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第46話 実力差




エメルード。ラフィーノの南に位置し、主にエルフが暮らしており、白い外壁の街並みと緑の木々の調和が美しい町である。


「急に無理を言ってすまなかったな」


「いえ。レヴィード殿のお仲間ですもの。大歓迎ですわ」


ラティス・ぺルル・アインスはスピカの案内で街中にある闘技場にやって来た。普段はエルフ達の訓練所として機能しており、武芸や魔法の腕前を磨くエルフ達が今日も励んでいた。


「あ!こんにちは!!」


ラティス・ぺルル・アインスの突然の来訪にも、エルフ達は手を止めて一礼して挨拶してくる。


「レヴィード殿のお考えから(おおやけ)にはしていませんが、この場にいるのはあの戦いに参加した者達ですの。中にはあなた方に憧れている者もいるんですのよ」


レヴィードの提案でレヴィード達の活躍は有耶無耶になっているものの、共に戦ったエルフ達の心には尊敬と感謝の念が深く刻まれているのだ。


「…それにしても私達が使っても問題ないのか?エルフ専用と聞いているが」


「確かに長年この町の者…エルフしか使っておらず慣習的には専用になっていますわね。ですが、セプトが真の意味で多種族の庭を名乗るにはそんな種族独占の考えは捨てるべきですわ」


「それがお前の一存で決まるのか?」


「伯父様がこの町の長を務めておりますから、通す自信はありますわ」


ぺルルやアインスの質問にスピカは決意を以て堂々と答えた。しかし、エルフの意識はまだ統一はしきれていないようである。


「ん?スピカさん。何故神聖な闘技場に人間がいるんでしょうか?」


金髪碧眼の男のエルフを先頭に、剣や槍で武装した10人程のエルフの団体が闘技場にやって来た。


「ディケルドか…」


「誰なんだ?」


「ディケルド・ブロドゥール…この町の財政管理をしている役員の息子ですわ」


ヒソヒソ声でスピカはラティスに答えた。


「低俗な人間がいるだけで闘技場が穢れる。早々に立ち去りたまえ」


「お待ちになって。彼女達は私が招待しましたの」


「スピカ殿が?」


「ピッカータ解放戦において御世話になりましたので、お礼にと訓練所を提供しただけですわ」


「ふん。人間が貢献?邪魔しないように隅っこにいてくれましたか?」


「あら。臆病風で体が冷えて体調を崩したらしい貴方よりかは戦っていましたわ」


「ほほう…。不本意にも出陣出来なかった僕をそう侮辱しますか」


「いいえ。貴方が出陣しなかった事実を述べただけですわ」


スピカとディケルドの間に火花がバチバチと散るような口論が繰り広げられる。


「いいでしょう。ならその人間達がどれくらい強いか。ボク達でテストしてあげましょう」


ディケルドは取り巻きを連れて闘技場中央に広がる石造りの壇上に上がる。


「…仲が悪いのですね」


「お見苦しいところを見せて申し訳ありませんわ。彼は腕はそこそこなのですが金と親の権力に物を言わせる傲慢な性格でして…」


「いや。富める者が傲る、珍しくない光景だな」


「悔しいが同感だ。…ところでアレでも身分が高いだろうけど大丈夫なのか?」


「大怪我をしても私達が責任を持って治療に当たりますから、殺さない程度であれば遠慮なくやって構いませんわ」


人間が低俗と言われた先程のやり取りからラティス達のディケルドへの評価は最底辺である。そんな怒りの(かんじょう)を隠してラティス達も壇上に上った。






闘技場の中央にてラティス達とディケルド達が向かい合う。3対12、数だけ見ればラティス達の方が分が悪い。


「ふん。1人あたり4人といったところか」


「そうだな」


「勝つ気でいるのかい?人間は馬鹿だな、数の多い少ないも分からないなんて」


「…ふっ」


「何がおかしい?」


「…エルフは賢いというがお前はそうではないようだ。小魚が10匹程度集まって鮫に勝てると思うのか?」


「なっ…!」


余裕な素振りを見せるアインスとラティス、ダメ押しにぺルルの挑発でディケルドの苛つきは頂点に達した。


「行けお前達!エルフの力を見せてやれ!」


ディケルドの命令で取り巻き達が一斉に駆け出す。


「ふん。突地槍(ランドスピア)


