Fifth Brave〜狂気の英雄〜
初めての番外編。五代目勇者リアドの話です。ちょっと鬱気味なので注意を。
これは過去に描かれた物語。その仔細は既に失われ、誰も知ることのなかった物語。アグレイシアという惑星にて繰り広げられた魔王と人類の戦い。その五つ目の物語。五代目勇者である狂気の英雄と、その勇者と共にあった少女の物語である。
アグレイシアという惑星かあった。そこは地球とは違い、魔力に溢れ、科学の代わりに魔法が発展していた。しかしまだこの時代はあまり魔法が発展していた時代ではなく、『魔術王』が現れる前の話。未だに明日の生活すらも安定しない時代の話。
グレゼリオン王国という国があった。後に世界最大の国と言われるこの国であるが、まだこの時はそこまでの大国ではなかった。やっとの思いで大陸統一を果たし、魔物の駆逐も完了し、これからという時。その男はいた。
「……」
王国の中心にある王城の地下。そこには地下牢があった。そこには本来は囚人などはおらず、国家的に捕まっているという事実を伏せたい場合のみの牢獄であった。だが、そんな牢に一人の男がいた。
牢屋の中に入るだけでなく、身体中を鉄の鎖で繋がれて、ありとあらゆる拘束具をつけられていた。それだけでなく足の裏や腕に、剣や槍が無造作に刺さっており、見るにもたえない光景であった。しかしその男は苦しむでもなく、悲しそうにするわけでもなく、ただ笑っていた。
「ハハ、ハハハ。」
微かな笑い声が漏れでる。その笑いかたは明らかに喜びの笑いかたではない。狂気の笑い。聞くものを無条件で不安にさせる狂喜そのものだった。
その頃に足音が響き始める。カツン、カツンと硬質な足音は少しずつ牢屋に近付いていく。そして牢屋の前で確かにその足音は止まった。
「遅かったじゃねえか、ええ?俺はもう待ちきれねえってのによ。」
「……昨日依頼したばかりだろう。」
「俺の殺人欲求はそんなんじゃ収まりが効かねえんだ。毎日人を殺して、殺し尽くして、やっと落ち着く。」
牢屋の前に立った男、武器を持つ兵士はゴミを見るような目で男を見た。事実、彼は間違いなく社会という枠組みにそぐわない人物だ。人を殺すことに快楽を覚える人間などまともではない。
「……今日の依頼だ。」
そう言って兵士は鉄格子の間から紙束を投げる。そこには人の情報が載っていた。賊や犯罪者、中には貴族もいる。それが丁度十人分。
それを見て男は鎖を引きちぎり始める。いとも簡単に拘束具を外し、体に刺さる武器を抜いていく。血は流れるが、片っ端からそれは治っていき跡も残らず消えた。そして顔につく拘束具を外した時にやっとその顔があらわとなった。その髪の毛は赤黒く染まり、目はただただ蒼い。全体的に整っているはずの顔ではあるが、何故かその顔からは恐怖の感情以外を感じる事ができなかった。
「ふーん。ま、こんなもんか。」
紙束をパラパラめくり、そう呟く。そして鉄格子を歪めて無理矢理牢屋の外に出た。
「……感謝する事だな。お前は国王様との契約によって殺人の許可を特例に受けているのだ。国家が命令した人物に限定してな。」
兵士はそう言う。その口はまだ止まらない。
「まだ国内の情勢が安定しないからお前のような殺人鬼を使ってやっているのだ。用済みになればお前など――
「うるせえよ。」
男はそのタイミングで兵士の顔を掴み、片手でそのまま持ち上げる。兵士は抵抗しようと男の腕を掴むが、ピクリともその腕は動かない。
「俺が強過ぎて対処できねえから、せめてもの思いで危険人物を殺させようとしてるんだろうが。それとも何か、オイ。今から俺はこの王城にいるやつ全員ぶっ殺してやってもいいんだぜ。ああ、それも楽しそうだ。王国の騎士ともなれば歯応えがある奴もいるだろ。」
兵士の顔は途端に青褪める。そして何かを訴えかけるように話すが、その声は聞こえない。そこでやっと男は手を離した。
「……プッ。ギャハハハハハハハハハ!嘘だっての!真に受けんなよ!」
そう言って男は歩いて行く。着ている服は下半身のみで上半身は何も着ていない。これから人を殺しに行くとは思えないほどの軽装。
