第34話 神失魔法の遺産
ソシアスが謎の呪文を唱えると一瞬光に包まれ、直後にソシアスの外観は大きく変化していた。
鮮烈な赤の金属の装甲を脚、腰、胸、腕、頭に着け、髪型はツインテールに変化、二又に分かれた身の丈程の真紅の大剣を2本携え、腰部の装甲からは蠍の尾のような剣先が付いた金属の尻尾が付属されている。
その変貌ぶりにレヴィード達は戦中にも関わらず唖然としてしまう。
「突撃」
ソシアスが巨大な双剣を構え化け物へ肉薄する。それを阻止するように化け物も触手をソシアスに差し向けるが、ソシアスは前進しながら斬り進める。
「僕達もソシアスに続こう」
レヴィード達はソシアスを援護するように全方位から化け物を攻める。
「グアァァアアッ!!」
化け物が吠えると、背中がボコボコ盛り上がり、そこから何本もの触手が生えて攻め手に加わる。触手達はターシャの矢を払ったりアインスの魔法を弾いたりしているが、主に前線に斬り込むレヴィードとソシアスを襲う。
レヴィードは小柄の体格のおかげで難なく避け、ソシアスは双剣と尾の剣の三刀流で触手を次々と切り払う。
「食らえ、氷柱飴!!」
レヴィードの手の中で氷の玉が5個作られ、それを化け物の大口の中に投げ込んだ。
「氷柱」
体内で氷の玉が氷柱の棘の玉になって、体内の臓器をズタズタに貫いたのであろう、化け物は痛みでのたうち回った後に倒れた。
「死んだ…かな?」
レヴィードが様子を見ようと1歩近づくと化け物はビクンビクンと痙攣を始めた。
「生命反応確認」
「生きてるのか…アインス、あれ燃やせる?」
「図体がデカイからな…。完全に消失させるのは時間が掛かるかもな」
以前は人間くらいのサイズだったため火の魔法1つで簡単に火だるまに出来たが、ここまでのサイズとなると焼き切る前に復活する恐れもある。
「ねぇソシアス。あれ一瞬で消し炭に出来たりしない?」
「可能。殲滅戦仕様、再構築」
レヴィードは想定外の行動を見せたソシアスに冗談混じりで訊くと、ソシアスが光って装甲が変化する。
今度は青を基調とした装甲で、両腕に持った巨大な銃剣と背中から伸びた2本の砲身、両肩にある3本の剣が付いた盾、背中と脚に箱形の装甲と先程の赤の時と比べると重装備である。
「目標捕捉。全砲門展開」
ソシアスは背中の砲身と二丁の銃剣を連結させたものを化け物に向けると、盾についた剣が分離し、箱形の装甲が開く。
(なんかマズそう…)「ソシアス以外、目と耳を塞いでその場に伏せて!」
何か危険を察知したレヴィードは回避行動の指示を叫んだ。
「終滅魔砲」
それは魔法なのか、銃剣と砲身から極太の、剣からは枝分かれした光、箱形の装甲からは飛爆弾が発射される。凄まじい閃光と爆音と爆風が5秒程続いた。
「…ん」
「すんげぇ音でビックリしただ」
音が止み、レヴィード達が起き上がると驚愕の光景が広がっていた。化け物は消し炭どころか灰すら残らず消滅し、化け物がいた後方の一直線が木1本残っていない焼け野原となっていた。
「えっと…今ので他に何か被害はなかったのかな…」
「…分析結果。目標以外では人間などの生命体の被害は確認できません」
「そ、そう…」
淡々としたソシアスの報告に、レヴィードは冷や汗をかきながら笑って流すことにした。
化け物が消滅してレヴィード達は互いの無事を確認するために集まる。
「あ、ぺルルさん。さっき凄い勢いでぶつかりましたけど大丈夫ですか?治癒光を…」
「…いや、別に問題ない」
フィーナが心配するがぺルルは丁重に断った。
「ソシアスさんも腕を怪我したんじゃないですか?」
「否定。損傷箇所はおよそ2時間14分で修復完了します」
「えっ…?」
ソシアスは自分の傷から覗く鉄の腕を見せると、フィーナは血を見た以上に顔を凍りつかせた。その腕を見たレヴィードはソシアスの正体について何か思い付き、確認するように色々訊ねる。
「ソシアス。あれって何の魔法?」