「ぐあっ!」


「痛い!!」


アインスが石造りの闘技場に手を着けて魔法陣が展開されると、突撃してくるエルフ達の足元から石の槍が竹の子のようにニョキっと生えてエルフ達の脚を貫く。


「人間の女の武芸など…!」


その石の槍を飛んでかわしたエルフの一部がラティスとぺルルに迫る。


「でやっ!」


「奴と比べれば、見切るのは容易い!」


「…話にならんな」


「がはっ!」


しかしラティスとぺルルの相手には全くならず、簡単にいなされ手痛い反撃を受けて倒れてしまった。


「人間風情がぁ!」


取り巻きの無様さを見かねてか、ディケルドが手近にいたぺルルに突進してくる。ディケルドの武器(えもの)は穂先が二又に分かれた槍、ぺルルの旋棍(トンファー)と比べれば射程(リーチ)は圧倒的であり、それを活かした突きの連打でぺルルを圧倒しようする。


ガッ、ガ、ガッ


しかしその突きは一度もぺルルの体に届く事はなく、旋棍(トンファー)に弾かれる虚しい金属音だけが響く。


「なんで人間なんかに!」


ディケルドが横薙ぎを放った時だった。ぺルルは一歩下がってディケルドの横薙ぎを避け、槍が振り切った瞬間に素早く踏み込み、強烈な右ストレートをぶちかました。


「ボグゲェっ!!」


ディケルドは腹部に右ストレートを捩じ込まれ、後ろへ吹き飛んだ。


「…この程度でいいか」


ぺルルは少々殴り足りない気がしたが、ムカつくとはいえど一応エルフと同胞であるディケルドをボコボコにするのも如何なものかと思って追撃はしないことにした。


「ぐっ、殴ったな…父上にも殴られたことがないのに…!」


「…戦う以上、傷つくのは当然であろう」


「くっ!覚えてろ、人間…」


ディケルドは殴られた腹を抑えながら立ち上がり、取り巻きに連れられて闘技場を去って行った。

ディケルドを追い払ってからラティスとぺルルはスピカ達と模擬試合をすることとなり、ラティスとスピカが剣を交える。


「はっ!」


「なんの!」


スピカの踏み込んだ面の連打をラティスは剣で防ぎ、ガギっと鍔迫り合いとなる。


「やりますわね」


「なに、レヴィード程ではないさ」


ラティスとスピカが激闘を繰り広げる一方、アインスはエルフ達の話を聴きながら魔晶石板(マジックプレート)に新たな魔法を刻んでいく。


「ふむ。これがエルフ固有の術式魔法言語(マジスペルワード)か」


「ええ。人間が使っているものよりも出力が大きくなる代わりに、人間には扱いにくいものになってしまいますがね」


エルフは魔法に優れている所以を目の当たりにしたのはアインスにとって良い刺激となったようである。

こうして充実した研鑽をしたラティス達は明日もやろうとエメルードに泊まる事とした。






翌日。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ …!