「安心して寝れるのは気持ちがいいからな。まだ当分はここにいてやるよ。」
しかし、間違いなく彼は殺人鬼であった。
彼は殺人鬼であった。最初は冒険者として腕を振るい、人を殺すことなど一切興味がなかった。しかしどこで道を違えたのか、ある日人を殺すという快楽を知った。彼はその中でも強い人間を好んで殺し、一人だけで一万人以上の人間を殺すという世界中で有名になるほどの殺人鬼となったのだ。
勿論、世界中が彼を追った。もはや裁判にかけるまでもなく、目撃したら即座に殺害せよとも言われた。しかし、彼は強過ぎた。数百の騎士を軽く蹂躙し、どんな人間でも彼を止めるには至らなかった。
だからこそ、グレゼリオン王国は決断した。殺害の全てを許可する代わりに、殺害対象を国が望む敵と限定するという条件である。この時代、グレゼリオン王国は未だに荒れていた。そのため、始末したいが証拠がないからできないような相手が何人もいたのだ。そうやって秘密裏に国家の力を高めていったのだ。
彼は毎日のように人を殺し、そして刑務所で眠りにつく。その生活を2年は続けていた。しかしその途中、転機が訪れる事となる。
彼はいつものように人を殺していた。手には何も持たず、肉を弄くり回す。素手で肉を開き、骨を折り、内臓を掻き回す。最早人の形を持たぬソレは国に隠れて麻薬を売り捌く大商人だったもの。彼は鼻歌混じりに人だったものの体を弄っていた。
「今日の分はこれが最後、だな。」
そう言って彼はニコリと笑った。その顔と指につく血がなければ、それはきっと心が癒されるような優しい笑みに見えたのだろう。しかしこの男は殺人に快楽をおぼえる異端者。その笑顔は人に恐怖を与えるものとなる。
「さーて、さっさと帰るか。ここにいる奴らは全員ぶっ殺しちまったし、死体弄りはそろそろ飽きてきたからな。」
彼は今日も隠れもせず、殺人を当然かの如く堂々と王城へと帰ろうとした時。彼の目は微かに、生命を捉えた。あまりにも微弱で今にも死にそうな生命を感じとったのだ。
「……んあ、奴隷か。」
疑問に思って部屋を探したところで、地面に転がる痩せ細った幼い少女を見つける。その首には隷属の首輪がついており、直ぐに奴隷だと分かった。隷属の首輪は命令を強制的に聞かせる事のできる首輪。奴隷でもなければ誰もつけようなどとは思わない。
「おうおう、あのデブは金は持ってたみたいだったが奴隷に飯は食わせてなかったのか。」
薄く目を開ける少女と目を合わせるようにして、男はしゃがみ込む。普通なら助けるのだろうと想像するだろう。いや、誰でも死にそうな少女を目の前にして無視は難しいはずだ。
「よし殺そう。」
だが、生憎とこいつは殺人鬼である。常識は通用しないし、面倒くさくなったら全員殺すという短絡的な発想の持ち主。相手が奴隷だろうが女だろうが子供だろうが、容赦などするわけがない。
「ああ、俺様は優しいな。こんなに苦しんでいる少女をサクッと殺して来世に送ってあげるなんて。マジ聖人だわ。聖女さまもビックリして腰抜かしちまうんじゃねえの。」
常人とあまりにもベクトルが違う善行を為そうと横たわる少女の頭を掴み、持ち上げる。少女は何もせず、ぼーっと男を見ているだけだ。そのまま地面に叩きつけようと男が力を込めようとした瞬間、少女が口を開く。
「名前」
「ぁあ?何言ってんだ。」
「なんて、いうの?」
それは今から殺される事を理解していないのか、それとも理解した上で聞いているのか。どちらにせよ不思議な質問であった。しかしその不思議な感覚に呑まれてか、男はその質問に答えを返す。
「……名前なんざねえよ。親もいねえし、冒険者登録も適当な名前で済ましたからなァ。」
「それ、だと、不便でしょ?」
あまりにも的外れな質問。風貌から見るに相当虐げられてきたのだろう。更に言うならば、目の前でこの男は人を殺したのだ。だというのにその少女に一切の怯えの色は見られない。
「どうやって、貴方を呼べばいいの?」
「呼ぶ必要はねえぜ。これから死ぬ人間が、これから口を失う人間が人の呼び方なんて気にしてちゃあ仕方ねえってもんだろうが。」
