味らしいよ」


そんなレヴィードの言葉を聴いてティップはただ感心して頷く。


「それに万が一負けたとしても、僕達がティップを罵倒したり見捨てるような薄情者に見える?」


「ううん。そんな事はねぇだよ」


「でしょ?だから勝ち負けを気にせず腕試ししてきてよ。死にそうになれば舞台から飛び降りれば良いし」


レヴィードの気楽な励ましにティップの顔色は晴れてきた。






時間は午後になり、白の予選の開始時刻が近づく。最後の予選とだけあって観客は今か今かとウズウズしている。


「ティップの奴、勝てるのか?」


「勝てば自信になるし負けても経験になる。どっちに転んでも大丈夫さ」


レヴィード達も観客席からティップの健闘を祈る。


「それでは皆さま!長らくお待たせしました!!これより白のカードの出場者の入場です!」


実況の叫びと共に跳ね橋が降りて出場者が舞台上へと渡っていく。


「よっ。お前らも来てたのか」


「お久しぶりです」


「元気してた?」


「あ、キースさん。それにカレンさんにメリーさんも」


後ろの座席からジェイクのメンバーが揃ってやって来た。


「キースさん達はジェイクさんの応援に?」


「当ったり前よ!アイツには勝って賞金取って貰わないとな」


「誰かさんは赤の予選で負けちゃったからね~」


「なんだと!」


「まぁまぁ…あ、ジェイクさん来ましたよ」


応援に意気込むキース、からかうカレン、宥めるメリーとコントみたいな掛け合いをしている内にジェイクが舞台上に出てきた。


「…レヴィード様、あれを」


「あ…」


ぺルルが指差す先にはセプトで戦った黒髪の女剣士がいた。どういう訳か狐のような獣の仮面を被って素顔を隠しているが、特徴的な黒髪と長い剣から正体は間違いなくあの女剣士だとレヴィード達にはすぐに分かった。


「さぁ、出場者が出揃いましたぁ!白の予選、果たして最後に本選トーナメントへの出場権を勝ち取るのは誰なのかぁぁ!?予選、開始ぃぃ!!」


実況と銅鑼の合図で白の予選が始まった。


「…あれ?」


「いま…せんね」


レヴィード達は一様に首を傾げた。いくら探しても舞台上にティップを確認出来ないのだ。ティップは獣人種(ビーストノイド)で縦も横も大きいので人混みに紛れてもすぐに見分けがつくハズだが全く見かけないのである。


「ソシアス、ティップいる?」


「報告。ティップの姿は確認できません」


ソシアスの視力を以てしてもティップの姿は見つけられない。


「臆病風に吹かれたか?」


「そうかな…?本人はやる気がありそうに見えたけど…。ちょっと探してくるよ」


ティップの気弱な性格を考えれば土壇場で逃げた可能性も零ではないが、レヴィードはどうしても腑に落ちず、観客席から離れてティップを探すことにした。






ではティップの身に何があったのか?時は白の予選開始の数十分前に遡る。

レヴィード達に励まされながらティップは一人で地下に行こうとした時だった。


「誰か捕まえて!泥棒~!」


遠くで女性の悲鳴がすると全速力で走る男がおり、その手には男が持つには不似合いな装飾のバッグを抱えていた。


(ひったくりかなぁ。よぉし…)「ふんりゃあ!」


「ぐあっ!」


ティップはその走っていた男にタックルした。重量級の体当たりである、男は数m吹っ飛ばされ、仰向けに倒れて昏倒した。


「ふぅ…」


気弱なティップはレヴィード達との冒険で少し変わった気がしていた。以前の自分であれば怖がって関わらないように逃げていただろう、少し勇気を出せば助かる人もいるんだ、そう実感するとティップは言い表しようのない満足感を抱いた。ティップは盗られた持ち主にバッグを届けてあげようと持った。


