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第18話 強さの証明



「ふぅ…」


ぺルル達は中央棟の食堂でコーヒーを飲みながら時間を潰していた。


「レヴィード様、よっぽど夢中になってるんでしょうね」


「…ああ。魔法の研鑽…その向上心は私達も見習わないとな」


「…なぁ、ぺルルさん、ターシャさん」


「はい?」


「あの小さいのレヴィード君じゃねぇかなぁ?」


ティップの視線の先には屋外で候補生10人以上の集団と対峙するレヴィードの姿であった。


「何かあったのか!?」


「とにかく助けに行きましょう!」


ぺルル達は慌てて席を立った。






一方、レヴィードはちょうど彼の横に現れたところだった。


「子どもが来るなと言っただろう」


「いえいえ。1対十数人はあんまりだと思ったので」


「助けなんて要らん。とっとと去れ」


「そうですか?じゃあ勝手にやらせて貰うよ。僕も習得した魔法を色々試したいのでね」


突然のレヴィードの横槍に相手側は動揺していた。


「なんだあのガキ」


「気にすることはねぇ!一人加わってもガキだ!まとめてやっちまえ!!」


相手全員が杖を構えて魔法を唱える。


「さて、上手くできるかな。迅雷脚(イナヅマアクセル)


レヴィードが唱えた新しい魔法によってレヴィード自身が仄かな光に包まれる。その直後の刹那─



ヒュン、ガッ!



「ぐあっ!?」


レヴィードは20mくらいの距離を一瞬で詰めて、アカネゾラの峰打ちを相手の脚に叩き込む。その一撃は重く、僅かにミシッと骨の音がした。


(うわっ、勢いをまだ制御しきれてないな…もう少し慣らさないと)


「このやろう!神輝矢(シャイニングアロー)!」


一人が唱えた光魔法の矢の雨がレヴィードに向けて射出される。幾千もの光の矢、普通ならば回避ではなく防御を選ぶがレヴィードは違った。


ヒュ、ヒュ、ヒュ…ドカッ


「ば、馬鹿な…」


レヴィードは迅雷の如き神速を以て光の矢の雨を全て目測で避けて術者の腹に飛び蹴りを食らわせたのだ。術者は神速が乗った蹴りによって、くの字に曲がって吹っ飛んだ。


「う、うわああぁぁッ!!火炎弾(フレアボール)


「来るな!来るな!風円刃(ウィンドソーサー)!」


「近寄るな!飛氷槍(アイスランス)!!」


火の玉、風の刃、氷の槍が乱れ飛んでくるがそれでもレヴィードは捉えられない。


ヒュ、ヒョイ…ガッ、ドカ、バキッ


レヴィードはそれらの魔法の弾幕をスルスル潜り抜けて、すれ違いざまにそれぞれの腰、脚、背中と峰打ちを叩き込む。


バシュ


(あ、効果が切れたか。早く動けるからかなり疲労すると思って短めに設定したけど、これならまだ伸ばしても平気だね)


レヴィードが纏っていた光は失われてしまうが、レヴィードは慌てず、むしろ、改善点を呑気に考える。


「潰れろ!岩石槌(ロックハンマー!!)」


魔法の効果が切れたのを見計らって一人が頭上から岩の塊を落とす魔法を唱えた。


「今度はこれだ。水飴波(ベトウェーブ)


レヴィードの掌から透明な粘液が射出されて落ちてくる岩にぶつかり、岩の勢いを殺していくと同時に辺りにも飛び散って相手チームの何人かにも降りかかる。


「うへっ、なんだこのベトベトした液体…!」


「う、ああっ…!岩が止められた!?」


粘液がぶつかった岩石槌(ロックハンマー)の大岩は完全に停止し、まるで誰かが作ったモニュメントのようになった。


「お、俺達も動かないぞ!?」


そう、降りかかった粘液は時を置かずに石のように固まり、相手を拘束する。それが水飴波(ベトウェーブ)の効果である。

一方、魔法と剣術で無双するレヴィードの様を彼は呆然と見ていた。


(なんだ…。あり得ない…。魔法と剣術の融合などと。あんな子どもが…!)


