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十六話・ヤツは変身も出来ました。

「これでよし。後、買うモノは……カイリの服は本人連れてきた時買うか。おやつと、大きいカバンとあたしの靴か。カイリの靴も買ってやりてェがサイズがな。店員に聞けば平気かな」

 今後の目的をぶつぶつ呟きながら、ルリコは薔薇の門を通り抜けた。商店街の簪やアクセサリーを冷やかしながら、手持ちの金を考える。

(二人分って、結構物入りだよなぁ……やっぱ真珠換金すっかね)

 簪を何本かと螺鈿細工の櫛を二つ買い、ルリコは簪を沢山つけた女性店員に屋台街の場所を聞く。場所を覚えると、哀れなカイリへのお土産を買いに向かった。


 服や装飾品の商店街から少し坂を下り賭けのトンネルを通り、道なりに進むと煉瓦が敷き詰められた広場に出た。広場には所狭しと様々な屋台が並び、中央には大きな池があり、甲羅が金と銀の大きな亀が何匹も悠然と歩いている。

「おおー、携帯で撮りたいけど、ちっと難いな。デジカメありゃあ良かったけど」

 ルリコは甘味の屋台を回ろうとしたが、いい香りに足が自然に向かう。

 向かった先の屋台には、大きな貝柱やエビを竹串に刺して焼いていた。味付けは塩だけのようだが、そこに惹かれる。

「おっちゃん、貝柱一本お願い」

 腹にサラシを巻いた(残念ながら下はふんどし)オッサンはルリコにニカッと笑いかけた。

「あいよ!若い姉ちゃんにはおまけしてやんよ!七十でいいよ!」

「ありがとおっちゃん」

 お釣りを受け取りながら、オッサンから貝柱を受け取った。何となく海を間近に見たかったのでウロウロ歩いていると階段が見付かったので降りてみる。

 降りると竹林の脇に石碑と崖があり、下に海が見える。崖まわりは金属製の丈夫な柵で囲われていた。

 ルリコは柵に寄り掛かりながら貝柱を齧る。

「うめぇー、船じゃこんなの食べれなかったからな〜」

 貝柱を齧りながら下を見ると、二メートル程下にイルカが何匹か見える。ルリコは一つ食べきった後、串から貝柱を取り二つに割ってイルカに投げる。イルカは投げた貝柱に群がった。

<姐御ー、オレ貝より肉がイイー>

 一際大きなイルカから声が聞こえ、ルリコは串を落としそうになった。柵の下に蹲ってじっくりイルカを見ると、一際大きなイルカには傷が沢山あった。

「おまえ……もしかして」

<姐御ー、もう忘れちゃった!?>

 傷のあるイルカは激しくぐるぐる回った。

「あーっと、――セタだっけ?」

<そう!姐御ッ、お肉食べたい!みんなの分もお願い!>

 イルカ達は無駄に跳ねたり、キュイキュイ鳴きせわしなく泳いでいる。

(声が聞こえんのに鳴き声も聞こえるって不思議だな。でもうるせー)

「まあ奢る位別にいいけど。助けて貰ったしな。何肉よ?」

<オレ行くよ!選びたい!>

 セタは崖の下で楽しそうにキュイと鳴いた。ルリコはしゃがんだまま眉を寄せ呟く。

「イルカって二足歩行できんのか?皆さんびっくりしねェ?騒ぎになったら置いてくぞ」

<違うよ姐御ッ!置いていかないでッ!人間に変身すんの。なんたってオレ、海神様の子孫だし!えー、あーっと、“海神ニエルドの血族セタ、陸に住むヒトへ姿を変える事を望む”!>

 セタが叫び一度海に潜ると、海面に灰色の髪の男が浮かび上がった。褐色の肌には無数の傷がある。

 灰色の髪の男は器用に崖を登ると柵を飛び越え、ルリコの横に立った。

「どう?姐御?久しぶりに変身したけど、ヒトに見える?」

 意外に長身の灰色髪の男は銀の目を細めルリコに笑いかけた。ルリコは灰色髪の男――セタと呼ばれた元イルカを呆然と見ていたが、いきなり顔を殴り付けた。

 殴られふらついたイルカだった男は、赤くなった頬を擦りながら涙目で叫んだ。

「痛いよッ!」

「なら服を着ろ。捕まっぞ」


 イルカだった男は、全裸だった。


「あ、そっか。ヒトになるの久しぶりだから忘れてた!丸出しなんだよね!イルカは交尾の時しか出ないから忘れてた!ありがとー姐御」

「いいから服を着ろ。蹴るぞ」

 ルリコが射殺しそうな目で睨むと、イルカだった男は何事か呟き青い霧に包まれ、下半身は青迷彩のカーゴパンツ、黒いサンダルに変わった。上は裸のままだった。

「コレでいい?」

「……いんじゃね」

 ふんどし姿を予想し、身構えていたルリコはなげやりに頷き貝柱を食べる。セタは機嫌よさそうにニコニコ笑っていた。

(デケェ男が笑いやがっても可愛げのカケラも無ぇよな……なんかカイリを苛めたくなってきた)