「そこのお前!」


走ってきながらティップに怒鳴ったのはこの会場の警備員である。


「お前がひったくり犯か!逮捕する!」


「へぇっ!?」


「あちらの方で女性がひったくりに遭って男に盗まれたと言っている!お前が犯人だな!!」


「ち、違うだよ!?」


「じゃあ手に持ったそのカバンはなんだ!?お前の物だと言うのか!?」


「これは、その…」


捲し立てるように詰め寄る警備員にティップはオドオドしてしまい、言いたい事が口ごもってしまう。


「おいおい違うぜ警備員さん。その熊の(あん)ちゃんがそこで伸びてるひったくり犯に体当たりしてバッグを取り返したんだぜ」


先程のティップの様子を見ていた野次馬の中からそんな証言が叫ばれた。それに続くように私も見てた、その人は違うぞとティップを擁護する声が大きくなっていく。しかし、警備員はそれを認めようとしない。


「うるさい!私の経験上、こういう犯罪をやらかすのは野蛮な獣人種(ビーストノイド)と相場が決まっている!こいつを庇うなら共犯としてお前らも逮捕するぞ!!」


種族差別も甚だしい言い掛かりを付けて警備員は野次馬を脅してティップを強制連行した。






ティップは乱暴な警備員に連れられて闘技場近くの詰所の一室で取り調べを受ける羽目になった。


「女性はお前に突き飛ばされて足を捻挫したんだ!強盗致傷で牢屋にぶちこんでやる!」


「だ、だからオラは…」


「黙らっしゃい!反省の態度もないのかお前は!」


警備員は机をバンバン叩きながらティップを脅していく。これでは治安を守る警備員というよりも意味不明な難癖をつけるチンピラである。


「失礼します。被害者の方を連れてきました」


「被害者も来た。もう言い逃れは出来んぞ!」


警備員のひとりがひったくりの被害者である女性を連れてきた。歳は30前後くらいの人間で、可愛いというよりも大人らしい綺麗な女性である。捻挫したという足はまだ痛むのか歩き方が少しぎこちない。


「奥さんコイツでしょ?」


「いえ全然違いますけど」


警備員の質問に女性が即答すると、警備員はそんな馬鹿なといった驚きの表情を浮かべた。

その後、あれほど厳しかった警備員は掌を返すようにニタニタと愛想笑いを浮かべながらすまなかったねとティップを釈放した。コロコロ態度を変えるのは腹立たしいが面倒な手続きを省いてくれたのはティップにとってせめてもの救いであった。


「バッグを取り戻して下さったのに…。私が言葉足らずなせいでとんだ迷惑を…」


詰所を出てから女性はティップに深々と頭を下げる。


「んやぁ。大切な物を取り返せてよかっただよ」


「あの…お詫びとお礼と言ってはなんですが…」


「あ、すんません。オラ、急いで会場に戻らねぇとなんねぇだ」


白の予選は受付に間に合わなければ問答無用で失格になるという規則なので、ティップは女性の言葉を最後まで聴かないままドスドスと走っていった。






闘技場に戻ってきた頃にはもう予選開始間近なせいか通路には人が(まば)らであった。息を切らしながらティップが地下に入ろうとした時だった。


「うっ…ひっく…」


猫耳が伏せられ尻尾もだらりと下がった獣人種(ビーストノイド)の小さい女の子が通路の端でしくしくと泣いて(うずくま)っていた。


(ん~。どうしよう…)


そんな女の子の姿を見たティップは悩む。きっと迷子か何かだろう。協力してあげたいけど、これ以上時間を取られてはほぼ間違いなく予選には遅れて失格になる。周りを見ても人はそんなにはおらず、いても獣人種(ビーストノイド)ということで敬遠して見て見ぬフリをしているようであった。


