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第3話 ロマニエを目指して

復活を果たしたレヴィード・ルートシア。しかし、屋敷に籠る生活は性に合わないようで?

「坊っちゃま。あの日から変わったわよね」


「水の魔法でビシャビシャにしたり、雷の魔法でバチってさせたりイタズラが酷かったのにパッタリ」


「甦っただけでも奇跡なのに、専属医に診せたら持病もすっかり治ったらしいわ」


「魔法の家庭教師の言いつけを守って真面目に勉強してるし」


「お料理の好き嫌いも無くなって嬉しいですな」


「まるで別人みたいね」


ルートシア家の屋敷の使用人の話題はレヴィードの更正の件で持ちきりだった。その当の本人はと言うと、朝から部屋で魔法習得に没頭していた。


「…よし」


レヴィードは魔晶石板(マジックプレート)術式魔法言語(マジスペルワード)を刻み終えて念を込める。


魔法承認(スペルチェック)起動(スタート)


レヴィードが魔晶石板に手をかざしながらそう唱えると、刻んだ文字をなぞるように青い光が浮かび上がっていく。


「よしよし…」


レヴィードが見守っていると刻まれた文字が全て青く染まり、その瞬間、魔晶石板が淡い青の光となってレヴィードの掌に吸い込まれた。


「よーし、習得完了。これで6つ目…だったかな」


レヴィードは椅子の背もたれに寄り掛かる。


「ふー。魔晶石板に刻むのって魔力を込めながらしないといけないから疲れるし、術式魔法言語を一文字でも間違えたり完成した文に矛盾が生じたりして失敗したら砕けて無駄になるし…思った以上に大変だね…」


レヴィードがこの魔法習得技術の仕組みを理解するのにさほど時間は掛からなかったが言うは易し、するに難し。子どもの為か1日5枚くらい刻んだだけで疲労困憊、無駄にした魔晶石板も十数枚、現時点での成功率は4割少しといったところだ。


「フィーナもエレアさんもこんなことしてたから魔法を使えるんだよな…凄いよ…」


コンコン


「はーい。どうぞ」


レヴィードがぼやいているとノック音がした。


「…失礼します」


「ぺルル。おはよう」


レヴィードを起こしに来たのはぺルル・スターレットというメイドである。元Cランク冒険者の武闘家という経歴の持ち主で雑事や世話以外にも警備や護衛も務めている、少し目元がキツいメイドだ。


「…もう起きていらしたのですね」


「まぁね。思いついた魔法があったからやってみたくてね」


「…そうですか。…朝食の用意は出来ております」


「うん行くよ。一緒に行こうか」


「…はい」


レヴィードは席を立つとぺルルと共に食堂へと向かった。


食堂に着くと既にバルデントは席に座っていた。


「おはようレヴィード」


「おはようございます父上」


レヴィードは礼儀正しく挨拶し、執事やメイド達が両サイドに控える長いテーブルを挟んで席に座る。礼儀作法は魔王討伐の旅立ち前の出立式の折、フィーナと一緒にラティスから教わっていたのでそれを思い出しながら何とかやっていた。


「…レヴィード。あの日から随分と変わったな。まるで別人のようだ」


「はい。僕も生死の境をさ迷って目覚め、すっかり別人に生まれ変わった気分です(まぁ文字通りに生まれ変わったのだけれどね)。父上は今の僕がお嫌いですか?」


「そんなことはない…」


バルデントは穏やかな、だけれど何処か別な事を気に病んでるような表情でやんわり否定する。


「…父上、朝から何かありましたか?」


「ふむ…。実はな。新聞をレヴィードに」


「ただいま。…坊っちゃま、どうぞ」


執事の1人が新聞を持ってレヴィードに渡す。


「拝見しま…!」


レヴィードは新聞を受け取ったが、その衝撃的な記事は捲るまでもない一面を飾っていた。


『勇者パーティー 剣士トロワ・ゲイリー。魔族への寝返り、断腸の粛清』


レヴィードはその記事の文面に目を走らせる。記事によると、

勇者パーティーがヒュドラン討伐後の疲弊したタイミングでトロワがモンスターに変化、魔族への寝返りを宣言して勇者パーティーを強襲。かつての仲間と躊躇いながらも泣く泣く斬り捨てた。