「…!」


突然の揺れにラティスとぺルルがガバリと飛び起きた。宿屋の部屋に備え付けられたテーブルや棚がガコガコ震えるが、それはすぐ収まった。


「…地震か?」


「結構揺れたようだが…」


震度にして3~4くらいだったが、ラティス達は一過性のことだと思い、大して気に留めなかった。

ラティス達は朝食を済ませて宿を出て闘技場に向かう途中であった。


「あ、おはよう」


レヴィードが現れた。


「…レヴィード様。お越しになられたのですか」


「うん。僕も体を動かしたくなってね」


「…ターシャ達はどこに?」


「今日はピッカータで買い物したいって言ってたから予定を潰すのも悪いし僕だけ朝早くにこっそり来たんだ。手紙も置いてきたから向こうは向こうで楽しむだろうさ」


「…左様ですか。ターシャめ、明日にはピッカータに戻って喝を入れねば」


レヴィードの話を聴いたぺルルは少しムッとした顔をする。


「まぁ昨日は大変だったし、遊ぶのは大目に見てあげてよ」


「何かあったのか?」


「うん。それが…」


レヴィードは昨日起きた歴史と空人の一件をラティス達に話した。


「ソシアスがいた時代の歴史か」


「歴史書にも記されていない2000年近く前の歴史、興味ないかい?」


そんな話で盛り上がりながら街中を歩くと再びスピカと出くわした。


「皆さん。今日もお手合わせ頼みますわ。あら、レヴィード殿もいらしたのですね」


「うん。体が鈍らないようにね。お手柔らかに頼むよ」


レヴィードが楽しげに笑うと向こうの通りからエルフの一団がザッザッと歩いてきた。


「いたぞ!昨日の人間め!」


その一団は昨日ぺルルに殴られたディケルドであった。


「警備隊!あの人間がボクに暴力を振るった狼藉者だ!捕らえろ!」


ディケルドはぺルル達を指差して叫ぶと、武装したエルフがにじり寄ってくる。


「お待ちを!」


すかさずスピカが立ちはだかり弁明する。


「ディケルド殿。あれは暴力ではなく手合わせの結果ですわ。自分が負けたからと、こんなでっち上げは見苦しいですわよ」


「何を言う!?そんなことは嘘っぱちだ!さっさと捕らえよ!」


警備隊からすればディケルドとスピカの意見は全く異なり、どちらの言うことを信用すれば良いのかオドオドしているようであった。


「…ふーん。なるほど」


昨日の闘技場での出来事を聞いていないレヴィードであったが、一連の会話でだいたいの事を察したレヴィードは前に出た。


「ん、なんだその子どもは?」


「レヴィード殿…」


「まぁここは任せて。…さて、ディケルドさんですよね。僕はこの子達のパーティーの代表です」


「君みたいな子どもがパーティーのリーダー?冗談はよして」


「この度はうちのメンバーが弱いものいじめをして申し訳ありません」


レヴィードは頭を下げるが、その声色に反省の色は全く込められていない。


「なん…だと…」


「察するに、僕のパーティーが弱いあなた方をボコボコにしてしまったんでしょう。堂々とした手合わせとはいえ、それでは弱いものいじめも同然。大変申し訳ありませんでした」


「貴様、子どもだといってボクを侮辱してタダで済むと思っているのかい…?」


「だって負けたんでしょう?一方的な暴力と感じるくらい無様にみっともなく」


「もう、許さないぞ…人間の子ども風情が!」


レヴィードの煽りと取れる謝罪にディケルドの顔に青筋が立ちまくり、ディケルドは槍を構えてレヴィードに襲いかかった。


ガギンっ!


ディケルドは怒りの突きを放つが、レヴィードは二又の穂先の間に納刀状態のアカネゾラを挟んでがっちり受け止めた。


「なっ!」


「確かにそんな腕じゃ、こっちが弱いものいじめになっちゃう…ね!」


バキッ!


レヴィードは船の舵を切るようにアカネゾラをグリッと回すと穂先の二又の刃がへし折れた。それにディケルドが動揺している隙にレヴィードは一気に踏み込んで距離を詰め、突きをディケルドの鳩尾(みぞおち)に入れた。鞘とは言えども堅い木で造られており、その威力は激痛を伴うには充分であった。


「ぐぅおあおぉぉ…ぼえりょろろぉ…」


ディケルドはその場に崩れるように膝を着いて倒れ、吐瀉物を盛大にぶちまけてしまう。


「…弱っ」


この騒動を見ていた野次馬の誰かが呟いた。それを皮切りにざわつきが大きくなっていく。


「あんな人間の子どもに負けるなんて…」


「ダッサ…」


「負けた逆恨みだったんじゃないか…」


倒れたディケルドに対して誰も気遣ったり心配する気配もなく、蔑む視線と言葉がディケルドに突き刺さっていく。


「…あの」


警備隊のエルフの1人がレヴィードに近づいてくる。


「何でしょうか?」


「あまり大声では言えませんが…ありがとうございます」


「ん?やっておいてなんですが、同族を殴った奴を無罪で良いんですか?」


「正直、ディケルド殿は親の名を傘に無銭飲食や暴力行為など好き放題してたものでして…。町民全員恐らくスカッとしていると思います」


「そうですか…」


「今回はディケルド殿から襲った訳ですし、正当防衛ということで処理しておきます」


「はい。ありがとうございます」


レヴィードが礼を述べると警備隊は満足げにお辞儀をした後に、野次馬を散らすなどの事後処理を粛々と行った。そんな光景を見た後にスピカはレヴィードに話し掛けた。


「確か…武器が壊れていませんでしたか?」


「うん。でも鞘だけでも充分、魔法もあるしね」


「はぁ…」(レヴィード殿…。こんな幼い子がこれからどれだけ強くなっていくのか…)


「あ、それより闘技場に行こうか」


「そう…ですわね。私達の仲間も会いたがっていましたし、喜ぶと思いますわ」


スピカを先頭にレヴィード達は悠々と闘技場に向かって歩きだした。

通りに残されたのは、痛い痛いと呻きながら横たわるディケルドだけであった。





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