夏・祭り【……なろうの勇者な作家たち】
『激戦区!…』を読んで下さった方も、そうで無い方も、笑って頂けますように~。
コンコンと二回、隣の部屋のドアをノックした。
「はあい」と、ドアの向こうで川原さんのくぐもった声がする。
「こんにちは、隣の高橋ですー。お借りしてた本を返しに来ましたー」
「はーい、……」
ドアの向こうでパタパタと駆けて来る音がしてドアが開かれる。
「こんにちは。もう読み終わったの? 早いね、読むの」
「えっ、そうですか? 結構かかりましたよ。……長く借りちゃったからと思って、お礼持って来たんですけど」
「お、シューアイス! どうぞ上がってって。丁度話があったのよ」
私は頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、「お邪魔します」と上がらせて頂いた。続けざまに「座ってて」と言われてテーブルについた。
少し歳上で社会人の彼女の部屋は、私にとって憧れの部屋だ。何か良い匂いがして、持ち物に品がある。……そんなことはどうでも良いが。
「久し振りに紙媒体の本を読みました。ここ近年ずっとネットだったけど、やっぱり本は良いですねー。内容も読み応えありましたし」
テーブルの上に上下巻の2冊の本を置きながら、キッチンの川原さんに話しかけた。
「良いでしょう、辻 月夜さんの本。特にこの『放課後ミステリー』は若い人にお奨めするわ。希君にも貸してあげようかな? 」
希君はまだ高校生だが、『小説家になろう』で『僕のイマジナリーフレンド』というお話を投稿している。本人の弁によれば実体験らしい。……本当だろうか?
「そうですね。主人公が高校生ですから丁度良いですね~」
と無難に返しておいた。だって現実では、そうミステリチックなことなど起きないであろうから。
川原さんがアイスコーヒーを入れたコップを置いたタイミングで、「つまらない物ですが」と袋から出したシューアイスの箱を渡した。彼女は受け取ると一旦キッチンに戻り、暫くして「お持たせで失礼ですが……」とシューアイスをお皿に乗せて出してくれた。5個入りだから残りをしまって来たのだろう。
「いただきます」をして個別包装の袋を開くと、シューの香ばしい匂いとバニラの甘い香りが広がった。
「それでね、話なんだけどね……」
川原さん、このタイミングで何かを言い出すの癖ですか?何かがフラッシュバックして来ますが……。
「下の階の米倉さんがね、『夏・祭り』をやらない? って」
「夏祭りですか! 良いですね。どこでやるんですか? このアパートの皆でですか?」
夏祭り、心惹かれる言葉である。そういえば大学に入って独り暮らしを始めてから、祭りなど縁遠くなってしまった。
私のウキウキとした返事に、川原さんが手を振って笑い出す。
「違うわよ~。夏・祭りよ、夏・祭り!」
どういう意味だろう? ……ひょっとして。
「米倉さんのお子さんの幼稚園のお手伝い、とか?」
川原さんが首を横にぶんぶんと振る。……首、痛くなりません?
「この間、『…なろう』お茶会をしたじゃない? そのメンバーでやらないか? って」
……メンバーは、分かった。けど夏祭りって、まさか駅前で開かれる大祭の盆踊り大会に参加するんじゃないだろうな? それはちょっと……。
私が返答に窮していると、川原さんが見透かす様にニコニコしながら話を続ける。
「駅前の大祭じゃないからね? あのね、皆で、『…なろう』で夏・祭りをやろうってことなのよ。夏に関することをテーマに短編を投稿しようって」
なんだあ、そういうことか。……って、えっ?
「連載抱えてらっしゃる方もいますよね」
「うん。だから無理強いはしない。けど面白そうじゃない?」
「はあ……」
手の中のアイスが柔らかくなり、シューに滲み出てきたので私は慌ててかじった。
「とにかく夏をテーマにしていれば、お話のジャンルは何でも良いって」
何となく面白そうな気もして来た。
「分かりました、参加します。それで締め切りはあるんですか?」
「お盆前かな? ほら、お盆休みに読んで貰えそうじゃない?」
なるほど、良いアイディアかもしれない。残り少なくなったシューアイスを口に放り込むと、口の端からバニラが少し垂れてしまった。
8月10日の木曜夜6時、それは予約投稿にて決行された。今年のお盆休みは、11日の山の日からのところが多いであろう、というのがその理由だ。皆でタグのところに『夏・祭り』の文字を入れる約束をしてある。『…読もう!』を開いた人達の反応を考えると、イタズラをしている様なくすぐったさが心の中に沸き上がってくる。
そして、その日は駅前の大祭の前夜祭の日でもあった。話の流れで、どうせなら本物の夏祭りにも皆で行こう! ということになった。
この、小説を投稿しているという繋がりで出来た友人達。米倉さんとママ友さん、そしてそのお子さん達からユーザー仲間の山崎のお婆ちゃんとご友人達までのいろんな年齢層の集まり。……まるで社会の縮図の様だと思った。
実際書いているジャンルも、世界観も人それぞれ全然違うのに、気がついたら仲間になっていた。
高校生作家の希君にも学ぶことは多いし、山崎のお婆ちゃん達に至っては学ぶことしか無い。(と言ったって気さくな方達で押し付けがましく無いどころか、話してて田舎のお祖母ちゃんと話してるみたいで楽しくて仕方が無い。)
なんだかこうしてると嬉しくて、テンションが上がってくるのを感じる。……いけない! また変なスイッチが入りそうだ……。
そのとき、お酒の入った川原さんに背中をはたかれた。ので、つい、やってしまった。
「見果てぬ夢って、サイコーーーッ!!」
丁度そのタイミングでお祭りのBGMが途絶えていて、私の声だけが駅前に響き渡ってしまったことは、……良い思い出だと思いたい。
完
ってな訳でして、1人『夏・祭り』をするのか、しないのか…、悩んでる中です。
やるとしたら書き溜めて、作中の日時に予約投稿ですね(^_^;)。
遅筆なので期待しないで頂けるとありがたいです。
お読み下さって、ありがとうございました。
ということを書いていたら、ですね、仲良くさせて頂いている作家の皆様から「夏・祭り、やりましょう」と言って頂けまして、本当にやることになりました。
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8月10日午後6時、開催です。よろしくお願いいたします。




