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第19話 冒険への羽ばたき


レヴィード達は新たにアインスを仲間に加え、冒険者としてより精力的に活動し、着々と資金が貯まっていた。


「ビンド山のマウンテンオオザルの毛皮三頭分を刈って来ましたので査定お願いします」


「はーい。少々お待ち下さい」


レヴィード達は受付嬢に依頼の品と冒険者プレートを渡し、待ち合い席に戻る。


「おおレヴィード。今日も頑張ったな!」


「レヴィ君お疲れ様~♪」


「どうも…」


こうして他の冒険者から声を掛けられる程、レヴィードはギルド内でそこそこ有名になっており、まるでマスコットのような扱いである。

レヴィード達は待ち合い席の円卓に座り、今後の話し合いをする。


「ここ1週間でだいぶ稼げたんじゃないかな」


「…そうですね」


パーティーの財産を握るぺルルがレヴィード達の収支を記録したメモ帳を取り出す。


「…現在の所持金は金貨1枚、銀貨7枚、銀符13枚、銅貨21枚に銅符少々になります」


これらがどのくらいの価値かと言えば、レヴィード達5人が今寝床に使っている宿屋ランレストに1週間宿泊(簡素な朝夕の食事付き)できるくらいの金額である。


「あまり長々といると勇者パーティーに置いていかれるからね。そろそろ潮時かも知れないと思うけど、みんなはどう思う?」


レヴィード個人としてはフィーナとラティスに早く会いたいが、一人で焦って全員を危険な目に晒す訳にはいかない。全員の意思を確認すべきだと思って訊いてみたのだ。


「そうですね…。旅の途中は宿ではなく野営にするなどして節約すれば大丈夫かと」


「金勘定はわっかんねぇけど、いっぱいあると思うだ」


「早いに越した事はない。さっさと出立すべきだ」


「…ターシャと同意見です。それにレヴィード様の決定が私達の旅の方針となりましょう」


「そうか。…じゃあ今日は報酬を受け取ったら出立の準備して明日発とうか」


「レヴィードさーん」


レヴィード達が方針を決めたところで受付嬢が呼び出す。


「お待たせしました。依頼された方が確認したところ、状態が綺麗であるとのことで報酬は少し上乗せして銀貨7枚になります。どうぞ」


「ありがとうございます」


レヴィードは受付嬢から金の入った袋を受け取る。


「それとですね。副代表からレヴィードさん直々にお話があるそうなので執務室までお願いします」


「了解しました」


レヴィードは受付嬢の後を付けてカウンターの奥に入った。






「失礼します」


レヴィードは一礼してドアを閉めてアイネと対面する。


「いらっしゃい。相変わらず可愛いわ。撫でさせて…」


「はい…」


レヴィードは近づいてアイネに頭を撫でさせた。


「あの…それでご用件は…」(この前は撫でたり抱っこされたりばかりで特に何もなかったからなー)


「今日は真面目な話よ。レヴィード君が提出したあの謎のモンスターの事だけれど」


謎のモンスターとは、レヴィードが初の依頼でケーコンの森に訪れた時、偶然エルフの集落で遭遇した動く死体を操っていたと目されるミミズ型のモンスターである。そんな話にレヴィードの顔が引き締まる。


「何か分かったんですか?」


「…それが報告書は上がってきたのだけれど、何のモンスターかは全くの不明なのよね」


「全くの不明…。近い種の検討すらもできないのですか?」


「ええ。魔法でいくら調べても、どの種にも属さない全くの新種としか言いようがないそうよ」


「そうですか…」


モンスターに限らず、生き物は祖先の姿形から環境等に適応するために世代を重ねてそれを変化させ、そこから再び環境等の差によってさらに適した姿形に細かく枝分かれして…という流れを連綿と繰り返した結果、現代の多様性ある生命体の体系が形作られた。

故に、生き物にはほぼ確実に親戚となるような近しい種が存在するハズなのである。

しかし、そのミミズ型のモンスターはどのモンスターにも当てはまらない、異端の存在だというのだ。


(考えられるのは…遥か過去に滅んだとされた種が生き残っていて現代になって出現した…、もしくは僕達が知らない世界の生態系からやって来た生き物か…。でもな…)


レヴィードはそんな仮説を立てるも、どちらも突拍子もない絵空事で、言っても混乱させるだけだと思って胸中にしまうことにした。


「せっかくサンプルを持って来てくれたのに申し訳ないわね」


「いえ。僕としては何も気にしていません。ただ、実際に戦った身としては危険な存在なのは確かですので類似のモンスターの報告には注意を払うべきかと思います」


「そうね。他のギルドにもそう連絡を回すわ…ふぅ…」


「アイネさん?」


「はぁ~。こんなにも可愛くて賢いなんて…。良かったらここで働かない?お給金弾むわよ?」


「残念ながらお受けする訳には参りません。僕にはどうしてもやりたい事がありますので」


「…!そう…」


レヴィードの真っ直ぐな眼差しに子どもとは思えない、男の覚悟の煌めきを見たアイネはそれ以上、何も言えなかった。


「…折角のお誘いに応えられず、申し訳ありません」


「いいえ、いいのよ。大人の冗談よ。ほら、行って良いわ」


「それでは失礼しました」


レヴィードは頭を下げて、執務室を出た。


「…ふぅ。あの子…まだ7歳よね…」


アイネは頬を赤く染めて溜め息をつきながら椅子の背もたれに寄りかかった。






レヴィード達はギルドから出た後、回復薬や毒消しなどの薬品やビスケットなどの携帯食を買って明日の旅立ちに備えた。その買い物帰りにレヴィード達はローザリア家の邸宅に向かった。


