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第1話 凄絶な裏切り

初投稿なので拙い点等もありますが、ひとまずご一読して下さると幸いです。


大地を歩きながら



モンスターを狩りながら



人を助けながら



仲間と語らいながら。



そんな調子で魔王討伐を目指す勇者一行の旅は2ヶ月半くらい経とうとしていた。これは大きな転機となる、ある日の事。



「グオオォォン!!」


夕暮れの山中、一匹のドラゴン、毒竜ヒュドランが咆哮を挙げ、飛翔する。その眼光は勇者一行5人を捉えていた。


「でっかい毒トカゲ風情が生意気なのよ!吹き墜ちなさい!嵐瀑球(ストームプレッシャー)!!」


魔導師の少女が杖を振りかざすと風の玉がヒュドランの頭上まで急上昇し、破裂して暴風の滝となってヒュドランを切り立った岩壁の間へと押し込む。


「あそこまで落ちれば充分」


黒髪を短めのポニーテールに纏めた青年が剣を構えながら岩壁から飛び降り、ドラゴンの片方の翼を切り落として着地する。


「ギャァァス!」


ヒュドランは激痛の叫びを響かせながら地表に落下する。


「よし、私も続くぞ!」


落ちたヒュドランめがけて女騎士が突進する。


「ブオッ…」


「っ!」


「シャアアアアッ!!」


ヒュドランはそれを見計らったのか、毒々しい紫のブレスを吐きつける。


「くっ…毒か」


女騎士は横に転がって直撃は回避できたものの、少しだけ毒のブレスを吸ったらしく、息苦しさで顔を歪める。


「大丈夫ですか!?今、解毒光(ポイズンヒール)を!」


白いローブの少女が女騎士に解毒魔法を施すために駆け寄るが、その瞬間をヒュドランは見逃さずに再びブレスの発射体勢に入る。


「させないよ」


黒髪の青年が背後からヒュドランへ肉薄するが、ヒュドランもそれに気付いて長大な尻尾を鞭のように振るい、左右を薙ぐ。


「はっ、よっと」


しかし黒髪の青年はそれをひょいひょいと避けてヒュドランの背中に着地すると、剣をヒュドランの体に突き立てながら駆け、切り裂いていく。


「グギャオオオゥ!!」


背中から大量の血液が流れ出るヒュドランは痛みに耐えかねて完全に地に伏せてしまう。


「俺様がトドメを刺す!」


金髪の青年騎士が飛び上がり、壮麗な剣をヒュドランの脳天に突き刺す。


「… …」


そうしてヒュドランは絶命し、断末魔を挙げることなく沈黙した。











一行がヒュドランを倒した証、それと素材として牙と爪と皮と肝を採れるだけ採り尽くした頃には既に日は沈んでいたため、近くで夜営をすることとした。焚き火を囲い、語らっているのは今3人いる。


「ラティスさん大丈夫ですか?気分は悪くありませんか?」


「ああ。フィーナの治癒魔法はよく効くからな」


白いローブの少女フィーナ・カテスは心配そうな顔で伺うが女騎士ラティス・ローザリアは軽そうに答える。


「それにしてもトロワは相変わらず見事だな。何のために父上の剣を学んでいたのか、ローザリア家の娘としての自信を無くしそうだ」


「なーに。僕は盗賊や猛獣退治で戦い慣れてるだけだよ」


ラティスの賛辞を黒髪の青年剣士トロワ・ゲイリーは呑気な口調で返答する。


「全く。ヒュドランを斬り落とした勇猛な人間と同一人物とは思えんな」


「トロワって昔っからそうなんですよ。のほほんとしてると思ったらとんでもないことをしてくるんです。何年か前ですけど、ちょっと田んぼ見てくるって行って帰ってきたらこーんな大きいビッグポッグを狩ってきたんですよ」


