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悪鬼姫と反逆の王子  作者: アレン
1章「貴方の駒となりましょう」
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異国の姫の新たな生活 2

 

『リリア様だ。何故こちらに来ているのだろうか』

『嫌だわ、みすぼらしい格好。エレナ様と同じ我が国の王女なんて、信じられないわね』


 歩く事に、悪意の視線と言葉が突き刺さってくる。


『お前に、私の前に立つ資格があるとでも思っているのか?! ますますあの女に似てきおって、汚らわしい』


 父から放たれた言葉が繰り返し再生され、叩かれた頬が痛む。


 周りを囲まれ顔を上げると、みんなが冷たい目で見下ろしてくる。


『捨てられた子のくせに、何故まだ生きているんだ』




 バッと目を開け、飛び起きる。荒い息と共に、心臓がバクバクと波打つ。


「夢……」


 そうだ。今のは夢、だから落ち着け。


 大きく息を吐き出して頬を伝った汗を拭う。

 心臓が落ち着いてきて窓の方を見ると、カーテンの隙間から朝の陽の光が入り込んでいた。


 ふぅと残った息を吐き出してベットからおりてドレッサーへ向かう。鏡に映った自分を見て、さっきとは違う落胆の息が口からこぼれた。

 左右上下好き勝手に跳ねている髪の毛。手で押さえてみるが、離した瞬間にまたはねる。


「やらかしたな。セットしたまま寝ちゃったからグッチャぐちゃだよ」


 ただでさえ言うことを聞かない髪なのに、これじゃあ何とかするのにどれだけかかるのか。


 もう一度ため息をつくと、同時にコンコンと扉を叩く音がした。


「リリア様。お目覚めでしょうか」


 え、うそレオの声だ。


 慌てて手櫛で髪を押さえて、椅子にかけていたカーディガンを引っ掛けて扉に向かった。

 失礼だとは分かってるけど、流石に寝起きを見られるのは恥ずかしいので少しだけ開けて顔を出す。


「おはよう」

「朝食の用意が整いましたのでお迎えに参りました」

「分かったわ。すぐ支度します」


 頷いて戸を閉め、急いで部屋の奥に走る。

 持ってきた鞄を開けて、中からまだ着ていないドレスを引っ張り出す。


 さぁ早く着替えて……


『随分と貧相な格好だな』


 服を脱ごうとした瞬間に、昨夜アルフレッドに言われた言葉が脳裏に浮かんだ。

 出したドレスは紺色のシンプルなもの。これもきっとあの人からしたら貧相に映るのだろうな。


「どう言われようと、私にはこれしかないのよ」


 自分の言葉に苦笑する。

 こんな事を呟いたところで、意味の無い虚しさが生まれるだけ。


「さ、準備準備!」


 頭を切り替える為に数回頬を叩き、一気に寝間着を脱いだ。


 ドレスは後ろを留めるのに少し苦労したけど、スムーズに着られた。

 ドレスの後は髪。

 ドレッサーの前に座って剛毛な栗色の髪と格闘する。

 いつも通り、思い通り整ってくれない自分の髪に嫌気がさす。

 なんで櫛でといてるのに全く落ち着かないんだろう。というかむしろ広がっている気がする。


 しばらく格闘を続けたが、結局今回も敗北。

 何も手をつけないわけにはいかないから、何とかハーフアップでまとめた。



 これで準備よし。

 結構時間がかかっちゃったから早く行かないと。


 急いで部屋を出ると、レオは向かい側で立って待ってくれていた。


「ごめんなさいお待たせしました」


 彼は私を見ると何も言わず歩き始めた。


 相変わらず無口な人だな。まぁ慣れたけど。



 彼に着いていくと、大きな部屋に通された。

 部屋には大きなテーブルだけが置かれていて、恐らく食事のための部屋なのだろう。

 テーブルの上には2人分の食事が並べらているから、アルフレッド様もこれから来るのかな。正直昨日の今日だから会いたくないって気持ちがあるんだけど。

 レオに聞いてみようか……っていない。

 さっきまで居たはずの場所はもぬけの殻で、私は部屋に一人取り残されていた。

 うーん仕方ない。取り敢えず食べるか。


 扉に近い方の椅子に座って、並ぶ食事に目を通す。

 メニューはパンにお供のバターとジャムそれと野菜スープ。朝ごはんには丁度いい量だ。

 まずはスープから飲んでみる。