男はそこら辺に落ちるナイフを拾い、逆手で持つ。しかしそれでも尚、少女は真っ直ぐ男の目を見る。
「……わかった。」
そしてナイフを振るう直前、少女の口から声が溢れる。男は腕の動きを止めた。
「なら今日から、あなたの名前はリアド、ね。」
「は?」
少女は初めて大きく感情を顔に出す。まるで宝物を見つけたように、その顔は笑っていた。
「ねえ、リアド。」
「人を勝手に決めた名前で呼ぶんじゃねえよ。」
そう言いながら男は少女を地面に下ろす。少女は男の足に抱きついた。
「うざってえ、離れろ。やる気がなくなった。帰る。」
「わたしも、連れてって。」
「牢獄に入って全身刺されてえのか、テメエ。やめとけやめとけ。」
男は服や体についた血を厭うこともなく、そのまま館の中を歩いていく。その後ろから少女がずっと付いてきていた。
牢獄の前に一人の男が立っていた。豪華な服装に身を包み、若々しいが知性を目に宿している男。その目が殺人鬼を射抜く。
「まさかお前が幼女趣味だったとはな。通りで女を寄越しても全く反応しないわけだ。」
「……うるせえよ。」
殺人鬼は少女を連れ帰り、王城の人間に預けた。それは彼をよく知る人物であればあるほど不思議な光景であり、異様な光景でもあった。
「別にそんなんじゃねえよ。ただ、あいつは殺しても面白くなさそうだからな。」
「はて、それは不思議だ。殺せたら誰でもいいと思っていたのだが、違うのか?」
「強い奴でありゃあいい。そしてプライドとかがズタズタになりながら死んでいくと尚いい。」
殺人鬼は殺しは好きだが、やはり質を選ぶ。食事が好きとはいえ、何でも食えるかと言ったら話が別なように。勿論、好物と苦手なものがある。
「はあ、なるほどねえ。狂人の思考はよく分からねえよ。」
「分かってもらいたくてやってんじゃねえよ。人を殺したいから殺す。それだけの事じゃねえか。」
「まあそうか、リアド。」
男は何気なく殺人鬼の名前を呼ぶ。それは間違いなく少女が付けた名前であり、それを認識した途端、殺人鬼は殺気を放って男を睨みつける。
「王様よォ。殺されてえのか、えぇ?」
「ククク、あの少女がお前の事をリアドと呼んでいたからな。ふむふむ、確かにあの少女は不思議な子だ。」
男、否。グレゼリオン王国の国王は愉快げに笑う。
「君が私の正義に従う事を祈っているよ。」
「ハッ、正義なんて抜かす奴が一番この世で信用ならねえんだぜ?」
暗く世界が沈む。
ある日、男が少女を拾って随分経った日。今日も牢獄に少女は来ていた。薄汚れていたあの時とは見違えるほどその体は綺麗になり、美しい白髪と顔が露わになっていた。良い待遇を受けているのか、随分と煌びやかな服も着ている。
「リアド、来たよ。」
「俺は来いなんざ言ってねえんだよ。」
太々しくリアドはそう返す。しかしそれを無視して、少女は楽しく笑う。
「ねえ、リアド。私に名前、ちょうだい。」
「あ?」
「私、名前なかったの、思い出したの。」
「今更過ぎんだろテメエよお。」
リアドは呆れたようにそう返す。少女は牢屋の鉄格子を掴み、顔を出して言葉を続ける。
「だから名前、ちょうだい。」
「……んで、俺がんなことをよお。」
「私、リアドって名前、つけたじゃん。」
「俺は頼んでねえんだよそんなことよ!」
そう、と少女は少し悲しそうに項垂れる。それを見て、何故かリアドは居心地悪そうにして、溜息を吐いた。
「……なら、テメエの名前は今日からリアだ。めんどくせえからそれでいいだろ。」
「!……大切にする!」
「名前を大切にするって、なんだそりゃあ。」
リアドから取ってリア。単純で気遣いの欠片もないような名前の付け方。
「大切に、する。」
それでも彼女は嬉しそうに、その名前を何度も口にした。
それから数年後、世に魔王が現れた。魔王を倒すのは常に勇者。ならば選ばなければならない。新しい勇者を。
「俺が勇者、ねえ。」
そして、不思議なことに選ばれた男はリアドであった。聖剣はリアドを指名し、後はリアドが抜くのを待つのみ。しかしリアド自身が、その事にあまり納得できていなかった。
