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第40話 ローザリア家の秘密



掘削場を奪還したレヴィード達はバルシー家の指示でその場での待機及び防衛を命じられた。

レヴィード達とエルフ・獣人種(ビーストノイド)の混合チームからは重傷者が出なかったが故か、はたまた亜人種(アナザーノイド)への冷遇なのか、祝勝会も上げられない場所で静かな夜を過ごすことになった。

周囲の警戒はオーレンスとスピカの部下に任せて、レヴィードはラティスと話すために小屋に入った。小屋の中にはフィーナとラティス以外誰もいない。


「久しぶりだね。ラティスさん」


「…」


ラティスは一応捕虜という扱いだが枷も牢もなく普通に佇んでいた。


「レヴィードさん、大丈夫でしょうかね?」


「平気平気。オーレンスさんは外で待っててくれるかな」


「へい」


案内したオーレンスはそそくさと小屋を去った。


「…フィーナ。こいつは誰なんだ。私の知り合いにこんな奴いないぞ」


「…レヴィード本人から言った方が良いよね?」


「そうだね」


レヴィードはラティスの正面に腰をおろす。


「僕はレヴィード・ルートシア」


「ルートシア…。父上の親友でシュードゥルの統治貴族の子か?」


「まぁ社会的にはそうだね」


「社会的?」


「本当はトロワ・ゲイリーだよ」


「…え?」


ラティスはその名を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。


「う、嘘だ…」


ラティスは武門の生まれのためか、フィーナのように混乱して取り乱すことはなかったがそれでも動揺は隠せないでいた。


「ラティスさん…私もビックリしたけど本当なんです」


「フィーナまで…。その冗談だけはやめろ!トロワはあの時…!!」


ラティスの頭の中は、突きつけられた事実と戦場で剣を交えた時の既視感(デジャヴ)が重なってレヴィードがトロワかも知れないと思い始めた自分とそれを否定したい自分とがせめぎ合っていた。


「じゃあラティスさん。アレ言っちゃいますよ?」


レヴィードの言うアレに全く心当たりがないラティスは疑念を深めるばかりである。


「…アレとはなんだ?」


「言ったら信用してくれますか?」


「…?」


「…森で一緒に薬草の採取をしていた時、手に芋虫が這っているのに気付いたラティスさんはワンワン泣きじゃくって、しばらく腰を抜かして動けませんでしたよね?」


「なっ!?」


ラティスの顔は恥ずかしさで真っ赤に染まる。ラティスは虫、特に芋虫や毛虫のようにモゾモゾ動くタイプが嫌いであり、その時みっともないくらい泣き喚いたラティスはトロワに必死に口止めしていたのだ。

当然、こんな赤っ恥を知っているのはラティス本人と口止めしたトロワだけである。


「な、何でその秘密を!?」


「僕がトロワだからですよ。あともう1つ恥ずかしい秘密があるんですが披露しても…」


「わ、解った、それ以上は言うな!」


「フフフ…」


慌てふためくラティスを見てフィーナは思わず吹き出す。元は同じ勇者パーティーで、本当の意味で気が合う仲間同士だったこともあり明るく賑わったが、ラティスがレヴィードをトロワと認識した時点でラティスの顔色は影を落とす。


「…それでお前はどうしてそんな姿になってまで私の前に現れたんだ…?」


「それは僕自身がどうしてあんな目に遭わなければいけなかったのかを確かめる為ですよ。もし、僕に怨みがあってあんな事をしたなら謝らないといけないと思いますし…」


「いや、そんな事はない!私こそすまなかった!!」


ラティスはその場でレヴィードに向かって土下座した。


「ラ、ラティスさん…?」


「お前が謝る事なんか何もない!全部、私の身勝手で…」


「あの…とりあいず落ち着きましょうよ」


レヴィードは土下座するラティスを起こして宥める。


「はぁ、はぁ…。すまない。だが、こんな身勝手な理由を言ってお前が納得する訳が…」


「あの、ラティスさん…」


フィーナがラティスの手を握って励ますように語る。


「私もトロワに裏切った理由を話すのはすごく恐かったんです。私はリューゼ王子に家族のことで脅されていたんですが、トロワにそれを話しても、怒りもせずに許してくれたんです。だから…」


「…」


ラティスはフィーナの説得を受けても言うか言うまいか迷っている様子だが一呼吸整えて口を開いた。


「…そうだな。私はお前を手に掛けたことに加担したんだ。話す義務がある。ただ…また身勝手ですまないが、この事は絶対に口外しないで欲しい」


「分かりました。氷雪牢(コールドーム)