 ルリコは貝柱を咀嚼しながらセタを見た。

 セタの身体には、イルカ状態と同じく無数の傷があったが、顔には右目下にしか無い為余計に目立つ。ルリコは貝柱を食べ終わると、近くにあった竹籠に串を捨てた。

「じゃ行こう姐御!」

「はーいはい」

 セタはルリコの右手を引きながら、軽快に階段を上がった。



「お腹へったよー。でも迷うなー」

 ルリコはセタに手を惹かれながら歩いていた。キョロキョロ屋台を見回しているセタを見上げながら、ルリコはぼんやり考えた。

(一般女子高生には、照れたりすっべきなんだよな。でも相手が人外哺乳類じゃあな……)

 広場の何人かの女性、はセタにアツい熱視線を送っているが、正体がイルカだと知っているルリコは、全くときめかない。

 ちなみに、ルリコの好みのタイプは銀行員の竹内力である。不器用タイプだと、尚良い。

「何種類でもイイけど」

「それは悪いよー。六人分だし」

(六匹だろうがよ)

 ルリコが内心ツッコミを入れていると、ある屋台の前でセタが止まった。黒い作務衣を来た渋いオッサンが、黙々と肉を串に刺し焼いている。塊を見ると豚肉の様だ。

「姐御ッ、コレがイイ!」

「はいはい。あ、ちょっと大きいモン買うからこの後買い物付き合ってくんねぇ?」

 セタは豚肉からルリコに視線を移した。腰に手を当て、視線を上に向け頷く。

「いいよ〜。暇だし」

 ルリコは荷物持ちを手に入れた。

「よし。アシ代に三本食わしてやる」

「やった!姐御最高ッ!」

「抱きつくな暑苦しい」

 ルリコは抱きついたセタを、うんざりとした顔で力任せに剥がした。

(ときめかねぇ……全く持って、ときめかねぇ。むしろイルカの方がときめく様な……あたしは女子高生失格か?ヤンキーとしては合格なのか?)

 ルリコは財布を出しながら考え、作務衣のオッサンに声をかけた。

「おじさん、八本お願い」

「……バラ肉でいいか?」

 作務衣のオッサンの見た目を裏切らないダンディーボイスに、うっかりルリコはときめいた。早鐘を打つ心臓付近を軽く押さえながら、セタに聞く。

「ッ!え、えっと、どうする?」

 セタはしばし肉を凝視した後、真面目な顔で言い切った。

「んーと、出来れば赤身脂身半々がイイ。塩も少なめでッ!」

「……肩背肉でいいか?」

(な、なんて美声なんだ……)

 ルリコはうっとりしながらも、力を振り絞り言った。

「はい……。それで……」

「姐御、顔赤いよ?」

 余計に事を言うセタに容赦なく肘を叩き込み、落ち着きを取り戻したルリコは財布を取り出した。

「すみません、いくらになりますか?」

「……七百二十だ」

 ルリコが料金を支払っている間、セタは蹲って苦しんでいたが、焼き上がる頃には元気を取り戻した。

「……兄さん、焼けたから手を出せ」

「はいおじさんッ!ありがと!旨そー!」

 セタは両手に肉を持ち上機嫌だ。ルリコは作務衣のおじさんに礼を言い、先程の場所へ向かった。



 ルリコは海に豚肉を投げ入れていた。海洋汚染が気になるが、“海の仲間”が投げろと言ったので気にしないことにした。

<美味いな>

<うめェよコレ!>

「あ、テホ!ヤムの分まで食うなよ!塩食わせるぞ!」

<ア、兄貴それだけはッ!>

<テホ馬鹿だな>

「コラー!ゴリ、お前だってテホの事言えないだろッ」

 セタはルリコの隣で肉を食べながら、イルカに文句を言ってた。

(平和だ……)

 イルカどもに肉を投げ与えながら、ルリコは思っていた。



 五匹に一本ずつ豚串を食べさせると、セタがゴミを引き取り捨ててくれた。

(イルカ野郎の癖に気が利くじゃねえか)

