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悪鬼姫と反逆の王子  作者: アレン
1章「貴方の駒となりましょう」
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異国の姫の新たな生活 5


 夜になり、城の広間へミアちゃんと一緒に向かう。


「ねぇミアちゃん、本当におかしくないかな?」

「大丈夫ですよ」


 何度目かの同じ質問に、ミアちゃんは同じように答えた。

 今私はこの前怖くて着れなかったピンクのドレスを着ている。ドレスはやっぱり繊細で美しく、ミアちゃんに結ってもらった髪もとてもいい。だからこそ、自分には似合っていないと不安でいっぱいだ。


「こんなドレス生まれて初めて着たわ。こういうのって破れちゃいそうで怖いね」


 誤って裾を踏んずけてしまわないように慎重に歩きながら苦笑する。


「あの、本当にそう思っているのですか?」

「え?」


 顔を上げると、ミアちゃんが困惑した表情を浮かべていた。


「もちろん」


 頷くとミアちゃんはますます困惑した様に目を泳がせる。何かを言おうと口を開け直ぐにキュッと閉じるを何度も繰り返す。


「ミアちゃ……」

「リリア様」


 話しかけようとした時、逆側から来たニギルに阻まれた。ミアちゃんはニギルを見て慌てて後ろに控える。


「こんばんはニギル」

「こんばんは。本日は急にすみません。主要な者が揃うのが今日しかなかったのです」

「いえ、夜会を開いていただけて嬉しいわ」

「そう言ってもらえて幸いです」


 笑みに笑みを返す。頬が攣ってしまいそうだ。

 ニギルは私を下から上へと品定めするように見てきた。


「ええっと、本日は実にお美しいですな。こう言っては失礼かもしれませんが、別人のようです」

「あ、ありがとう」


 ニギルは本当に驚いた様に目を丸くしていたが、直ぐに顔に笑みを貼り付ける。


「どうぞ中へ。アルフレッド様も既に来られておりますよ」

「ええ……」


 促されるまま部屋の戸を開ける。




 次の瞬間、今日ここへ来たことを心の底から後悔した。


 開けた瞬間に浴びせられた沢山の視線。

 最初はただ向けられただけだったそれは、私だと認識した瞬間冷ややかで鋭いものとなった。部屋は静寂に包まれる。


「どうぞ、中へ」


 ニギルがそう言いながら私の背を押す。振り向いて見ると、彼はまるで悪魔のような笑みを浮かべていた。


 前のめりになった私を周りはクスクスと好奇な目で笑う。

 所々からヒソヒソと声が聞こえる。


「ねぇあれが噂の?」

「あぁ。よく出てこれたよな」

「神経図太いんでしょう? でないとあんなまね出来ませんわ」

「確かにそうだな」


 耳に入ってくる会話は、歓迎のものでは到底なかった。


 助けをとアルフレッド様を探す。

 彼は部屋の隅の方にいて、私のことをまるで観察するかのように見つめていた。

 助けを求めるには遠すぎる。


 皆早く何かを話せと視線で訴えかけていた。

 ゴクリと唾を飲み込む。大丈夫。どうすればいいかは分かっているでしょう。

 小さく息を吐き、ニコリと微笑みを浮かべる。


「皆様初めまして、リリア・ジルベルトです。本日は私の為にお集まりいただきありがとうございます。どうぞこれからよろしくお願いします」


 ドレスの裾を持ち上げ腰をおとす。優雅に、堂々と。そしてもう一度ニコッと笑い部屋の中央へと進んだ。

 歩く間も鋭い視線が追いかけてきたけど、無視して料理の並ぶテーブルに向かう。

 こういう時は何も分かっていないフリをするのが一番いい。ビクついたり反抗するとますます事態を悪化させてしまうというんだ。


「さっさと料理取って大人しくしてよ」


 早くしようと思いつつも、豪華な料理たちに目移りしてしまう。


「リリア様」


 何にするか悩んでいると、後ろから声をかけられた。振り返るとニギルとその後ろに男が四人立っていた。


「こちらの者達は四伯爵家の当主達です。右からシイル、ドーラ、ビジット、ラクトラ」


 四人は頭を下げる。


「伯爵家ですか」

「ええ。議会を纏める役割を担っている者達です。今後もリリア様とは関わりがあるかと」


 ルギウスでは、議会が案を纏め、それを四伯爵家が総括して王が最終判断を下す、というシステムで政治を行っている。つまり、この四人が議会を取り纏めているのだ。


「しかし、噂のジルベルト国の美姫の妹姫がどんな方かと思っていましたが、流石はジルベルトの姫、実にお美しい」


 ニコリと笑って言ったシイルに苦笑いを浮かべる。言葉の内容は褒めているものだが、目が全くそうとは言っていない。


「そういえば、エレナ姫はたいそう歌がお上手だと聞いたことが」

「ほう。ではリリア様もお上手なのでしょうな」

「是非皆に聞かせて頂けませんか?」


 シイルの言葉を皮切りに、3人は声を揃えて言葉を浴びせてきた。そして会話に耳をすませていた他もわらわらと私達の元に集まりだし、口々に言葉を発していく。


「是非聴いてみたいわ」

「さぞ美しい歌声なんだろうな」

「当たり前だ。一度エレナ様の歌を聞いたことがあるが、心奪われるものだった。妹姫なのだから、リリア様もそうに決まっている」


 熱気が高まるなか、ギュッと胸元で手を握った。


「あ、あの!」


 全員が私に注目する。


「わ、私歌は…… とても人様の前でお聞かせできるものではないので」


 目を逸らしながらそう呟く。

 一瞬沈黙が流れる。人々は「面白くない」とでも言うように私を見下す。


「これこれ皆リリア様に迷惑をかけるでない」


 空気とは合わない陽気な声でニギルが私の肩に手を置いたきた。


「申し訳ありません。皆リリア様に興味があって興奮し過ぎてしまったのです」

「あ、えっと」

「みなリリア様に無茶を言ってはいけないじゃないか。今日はリリア様のためのものなのだから、私たちがもてなさなければ」


 ニギルの言葉に周りは空気を緩める。


「そうだな」

「申し訳ありませんリリア様」


 みんな私を全く見てない。私に向けた言葉のはずなのに、彼らの目はニギルの顔色を伺っている。この場を支配しているのはニギルなのだ、とこの時ハッキリと感じた。


「さぁリリア様、どうぞこの後もお楽しみを」


 ニヤリと笑うニギル。

 今回の夜会は、ニギルが自分が優位なのだと分からせるためのものだったのだろか。

 自分に従え、ってことなのかな。


 チラリとアルフレッドの方を見る。

 佇む彼は変わらず目線を私に向けていた。私がどう動くかを見定めるように。

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