第10話 巨獣爆進
大雨はあれから2日降り続き、スタビュロ大陸の大日照りの危機は脱したが、レヴィード達にとっては足止めでしかなかった。
レヴィードはローザリア家の邸宅の客室のベッドですることもなく寝そべっていた。
(フィーナ達がロマニエを去って6日目だけど、この大雨で足止めを喰らってるハズ。大急ぎで追えば追いつけそうだけどぺルルとターシャは許してくれそうにないよね…。でも帰れば追い付く算段はある)
レヴィードにとって入れ違いは確かにショックだったが、諦める程ではない。勇者パーティーに追い付くプランはレヴィードの脳内に組まれているのだった。
雨が上がったのはその翌日。からりとした日差しと強めの風のお陰で街道の道の地面は乾き、泥濘で進みにくいということはない。
レヴィード達はダンテシスの計らいでカナマンまで馬車で送ってもらうことになった。
「それではな、レヴィード。返事の手紙、頼んだぞ」
「承りました」
「そしてまた機会があれば遊びに来い」
「はい。それでは、お世話になりました」
レヴィード達はダンテシスにお辞儀をして別れ、馬車に乗り込んだ。
さすが聖騎士団所有の馬だけあって商人の馬車と比べてもなかなか早く進み、お昼頃にはカナマンに辿り着きそうであった。
「ねぇ。ぺルル、ターシャ」
「…如何なさいましたか」
「二人は元冒険者だったけどさ。その時の冒険って楽しかった?」
ぺルルとターシャはレヴィードの不意の問いにしばらく考えて答える。
「わたしは…あまり仲間との連携が上手くなかったので…」
「…楽しむというよりも生きるためにしていたので…」
「そうか」
レヴィードは二人の答えを聴いて、自分の感想を述べた。
「僕は今回の旅、色んな人と会えて楽しかったな。二人ともありがとう」
「…そう仰って頂ければ光栄です」
「わたし共の方こそ、ありがとうございます」
「もし父上から旅の許可が下りたらまた出るんだ」
「…左様でございますか」
「うん。…それでなんだけど、良ければその旅でまた一緒なら嬉しいなって」
「えっ!?」
「当然命の危険はあるし、メイドの給金の方が安定しているから無理にとは言わないよ。家に帰るまでまだあるから考えておいて」
「はい」
「…御意」
レヴィードの気持ちはもう既に次の旅に向けられているのだった。
予定通り、馬車は昼にカナマンに到着し、レヴィード達は降りて町を歩く。雨上がりとあってか、以前来た時よりも人通りが多く、食べ物や香水・装飾品などを扱う露店商も並んでいた。
「さて、ちょうどお昼時だしここで食事してから出発しよう。ディーアさんの薬屋の近くで美味しそうなお店を見たんだ」
レヴィード達は橋を渡ってシュードゥル地方側の区画に行き、その店に入って席に座る。
「ここのオムライスのキノコソース、美味しそうなんだよね」
そんな呑気な会話をしている時だった。
ドドド…ドドド…
地鳴りのような震動が起きて、コップの水に波紋ができる。
ドドド…ドドド…
その震動は徐々に大きくなり、厨房の方から皿が落ちて割れる音がする。
「余震にしては長いね…一回外に出よう」
レヴィードは異常と感じてぺルルとターシャを連れて外に出た。
「なんだ、あれは…」
レヴィード達が見たものは未だ経験のないものだった。
土埃を舞わせながら町の出入り口に向かって突進してくる巨大な黒い塊。
「ビッグポッグ…なのか?」
レヴィードは知っている中でその塊に近いモンスターの名前を口にするが全く別のモンスターのようだった。
猛獣退治をしてきたレヴィードですら見たことがない体長10mを越える巨大サイズ、その体格に比例して象牙のように湾曲しながら長く伸びた牙、その様はまさに怪物と呼ぶに相応しい。
「なんだ、あの化け物!」
「ダメだ!逃げろ!」
本来町を守る筈の聖騎士団はその見た目だけで恐れ戦き、住民を放って逃げる。
「町長に飼われていたようなものだからね。責務を守る気はゼロか」
「ぼ、坊っちゃま、どうしましょう…」
ターシャは涙目でレヴィードに伺いを立てる。
「どうするも何もあるかい?ここで何もせずに尻尾を巻いて逃げたら絶対後悔する。可能な限り戦うけど危なくなったら逃げるつもりで行くよ」
「…御意!」
レヴィード達はこのビッグポッグ、いや、規格外な化け物として別の呼称をしよう。ギガントポッグに戦いを挑む。
ギガントポッグは猛然としたスピードで町のゲートに突っ込む。ある程度頑丈に出来てるはずだがゲートや周りの壁はビスケットが砕けるように簡単に壊れる。