この世界ではレヴィードのように魔法と剣を両立させる戦闘術は異質である。一見、誰もが考え得る戦法だが、実行する者はそうはいない。

何故なら魔法適性を持ち、魔法と言う強力な遠距離攻撃を持つ為、わざわざ危険な接近戦を仕掛ける必要性がないからである。接近戦の技術を新たに学ぶくらいなら、接近された時に備えてそれ用の魔法を開発した方が楽であろう、というのが一般的な考え方なのだ。


「に、逃げろぉぉ!!」


そんな異質な、しかも子どもがそんな戦法で無双したことで相手側の者は戦意を喪失し、蜘蛛の子を散らすように逃走していった。


「まだまだ魔法はあったんだけどね」


レヴィードはやや消化不良気味だがアカネゾラを鞘に納めて彼の元に戻る。


「…」


子どもと侮っていたのに、あれだけの力を見せつけられた彼はレヴィードに対して一種の恐怖を抱いていた。


(今の俺では勝てん…。コイツ、何をする気なんだ…)


「…そう言えば名前を聞いてなかったね」


「…アインスだが」


「僕はレヴィード・ルートシア。よろしく」


「ルートシア…?それは確か…」


「そう。僕は君が嫌いと言っていた貴族の息子だよ。あー、でも別に畏まらなくていいよ」


アインスの心は恐怖から動揺へと転がる。先程までの圧倒的な魔法と剣術の腕前の持ち主が、実力がない金と権力ばかりの馬鹿者と蔑んでいた貴族の出身と判ったのだ。それはアインス自身の価値観が揺さぶられていることを意味する。


「…貴族でもこんな奴がいるのか」


「そうだよ。確かにお金によって恵まれた環境はあるだろうけど、僕は努力して剣術を磨きながら魔法も勉強した。努力しないと強くなれないのは貴族だろうがなかろうが同じだと思うよ」


「…そうか」


アインスは自分の価値観がこんな子どもに論破された悔しさはあったが、それよりも単純にレヴィードの凄さへの感嘆が勝って嫌な気分にはならなかった。


「レヴィード様!ご無事で」


一通り話し終えた頃、ぺルル達が駆けつけた。






レヴィード達はアインスを交えて中央棟の食堂に戻ってきていた。


「それにしても、どうしてアインスは学園(ここ)にいるんだい?あそこまで強いなら冒険者としてついて来て欲しいくらいなのだけど」


レヴィードが乱入する前、アインスは十数人をまとめて相手にしており、確かな実力者である。レヴィードはその魔法の腕前を今後の旅のためにも欲しいと思ったが、アインスは渋い顔をする。


「…悪いがお断りだ。あと1年半で卒業だからな。そしてそのまま成績最優秀を貫けばDランクへの飛び級が認めらる。そうして俺はアーゼンリット学園首席卒業の肩書きを持って冒険者として悠々としたスタートを切れるという訳だ」


本来、冒険者ランクの飛び級はレヴィードのように中央貴族の推薦状でもFランクが限界だが、教育を司る中央貴族で学園の理事を兼任するアーゼンリット家から成績最優秀者に贈られる推薦状は、通常なら5年以上掛かるDランクへ安全に3年で行ける特待権(プラチナチケット)なのである。そのチャンスを手離したくないのは当然である。