「解答。あれは変形錬成を応用した武装再生です。過去にダディが作成した武装データを元に再構築させたものです」
「ダディは何が目的でそれを託したの?」
「…不明。目的についてダディは教えてくれませんでした。ただ…君の力になる、と言っていました」
「なるほど…。それでいつからあの地下にいたの?」
「解答。ダディの状態から約1900年前と推測されます」
「うん…」
鉄の腕、武装再生、1900年前、そして今までのソシアスの言動…それらを統合してレヴィードはある予想を立てた。
「もしかしてソシアスは巨像精製か、その上位の魔法で生み出されたゴーレムのような人造生命体じゃないかな」
「巨像精製…だと?そんな事があり得るのか?」
巨像精製は土魔法の大魔法であり、土や岩で像を作り命を宿らせる魔法である。
しかし、この魔法の最大のネックは自立して動かすゴーレムの設定の難易度で、ただ歩く・殴るなどの簡単な動作を命令するのにも複雑な術式魔法言語を組まなければ、延々と同じ動作を繰り返したり見境なく暴れるなどの不具合を起こすのである。
アインスが異を唱える理由がここなのだ。
「ゴーレムが魔法の行使や意志疎通するなど…そんな記録聞いた事ないぞ」
「でもソシアスは現にやってのけてるよ。ダディの洋館の仕掛けを見ても魔法には詳しかったようだし…1900年も前なら、現代の巨像精製の上位に当たる神失魔法があっても不思議じゃないかもね」
神失魔法とは、かつて存在していたのは確かだが術式魔法言語が不明となっている魔法の事で、ソシアスが見せた変形錬成以外にも死者を完全な状態で蘇らせる、時を戻して過去を変える、空間を超越して瞬間移動するなど人智を越えたものが多数を占めている。
現代での価値観はマチマチで、空想・眉唾物と笑う者もいれば大真面目に研究して現代に復活させようとする者もいる、そんな神秘の魔法なのである。
「つまりソシアスは神失魔法の遺産であるスーパーゴーレムじゃないかな」
レヴィードが下したその結論はソシアスの証言とレヴィードの推理を繋いで形成された何一つ確実な証拠がないものだが、現実として見せられたソシアスのパワーと重ねたら妙な真実味を帯びたように誰もが感じた。
その日の夜。レヴィード達は森林内の空き地の1つで野宿をすることにした。食事を済ませ、レヴィード・ぺルル・ソシアスが火の番と周辺の警戒、残りは眠りに就いた。
「…レヴィード様」
「なんだい?」
「ご相談したい事がありまして…。少々よろしいですか?」
ぺルルはヒソヒソとレヴィードに耳打ちする。
「…ソシアス。僕達はちょっと近くを散策するからここを任せても大丈夫かい?」
「了解。警戒任務を継続します」
レヴィードはソシアスにそう伝えて、ぺルルを引き連れて夜営地から離れた。
レヴィードとぺルルは森をしばらく歩いて、夜営地との距離が適当に離れたところで話し合う。
「それで…ソシアス関係かい?」
「…そこまでお察しなのですね。…実は口論をしまして」
ぺルルは化け物撃破の少し前に起きた出来事を話した。
「…その時はまだ信じていなかったとはいえ、妄言ばかり吐くウソツキ呼ばわりをしてしまって、どう謝ればいいか…」
「普通にごめんなさいで良いんじゃないかな」
「…えっ?」
「たぶんあの子は今の時代に目覚めて色々と学ぼうとしている段階なんだよ。だったら悪いことをしたらちゃんと謝るって事を教えるついでに謝れば良いんじゃないかな」
「…そう、ですか…」
ぺルルはレヴィードの意外と普通な答えに少し釈然としない部分があったが、言われればそれもそうだとして夜営地に戻ることにした。
夜営地に戻るとソシアスはパチパチ燃える焚き火を凝視していた。
「報告。特に異常はありません」
ソシアスは戻ってきたレヴィードとぺルルに気付き、無表情で淡々と状況報告をする。
「…ソシアス」
「?」
「…その、あの化け物が来る前、私がお前に言った事を覚えているか?」
