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転生士・山田の華麗なる日常  作者: ホルス
一章
5/5

華麗なる日常の始まり?その4



※「こんな所で 白目をむくとは 情けない!

勇者よ! 早く目を 覚ますのじゃ!」


まぶたを開くとそこは、不思議な世界だった。

スラム街の街並みは変わりなく、相変わらず汚い。

先程までと変わらず、頭上に登る太陽は眩しく

照りつけてくる。


しかしこれはなんだ。何の冗談だ。

目の前にカクカク動く老人は、僕が昔から愛する

ドット絵で表示されており、その顔の下には

吹き出しが用意され、発したであろう文言が

表示されている。


※「おお! 勇者よ! 気がついたか。 間抜けな顔を

していたもんで デコピンでも 喰らわせようと

思っていた ところじゃ」


どこかから懐古心をくすぐるBGMも聞こえてくる。

ハッとして自分の手を見つめる。ドット絵に

なっていない。スラム街にある窓を見ると、いつもの

通りの眼鏡の僕がいる。どういうことだ?


※「早くそこに あらせられる リリル姫を 連れて

王様の 城に 向かうのじゃ!」


「リリル?・・・!はっ、ペロフちゃん!」


老人が指したと思われるその先を見ると、エルフが

いた。しかし、今まで見ていた可愛らしい服とは違い、

全く違う姿に驚く。姫、という言葉通り、エルフは

ピンクを基調とした衣装を身に纏い、道端に横に

なり、気を失っている。これはドレスか。


「これもまたたまら・・・いやいやいや!すみません

ご老人、この女性の名はリリルと言うのですか?」


※「早くそこに あらせられる リリル姫を 連れて

王様の 城に 向かうのじゃ!」


「・・・は?」


カクカクしてる。どうやら彼の役目は既に終わった

ようで、同じ質問をするとループするようだ。


「ゲームと同じシステムを構築し、ここら一帯作り変えたと見て間違いないな」


考えられるのは、『創世神の心得』を用いた改変だろう。

とびきり凶悪なスキルだ。これを使えば世の理を

書き換えるのすらお手の物、神を顕現させ、この星を

焼き払う事も容易だろう。


だが、まだ街並みは今まで通り変わっていない。

強いて言えば、おかしな老人が目の前に居てカクカク

しているくらいだ。あとペロフちゃん可愛い。


この事態の犯人は何が狙いだ?その気になれば僕という

存在を抹消し、無傷で異世界転生の書を手に入れられると

いうのに。


「ん、・・・う・・・・ロイ、ド様?」


「ペロフちゃん!」


起き上がろうとするエルフを抱きかかえ、介抱する。

それにしてもすごい格好だ。元々の質がいいのも

そうだが、まさしく姫と言うに相応しい存在感だ。

エルフが差し出す右手を強く握りしめる。


「ご無事でしたか・・・何があったんでしょう。私、

あまりの光景に目がついていかなくて」


「ごめん・・・異世界転生の書を悪用されたんだ。

犯人はこの世界を作り変えて、自分の望むものに

変えようとしている。急いで止めなきゃならない」


「そん、な・・・」


握った右手を握り返すエルフ。その手は優しく儚く、

小刻みに震えている。度重なる事象に体が付いて行かず、体力を損耗しているのだ。こんな女性を連れて歩けない。

くやしい。こんなにも可憐な女性を、危ない目に合わせた

自分自身が情けない。


「ここで待ってて。異世界転生の書を奪われた僕自身の

責任だ。この後始末は自分でつける」


「ごめん・・・リリル」


「え・・・どうして私の名前を?・・・ロイド様っ!!」


振り返らず走っていくロイドにすがるように、リリルは

右手を差し出すも、遠くまで行ってしまった背中を

見送ることしかできなかった。


「ロイド様・・・キャッ!」


無理に立ち上がると、慣れないヒールを履いているためか

ぐらつき倒れそうになる。寸前、老人にぶつかる。


「ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」


※「早くそこに あらせられる リリル姫を 連れて

王様の 城に 向かうのじゃ!」


「え・・・?」


何気なく空を見上げると、そこには天に届くほどの

居城が彼女の目に映った。



リリルの名前を発すると共に、僕は老人の脇を通り過ぎて

路地を駆け抜ける。老人は言った。城へ迎えと。


この路地からもわかるほどに、巨大にそびえ立つ城が