「…」


ティップは少し考えた後、地下への階段ではなくその女の子の方に足を向けた。


「どうしただ?」


しゃがんだティップに訊かれて女の子は顔を起こす。


「パパとママ…いないの…」


「大変だなぁ…。オラも一緒に探すだよ」


「ホント…?」


「んだ。そうだ。オラは大きいから肩車したら父ちゃんと母ちゃんを見つけやすいぞ」


「うん」


女の子の猫耳が嬉しそうにピンと立った。

その後、ティップは女の子の両親が早く見つかるのを祈りながら観客席に向かう。


「あっ!パパ、ママ!!」


しばらくして、女の子が指差す先には猫耳の獣人種(ビーストノイド)の若い男女がおり、彼らは心配した様子で辺りをキョロキョロしていた。


「パパ~!ママ~!!」


女の子の声が届いたのか、その男女がティップの方を見て女の子の姿を確認すると慌てて人混みを掻き分けてやって来た。


「もう~!どこ行ってたの?心配したんだから!」


「ママ~!」


ティップが女の子を降ろしてあげると、女の子は一目散に母親の元へ走っていき、ぎゅっと抱き締め合う。


「娘を…どうもありがとうございました」


父親はティップの手を包むように握り、感謝の言葉を口にしながら涙を流していた。


「いや、オラは急ぎの用事があるから…」


「さぁ、出場者が出揃いましたぁ!白の予選、果たして最後に本選トーナメントへの出場権を勝ち取るのは誰なのかぁぁ!?予選、開始ぃぃ!!」


「あ…」


ティップが早く行こうとした瞬間、無情にも実況と銅鑼の合図が鳴り響いて白の予選が始まってしまった。


「あの…何か?」


「いや。なんでもないですだよ…。それじゃあ…」


「くまのおにいちゃんバイバイ!」


「んだ…」


女の子は嬉しそうにブンブン手を振るのとは対照的にティップはヒラヒラと小さく手を振り返しながらトボトボ歩いていった。


「ふぅ…」


ティップは溜め息をつきながら通路のベンチにズシンと腰掛けた。


(…あそこで女の子を無視しても、それが気になって試合に集中できなかったかも…。オラが勝ち残れるか分っかんねぇし…。きっとこれで良いだよぉ…。あ、でも最後まで稽古つけてくれたレヴィードくんには悪いだなぁ…)


ティップは予選に出られなかった理由を正当化しようとして気持ちの持ち直しを図るが、レヴィードの親切を無下にしてしまったなと罪悪感を抱いて余計に落ち込んでしまった。


「ティップ。ここにいたんだ」


名前を呼ばれてティップが顔を上げるとレヴィードが立っていた。


「レヴィードくん…その…」


「その顔を見れば分かるよ。別に怖がって出場を諦めたワケじゃないんでしょ?」


「んだ…」


ティップはこれまでの経緯をレヴィードに語った。


「ふーん。そんな事が…」


「予選…ほっぽりだしてごめんだよ…」


「どうしてティップが謝るんだい?試合に勝つことよりも二人も人を助けたことの方が善いに決まってるじゃないか。しかも自分の大事な用を捨ててまでやるなんて誰にでも出来ることじゃない。ティップは恥じたり後悔したりせず堂々としてれば良いよ」


「そう…だかなぁ…」


「そうだよ。まぁ、とりあいずここにいるのもなんだし、一緒にみんなの所に帰ろ」


レヴィードの言葉で少し立ち直ったティップはベンチから立ってレヴィードと一緒に歩きだした。






観客席に戻ってからティップはレヴィードに補足されながら仲間全員に事情を話したところ、ティップらしいということで笑って済ませてくれ、安堵した。


「予選決着ぅぅ!!」


白の予選は決着を迎え、次々と勝ち残った者の名が挙げられていく。


「そして最後に、仮面を被った謎の女剣士、イリスティーア・ティーニー!!」


(ふーん。イリスティーア…っていうんだ)