「えいっ!」
「飛氷槍!」
ターシャとレヴィードは矢と魔法で遠距離攻撃を仕掛けると、効いてる様子はないのだがギガントポッグはレヴィードを視界に捉えると突進を止めた。
「…フーッ、フーッ」
「…?」
ギガントポッグは鼻息を荒くしてレヴィードを睨みつける。それは獲物を捕捉する目というより、何か別な、もっとドス黒い感情が込められている気がしてレヴィードの背筋に悪寒が伝う。
「オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛ェェェ!!」
「えっ、喋った!?」
ギガントポッグの雄叫びは空耳ではなく、明らかに人語であった。言葉を喋る魔族以外のモンスターはかなり珍しい。
「俺を返せ…?どういうことなんだろう」
「フゴォォ!!」
「考えてる暇はないか」
ギガントポッグはその鋭利な牙を突き立ててレヴィードに突っ込む。
「柔水壁!」
それに対してレヴィードはスーライの村の時のような転倒を狙う。
「グッ…ブォオオォ!!オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛ェェェ!!!」
しかし、柔水壁は刺突に弱いせいか、鼻よりも大きく前に突き出た牙が壁を突き刺し、壁は水飛沫となって四散する。
「ダメか…。どうしよう…」
レヴィードは辺りにキョロキョロ見渡す。
「あっ、ぺルル!あの家の屋根に登れる?」
レヴィードが指差した先には近い間隔で並ぶ民家が2軒ある。
「…なるほど!出来ます!」
ぺルルは民家を見てレヴィードの作戦を察したのか、了承する。
「よし、じゃあ誘い込むから頼むよ。ほら化け物、こっちだ!」
レヴィードはギガントポッグを挑発してその民家の方に走り、ギガントポッグもレヴィードを猛追する。走るスピードはギガントポッグの方が断然速いが、距離が近いレヴィードの方が先に民家に着く。
「ほら、こっちこっち」
レヴィードはその民家同士の隙間に入り込む。その隙間は大人2人が並んで通れるかどうかくらいの狭い道である。そこにギガントポッグが突撃するが
「フゴッ、フゴッ!!」
牙は民家を貫くが倒壊には至らず、むしろ引っ掛かって身動きが取れなくなった。
「今だ、ぺルル!」(この家の人、ごめんね)
「はい!」
レヴィードの合図と同時にぺルルは民家の横に置いてある木箱を踏み台にして屋根に飛び移って走り、ギガントポッグに接近する。
「はあぁっ!!」
ぺルルは屋根から飛び降り、身動きが取れないギガントポッグの眉間に旋棍の重い拳撃を喰らわせる。普通の人間やモンスターであれば、脳震盪を通り越して頭蓋骨陥没で即死してもおかしくない程の破壊力である。
「ブォオオォンンッ!オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛ェェェ!!」
だがギガントポッグは少し怯んだ程度で、頭を乱暴に振り回して民家を壊し、頭上のぺルルを振り投げる。
「うわぁぁ!!」
「危ない!柔水壁!!」
振り投げられてぺルルは民家に激突するところだったがレヴィードの柔水壁でプルンと弾かれ大怪我を免れた。
「オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛!オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛ッ!!」
「さっきから、何を言ってるんだ」
ギガントポッグは牙を振り回してレヴィードに迫り、レヴィードは後ろに跳んで避けながら反撃のチャンスを窺う。
(よし、今だ!)
レヴィードは振られる巨大な牙を掻い潜り、スライディングでギガントポッグの顎の下に滑り込む。
「喰らえ、飛氷槍!!」
ブシュ、ブス、ブシュ!!
「ブフォォォッ!!」
レヴィードが唱えた飛氷槍はほぼ零距離で放たれ、ギガントポッグの顎下から鼻を貫通した。これはさすがに効いたのか、ギガントポッグは痛みでのたうち回る。
「ブォ、ブォ、ブォ…オ゛レ゛ヲ゛カ゛エ゛セ゛ェェェ!!」
しかし、ギガントポッグのレヴィードへの執着はむしろ増し、血をボタボタ垂れ流しながらレヴィードに突撃してくる。
「どうしてこうも僕に向かってくるんだ?」
ギガントポッグの頑強さと執念深さにレヴィードはただただ呆れるばかりであった。
街中でのダイナミックな戦闘シーンの描写は難しい。伝わってますかね?