見える。高さおよそ300m。王様の城と聞こえはいいが、

それは禍々しく異彩を放つ作りをしている。


いくつもの家屋がひしめき混ざり合い、ぐちゃぐちゃに

固まっている感じだ。上の方からは紫の液体が滝を作り、

その城の周りには黒い瘴気がまとわりつく。

一言で言うなら魔王の城だ。


駆けていく道中の人々は、みんなドット絵となっており、

ゴミ箱を漁っていた犬もドット絵になっている。


来た時も思ったが、このスモークサーモン通りは

なんとも難解な作りをしている。ただひたすらに

真っ直ぐとは進めず、右折、左折、転回してと、

簡単には城に辿り着けそうにない。


「うっ!また行き止まりか・・・」


乱雑に立つ街並みに、右往左往する。抜け道は

見当たらない。壁を撃ち抜くか?いや、そんな事は

出来ない。僕は所詮異世界転生の書が無ければ、

一般人と変わらない性能しか発揮できないからだ。


「迷っている場合じゃない!別のルートを・・・」



テレレレーン!!!



効果音が鳴る、途端!空間が、ガラスのようにバリバリと音を立てて崩壊する。そして、一瞬の暗転と共にそれは

姿を現す。


(商人A が現れた! カツアゲヤンキーB が現れた!)


「来るとは思っていたが・・・バトルだと!?」


これはまさか、ゲームの続きか・・・?

ドット絵で出現したそれらは、武器を持ち立ちはだかる。

商人はそろばん、ヤンキーはベコベコのバットを

持っていて、使用済みらしく血が付いている。


「僕の武器は・・・くそっない!!素手で戦うしかない

・・・のか・・・」


(商人A の攻撃! ロイドに18の ダメージ!)


まごまごしているうちに、先制攻撃を食らってしまった!

痛い。そろばんの角で肩をやられてしまった。派手に

血も出ている。商人のくせに、結構強いようだ。


「っぐっ、これ以上やらせてたまるかっ!!」


傷を受けていない右手で強く振り抜く!


(ロイドの 攻撃! クリティカル!!商人Aを 倒した!)


「なんとか一人目だ、次はヤン」


(カツアゲヤンキーBの 攻撃!チョーパン攻撃!)


(ロイドに 94の ダメージ!!)


額から血を吹き出しながら、遠のく意識を必死で保つ。

よく見ると上にHPとMPの表示がある。

HPの残りはわずか2。MPは0らしい。


おい・・・バットはどうした・・・。

警戒していた分急な肩透かしで食らっちゃったじゃん。


痛みに耐え、ギリギリの所で立っている姿勢を保持する。

稚拙だが、上にある体力の表示は間違っていない。

あと一撃でももらえば、確実に僕は昏倒する。


目の前が暗くなっていく。吐く息は荒く、吸う息は上手く

酸素を取り込めない。派手に流れる血が目に入り、

視界が真っ赤に染まっていく。


「こんな所でゲームオーバー、かよ・・・?」


メガネの下から、ローブの袖を使い目を拭う。

人影のようなものが、こちらへ向かってくる気がする。

敵の増援か?こんな状況だ、敵以外にない。


ぐるぐると回転する視界。終わりが近い。


「・・・・・ま・・・・・ドさま・・・・」


幻聴だ。死の間際に、一番聞きたい声を僕に届けて

くれたみたいだ。リリル。ごめん。何にも出来なかった。

妹さんを助ける手伝いも、果たせそうにない。


「ロイド様っ!!」


(仲間が 現れた! リリルが路地から 飛び出した!)


「・・・・・は?」


「ダメだ・・・リリル!ヤンキーのチョーパンは、

凄い威力なんだ!君がそれをく」


「キャァッ!!!!!!」


リリルは不意に体勢を崩し、カツアゲヤンキーに

ぶつかるように衝突した!


(リリルの ヒップアタック! カツアゲヤンキーBに)


(326486510 のダメージ! 敵の群れを 倒した!)


「・・・・・へ・・・?」


カツアゲヤンキーを凄まじいダメージで倒すと同時に、

その勢いのままボヨン、と可愛く尻餅をつくリリル。


「あうう・・・、何が起こったの・・・」


衝撃的ダメージを叩き出した女性の一言とは思えない。

ゲーム以前に、この子はチート級能力者なのか・・・?


「ぐっ・・・!」


「ロイドさまっ!」


滴る血と共に、地面に倒れこみそうになる。

限界だ。HPも1しかない。

消え去っていく意識の中、嗅いだことのある、

甘い香りがした。

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