「良かったじゃないか、リアド。殺人鬼から勇者への栄転だ。」
「望んじゃいねえんだよ、んなこと。」
話し相手は王。リアドは心底不快げに話している。
「勇者になったら俺が好き放題人を殺せんのか?人類が滅んで、俺に何か不都合があるのか?別に俺は生きる事に執着はねえんだからよ。」
「でも、リアは死ぬぜ。」
「……あいつは、関係ねえだろうがよ。」
しかし確かにリアドの顔は歪む。痛いところを突かれたかのような、そんな顔に。
「お前も、丸くなったな。人を殺す量は年々減ってきてる。遂に殺人欲にも底が見えたか?」
「……」
「まあ確かにそうだ。性欲だって若い時がピークだが、歳と共に衰える。それと同じかもしれねえ。」
リアドは何も言い返さない。それが事実であることを認めるように。
「だが、どう考えても契機がある。お前とリアが出会った時、それからお前の殺人衝動は落ち着きを迎えている。」
「……何か不満かよ。」
「いいや、国としては喜ばしい限りだとも。そろそろ殺す相手も見つからなくなってきたところだしな。」
良かった良かった、と王は言いながら牢屋の前を去っていく。
「おい王様ァ!俺は勇者なんかならねえからな!」
「ハハ、じゃあ俺は辛抱強く待つとするよ。お前が勇者になるのをな。」
もはや決定事項かのように王はそう言って、この場を去った。
地下牢を少女が訪れる。毎日十人以上殺していたあの時とは違い、もう一週間に一度しか人を殺さなくなった殺人鬼。しかし少女は一切その態度を変えることなく、殺人鬼の前に立つ。
「リアド、勇者になるの?」
「いや、ならねえよ。」
「……そう。」
リアは無感情に会話をし、リアドもそれを適当に返す。
「そもそも俺が勇者なんざ性に合わねえよ。」
「……そう?」
「当たり前だろうが。十万人殺した俺が、世界を救うなんてよ。」
「私は、そうは思わないけど。」
「あ?どこがだよ。」
「だって、私にとって、リアドはずっと英雄、だよ?」
「ハ、馬鹿抜かしやがるせ。」
「本当、だよ?」
「ああ、知ってる。テメエは嘘つけるほど頭良くねえからな。」
「馬鹿に、してる?」
「いいや、してねえさ。俺も馬鹿だし、人類ってのは全員馬鹿だからな。馬鹿ってのは悪口にならねえ。」
「……そう。」
リアはリアドの目を見る。そして真剣味を帯びて、その声が口から発せられる。
「私に、とって、リアドは英雄、なの。」
「……」
「私を、助けて、くれた。」
「……気紛れだぜ。」
「確かに、そう、かもしれない。でも、私がリアドに助けられたことは、変わらない。」
リアドはその言葉を聞いた。それは間違いなく、リアドの心を揺らした。
「だから、リアドは、英雄なの。」
「……そうかよ。」
平然を装って、リアドはそう返す。そして体に刺さる数多もの武具を抜きながら、鉄格子を蹴り抜いて壊した。
「……?仕事、行くの?」
「いーや、違うな。」
殺人鬼は笑う。しかしそれは残虐な笑みではなく、
「ちょっと、世界を救いに行くだけだ。」
少年のような、楽しげな笑みだった。
リアドは玉座の間にて、手に持つ二振りのダガーを弄る。
「これが聖剣ねえ。まさか形を変えれるもんだとは思ってなかったぜ。」
聖剣を最も容易く抜き、そして鍛治王によってダガーによって変えられた聖剣。勇者は鍛治王の手によって一番手に合う武器に聖剣を変えてもらい、それから旅に出る。それを盾にした勇者もいれば、銃にした勇者もいる。
「王様よ、約束忘れてねえよなあ。」
「ああ、リアの安全はこちらが保証しよう。その代わり、絶対に魔王を倒せ。」
若き王と殺人鬼は契約をする。
「俺は、リアのために勇者になる。」
「……ああ。」
「テメエらはどうでもいい。そこんとこ忘れんなよ。」
「分かっているとも。」
殺人鬼はこの時、一人の少女の為に殺人鬼を辞めた。そして、勇者となる。
「行け、五代目勇者リアドよ!グレゼリオン王国国王の名において、その戦いを支える事を誓おう!」
勇者が、誕生した。
