表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

童話

歩くカエル (童話17)

作者: keikato

 この話はずいぶん昔、山道で出会ったカエルに聞いたものです。

 今でも私は、その年老いたカエルのことが忘れられません。


 その年老いたカエルは森の中の小さな沼に住んでいました。

 それで話というのは――。

 一匹の若いカエルが、あるときひょんなことから立って歩いたのをきっかけに、それが若者たちの間ではやり始めたことから始まります。

「つまらんことがはやり出したもんだ。まったく近ごろの若いもんときたら……」

 口をそろえてなげいていた年寄りたちも、いつかしら二本足で立って歩く者が多くなっていました。


 ここはあの年老いたカエルの一家。

「よく見てるんだぞ」

 子供を前に、父さんが二本足で歩いてみせる。

 子供はまねをして歩いたが、三歩ほど進んだところでバランスをくずし転んでしまった。

「さあ、もう一度だ」

 父さんが何度も歩き方を教える。

 そこへ……。

 おじいさんがやってきて口を出した。

「なんでそんなくだらんことを。ワシらはな、四本足ではねるのが一番いいんじゃ」

「うちのおじいさんって、ほんとにガンコなんですから。おとなりのおじいさんはね、このごろ歩く練習を始めたそうですよ」

 母さんが言い返す。

「ふん。立って歩く、どこがいいんじゃ」

「いいとか悪いとかじゃなくて、みんながやってることなんだから。いいかげん歩くことを考えたらどうですか?」

 父さんはあきれた顔をした。

「そうだよ。みんな歩いてるんだよ」

 子供も口をとがらせた。

 家族からのけ者にされたようで、おじいさんはまったくもっておもしろくない。

「ワシはぜったいイヤじゃからな」

 そう言い捨てて、ピョンピョンはねながら家を出ていった。


 ひさしぶりにおじいさんは、仲のいい友人の家に遊びに行くことにした。その友人も立って歩くことに反対しており、おじいさんと気が合うのだ。

 行く道すがら、みなが二本足で歩いていた。

――イヤな世の中になったもんじゃ。

 歩く者たちを無視して、おじいさんはピヨンピヨンとはねていった。

 友人の家に着き、おじいさんはおもわず目を見開いた。玄関で出迎えてくれた友人までもが二本足で立っているのだ。

「オマエまでが、なんで……」

「いやな。どうしても立って歩いてくれって、孫のヤツがせがむもんでね。それで練習を始めたのさ」

 友人が苦笑いを浮かべる。

「あちこち傷だらけじゃないか」

「ずいぶん転んでね。それでもやっと立てるようになったんだ。まあ、お茶でも飲もうじゃないか」

 友人は四本足にもどると、おじいさんに奥へあがるようすすめた。

「いや、今日は近くまで来たもんで、ちょっと寄っただけだ。また来るよ」

 おじいさんはさそいをことわった。裏切られたようで、とても話をする気になれなかったのだ。

 とはいえ家に帰る気にもなれず、しばらくあたりをブラブラとしていたのだが、そのうち夕闇がせまってきた。

 このときなにを思ったか、おじいさんは家には帰らず、森の中へと入っていったのだった。


 そんなとき。

 私はこのカエルに出会ったのです。

 この話が終わると、

「ワシにはな、友人の気持ちが痛いほどわかるんじゃよ」

 そう言って、年老いたカエルはスクッと立ち上がったのです。

 それから一歩二歩と足を前に出し、なんと二本足で歩き始めたではありませんか。

「いやあ、なかなかうまくなれなくてね」

 カエルはなんとも照れくさそうな顔で振り返り、それからピョンピョンはねながら森の奥へと消えていきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 寓意を含んだ良作ですね。周りの要請に応えざるを得ない老ガエルの悲哀がとてもうまく、切なく描かれています。 こういう題材は見つけ出すのがむずかしい。微妙なところですからね。 Keikatoさ…
2018/01/14 05:11 退会済み
管理
[一言] 現代を風刺したような作品ともとれますね。まだガラケーの携帯電話を使ってるのか、スマホに変えたのかなんてやりとりを聞くと、なぜか、このお話を思い出します。つくづくと多作な作家さんですね。書き続…
[一言] 『かもめのジョナサン』リチャード・バックによる小説。寓話的作品 を思い起こしました 古い体質因習に凝り固まった世界 それを打破しようとすると 変わり者扱いされて村八分とかも いろいろ考え…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