というものだ。


(…思いっきり嘘だね。泣くどころか楽しそうだったよ)


「…レヴィード、その者を知っているか?」


「えっ、えーっと。何か聞いたことがあったような…」


レヴィードはまさか自分だと名乗る訳にはいかず、適当に濁すしかなかった。


「そうか。…彼は素晴らしい人間だった」


(えっ、バルデント卿が僕の事を知ってたのか?)


「彼はスーライの村の自警団に所属していたが、庶民ながらかなりの使い手だった。それに明るい人格、我がルートシア家の警護に欲しかった逸材だった」


(ここまで褒められると照れるなー)「父上がそこまで仰るなら、立派な方なんでしょうね」


レヴィードはニヤけそうなのを我慢しながら、他にも新聞に変な事は書いてないか探してみた。


(んっ!?)


「レヴィード。新聞をそんなに見てどうした?」


「い、いえ。…ありがとう、もういいよ」


レヴィードは新聞を執事に返した。


(フィーナ達に…会えるかもしれない)


レヴィードが返す直前に見つけた記述。それは勇者パーティー帰還の知らせだった。記事によるとトロワの死亡によって出た欠員を埋める新メンバーを探すために、早馬の迎えを寄越してそれでロマニエに帰還し、2週間ほど人材発掘のために逗留するというのだ。

この屋敷からロマニエまで徒歩で片道10日前後の道のり。勇者達の移動日数と逗留期間ならばレヴィードが今から出れば会える可能性はある。


(バルデント卿は…たぶん止めるだろうね。甦ったばかりの子どもを旅なんか行かせたくないよな…。となるとこっそり抜け出すか…。そろそろ屋敷に籠るのも飽きたしね)






その日の昼。座学の家庭教師の勉強の終わりからおやつの時間までの1時間に隙があることを利用し、レヴィードは計画を実行する。貴族の服装から平素な服に着替え、バルコニーに出る。レヴィードが今いる部屋は2階であり、以前ならまだしも子どもの体では怪我をする可能性もある。


「さて、上手くいくかな。…震えろ、柔水壁(ゼリーウォール)


周囲を確認してからレヴィードが真下の地面に指差すと無から水が溢れそれが固まって1枚のマットレスのような直方体になる。


「とう!」


レヴィードはその水のマットレスに飛び降りた。


「おぉ!」グニー,ポヨン


水のマットレスは文字通りゼリーのような柔らかい弾力があり、レヴィードの落下の衝撃を吸収し、軽くポヨンと跳ねさせた。


「よし。これが僕の初めての実践の魔法か。…余韻に浸るのはあとにしよう」


レヴィードは水のマットレスを消して壁伝いに歩き、こっそり裏門へ向かう。


「ここまで来れば」


「…坊っちゃま。どちらに?」


レヴィードが裏門の前に立った時、後ろからぺルルに呼び止められた。


「ちょっと外に…」


「…なりません」


「どうしても?」


「…申し訳ありません」


「…ふぅ。仕方ないか」


まさかぺルルを押し退けてまで行くわけにはいかず、レヴィードはおとなしく連行されるしかなかった。






レヴィードはバルデントの元に連れてこられた。


「レヴィード。なんでも屋敷を抜け出そうとしたそうだな」


「…はい」


「何故だ?そんなお忍び用の服まで着て」。


「…ロマニエに行って勇者一行と会い、父上が評したトロワ・ゲイリーの最期を訊くためでございます」


レヴィードは考えた。ロマニエに行きたいことを隠して再チャレンジに賭けようとしても見張りが多くなって難しいだろう。ならば適当に誤魔化すよりも正直(若干の嘘も混じってるが)に話した方が良いだろうと判断したのだ。


