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第12話 そうだ、ギルド行こう

タイトルはふざけてますが第2章の始まりです。(章分けはもう少しお待ち下さい)


レヴィード達がギガントポッグを討伐してしばらくすると、ダンテシス率いる聖騎士団が到着した。討伐目的だったがすぐに事後処理に切り替わり、現場に居合わせたレヴィード達はダンテシスに連れられてローザリア家の屋敷の応接間で話し合いとなった。


「…なるほど。つまり公的には僕達は協力しただけで討ったのは聖騎士団という事にせよ、ということですか」


「こんな事を子どもに頼むのは不服ではあるが、他の貴族(れんちゅう)が五月蝿いからのう」


「構いませんよ。僕自身目立ってしまうと、また父上の胃に穴が開いてしまいかねませんから」


仮にも大聖都を守護する聖騎士団が元冒険者のメイドと子どものパーティーに後れを取るとあっては、貴族の面子が立たなくなり民衆からの信用を失墜しかねない。そういう事情を汲んだレヴィードは冗談混じりに笑ってダンテシスの頼みを承った。


「それよりも被害はどうでしたか?僕達が戦ってた時は特に怪我人を見なかったのですが…」


「うむ。それならばある程度は報告は上がっておるが…オーベスト側しか判っておらん」


ダンテシスが見せた報告書によると、ギガントポッグによる被害はカナマンの町が半壊、交通の要衝である橋も崩落したが、早期に気付いたおかげで負傷者がゼロだったのが不幸中の奇跡であった。


(町中で怪我人や死体は見なかったし…シュードゥル側もきっと平気だよね。ディーアさん達も平気だったのかな)


「まぁこの話は一旦置いてだ。実はお主達には残念な知らせがあるのだ…」


「なんでしょうか?」


「しばらくはシュードゥルに帰れなくなった」


ダンテシスのその発言にレヴィード達はきょとんとする。


「あれ?カナマンの橋は落ちましたけど、確か上流と下流にまだ橋町がありましたよね…」


「それなんだが…」


ダンテシスの話の続きによれば、カナマンの上流にある橋町エーウは町に続く道が大雨で起きた大規模な崖崩れによって封鎖、下流のタシーの橋は改修工事の最中に増水した濁流に流されてしまったそうなのである。つまりオーベストとシュードゥルは現状往復が不可能になってしまったのだ。


「という訳でこれらの復興には半年…いや、もっと掛かると見積もっておるのだが…」


「半年以上…」(こんなところでそんなに長い時間足止めされる訳にはいかないけどなー)


レヴィードには勇者パーティーに追い付く計画があった。

勇者パーティーはある事情で北にあるセプト地方に立ち寄らなければならないが、セプトは森林や山が多く、移動に難渋する地方である。そこでレヴィードはシュードゥルに戻った後、ドーン地方に渡って先回りする予定だったのだ。


「…そこで一つ提案があるのだが、レヴィードよ。いっそ冒険者になってみるか?」


「えっ、僕がですか?」


ダンテシスの提案にレヴィードは目を丸くする。


「お主。ラティス達の冒険譚を聴きたがっていたではないか。ならいっそ冒険者になって身を以て体感すると良いだろう」


「はぁ…なるほど」(渡りに舟とはこの事だね)


「それにあの巨獣を倒したのだ。お主も後ろのメイド達も実力は並みの冒険者よりもあるだろうしワシがギルド宛に推薦状を書いてやる。ただ、他の仕事を片付けてから書くから明日で良いか?」


「はい。よろしくお願いします」


「よしよし。それじゃあ今夜も泊まっていけ」






時が経って夜。レヴィードが寝ようとした時にドアがノックされる。


「どうぞ」


ぺルルかターシャ、またはこの屋敷のメイドだろうと思ってレヴィードは部屋に通す。


「寝る直前ですまんのう」


「こ、これはダンテシス卿!失礼致しました」


思わぬ来客にレヴィードは慌ててベッドから立ち上がる。


「よいよい。実はお主に内密な頼みがあるのだが」


「内密…ですか?」


「うむ。お主に冒険者を勧めたのはその為でな」


「はぁ…」


「実は…ワシの娘、ラティスの様子を見てきて欲しいのだ」


「ラティス…様の?」


ダンテシスは普段の豪快さとは程遠い悄気た様子を見せる。


「あいつがロマニエに帰って来た時、なんだか罪を犯してしまったような暗い顔をふと見てのう。普段気丈なあいつがあんな暗い顔をするなんて妻の葬儀以来だ。あの顔を見てから気になって気になってどうしようもないのだ」


(ラティスさん…やっぱり僕を殺したのは後ろめたかったのかな…)


「追って理由を訊いてみたい。だが、ロマニエの守護者の長として公私混同で娘を追う訳にはいかぬのだ」


聖騎士団の駿馬を以てすれば勇者パーティーに追い付くのは容易い。しかし大聖都の守護を司る者が身内のためだけに兵や馬を動かす訳にはいかないだろう。


「…了承しました。ラティス様に会ったならば必ずダンテシス卿の想いをお伝えします」


「すまんのう…。ギガントポッグの手柄といい、こんな親馬鹿な頼みといい、なんと礼を言えば良いか」


「なら明日の朝食のベーコンエッグを卵3個にして下さい。黄身が好きなんですよ」


「お主という奴は…。子どもでなければとびっきりの酒で一緒に飲み明かしたいところだ」(バルデント…。良い息子を持ったのう)