「ちょうど鉢合わせになってね。その後捌いて近所のみんなで食べた鍋は美味しかったなー」


「相変わらず凄いな、シュードゥル地方…」


「田舎ならではだろうね」


トロワとフィーナはスタビュロ大陸南方のシュードゥル地方にあるスーライの村出身の幼馴染みで、ラティスは時々こういった自然溢れるシュードゥル地方ならではのワイルドな武勇伝を聴いては驚かされていた。


「そういえばリューゼ王子とエレアさん遅いね。普段は周辺の警戒と捜索はめんどくさいと言うのに、今日はやけに張り切ってたけど」


「…そう、…だね」


フィーナがトロワにそう相槌を打つとひんやりとした風が焚き火を揺らす。


「…なぁトロワ」


「なんだい?」


「お前は今の立場に不満じゃないのか?」


「…まぁ僕は自分に出来ることを無理のない範囲でやってるからね。それでどう評価するのかは人それぞれだよ」


「確かにそうだが、お前の知識や戦闘技術に助けられたのは1度や2度ではない。それなのにリューゼ王子ときたら…!」


「まぁまぁ。リューゼ王子は勇者であると同時に大聖都ロマニエの第二王子だからね。フィーナはまだしも望まず加わった田舎者は気に入らないだろうさ。でも魔王討伐の旅はいつ終わるか分からないし、そう遠くない内に認めてくれる日が来ると信じてるよ」


トロワは最初から歓迎されて勇者パーティーに加わった訳ではない。当初リューゼは回復魔法を扱える上に容姿も好みであったフィーナを直々に勧誘したのだが、フィーナがトロワのパーティー加入を条件に提示したため、苦虫を噛み潰すような思いで引き入れた、という具合だ。リューゼにとってトロワは余計なオマケだったのである。


「ごめんなさい…。あの時は不安だったから、つい口走って…」


「気にすることはないよ。そのおかげで世界を廻ってみたいっていう昔からの夢もあっさり叶ったしね」


トロワは笑って言うがフィーナとラティスの顔は晴れないのを見て少し考える。


(さっきから二人ともどうしたんだろう。話題も後ろ向きだし、こういう雰囲気は苦手なんだよなぁ…。少し恥ずかしいけど今渡すか…)


「おい!」


トロワの思考を遮り暗い空気を裂く呼び声。その声の主は金髪の勇者リューゼであり、その隣には魔導師エレアもいる。


「リューゼ王子、エレアさん、お疲れ様です。夜風も冷え込んできましたし今温かいお茶でも」


「その必要はねぇ。すぐに来てもらいたい場所があるんだ。全員来い」


リューゼは野草茶を勧めるトロワの言葉に耳を貸さずに、急かすように焚き火を囲っていた全員を連れ出した。











リューゼの案内でやって来たのは特に何の変哲もない開けた山肌で、強いて言うならばそこから眼下の森とスタビュロ大陸中央に広がるスタビュロ湖の一端の風景を眺めるくらいしか取り柄がないような場所である。


「おいトロワ。あそこに生えてる花を調べろ」


「は、はぁ…」



リューゼが指差したのは崖っぷちに咲いた4、5輪が纏まって生えている花である。ただ雲が出ているせいで月明かりが薄れて暗くなっており、近くで見なければ花と葉の細かい色や形などは分かりそうにない。


(そんな大層な花とは思えないけどなぁ)