 ルリコはミニボストンからタオルを取出し手を拭っていると、またセタに腕を引かれた。

「じゃ姐御!なに買うの?」

「色々。具体的には靴と鞄と少年のおやつ」

「さっきのトコか。おーし、行こッ!」

 セタに半ば引きずられながら、ルリコは急いで鞄から携帯を出した。表示時刻は、宿を出てから十五分程しか経過していない。ルリコの感覚では二時間以上は経過しているが。

「セタさぁ、電気――雷とか起こせっか?」

「雷?やった事ないよ。必要なかったし」

「そう。おい、止まってこっち向きな。笑顔で」

 セタはルリコに言われた通り、止まった後に振り向き、無駄に白い歯を見せて笑った。

 カシャッ


「よーし、記念二人目。後は美女と美少女、美中年を寄越せと妹御いもうとごは仰るだろーな……」

 ルリコが携帯に画像を保存していると、セタが覗き込んできた。

「何それ?」

「携帯型撮影機能付電話機。忘れろ」

「うんッ!じゃ買い物だね」

 セタはまたルリコを引きずりながら階段を上がっていった。

(この海洋哺乳類はもっと疑問持たねぇのかよ?)

「忘れろ」と言っておきながら、ルリコは能天気なセタにかなり不安を覚えた。



「はい確かに、毎度ー」

「おっちゃん、ありがとなッ!」

 果実を練り込んだ焼き菓子の紙袋を受け取りながらセタは微笑み、紙製の手提げに紙袋を入れる。

「もうお菓子はいいか。次は鞄見に行くぞ」

「上行くんだね!」

 セタはまたもやルリコの腕を引き、先導して歩き出した。

「あんた先導してるけど、場所分かんのか?」

「うん!多分!」

「どっちだよ!?」

 ルリコはツッコミを入れながら諦め、セタに行き先を任せた。

 屋台広場を抜け、倉庫街の様な場所に入ると、広場の喧騒が嘘のように静まっている。

「あー、そういえばあの真珠売ろうと思うんだけどよ、いい場所知ってっか?」

「……姐御、ちょっとマズい。こっち」

 セタはヘラヘラしていた顔を引き締めると、ルリコを倉庫と倉庫の間に引っ張り込んだ。セタがまたぶつぶつ言うと、青い膜の様なものが周囲を覆う。

ルリコは指で膜を触ると、何の感触もなく膜を通り抜けた。

「……そーいやぁ、コレって魔法?」

 セタは腕を組み、首を傾げた。

「んー、全然違うけど似てる。その辺はものすごい長いから後でなッ!えーと、姐御の涙から出来た真珠だよね?その辺の店では売れないよ」

「マジでか?」

「うん。だって姐御、どこで手に入れたかって聞かれても答えられないよね?」

「確かにな。誤魔化せんのも二回位だな」

「………誤魔化す自信はあるんだ。で、あの真珠かなり大きかったよね?天然だとあんなに大きいの本ッッッッッ当に無いんだ。大きくて傷が無いのは“人魚の涙”って言われてるし」

「うっわ、そのまんまじゃねぇか……」

ルリコは前髪を掻き上げ、目を伏せた。

(人魚《性悪女》の涙だから、より美しい……ってか。サド野郎か、より性悪女が考えそーな事だな)

「だから姐御、売るなら普通の所じゃダメだよッ!身元が分かんない所で売って!ちゃんと売る時は変装もしてね!」

 両肩を掴み、頭突き寸前の至近距離で顔を覗き込むセタを、「近い!」とルリコは力ずくで引き剥がした。

「分かったよ。あたしも頑張るけど、セタの魔法で変装に使えるのあっか?」

「魔法とはちょっと違うけど……目の色や髪の色変えたり、髭生やしたりはすぐ出来るよッ!」

「――髭はいらねェ。じゃあ売る時は力貸してもらうよ」

「任せてよッ!もういいね」

 セタは一度両手を叩くと、青い膜が消えた。倉庫の隙間から出ると、ゴミがついていたのでルリコは服をはたく。セタもサンダルに入ったゴミを取り除くと、再びルリコの腕を取った。ルリコは取られた腕をちらりと見た後、セタを見上げた。

「そういえば、何で腕を持つ?」

「えー、だって離れると見つけるの大変だよ?それに姐御、海の匂いするから落ち着くんだッ!」

 ルリコは目を限界まで見開く。

 海の匂い。

(……あたし汗臭い!?)

 ルリコは表情を凍り付かせ、セタに引きずられていった。




イルカの生体について色々調べたのですが、中々面白いものがありました。イルカで四メートル以上のものは分類上、鯨になるそうです。

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