レヴィード達が注目していた黒髪の女剣士は案の定勝ち残っていた。


「それでは1時間後に本選トーナメントの組み合わせ及び当日の諸注意を説明しますので、御足労ですが冒険者ギルドまでお越し下さい。これにて勇者武芸大会2日目を終了致します」


そのアナウンスを以て大会2日目は終わった。






レヴィードとぺルルはアナウンス終了後に他の仲間と別れ、まっすぐに冒険者ギルドに向かった。


「あの勇者武芸大会で…」


「はい、赤の予選のレヴィード様と青の予選のぺルル様ですね。2階会議室の方で本選トーナメントのお話があるのでお待ち下さい」


ギルドの職員はレヴィードとぺルルの顔を確認するなりすぐに分かったのか、ささっと案内してくれた。

レヴィードとぺルルは職員の指示通り2階に行き、会議室と書かれたドアを開いた。


「レヴィード殿、ぺルル殿。来られたか」


「来たか!」


部屋には何人かが既に来ており、その中にはリーマオとパエニアもいた。レヴィードとぺルルは自然とその二人の近くに座った。


「もしいきなりぶつかっても決勝のように全力で行くからな!」


「はい。僕も望むところです」


「レヴィード殿もぺルル殿も一筋縄ではいかぬ相手…。武人の血が今から騒ぐのが分かる」


レヴィード達が座談している間にも続々と本選トーナメントの出場者が部屋に入ってきた。


「…」


「…」


ぺルルは入ってきたギンガと目が合ったが何も言わず遠く離れた席に座った。

まだ説明開始予定時刻の20分前だが既に16人の出場者が集まっており、職員が早足で部屋に入ってきた。


「えー、予定よりも早いですが全員集まりましたので説明の方を始めさせていただきます」


眼鏡をかけた男性職員が掲示板の前に立ち、資料を貼り付けていく。


「それではまずは本選トーナメントの試合ルールについて説明致します。試合は予選と同じく闘技場の舞台上で行います。本選トーナメントでは制限時間が設けられ一試合30分で行い、時間内に相手を戦闘不能にするか舞台上から落とす、または相手が降参すれば勝利となります」


「おいおい!30分で決着つかねぇならどうすんだよ?」


煽るように職員に質問したのはレヴィードと同じ赤の予選を勝ち抜いた虎耳の女傑トリミア・ティグースであった。


「それにつきましては試合を観覧して下さる勇者パーティー御一行様に判断を仰ぎ、その判定によって勝敗を決めさせていただきます」


(要はリューゼ王子の匙加減か…)


レヴィードはそう冷めた思いを抱きながらその日の詳しい集合時間などの説明を聞いた。


「…以上で予定についての説明は終了します。続きまして、本選トーナメントの組み合わせを抽選で行います」


そう言うと別の職員が、穴から紐が飛び出した木箱を持って来た。


「これから順番に廻りますので1本紐を引き抜き、紐の先に付いた札の番号を申告して下さい。何か質問はありますか?」


ただの運で決まるため、誰も特に異議を唱えることはなく、トーナメントの抽選が始まった。


「9番…か」


「16番…最後だな」


「ラッキー7か。幸先良いぞ」


「おぉでぇはぁ、1ばぁん!」


「13番…辛いなぁ」


出場者達は次々と番号を引いていき、レヴィードの番となった。


(さて、残った枠は2、3、5、8、11、14…確率的には前半の出場になりそうだね。ぺルルとリーマオさんとイリスティーアさんは決勝戦にならなきゃ当たらない。たぶん決勝で会うことになるのはこの3人の内の誰かかな…)「えっと…2番」


レヴィードは引いた番号を見てぎょっとした。一番最初(トップバッター)ということもあるが、その対戦相手が大問題だった。


「こぉんんなぁチィビィ、いぃちぃげぇきぃだぁ!」


この勇者武芸大会の中で最大の体格を誇る鬼人種(オーガノイド)、レヴィードと同じ赤の予選を勝ち残った鉄鬼のドンボーゼであった。






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