「美味しい」


 煮込まれた野菜は柔らかくよく味が染みていて、頬が落ちそうなほど美味しい。

 昨日夕飯を食べなかった私のお腹は一気にご飯モードに切り替わって、どんどん食べ進んであっという間に完食してしまった。


「ふぅ。美味しかったぁ」

「食後に何かお飲みになりますか?」


 一息着いていたところに声をかけられる。

 声の方を見るといつの間にか少年が横にきていた。格好からして給仕かな。


「あ、えっと。何がオススメなの?」

「紅茶などいかがでしょうか」

「ではそれで。あ、あと料理を作ってくださった方に、とても美味しかったと伝えて貰えないですか」

「……承知致しました」


 給仕は何故か一瞬眉を潜め、去っていった。


 なんだろう、私変なこと言ったかな。

 思い返しても心当たりが見つからないけど。


 首を傾げていると、ガチャリと扉が開く音がした。扉の方を見ると、アルフレッド様とレオが入ってきた。

 二人を見ていると、アルフレッド様がこっちに目を向ける。真っ直ぐ向けられた目にギクリと体が強ばった。

 動けなくて見つめ続けていたけど、向こうから目を背けて彼は向かいの席について食事を初めてしまう。

 一言も発さないアルフレッド様にこちらから声をかける雰囲気じゃなくて、私は口をつむいで膝の上の手に目線をおとした。


 重い空気が部屋を包む。聞こえるのはアルフレッド様の食事の音だけ。


 気まずすぎる。早く給仕くんは戻ってこないかな。

 さっさとお茶飲んでここから出たい。


「おい」


 いきなり声をかけられ、ビクッと体が震える。


「は、はい」


 上ずった返事をしつつ顔を上げると、アルフレッド様は怪訝表情を向けてきていた。


「お前、またそんな格好をしているのか。憐れみを得るのは諦めろと言っただろう」

「なっ」


 ギリッと歯を食いしばって口から出そうになった怒りをなんとか収める。


 耐えろ。相手は王子で、私の婚約者なのよ。

 だからお淑やかに、お姫様らしく……。


 そう頭の中で呪文のように唱え、ニコッと笑みを浮かべた。


「も、申し訳ございません。アルフレッド様のお気に召しませんでしたか?」

「そういうことじゃない。薄汚い服、下手くそな髪。姫とは思えない格好だと言っている」


 な、なんだとぉ。

 そりゃあ姫らしくはないけど、こんなズバズバ言わなくてもさ。


「品位を疑うな。装いも整えられないとは、侍女を変えた方がいいのでは?」


 目も合わせず吐き出される言葉。

 頭の中でプツリと切れる音がする。

 私はバンっと机を叩きながら立ち上がって、アルフレッド様を睨んだ。


「黙って聞いていれば、言いたい放題言ってくれて! この服は私の母の形見なの!私を貶しても、これ以上この服を貶すことは許さないわ!!」


 昨日から溜め込んでいたものを全部言ってやった。

 アルフレッド様は驚いたように目を丸くし、私を見つめる。

 そんな彼をもう一度睨みつけ、私は椅子を直して部屋を後にした。


 扉を開け外へ出ると、丁度給仕と居合わせる。


「どうされましたか?」


 驚く給仕はいい匂いの紅茶と、美味しそうなケーキをお盆に乗せて持っている。

 美味しそう。つばが溢れてゴクリと飲み飲む。

 だけど今はケーキよりも部屋に戻る方が最優先だ。名残惜しけど。


「ごめんなさい、せっかく用意してもらったけど、少し調子が悪くて」

「そうですか」

「本当にごめんなさい」


 給仕に軽く頭を下げ、私は自室へ走って戻った。





◇ ◇ ◇ ◇




 部屋を出ていったリリアの背を黙って見る。


「アルフレッド様。食事が冷めてしまいますよ」

「あ、あぁ」


 レオに返事をしつつ扉からテーブルへ視線を映す。しかし、脳裏には先程自分を睨みつけていた少女の姿が浮かんでいた。

 くたびれたドレスに乱雑な髪。彼女の格好は姫とはほぼ遠いものだ。

 一体彼女侍女は何をやっているのか。


「レオ、午前中は何も無かったな」

「ええ。書類整理のみになっております」

「分かった。あと」


 俺は胸ポケットから紙を出し、書いてレオに渡す。

 レオは受け取り、1度紙を確認して何も言わず頭下げて部屋を出ていった。




◇ ◇ ◇ ◇



 部屋に入って一直線にベットへダイブ。


「あぁぁぁーーー!!」


 枕に顔を埋めて叫ぶ。