トロワはそう思いながらも何か口答えすればリューゼが機嫌を損ねるのを知っているため黙って調べることにした。

トロワが一歩、また一歩と近付き、花を摘み取れるくらいの距離に足を踏み込んだ時だった。


ピカー


トロワの足元に茶褐色の魔法陣が浮かび上がる。


「っ!」


トロワは咄嗟に避けようとするが振り返った時点で足が動かなくなる。トロワの足に土がどんどん纏わり付いて岩のように硬質化していたのだ。


岩石拘束(ロック・ロック)。魔法でも珍しいトラップタイプよ」


エレアが自画自賛と嘲笑が混じる笑みで嬉々と語る。トロワは脱出しようと腰の剣を抜いて足に付いた岩を突くも表面が少し削れるくらいで状況は変わらない。


「覚悟しろ!田舎剣士が!!」


そうこうしているとリューゼが斬りかかって来る。


「くっ!」


リューゼの上段の打ち込みをトロワは横薙ぎで受ける。はっきり言ってトロワとリューゼの技量には差があり、真っ向勝負であればトロワが負ける可能性は低い。しかし、突然こんな事態になった心理的な動揺と足を動かせない現状では苦戦を免れないでいた。


「おいラティス、手を貸せ!」


「…!」


「逆らったらどうなるか分かるよな?」


「…」


一瞬ラティスは躊躇う素振りを見せたがリューゼの脅し文句に逆らえず、剣を抜き、トロワに斬撃を加えていく。


「そんなっ!ラティスさん、どうして!」


「…っ!」


剣を交えながらトロワは問い質すがラティスは何も言わず、剣が折れんばかりの力を込めて斬りかかって来る。

その内、


カイン


「くっ!」


トロワの剣が弾かれ



ブシュ


「あぁっ!!」


腕を突かれ



ザシュ


「ぐっ…」


脇腹を斬られ、トロワの服は紅く染まっていく。トロワは激痛で倒れそうだが足に掛けられた岩石拘束がそれを許さない。


「ふんっ!」


リューゼがさらに一太刀トロワに斬りつけると胸の辺りでガキッと何かが剣先に引っ掛かる感触がした。


「ん?なんだ?」ゴソゴソ


「…」ハァ…ハァ…


トロワは反撃は愚か手を払い退けることも出来ないままリューゼに服の内ポケットをまさぐられる。


「ん、これは…」


リューゼが見つけたのは小さな箱であった。それをリューゼは遠慮なく開ける。


「なんだこりゃ」


箱の中身は花をモチーフとしたピンクの髪飾りと小さく畳まれた紙が1枚。リューゼはその紙を開くとどっと爆笑する。


「なんだよこれwww!!」


紙はバースデーカードだった。今日の日付で、名前はフィーナ・カテスと。


「こんな安物で女の気を引けると思ってるのが田舎者らしい、なぁ!!」


一通り笑ったリューゼはその髪飾りを地面に叩きつけて踏みにじる。その髪飾りの細工は薄氷のように脆く、簡単に壊れてしまった。


「教えてやれよフィーナ。現実を」


フィーナは唇を噛み締めながらトロワに歩み寄る。そして瞳を潤ませながら言い放つ。


「ごめん なさい トロワ。私、リューゼ王子に付いて いくの。 さよなら」


突然拘束され―


突然襲われ―


突然別れを告げられ―


トロワの心は体以上に悲鳴を挙げている。


「岩石拘束、解除」


エレアがそう唱えると拘束していた岩が土に戻ってボロボロ落ちていく。トロワも崩れるように膝が落ちる。


「楽にするわけねぇだろ」


リューゼはトロワの胸ぐらを掴むと一歩崖に寄る。


「あばよ」











グサッ


リューゼの剣がトロワの腹を貫き、押されてトロワは崖下に落ちていった。











最後にトロワは何を思ったのだろうか。







(冷たくなってく…。死ぬってこうなんだ…)











(泣き叫んでいたのはフィーナ…かな…)
















(ああ。もっと世界を見たか










ドサッ



トロワは肉塊となった。




如何だったでしょうか?

感想や評価などを下さると嬉しいのでお時間があればよろしくお願いします。

なお、不定期での更新を予定しているので続きは気長に待って下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして、今更ながら読み始め、感想書かせて頂いています。 有る意味テンプレの裏切りとも言えますが、作者さんが云々と言うより、こういう展開だとわざわざ殺さんでも普通に追放しとけば問題ないし…
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