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転生士・山田の華麗なる日常  作者: ホルス
序章
1/5

華麗なる山田のニューゲーム



初めに言っておこう。僕は、オタクが嫌いだ。

自身も重度のオタクでありながら、他のオタクを

毛嫌いして何が面白いのかだって?


その原因は、僕が生業としているこの職業に他ならない。


異世界転生者に第二の人生を授ける職業・転生士。

そよ風程度の風から、宇宙創造のスキルに至るまで

あらゆる力をその転生者に見合った形で渡す仕事である。


転生士である僕・山田ロイドは、仕事と己の胸中に

あるドス黒い感情との折り合いに苦悩していた。


とある男性の転生者Aはこう言う。


「魔王になって、グフゥ、か、可愛い女の子をはべらせて、グヒュ、ハーレムしたいんですゥゥウ〜」

「あ、でも骨は嫌なんで人間タイプでお願いしますゥ」


彼には屍霊操作の心得を授けた後、去り際に、

あらん限りの罵声と大量の唾を吹きかけられた。

臭えよ汚えよ歯磨けよ。


その女性の転生者Bは可愛い顔を赤らめながら

語った。


「あの・・・私・・・ガチムチ系BLが好きなんです。

どうしようもなく。男性が、全てガチムチの方の世界に

転生させて頂けませんか?」


ごめんなさい、そんな世界無いです。

ムキムキの人が多い世界に転生してもらいました。

そしてまたしても転生直前に、舌打ちと侮蔑の眼差しを

向けられました。でもちょっとご褒美でした。


そもそも転生士が与えられる恩恵には、条件がある。

それは生前までの善行が大きく関わってくるのだ。


世に言う無双スキルを手に入れるには、おおよそ

1万人以上の人間の命を救う程の善行が必要である。

多くはないが、強力な力を持つものは確かに存在する。

請われても、その願いを叶えてあげられないのは

それが理由だ。


おわかりいただけただろうか。

自分の思い通りにならない事を他人にぶつける人間の

多い事多い事。そして、その大半はオタクなのだ。

ラノベやアニメとゲーム、漫画からなまじ情報を得ているため転生に対しての理解が深いのだ。

・・・だから僕はオタクが嫌いなんだ。


鬱積する気分をどうすることもできず、机に突っ伏し

深いため息を吐く。それにしてもどうしたものか。

今日に限って、まだ一人の転生者もここを訪れない。

椅子が二脚に机しかない真っ暗なこの部屋に、僕は居る。


来客だ。しかし転生門が開かない。

ということは転生予定者ではないようだ。

椅子に座りながら伸びをして緊張をほぐすと、

床から立ち上る光と共に、女性の転生士が現れた。


肩までの長さの茶髪に、色とりどりの鉱石をあしらった

髪飾りをつけている。そして薄い笑みを浮かべて、ちら

とこちらを流し見た。いつも通り、鈴木だ。


「お疲れ様です〜。今日もイケメンですね〜?」


フフフと笑いながら、小馬鹿にした笑みを浮かべている。

毎度思うがイヤミったらしい女だ。僕は椅子の背もたれに

体を預け、ふっと息を吐いた。


「カンベンしてください鈴木さん。中の下メガネの僕が

イケメンなら、イケメンの定義は必要なくなります」


正直に僕は、イケメンではない。年は取らないが、

外見は16、7前後で、転生士として生を受けた時のまま

保存される。


クスクスしている鈴木は、ハッと思い出したように、腰の

バッグから書簡を取り出し丸まったまま前に突き出した。


「これなーんだ?山田さん」


驚愕と同時に、勢いよく立ち上がったせいでバランスを

崩しかけた。やばい、やばい、やばい。滲み出る脂汗。

鼻水まで出てきた。メガネまでが曇る。


「ククッッククビですかぁああぁぁあ!??!」


鈴木はうつむき、語らない。ひとしきりの静寂の後、

口に手を当て大笑いしだして書簡の封を切り、広げた。


「出張辞令の通達です〜。」


「・・・は?」


僕は瞬時に真顔になった。なぜか?

出張辞令は滅多に出ないからだ。

書簡で届くものは、クビ一択と言う風潮が流れる

転生士と言う職業、なんとも世知辛いものだ。


「えーっとですねぇ、転生門管理者がトチって、

転生予定者が数百人単位で恩恵を受けずに転生して

しまったようなんです〜、送るのは出来るけど戻すことが出来ない都合上、転生士を出張させて力を授けてこい!

という事です〜。」


鈴木の持つ書簡に駆け寄り、まじまじと見回す。それを手に取ると、顎に手を当て一考する。


「この通達には2名って書かれてますね。てことは鈴木さん

も一緒に行くわけですか?」


フフフン、と鼻を鳴らすと、鈴木はバッグから麦わら帽子

を取り出し、被ると同時に満面の笑みを浮かべた。


「そ〜うでぇ〜す☆」


無言で鈴木に歩み寄り、右手を差し出す。


「やったな!!!」


握手を交わし、ひとしきりキャッキャウフフした後

出張辞令をニンマリ見つめる。

イヤミな女とも喜びを分かち合えるくらい

高揚しているのだ。


「私たち外部接触禁止・缶詰状態の転生士には嬉しい通達

ですよね〜!別々の場所に送られるのは残念だけど、

同じ異世界だから会えるかも・・・」


「え?」


「な〜んで〜もな〜いで〜す☆とりあえず準備しましょ!

山田さん!」


にこやかに進む会話とは裏腹に、僕は少しだけ、

ほんの少しだけ不安を抱いていた。これが前兆だったのか

なんだったのか、その時は全く予想にもしなかった。


僕を送り出す転生門は、無機質な光で行き先を照らす。


僕はオタクが嫌いだ。それと同じくらい自分のことも

好きになれないでいる。


ニヒルに見下すあなたがいるとしたら、ここで見る手を

止めるのもいいかもしれない。


だけど少しでも興味があるなら、是非見ていって

貰いたい。このお話は、つまらないと思ってた自分も

世界も、まとめて好きになるまでのお話なのだから。

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