第29話 無茶な勝利の軌跡
「これが魔族の魔力なのか…」
「そう。私の瞳で見た女性はみな私に忠実な人形になるのさ」
エリプマヴは愉悦の笑みを浮かべながら自慢気に語った。
「なら、君自身を倒せば元に戻るんだろうねアイスr」
「おっと」
「なっ!」
レヴィードが飛氷槍を放とうとすると少女達がエリプマヴを庇うように魔法の射線上に割り込んでしまい、レヴィードは魔法をキャンセルせざる得なかった。
「言っただろ?私に忠実な人形になると」
(くっ、遠距離攻撃はダメか…。なら…)「迅雷脚!!」ビュン!
「ふっ」パシッ
「っ!」
レヴィードは接近戦ならば分があると判断し、迅雷脚からの神速の突きを放つがエリプマヴはそれを指をチョキにしてアカネゾラを挟んで止めてしまったのだ。
「なかなか早い突きだ。他の魔族には通用したかも知れないが生憎私は目が良いのでね。今の速度を人間の感覚で例えるなら、飛んでいる蝿くらいだったか…な!!」
エリプマヴはそのままレヴィードを蹴り飛ばしたが、レヴィードは転がりながらも起き上がり、まだ効果時間が続く迅雷脚の俊足で空中を舞うアカネゾラを拾った。
(打撃は思ったよりも大したことないけど、最高速度で斬り込んでも見切られるし、遠距離の魔法攻撃は女の子達を壁にされるから使えない…。うーん。ティップかアインスのどっちかでも連れてくれば良かった…)
レヴィードは戦力を割きすぎた事を悔やみながらも頭をフル回転して打開策を考える。
「さて。それじゃあ私の夢が叶う前祝いだ。花嫁達よ、彼と遊んでくれたまえ」
エリプマヴがそう命ずると少女達はレヴィードを見据えながら階段を降りてきた。当然、相手は操られているだけの少女達なのでレヴィードは反撃で傷付けることは許されない。
「…」
降りてくる少女の中で、ぺルルを含めて3人が階段から飛び降りてレヴィードに襲ってきた。ぺルル以外の二人はそれぞれ剣と槍で武装していた。
「町の娘だけじゃなくて冒険者もか!」
レヴィードは槍の突きを避け、剣を捌き、拳を受ける。
「っと!ぺルルはともかく他の二人もなかなか…!」
「…神輝矢」
「…弧風刃」
「うぉっ!」
レヴィードは立ち止まる暇もなく光の矢と風の刃を受けるが、寸でのところで転がって避けた。レヴィードがその魔法が放たれた方向を見ると階段にいるフィーナともう1人の魔導師が放ったようである。
「…」
物理も魔法も避ける間に他の少女達も雪崩れ込んでレヴィードを捕まえようとしてくる。
(反撃は不可、本体を狙うのも困難…いや。落ち着くんだ…。現状以外の事も含めてを考えろ…。あんなに強いのに何でガーゴイルを使役した?そもそも魔族ならどうして魔法で攻撃に参加しない?)
レヴィードは一呼吸置きながら考える。今の状況だけでなく、ゴヤリの町に着いてからガーゴイルの誘拐騒動を聞いて、この洋館を見つける段まで遡ってエリプマヴの攻略法を模索する。
「…」ビュン
「…うっ」ガッ
襲いくる攻撃を回避と防御を繰り返してやり過ごしながらレヴィードは見定める。
「…アイツを倒す方法、見えたかも」
「ほぅ。どう倒してくれるのか見物じゃないか」
エリプマヴは余裕の笑みを浮かべてレヴィードを見下す。
(さて、啖呵は切ったけど早くアレが来ないことには…)
レヴィードがそう思った矢先だった。月に雲がかかり始めたせいか、ステンドグラスを通った月光が消えていく。レヴィードは夜目が利くためそこまで影響はない。
「…氷雪牢!氷雪牢!!」
レヴィードは氷雪のドームでエリプマヴを閉じ込めることに成功したかに見えた。
「こんな子供騙しで私が封じられるとでも思っているなら的外れだよ」
しかし、エリプマヴはアッパー1発でレヴィードの氷雪牢を粉々に砕いてみせた。
「まさかあれで私を倒す方法というのは…冗談としては少々寒いな」
エリプマヴが指先を軽く払うとぺルル達が一斉に襲いかかってきた。
「ぺルル!」
「無駄だよ。彼女達は私の操り人形。意思は残っているが、体は私の命令通りに動く。人間が大好きな絆などいう甘い不確定要素は通用しないよ」
エリプマヴの言う通り、厚い主従で結ばれた筈なのにぺルルは容赦なくレヴィードを殺す気の一撃を放ってくる。
(意思は残ってる?なら…)「ぺルル!言うならこれはただの手合わせだと思って。ぺルルはいっつも気を遣って僕には手加減してるでしょ。だから今は全力で頼むよ」
「言葉は聞こえるだけで無駄だというのか分からないのかな?」
エリプマヴの言う通り、ぺルルはレヴィードの言葉に構わず、向かってくる。
「…」
「ほっ!」
ぺルルの旋棍の一撃をレヴィードはアカネゾラの反りを利用して受け流した。
「やっぱり本気で向かってくる分、良い鍛練になるね。他もドンドン来ると良いよ」
レヴィードは煽り立てるように手招きした。
レヴィードが洋館に入ってから何時間経ったのか。暗闇の中でバタバタとした足音と激しくぶつかる武器の金属音だけが広いエントランスに響き渡る。
「はぁ…はぁ…」
レヴィードはほぼぶっ通しで戦い続けているため、肩で息をしていた。片や少女達はほぼダメージもなく数時間前とあまり変わりない動きでレヴィードを追い詰めていく。