あれから、二年の月日が経った。魔王は堕ちた。魔王がいた地はもう跡形もなく、魔王の死体が転がっている。そしてそんな中、一人の男が立っていた。
「随分と、時間が経っちまったなあ。」
その右目はなく、左手も失っている。いつもなら治るはずのその傷も、魂を削られては治す術はない。もう、彼は最強ではない。今でもその強さは健在であるにせよ、人類と一人で戦えるほどの力はもうない。あの鬼神のような力は既に失われた。
「……帰るか。」
自分の犯した罪であれば、帰っても直ぐに捕まって処刑されるのだとリアドは分かっている。しかしそれでも帰りたかった。会いたかった。自分を英雄だと言ってくれた少女に。自分が、戦う理由をくれた少女に。
勇者は、一人の少女の為にその足で地面を蹴った。
「ふざ、けんなよっ!」
現実というのは、あまりにも残酷で都合の良い方にはできていない。こと、この時代では特に。
「なんでッ!なんであいつが死んでんだテメエ!約束はどうしたァ!ええ!!!?」
帰還した彼を出迎えたのは、リアが死んだという報告であった。王の胸ぐらを掴み、リアドは叫ぶ。身体中の疲労など考えずに、ただ目の前の怒りを果たす為に。
「……リアは、アルトスール王国の王女だった。正確にいうなら王と庶民の子であったがな。」
王は悲痛な顔で現実を語る。
「王にとって都合の悪かったリアは奴隷として売られ、それをお前が拾った。」
「それ以上喋んじゃねえ!そこまで言やあ分かる!」
リアドは手を離す。宙に浮いていた王は落ちる。少女の為に戦った男だったが、もうその少女はいない。
「なら、俺は、何の為に……」
リアドを兵士が捕まえる。全盛期なら兎も角、魔王を倒して弱くなった勇者など一介の兵士で捕らえられる存在でしかなかった。王は苦しげながらも立ち上がる。
「ガッ!何の真似だテメエら!」
「……リアド、王の名において裁く。公開処刑を、執り行う。」
あまりにも残酷な世界が、そこにはあった。
断頭台にてギロチンが置かれ、そしてそれを見守るように人が集まる。リアドの処刑は国民の総意であった。勇者として確かにリアドは人を救った。しかし、数十万の人を殺した。だからこそ、他ならぬ国民が処刑を望んだのだ。
「これより、元五代目勇者にして大量殺人犯であるリアドの公開処刑を執り行う!」
執行官が声高らかにそう叫ぶ。それに歓声をあげる国民もいれば、痛ましいものを見るような国民もいる。しかし誰もその処刑を止めることはない。
「罪状は万以上の殺人を行い、人の命を奪ったこと!それは勇者の功績を見ても、許されざる事である!」
リアドは縛られた状態で断頭台の前まで連れてこられ、そしてギロチンの台にかけられる。
「よってギロチンによる斬首を以て、その罪を贖う事とする!」
処刑が始まろうとする。しかしそれより早く、リアドは叫んだ。
「よく聞け王様!どうせどっかで聞いてんだろ、オイ!」
民衆に響めきが走る。これから殺されるとは思えないぐらいの胆力。そして王に向かってのこの態度。それは不快というよりも恐怖が先に走った。
「俺を殺すってことはよ、どれだけの善行があっても殺人は許さねえって事でいいんだよなァ!」
言っていることは民衆には何も分からない。だが、そんなことを気にせずに叫び続ける。
「世界を救った俺でもよォ、人を殺すって事は許さねえって事で良いんだよなァ!」
その叫びは、間違いなく彼にとって意味のあるものなのだから。
「絶対に滅ぼせよ嘘つきがよォ!あのクソッタレのアルトスールの国王をぶっ殺せ!他ならぬテメエがそれを認めたんだからよ!」
彼が許されないのであれば、リアを殺したアルトスールの国王が許されていいはずがない。何の罪もなく、自分の都合だけで人を殺したあの国王が。
「絶対に――
「やれ。」
ギロチンの刃が、落ちた。
これが、リアドの話です。勇者の中で、というか英雄の中でもぶっちぎりに報われない話です。この構想は割と直ぐできたんですが、他の話は構想がまだできてないんですよねえ。
後半とか気力が尽きて雑になってたんですが許してください。