レヴィードの魔法によって、レヴィードとラティスとフィーナが氷のドームの中に納まる。


「これなら外に声が漏れる事はありませんよ」


「何から何まですまない。…では話そう」


「お願いします」


「…私もリューゼ王子に脅されていてな。もしトロワの殺害に協力しなければ大陸中にローザリア家の秘密を広めると言われて…」


「秘密…ですか…」


「父上の出生についての秘密を握られているのだ」


「ダンテシス卿の秘密?」


レヴィードは想像してみても、あの豪傑のダンテシスの弱味など全く見当がつかなかった。


「実は父上は…正式な血統の生まれではなく、娼婦の子なんだ…」


「…なるほど」


レヴィードは意を決したラティスのその暴露に全てを察した。

貴族には、貴族は清く正しい血の元に生まれた子が継ぐべきという絶対的な風習がある。平たく言えば、妻以外の庶民の浮気相手との間に生まれた子は貴族の血筋とは認めないという事である。


「父上の話では、御祖父様(おじいさま)には気に入った娼婦がいて、その人との子どもがデキたが、娼婦は卑しい者とされて結婚できず、御祖父様は泣く泣く商会の令嬢と結婚したそうだ。けどその令嬢とはいつまでも子宝に恵まれず、苦肉の策としてその娼婦が産んだ子を令嬢が産んだ子として引き取ったそうなのだ…」


「その引き取られた子がダンテシス卿って事だね」


「ああ…」


確かにそれは誰にも明かせない秘密(スキャンダル)である。

ダンテシスの出生が(おおやけ)に晒された場合、ローザリア家は正しい血を継いだ貴族ではないとして今の立場を失うであろう。しかもローザリア家は軍部を司る中央貴族。そこが没落となればスタビュロ大陸中の治安維持や防衛に支障をきたし、情勢不安からの暴動や国への批判活動が横行して荒んだ暗黒時代を迎えてしまうかもしれないのだ。


「それをどうしてリューゼ王子が…」


「分からない…。この秘密を知っているのは私と父上を除いては王族内のごく一部の人間だけの筈なんだが…」


ラティスは悔しさを滲ませて床を殴る。


「…これが、お前の殺害に加担した理由だ…。いくら謝っても足りないのは分かっている。…だから、どんな痛みでも恥辱でもいい。お前が望む罰を全部受けさせてくれ…」


「…じゃあ浴槽に入って芋虫1万匹くらい流し込んで芋虫風呂入浴で」


芋虫という単語でラティスの体に悪寒がゾゾッと走り抜けた。


「冗談だよ」


「じょ、冗談を言うな!私は真剣に…!」


「僕にとっては冗談に出来ちゃう程、もうどうでも良いことなんですよ」


「え…」


「ラティスさんだって自分の家族を守るためにやった事でしょ?僕の事を怨んでやった訳じゃないならそれで良いですよ」


レヴィードの朗らかな笑顔にラティスの頬に涙が伝う。


「だが…何の罰も受けずにのうのうと過ごすなんて…」


(ラティスさんはその辺が真面目だからね)「じゃあ…こういう償い方はどうですか?」


レヴィードはとある提案をラティスに持ち掛けた。






「はい。という訳で新しく仲間になったラティス・ローザリアさんです」


「私と同じ勇者パーティーにいた人で、とっても優しい人です」


レヴィードとフィーナは仲間が待機する別の小屋に移ってラティスを全員に紹介した。レヴィードの言った提案は蓋を開けてみれば単純に仲間になって欲しいというものだったのだ。


「…よろしく頼む」


「よろしくお願いします」


「よろしくだなぁ」


「よろしく」


「ラティス・ローザリア。新たに登録します」


レヴィードの仲間も快く歓迎する。


「ローザリア…。ダンテシス卿の娘さんね」


「ええ。そちらは?」


「私はギルド本部の副代表、アイネ・コビッチスキーよ」


「ワシは代表のヴェルティウス・ヴァムヴァージじゃよ」


同室にはアイネとヴェルティウスもいる。そんな中でレヴィードは勇者パーティーについてとドゴール家側に雇われたからこそ分かるであろう事情について訊くことにした。


「ラティスさん。色々訊かせて欲しいんだけど良いかい?」


「ああ。私に答えられるならなんでも答えよう」


「訊きたい事は今はとりあいず2つ。1つはこの戦争に勇者パーティーも参加してるの?」


「…いや。私は文字通り切り捨てられたからな」


「切り捨てられた?」


「10日くらい前だな」


10日前─


リューゼ率いる勇者パーティーは雪が残り凍えるガンディーア山脈を登っていた。神殿への参道があるとはいえ切り立った崖が多く、油断すれば足を滑らせて転落死も不思議ではない危険な場所である。


〈ラティス〉


〈リューゼ王子、どうなs〉


ザシュッ


〈ぐっ…!!〉


〈邪魔者は消えろ!〉


ドンっ!