「まさか、オラが貴族のお屋敷に入れるとは思わねぇなぁ」


「まぁティップとアインスは初めてだよね。でもダンテシス卿は声が大きくてビックリするだけで、とても明るい人だよ」


「ふん。所詮貴族だろ。裏はどんな顔か…」


「アインスが思ってるような悪い貴族じゃないよ。カナマンに駐屯していた不良聖騎士団を一斉に解雇して、彼らが着服していたお金と彼らの給金を全部接収した後、全額をカナマンの復興支援という形で返金したくらいだからね」


そんな話をしている内にローザリア家の邸宅に着いた。レヴィードの顔をすっかり覚えたのか、門番の方から話し掛けてきた。


「これはレヴィード様。本日はどういう御用件でしょうか?」


「いや、大した用事じゃないけど話したい事がありまして。ダンテシス卿はいらっしゃいますか?」


「それが…今ダンテシス聖騎士団長は城の方に招集されまして、いつお戻りになるのかも分かりません」


「そうですか…。それじゃあ伝言を頼めますか?僕、レヴィード・ルートシアは明日、素晴らしい仲間と共にロマニエを旅立ちます。お屋敷でお世話になったこと、ギルドへの推薦状、感謝の言葉を尽くしても尽くしきれません。本当にありがとうございました、と」


「はい!今の御言葉、必ずダンテシス聖騎士団長にお伝えします!」


「それでは僕達はこれで」


レヴィードは門番に一礼して去っていった。






その後、レヴィード達は宿に戻り、一夜を明かした。

翌朝、レヴィード達はロマニエでの最後の食事を摂ってチェックアウトを済ませる。


「それではお世話になりました」


「はいよ。気を付けなよ」


女将さんに挨拶を済ませて、レヴィード達は宿屋を出る。

空は雲一つ無くピンと青く澄んでいて、まだ朝が早いせいか人が疎らなおかげで静かな街並みをゆっくりと歩いていく。街の出口に差し掛かると見覚えのある人物が待ち受けていた。


「ん?あれは…ダンテシス卿、それにアイネさん?」


中央貴族とギルド副代表というビッグネーム二人の出迎えにレヴィード達は面を食らう。


「おおレヴィードよ。伝言だけで行くとは水臭いぞ!!」


「職員から聞いたわ。昨日でお別れじゃ、味気無いものね」


アイネは屈んでレヴィードの目を見ながらレヴィードの顎に手を添える。


「いえ…。一介の冒険者の旅立ちなどよくある事でしょう。わざわざお二人に御足労をかけて貰う必要はないと思いまして…」


「馬鹿者!お主は親友の息子、ならばワシにとっての息子も同然だぞ!!それをどうでも良い訳がなかろう!」


「貴方は私が知る限りで最年少で、なおかつ最優秀な新人(ルーキー)よ。それをその辺の有象無象の冒険者と一緒になんか出来ないわ」


「…そう、ですか…」


思いの外、自身の評価が高いことにレヴィードは少しはにかむ。


「それとこれを渡しておくわ」


アイネはレヴィードに何かのバッジを渡した。ドラゴンが盾に巻きつくデザインで尻尾が強調されている金のバッジである。


「これは…」


「旅先のギルドの支部で何か困った事があれば支部長にこれを見せておきなさい。きっと支部長が貴方の味方になってくれるわ」


「ありがとうございます」


レヴィードはアイネの言う意味を図りかねるが、この街で過ごした記念として受け取った。


「メイド2人とデカイのとほっそいの!!息子(レヴィード)を頼んだぞ!」


「…はい!」


「お任せ下さい!」


「んだ!」


「ふん…」


ダンテシスの激励にぺルル・ターシャ・ティップ・アインスも背筋が伸び、力強く頷く。


「ダンテシス卿。そしてアイネ副代表。短い間でしたが大変お世話になりました。これから冒険者として邁進して参ります」


「うむ!」


「いつでもロマニエに帰ってくるのよ」


「はい。それでは行ってきます」


レヴィード一同はダンテシスとアイネに一礼して、ロマニエを出て行った。振り返ることなく、ただ真っ直ぐ前を見ながら、歩いていった。


「…まるで大空へ羽ばたく雛を見送る親鳥の気分だのぅ」


「そうですね…」


ダンテシスとアイネはレヴィードの姿が見えなくなるまで、門の前に立ち尽くしていた。





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