「肯定。コミュ何とかだの1900年前にはいただの、おかしな妄言は止めて本当の事を言え!、ですか?」
「…あ、ああ」
言った事を一言一句そのまま返され、ぺルルは改めて申し訳なく思った。
「…それなのだが…お前の話を信じずにそう言ってしまって、すまなかった…」
ぺルルはソシアスに頭を下げる。ソシアスはぺルルがどうしてこんな行動をしているのかを思考しているようでじっとぺルルを見つめる。
「理解不能。ぺルルのこの行為の意味が理解できません」
「えっと…人間は自分が他人に悪いことをしたら、すまなかったとかごめんなさいって言って謝るって事をするんだよ」
悪いことをしたら謝る、人間などでは至極当然の行いを幼い子供に教えるように、レヴィードはソシアスに説いてあげた。
「…一部理解。しかしぺルルは悪いことをしていません。あれは意見交換です」
どうやらソシアスの意識ではぺルルのウソツキ呼ばわり発言はただの意見の相違であり、悪いことには当たらないようである。
「…」
「まぁ…思ったより本人は気にしてないようで良かったじゃないか。一応仲直りの握手でもやっておくかい?」
「…はい」
「疑問。その行為の意味は何ですか?」
「うーん。これからも意見のぶつかり合いがあるかも知れないけど、これからもよろしくね、っていう挨拶…かな」
「了承。ぺルルと握手します」
ぺルルは肩透かしを食らった苦笑いを浮かべながらぺルルと握手して和解を果たした。
それから数日後。レヴィード達はグラッサー森林を抜けてオーベスト地方最北端の町・サームに到着した。
「ようやくここまで来たね、レヴィード」
「うん」
「それにしても、なんで勇者はセプトに向かうんだろなぁ?」
「…私もそれは気になっていました」
ティップの言う通り、セプトは森や山が多い険しい土地で、海を渡る為にドーンに行く手間を考えれば平坦な場所が多い南のシュードゥルが通りやすい。
「勇者パーティーがセプトに寄らなければならない理由があるのか?」
「一般の人には勇者パーティーの行動は大まかな部分しか報道されないからね。勇者がセプトに向かう理由は伝説の武具にあるんだ」
「伝説の武具?」
「ええ。王様から聞いた話だと、歴代の勇者が使った武具が色んな場所に納められているらしいわ」
「それで、その内のひとつがセプトにあるスタビュロ大陸最大の山脈、ガンディーア山脈の頂上にある神殿に安置されている、という話だよ」
元勇者パーティーのレヴィードとフィーナだからこそ分かる情報である。
「勇者パーティーにここで追いつけそうか?」
「町で勇者パーティーの足取りを訊く度に日数が縮まってきてるからね」
「…では」
「接触するのも近いかもね。…もしそうなっても良いように道具を補充しておこうか」
レヴィード達は気を引き締めて道具屋へ向かった。
道具屋に着くと店主らしき中年の女性がclosedの看板を店前に立て掛けようとしていた。
「え、もう店を閉めちゃうんですか?」
「あら冒険者の…え、子ども?」
「これでも冒険者です。それよりもどうしてお店を?」
「それが貴族の方に買い占められちゃって商品がないのよ」
「貴族に?」
レヴィードは妙だと思った。道具屋で販売されている物は傷薬や毒消し、暗い洞窟で目印になる光の粉など、冒険者の命を繋いだり旅を手助けしてくれるものである。冒険に出ない貴族とは縁遠いものばかりの筈である。
「実はね…」
店主の女性はちょいちょいと手招きしてレヴィード様を近寄らせ、小声で言葉を続けた。
「ここだけの話、セプトで近々戦争があるんじゃないか、って噂になってるのよ」
「戦争…?」
ソシアスの変身シーンはFRAME AR○S GIRLをイメージしてます。
各形態は星座とガ○ダムを組み合わせたイメージで、白兵戦が蠍座とソードインパルス、殲滅戦が射手座とヴェルデバスター+セラヴィーみたいな感じですね。こんな形態がもう一種ありますが、後のストーリーで。
次回からは3章になります。