「なるほど。中堅どころのDランクだったら最初から高い報酬を狙えそうだね」


「報酬に目が眩んでいる訳ではない。地位と権力を盾に取ってふんぞり返る子息令嬢(ばかども)に俺の実力を証明する為だ」


「そんな事しなくてもあれだけ強いのだから証明になっているんじゃないかい?」


「いや!」


アインスは机をバンと叩く。


「俺はあの日の屈辱を忘れない!エレアめ!!」


(エレアさん、性格がアレだからなぁ…)「えっとエレアさんって確か…勇者パーティーに加わってた人ですよね」


「ああ。世間的には実力を買われたとされるが全くの出鱈目だ」


アインスは怨みを込めて真相を語った。




時は数ヶ月前。勇者パーティー結成の話が持ち上がった時、学園内では勇者パーティーに加わる者の選抜試験としてトーナメント形式の試合が行われた。

アインスは実力を証明させる為に参加し、並み居る参加者(ライバル)を薙ぎ倒して見事決勝戦まで進んだ。

一方のエレアは誰もが遠慮して(というよりは理事長の孫娘という立場を恐れて)棄権し、不戦勝で決勝まで来たのだ。

そしていよいよ決勝戦という時に理事長からの衝撃の一言が突き付けられた。


〈私の孫娘は中央貴族の血筋にして4属性を扱える類い稀な魔法の天才。こんな平民と試合するまでもなく、勇者パーティーに加わるのは自明の理でしょう〉


まさに鶴の一声。身分のせいでアインスはここまで来た努力を踏みにじられ、戦わずして負け犬の烙印を押されたのだ。




「アイツは確かに火・水・風・土の4つを扱えるが魔法1つ1つの完成度は荒い!あの時、試合が実現すれば俺が勝って勇者パーティーに参加していたのだ!!」


(エレアさんがパーティーに参加したのにはそんな経緯があったのか…。でもこれなら押せそう)「それは悔しいね…。それなら、なおのこと僕達と一緒に来ないかい?」


「なんだと。だから…」


「だって話を聞く限りでは自身の強ささえ証明すれば良いわけだから、君が直接エレアさんを負かせば達成できるんじゃないかい?」


「…」


「実は僕達はある事情で勇者パーティーを追う旅をするつもりでね。その準備中でロマニエの宿屋を拠点に資金稼ぎをしてるんだ。僕達と一緒に行けば自然とエレアさんとも顔を合わせられるけど?」


「…」


アインスは黙って考え込む。


「…僕達は少なくとも今週末まではロマニエのランレストという宿屋に泊まって活動しているから、その気になったら訪ねるといいよ」


レヴィードはアインスにそれだけ言って静かに帰っていった。






レヴィードがアーゼンリット学園から戻って2日後。

レヴィード達はモンスター退治の依頼を終えて宿屋ランレストに帰ってきた時だった。


「おやレヴィード君。今日も頑張ったねぇ」


「ありがとうございます」


ランレストの女将さんともすっかり顔馴染みになっていた。


「そう言えばレヴィード君を探してるっていう若い(おにいさん)が来てるよ」


「あ、そうですか」


レヴィード達は食堂の部屋へと踏みいるとその隅っこの席にアインスがいた。


「決心はついたのかい?」


「ああ。学園を辞めてきた」


「えっ…」


「あんな子息令嬢(ばかども)相手に1年半耐えるのは馬鹿らしいと結論が出てな。それに…認めたくはないが、お前を見ると俺もまだ井の中の蛙だとも思ってな。俺は学園の力に頼らず、俺だけの強さを得ることにする。そしてその強さで貴族(エレア)を叩きのめして俺の強さを学園に知らしめてやる」


(強さが全てではないけれど、アインスみたいな頑張り屋が身分によって報われないのはあんまりだしね)「そうなれるように、僕達も同じ旅の仲間として応援させてもらうよ。それじゃあ、よろしく、アインス」


「任せておけ」


レヴィードとアインスは固い握手を交わす。こうしてまた一人、心強い仲間が増えた。





レヴィードが取得して披露した新魔法


氷雪牢(コールドーム)…固い氷雪でカマクラ状のドームを形成する。壁や捕獲の他に雨風を凌ぐ簡易的な家としても機能する。


迅雷脚(イナヅマアクセル)…迅雷の如き神速で行動できる。一定時間の制約あり。


水飴波(ベトウェーブ)…水飴状のベトついた粘液を発射する。その粘液は十秒もしないうちに石のように固まる。ただし、お湯などの熱で溶ける。


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