翌日。


「それでは、お世話になりました」


レヴィード達はダンテシスからギルドへの推薦状を持って屋敷を出た。


「…坊っちゃま」


「前々から言おうと思ってたけどさ、坊っちゃまって呼び方はちょっとむず痒いんだよね。これから仲間として冒険する訳だし、出来れば名前で呼んで欲しいな」


「ですが…」


「僕にはレヴィードという名前があるんだ。頼むよ」


「…かしこまりました…レ、レヴィード…様」


「様付けかー。まぁ坊っちゃま呼びよりはマシか」


ぺルルの葛藤にレヴィードは苦笑いを浮かべる。


「それにしても良かったのかい?」


「何がですか?」


「だって僕は君達にメイドの給金は払えないし、父上の護衛という名目から大きく外れているんだ。別にダンテシス卿の屋敷で臨時で雇ってもらっても」


「…レヴィード様は私達の力はもう要らないと?」


「いや、まさか。あのギガントポッグも僕一人では倒せなかったからね。出来れば今後も付いてきて欲しいよ」


「ならば付いて行きます」


「そうですよレヴィード様。わたし達はメイドですが、もう一緒に旅した仲間でもあるじゃないですか」


「そうだね…。それじゃあこの先もよろしく頼むよ」(僕がトロワだって話しても、付いてきてくれるのかな…)


ぺルルとターシャを気遣うつもりが逆に心強い言葉を貰い、レヴィードの顔がほころぶのであった。






そうこうしている内にレヴィード達はギルドに着いた。ギルド内はピカピカに磨かれた赤茶色の木のフローリングが敷かれ、明るい豪華なシャンデリアがぶら下がり、ちょっとした高級ホテルのエントランスのようである。

中にいる冒険者は老若男女問わずおり、人種は人間・エルフ・ドワーフ・獣人種(ビーストノイド)、得物も剣・槍・弓・盾・杖等々、バラエティに富んでいる。


「わぁ。全然変わりないですね」


「そうなのかい」(まぁ僕も覗いたことはあるけど)


「…ぼっ、レヴィード様。受付はこちらです」


ぺルルの案内でレヴィードは受付に向かう。


「ようこそ、冒険者ギルドへ」


ギルドの受付窓口に行くと兎の耳を生やした獣人種(ビーストノイド)の女の子が応対する。茶髪のロングをポニーテールで結んだ若い娘だ。


「本日はどのような御用件でしょうか?」


「この子達の冒険者再登録と、僕の新規登録をしたいんだけど」


「えっ、と…少々お待ち下さい」


新米なのか、受付の娘はマニュアルらしきファイルを捲って確認する。


「…はい。再登録の手続きはあちらの窓口になります。ですがその…お子さんの方は…」


「あ、そうそう。推薦状があるんだ」


レヴィードはその受付の娘にダンテシスから貰った推薦状の封筒を渡す。その封筒を見た瞬間、受付の娘の脳内はさらに混乱することとなる。


(え、何?こんな小さい子が冒険者になるの!?でもこの封筒の薔薇十字の紋章は本物…だよね?え、どういうこと?)「か、確認を取りますので少々お待ち下さい」


受付の娘はそそくさと逃げるようにカウンターの奥へ消えていった。


「やっぱり子どもが来るのは想定してないのかな」


「…ええ。一応冒険者に年齢制限はありませんが恐らく面を食らっていると思います」


「ですよね。このギルド内でレヴィード様が一番若いと思いますよ」


「若いというか、幼いんじゃないのかな」


レヴィード達が待っている間にそんな談笑をしていると、3人の男の冒険者が近寄ってきた。


「そこのお姉さん達。俺達のパーティーに入らない?」


「クールそうなのがそそるなぁ」


「そっちの弓使いも可愛いね」


仲間の勧誘というよりも口説きに来たといった感じである。


(面倒だな)「生憎この子達は僕の仲間でね」


「おいおい!こんなガキが冒険者かよw」


「ボクゥ?ここは迷子センターじゃないぞ?帰んな」


「ガキはガキらしくおうちで冒険ごっこしてろよ」


相手は統治貴族の息子ともギガントポッグを屠った者とも知る由はないが、その三人組はレヴィードに絡んでくる。


「ふーん。子どもに寄ってたかってそんな事しか出来ない人でも一応は冒険者になれるんだね」


「なんだとクソ生意気な!」


ビビるどころか挑発的な態度のレヴィードに三人組は青筋を立てる。


「おいおい。あれってEランクの双剣の三羽ガラスじゃないか?」


「あんな小さい子どもに、大人げないわよね」


「でもなんでギルドにあんな小さい子が?」


この口喧嘩はギルド中の視線を集め、ヒソヒソと囁かれる。


「こうなったら痛い目に遭わせてやる!」


三羽ガラスの内の二人が受付に向かう。


「おい!練習試合するからよ。試合場の鍵を寄越せや!」


「早くしろ!!」


「は、はい!」


三羽ガラスが半ば脅して職員から鍵を受け取るとレヴィードを囲って連行する。


「レヴィード様…」


「大丈夫、大丈夫。ちょうど待ち時間が暇だったからね」


ターシャとぺルルの心配そうな顔を余所にレヴィードは軽く遊びに行くノリで三羽ガラスについていった。





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