「ふっふっふっ。倒すと言いつつも君自身息が上がっているじゃないか。言っておくが花嫁達は自身の疲労に関係なく私の命令の元で動けるから疲弊させる作戦は通用しないよ」
「…」ニヤリ
「苦し紛れの笑みかい?」
「いや。これで僕の勝ちだよ」
「戯れ言を…」
「氷雪牢…解除」
レヴィードがそう唱えた途端、天井のステンドグラスからエントランスホールに光が溢れる。
「う、うおおおぉぉおぉっ!!」
エリプマヴは全身から白煙を昇らせながら苦しみ始め、階段を踏み外して転げ落ちていく。
「あ、朝日が!!朝日がなぜぇえぇ!?」
「やっぱり光が弱点だったか…」
レヴィードは自分の推測が見事当たり、干からび始めたエリプマヴに勝ち誇った満足げな表情を見せた。
「何故、私がこんな子どもに…!」
エリプマヴは恨ましい目でレヴィードを睨みつける。
「これで全部…終わり!」
「あああぁぁぁああ!!」
レヴィードは干物のようにカラカラに細くなったエリプマヴをアカネゾラで貫くと、エリプマヴは茶色の塵の山となった。
「…!体が動く!動くわ!!」
「やったぁ!」
「早く町に帰りましょ!!」
エリプマヴの消滅と同時に人形のようだった少女達は言葉を話し、各々が喜びに沸いた。
「…レヴィード様!」
ぺルルも同じく自由の身となり、真っ先にレヴィードに駆け寄る。
「良かった…戻ったん…だ」
「レヴィード様!?」
レヴィードはバタリと体を大の字にしてその場に仰向けで倒れこんだ。
「ふー…。さすがに疲れた…もう一歩も動けないや…」
レヴィードは夜中から森に入り、朝まで休憩なしで戦い続けたのである。大人でも恐らくこうなるであろう。
「レヴィード様、申し訳ありません!」
「別に良いよ…。それよりも早く女の子達を町まで連れてかないとね」
「はい!」
「それと、ぺルル。もう1つ良い?」
「何なりとお申し付けを!」
「あの階段の左にいる子、あれが、勇者パーティーの一人のフィーナだから、話を訊くまで逃がさないで…」
「はっ!」
「それじゃ、あと…よろし く…」zzz
レヴィードは言うだけ言うと目を閉じて寝息を立て始めた。
その後、ぺルルはレヴィードを背負って指示通りにゴヤリの町に帰還した。町は帰ってきた娘達の無事を喜んで祭のような騒ぎになった。最大の功労者のレヴィードは宿屋で死んだように眠り続け、目覚めたのは夕方頃である。
「う…んん。…おはよう」
「レヴィード様!おはようございます」
「いや、ぺルル。ただ単に疲れて寝てただけだからそんな大袈裟でなくても」
まるでレヴィードが甦ったくらいの勢いのぺルルにレヴィードは申し訳なく思う。
「レヴィード様、お加減は如何ですか?」
「大丈夫だか?」
「ふんっ。無茶な戦いをしてからに」
ぺルル以外にも続々と仲間が入ってきた。
「…」ペコリ
さらにその後ろにフィーナもやって来て、沈んだ表情でお辞儀をした。
「…それにしても何故あんな無茶な戦い方を…」
「だってみんなを傷付ける訳にはいかないだろうさ。僕が怪我するのは未熟だからと諦めがつくけど、みんなが怪我するのは我慢できないからね」
自身の不甲斐なさに押し潰されそうなぺルルにレヴィードは明るく答えた。
それはそうと、ぺルルの言う通りレヴィードは何故、夜明けまでぶっ通しで戦う無茶な道を選んだのであろうか。
レヴィードはまず、エリプマヴは光に弱いと推測した。
洋館の窓には全て板張りしていたし、見ただけで女性を操る強力な魔法があるのにガーゴイルを使役して少女を誘拐したのは日差しの元で動けないデメリットをカバーする為だと考えたのだ。
次に光はどうするかとレヴィードは考えた時に注目したのが天井のステンドグラスである。ここから日差しを入れてエリプマヴを倒そうとここで閃いたのだ。
しかし、ステンドグラスの月光の動きで作戦を悟られる事を警戒したレヴィードは月が雲に隠れるのを待ち、月光が消えた瞬間に氷雪牢でステンドグラスを塞ぐことでずっと月が雲に隠れているように偽装したのだ。魔族は長寿であるが故に数時間という短時間の感覚に疎く、エリプマヴはまんまと騙されて夜明けまでその場に留まったのである。
そしてその夜明けの時まで戦いを長引かせる為にレヴィードは水飴波などで少女を拘束せずに地道に無茶して戦い続けた。
これがレヴィードのエリプマヴ攻略の軌跡である。
「それにしてもその魔族も阿呆だな。自身も加勢すれば死なずに済んだものを」
「僕もどうして攻撃に参加しなかったのかは予想になるけど…アイツはまだ弱くて20人の人間を操るのに手一杯だったんじゃないかって思うよ。もし魔族の魔法の援護射撃があったらもっと危なかったかもね」
終わりよければすべてよしと言わんばかりにレヴィードはあっけらかんに戦いを振り返る。
「…レヴィード様」
「いいよ。ぺルル」
ぺルルを言おうとする事を察したレヴィードは先んじて許す。
「しかし!主人である貴方を傷つけてしまい…!」
「だってあれはぺルルが進んでやったことじゃないだろうに。それに…もしかしたら、これから僕に忠誠を尽くす気が失せるかも知れないしね」
「…?」
ぺルルを始め、その場にいる全員がレヴィードの言葉の真意を理解できないでいた。