 やってしまった。やってしまったよぉ。

 折角なんとかお姫様らしくしていたのに。

 性格がお姫様とは程遠いから、隠して大人しくしていたのに。


「どうしようぅぅ」


 ベットの上をのたうち回りながら頭を抱える。

 王子にあんな態度をとってしまったんだ。何かしらの処罰は覚悟しないといけないだろう。最悪、国に返されるかも。


「それだけは、嫌だな」


 動きを止めて仰向けになり、天井を仰ぎながら目を閉じた。





 ウトウトと微睡んでいると、バンっと大きな音をたてていきなり扉が開く。

 慌てて起き上がると、アルフレッド様が扉を開け放って部屋の中に入ってきた。


「え、ちょっ、アルフレッド様?! なんでこんなところに…… て、そうじゃなくてっ!!」

「何だ、荷物はこれだけなのか。それにお前の侍女はどこだ?」


 え、これはどういうこと?

 なんでアルフレッド様が私の部屋に……ってそうじゃなくて!


 アルフレッド様は混乱する私をよそに、溜息を漏らしながらズカズカと部屋を見回る。


「おい聞いているのか。侍女はどこだ」


 唖然としいると、アルフレッド様は詰め寄ってきた。


「聞いてるのか?」

「あ、えっと。おりません」

「は?」


 眉を顰めるアルフレッド様に、ゴクリと唾を飲み込む。なんだか悪い事をした子供の気分だ。


「私に侍女はいません。1人です」

「何を馬鹿なことを。一国の姫が、一人の侍女も居ないなどあるわけがないだろう。それに、お前が来た時一人ではなかったはずだ」

「あれは……」


 多分ここへ来た時の御者のことを言っているんだろう。

 あれは父がジルベルトからルギウスへ行く間だけ就かせた人だから、お付きではないし、そもそも今まで侍女が居たことなんて一度もない。


「あの人は違います……」


 首を振ると、アルフレッド様は眉間に皺を寄せる。


 一体侍女のことを聞いたりしてなんの意味があるんだろう。

 分からなくてアルフレッド様を見つめていると、

 事情を話したくなくて、アルフレッドから目を背ける。無礼なことだとは分かっていたが、彼も同じだからお互い様だろう。

 アルフレッドはしばらくリリアを見つめたが、何も言わずそのまま部屋を出ていった。


 嵐のように来て、去っていってしまった。一体何をしに来たんだろう。

 ポカンと扉を見つめていると、コンコンと叩く音がする。


「リリア様。よろしいでしょう」

「え、ええ」


 レオの声に返事をしつつ、放心状態のままベットをおりる。

 扉を開けると、レオと見知らぬ髪を二つに結つ少女がいた。

 少女はリリアと目が合うと、ペコリと頭を下げる。


「ミアと申します。本日よりリリア様の身の回りのお世話をさせていただきます」

「え、えっと、ありがと……う?」


 訳が分からずレオの方へ助けを求める。


「本日よりこの者がリリア様の侍女を務めますので。後は任せたぞ」

「はい」


 侍女ってこんないきなりどうして?!

 もしかしてさっきアルフレッド様が来たのは、私が連れてきていた侍女に文句を言いに来たけど、そもそもいなかったから拍子抜けして帰って行ったってことなんだろうか。


 ポカンとする私を他所に、レオはミアちゃんが頷いたのを確認して部屋を出ていってしまった。


 いきなりの二人きりになりどうすればいいのか分からない私に、ミアちゃんはドレッサーへ向かい椅子を引いた。


「では、まず髪を整えますので、お座り下さい」

「あ、はい!」


 私は慌てて引かれた椅子に座る。

 後ろに立ったミアちゃんはまとめた髪を解き、櫛を入れる。

 するとどうだ、頑固で整えるのに一苦労な髪が、みるみるうちに綺麗に整えられていく。後ろに1つに纏め、少し残した髪を3つ編みにして、結び目に巻いてピンで留めた。


「うわぁ」


 綺麗に纏まった自分の髪に、驚きの声が零れた。自分では何度やっても直らなかったはねも見事に整えられている。


「すごい! ミアちゃんありがとう」


 嬉しくて満面の笑みでミアちゃんを見ると、彼女は一瞬目を見開いたが、直ぐに表情を固めてしまう。


「これくらい誰でもできますよ」


 そう言って櫛を置き傍から離れる。


「次は別室へ。参りましょう」


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