平凡な英雄記後日談①
最後の戦い。破壊神と俺達の戦い。それが終わって、俺がこの世界に舞い戻ってから、大体一年ぐらい経った。あれから起きた事を纏めていこうと思う。
まず俺だ。神によって生き返った俺は、その代償に全ての能力を失った。頑張ってあげたレベルも勤勉之徳も無限加速も、夢想技能すらも剥奪された。闘気もすっからかんだし、魔力もゼロに近い。
唯一残ったのは単純な技量だけの剣術だけ。聖剣もなくなったし、ただやたら剣が上手いだけの一般人に格下げだ。ああ、つまらない。
「ジンさん、朝ご飯ですよ。」
「おう、分かった。」
そんで、俺はシルフェと結婚した。まあどちらかというと慎ましやかな結婚式だった。身内だけ集めて馬鹿騒ぎしただけ。楽しかったけどな。
シルフェは次期ファルクラム家の当主だから、俺の立ち位置は公爵夫人か?ああ、いやいや落ち着け。これから解説するがまだ俺には役職が色々とある。決してシルフェのヒモだとかニートではない。
「というかよ、前々から思うが次期公爵が家事をやるっておかしくないか?」
「は、今更何を。私の数少ない趣味ですよ。」
「いや、お前がいいならそれでいいが。」
まあそんな感じでシルフェも相変わらずだ。仕事の世暇に料理をするのが日課だし、こいつ俺にさんざん言うけどそっちもおかしい。
「私としてはジンさんが書類仕事ができる方が驚いてますよ。」
「おいおい、そりゃどういう事だ。馬鹿にしてんのか。」
「いえ、剣を振ることしか脳がないかと。」
「はっ倒すぞ。」
「どうぞご好きに。」
こいつ本当にしたたかになったな。というか血の気が消えた。学園生活した頃はぶち殺すとか言ってた気がするけど、なんかもう言わないし。
「言ったろ。前世の世界は剣なんざ振らねえんだよ。だったら頭を使う以外の道じゃレイと喧嘩できない。」
「ですが私は剣に狂ってるジンさんしか知らないので。剣の勇者とか剣神とか呼ばれてますけど『狂剣』が一番相応しいんじゃないですか?」
「やめろ笑えねえ。」
それに最近はそんなガチで剣はやってねえ。たまに領内の騎士団と遊んでくるぐらいだ。
「まあ、最近世界のシステムが一変したし、みんな同じ条件になって楽になったな。」
「学者あたりはは大変らしいですけどね。」
そう、あの支配神の野郎。システムを変えたのだ。レベルシステムが消えて、上位技能までのスキルが消失した。神位技能が普通のスキルになって、レジェンドとオリジナルだけが残ってるって感じだ。
なんなら魔法もちょっと法則というかルールが変わったらしい。まあ俺は魔法方面は疎いからな。よく分からん。
「そういや、アクト達は何やってんだっけ?」
「千魔人器作りに世界を翻弄してますよ。その内、聖剣より強い武器をジンさんに送りつけるらしいですよ。」
「いらねえよ……」
アクトとクラウスターは世界を旅している。それで魔物ぶっ倒して素材剥ぎ取って人器を作っている。アクトとこの前手合わせしたらなんか凄い強くなってたし。多分あいつが今は人類最強なんじゃねえの。ディザスターは本当に死んだみたいだからな。
「エースも復興作業が順調らしいな。フィーノがこき使われてるって愚痴ってたし。」
「ええ。もう既に一部の国は復活してますから。」
しかしまあ、三大国家は一つも復活してないらしい。クライもオルゼイも、長い歴史に終止符を打った。
「そういや、七大騎士ってかシンヤは何やってんだ?」
「……そういえばそうですね。いくらオルゼイ帝国が消えても目立つと思うのですがね。最近は見ていません。」
「ちょっと、今度話にいくか。あいつらも何か忙しいのかもしれねえし。」
俺は食い終わると手を合わせて、その後に立ち上がる。もう聖剣はないし、適当な木刀を持って。
「んじゃ、俺は先に行ってくるわ。」
「ええ、どうぞお気をつけて。いくらかは戻りましたが、魔力も闘気もほぼゼロなんですから。」
「わかってるよ。」
そう。俺には仕事がある。シルフェの手伝いもよくするが、本職は別だ。決してヒモだとかそういうわけではない。
「まあ、仮にも王国総騎士団長だ。遅れは取らねえよ。」
俺はかの人類最強の後釜についたわけだ。もうそんなに強くはないんだが、エースに無理矢理やらされてる。まあ、別に大して嫌じゃねえからやってるけど。
「まあ、そうでしたね。『英雄王』なんていう大層な称号も賜った事ですから。」
「……うるさい。やめろ。俺はそれ恥ずかしいんだよ。」
「そういえばジンさんの本がそろそろ出版されるそうで。」
俺は顔を抑える。なんだよそれ。こちとら人生2周目だぞ。それに最近ほとぼりが冷めてきめ、余計恥ずかしくなってきたのに。俺の人生そんな特筆することないぞ。
「……そういや、これから先どうなるんだろうな。精霊王も消えて、聖剣も一つなくなって、復興はしてきてるけど国も殆どなくなった。騎士王もいなくなったときちゃあ、な。」
「陛下がなんとかしますよ。なんたって『覇王』ですからね。」
「まあ、そうかもしれないけどな……」
一つ、懸念がないわけじゃない。あの時、俺は間違いなく破壊神の力を、魂を断ち切った。完全に殺したと言えるし、まだ生きているなんて事にはなりゃしない。
「嫌な予感がすんだよ、シルフェ。」
「嫌な予感?」
「ああ、そうだ。今すぐじゃねえ。もっと遠い未来。何かあるような気がしてならねえ。レイならもっと具体的な答えを出せてたんだろうけどよ。」
レイはこの世界のシステムへの理解が深かった。だからこの俺の妙な違和感もピタリと言い当てることができただろう。しかし、死んでしまったものはどうしようもないのだ。
「ちょっとシンヤと話すことが増えたかもな。」
俺は大きくため息を吐く。俺には既に全盛の力はない。今だったらエースにもアクトにもシンヤにも、下手したらシルフェにも勝てない。厄介事を持ち込まれたら対処はできないとみていい。
「一応、私も多少は調べましょうか?」
「いやいい。所詮は俺の予感だしな。そんな時間割く事じゃない。」
そう言いながら部屋の扉を開けて振り返らずに右腕をひらひらと振る。
「まあ、なんとかするさ。もう争い事は勘弁だし、手早くな。」
「ええ、気をつけて。」
俺は今日もこの世界で生きる。