〈あぁぁっぁあああっ!!〉


──


「私は不意に肩を刺され、崖下に落ちてしまった」


「よく生きてたね」


「肩の傷は浅くて足を折る重傷は負ったが奇跡的に命は留めてな。這って山を下ったら偶然通りかかった精霊に助けられたんだ」


「精霊に?」


「ああ。彼女達の住む森に連れられてそこで治療してもらったんだ。しばらく療養している内に今回の戦争の話が舞い込んで私も恩義として参加することにしたんだ」


「なるほど…。2つ目に精霊の話を訊こうと思ったんだけど、精霊がどうして参戦したか分かる?中立の彼女達がこんな戦争に参加するなんて腑に落ちないんだ」


「さぁ…。よく知らないが、少なくとも嬉々として参加した雰囲気では無さそうだったな」


「そう…」


レヴィードとしては魔法で対処するしかない精霊族を戦線から退けるヒントになればと思い、訊いてみたが暗礁に乗り上げてしまった。


「なら、直接訊いちゃおうかね。暗黒幽閉(ダーククローズ)解除」


そう言ってヴェルティウスが指をパチンと鳴らすと濃紫の輪が浮かび、そこからあの時吸い込まれたであろう精霊達が5人現れた。


「ここはどこ?」


解放された精霊達はキョロキョロ周囲を見渡す。


「うほほ。精霊族はベッピンじゃのう」


「離れなさい変態」


手をワキワキとするヴェルティウスをアイネが引っ張って止める。


「あ、らてぃす!」


面識があるため精霊達はラティスに向かってふわふわ飛んできた。


「らてぃす。ここはどこでしょう?」


「にんげんや びーすとのいども いるわね」


「この だーくえるふのこは へんかも」


口々に騒ぐ精霊は淑女らしい見た目に反して子どもっぽい印象を受ける。


「なぁ。聞きそびれたが、お前達はどうして戦うんだ?」


「…」


一応は心を通わせたラティスにも理由は話せないようで、精霊達は黙ってしまった。


「あのさ」


「あなたはだれなの?」


「にんげんのこども?」


「僕はレヴィードって言うんだ。君達精霊は今回の戦争への参加は快く思ってはいないってラティスに聴いたんだけど、何か困ってる事があるなら話して?力になるよ」


「…すこし まってもらえますか?」


精霊達は束になってヒソヒソと相談し始める。レヴィード達がその様子をしばらく見守っていると結論が出たのか1人の精霊がレヴィードに近寄った。


「じつは…おさのいもうとが どごーるにつかまったのです」


「精霊の長の妹?」


「はい。いもうとさまは たしゅぞくに きょうみがあり、もりをぬけてでかけたさきで つかまったようでして…。したがわねば いもうとさまをころすと おどされて おさはやむをえずさんせんを けついしました」


「なるほど。ドゴール家に人質を取られて仕方なくか…。何処にいるか分かる?」


レヴィードに捕まった精霊の長の妹の居所を訊かれて精霊はポカンとする。


「た、たすけてくれるのですか?」


「事情を話せば助けてくれると思ったから話したんじゃないかい?」


「でも、わたしたちせいれいは ひどいことをしたのに…」


「こっちも君達を閉じ込めたからお互い様だよ。それに妹さんを助ければ精霊族は戦わなくて済む。そうでしょ?」


「…はい!」


「それで居所は?」


「それが…どごーるのやしきにいたのですが、どこかにうつされたようで…」


「何処かに…」


力を貸すとは言っても何処にいるかが分からなければ助けようがない。さてどうしたらものかと全員で悩んでいると小屋の扉がバンっと開かれた。


「レヴィード殿!!」


息を切らせてやって来たのはスピカである。


「スピカさん、どうしたの?」


「それが傷だらけの人間の女性がレヴィード殿は何処だとやって来まして」


「え、僕を探して?分かった、案内して」


「はい!」


レヴィードは飛び出すように小屋を出た。






スピカに案内されてやって来た小屋にはエルフと獣人種(ビーストノイド)が集まって、その怪我した人間の女性を心配そうに見つめながら介抱していた。


「アミーさん…」


レヴィードがその女性の顔を確認すると、ラプティーナ家の屋敷でセレナの傍らにいたアミーである。


「とりあいず怪我は回復魔法で塞ぎましたが、出血量が多いようで衰弱していますわ」


「ありがとう」


レヴィードはアミーの側に座って声を掛けた。


「アミーさん」


「…レヴィード、様…」


アミーはうっすらと目を開けてレヴィードの顔を見ると安堵して一息吐いた。


「無理に喋らない方が。言いたいことは少し休んでからでも」


「いえ…いち早く伝え、なければ…」


アミーは絞り出すようなか細い声で懸命に何かを伝えようとする。


「ピッカータが…ドゴール家に、占拠…されま、した…」


「なんですって!」


「…セレナ、さまは…この事をあなたにつ、ったえよ、と、わた…しをにが、して…」


「分かりました!もう喋らなくて良いので休んで下さい!」


「…あと、たの…」


アミーは何かを言い切らないまま精根尽き果て、目を閉じて意識を失ってしまった。





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