「何?そんな状態でロマニエまで行こうとしたのか」


「はい。今まで病弱の身だった故、旅というものに憧れていましたので。そういうこともあって早まってしまいました」


「…そうか。お前の気持ち、理解はできるが無断でしようとしたのは良くない。今日は自室に籠って反省しなさい」


「…はい。申し訳ありませんでした」(半日だけの謹慎か…。思ったよりも軽いね)


レヴィードは一礼して部屋を出た。






翌日の昼時。レヴィードはぺルルとターシャを連れて屋敷の外の野原を歩いていた。


「まさか父上からピクニックの許可が出るとは思わなかったなー」


レヴィードはロマニエ行きはとりあいず一旦置いておき別のチャンスを窺うとして、外に出られない退屈さを紛らわせるためにバルデントに外出の許可をダメ元で求めた。すると護衛として元冒険者のぺルルとターシャを同行させること、日中であること、3時間以内に戻ることの3つの約束を守るならば良い、ということでこのピクニックが実現したのだ。


「ごめんね。僕のワガママに付き合わせて」


「…いいえ。坊っちゃまが楽しいのであれば私共も嬉しい限りです」


「そう言ってくれると助かるよ」


ぺルルは凛とした見た目通り、生真面目な返事をした。


「それにしてもターシャも元冒険者とは意外だったなー」


「えへへ、よく言われます。でもぺルルさんと比べたらFだから大したことないですよ?」


「それでも冒険者として色んな所を廻って来たんじゃないかい?食事をしながら二人の冒険譚を聴きたいな」


「はい。わたし達ので良ければ」


一方のターシャはまるではしゃぐ姉のような、鼻歌混じりに歩くのだった。






40分ほど歩いて、レヴィード達は森を背にした小高い丘にやって来た。


「ここは見晴らしが良いね。ここでお昼にしようか」


「はい」


ぺルルは抱えているシートを広げ、みんなそこに座る。


「坊っちゃま。とりあいずはお茶をどうぞ」


「ああ。ありがとう」


ターシャからお茶を1杯貰い、レヴィードは喉を潤す。


「にしても今日はいつもより日差しが弱めで良いピクニック日和だね」


「そうですね。お弁当の他にもデザートでフルーツを持ってきましたから後で剥きますね」


そんな和気藹々としたランチタイムが始まる瞬間だった。風のせいか森の木々がざわめく。


「へっへっへっ…」


「…ん?誰だ!」


「あれは…」


森から1人。何者かがレヴィード達の方に歩いてくる。それに続くように1人また1人と森から出てくる。


「貴様ら、盗賊か!」


いつも冷静なぺルルを珍しく激昂させたのは何処かからか流れてきた盗賊団だった。


「こんなところでピクニックとは平和な奴だな」


「おい、あのガキ。身なりからして貴族のガキじゃないか?拐えば身代金ガッポリ搾れるぜ」


「メイドちゃん達もなかなか上玉…こりゃあ今夜はお楽しみだぜぇ」


集まった盗賊はざっと見て20人前後、それぞれが欲に満ちた穢れた俗言を吐く。


「下衆め…。ターシャ!お前は坊っちゃまを連れて逃げろ!ここは私が食い止める!」


「でも!」


「言うな!急げ!」


必死のやり取りをするぺルルとターシャに対して、レヴィードはむしろ冷静だった。


(ぺルルは元Dランクって聞いたから強いだろうけど、素手で20人近くの相手は厳しいだろうね…)


「…分かりました。坊っちゃま。わたしと一緒に」


「いや、逃げないよ」


レヴィードはターシャの手を払い除けて前に出る。


「坊っちゃま!いけません!早くお逃げ下さい!」


「自分自身の命を軽んじる人に命を守られたくはないのでね」


レヴィードは爛々と眼を輝かせて盗賊団と対峙するのであった。




以前の指摘として魔法習得の過程などを別書きではなくストーリーに盛り込んでみました。一生懸命やってるリアル感があってなかなか良かったです。アドバイスしてくださったタクアンさん、ありがとうございました。

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