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雪花 ~四季の想い・第一幕~  作者: 雪原歌乃
番外編・五 不器用な愛情表現
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Act.1

宏樹視点、本編閑話です(『愛情のカタチ』とリンクしています)

 年月の流れというのは本当に早い。しかも、年を取れば取るほど、そのスピードが増してゆくように感じるのは気のせいだろうか。


 去年の今頃、俺は紫織を海に連れて行き、ある〈約束〉をした。

 でも、その〈約束〉は、決して絶対とは言いきれない。


 紫織には、俺よりも十年分も若い。

 若いからこそ、いつ、心変わりしてもおかしくない。

 もちろん、ずっと俺だけを想い続けてくれたら嬉しいとは思うけど、無理に束縛してしまうことも決して望んでいない。


 紫織が幸せになる。

 それは、俺の幸せにも繋がる。


 ◆◇◆◇


 先月上旬辺り、職場の後輩がひとり、急に辞めてしまった。

 本来であれば、どんなに遅くても一カ月前には辞める旨を伝えるのが常識なのだが、二週間前から急に体調を崩したとかで、結局、周りに何の挨拶もなしに来なくなってしまった。


 お陰で、そいつの皺寄せが見事に俺に回ってきた。

 もちろん、俺ひとりではとても追い着かないから、少しは周りにも手伝ってもらってはいるものの、皮肉なことに、辞めた奴の仕事を代わりに出来るのは俺ぐらいだ。

 そうなると、頼める仕事も限られてしまう。


 多忙なのに慣れている俺も、今回ばかりは、このまま過労死するのではないかと本気で危機感を覚えた。


 朝は家族が寝ている間に家を出て、帰りは帰りで、日付が変わらないうちに帰れるのがいいほど。

 休日も、いつもならば気晴らしに車を走らせるのだが、そんな気も起きず、酷い時は丸一日爆睡してしまう。


 弟の朋也とは、全く顔を合わせていないわけではないが、それでも、今までに増してロクな会話をしていない。

 いや、会話ではなく、挨拶だけだろうか。


 こんな調子だから、当然、隣に住んでいる紫織となんて、どれぐらい顔を合わせていないことか。

 朋也から近況を聴く機会も持てないから、元気にしているのか、それとも、寒くなってきたから体調を崩して寝込んでいるのか、そんな些細なことすら分からずにいた。


 ただ、一年以上前の俺だったら、今ほど紫織のことを気にしていなかったと思う。

 明らかに俺の中で気持ちの変化があったのは、直接想いを伝えられてからだ。


 澄んだ瞳で、俺を真っ直ぐに見つめる紫織は、今でも心の奥に離れずに残っている。

 まだまだ子供だと思っていたのに、あの瞬間、確かに紫織は、女の顔を覗かせていた。

 だから、俺も戸惑った。

 でも、紫織の気持ちに応えるには、時期が早過ぎる。

 そう思ったからこそ、〈約束〉という名の条件を出したのだ。


 ちなみに、今日は休日だった。

 例の如く、疲れが全く取れず、気付いたら昼まで寝入ってしまった。


 ◆◇◆◇


 洗顔を済ませ、リビングに姿を現した俺に、お袋は普通に、「あら、おはよう」と挨拶してくる。

 いつもなら、小言のひとつも言われるところだが、朝早くて夜遅い生活が続いているのを分かっているからか、よけいな口は叩かない。

 かと言って、同情するような台詞もない。

 でも、それがかえって俺にはありがたいことだった。


「お腹空いてる? 食べたいなら軽く何か作るわよ?」


「――うん、頼む」


 俺はお袋の好意に素直に甘え、コタツの前に腰を下ろして足を伸ばす。


 それと入れ替わるように、お袋はコタツから出て、キッチンへと向かう。

 そして、いそいそとメシの支度を始めた。


 出来上がるまでの間、俺はテレビを観る。

 ちょうど正午になり、有名なバラエティの長寿番組が始まった。

 バラエティは嫌いじゃない。

 下らないと言えば下らないが、殺伐としていない分、いつでも安心して観ることが出来る。


 芸人が弄られているのを眺めながら苦笑いしているところへ、お袋がキッチンから戻って来た。


「ほら、冷めないうちに食べなさい」


 そう言って、俺の前に、残りものをありったけぶち込んだような具だくさんチャーハンと、昨夜の味噌汁を置いた。


「いただきます」


 俺はご丁寧に挨拶してから、スプーンを持ち、チャーハンを掬って口に運ぶ。

 普通に美味い。

 味噌汁は何度も温め直したからか、味が若干落ちているように思えたが、別に食えないほどでもなかった。


 俺が食っている間、お袋は自分でお茶を淹れて啜っている。


「母さんは食わないの?」


 俺が問うと、お袋は湯飲みから口を放し、「もう食べたから」と答えた。


「今日は朝ご飯も早くに食べちゃったからね。お腹が空くのが早かったのよ」


 そう言って、またお茶を美味そうに飲む。


「今年もあっという間ね……」


 何気なく口にして、お袋は壁に掲げられたカレンダーを見上げた。

 俺も釣られて、スプーンを持ったままで顔を上げた途端、ハッとした。


 もうじきクリスマスだ。

 イベントごとに疎い俺は、いつもならば全く気にも留めないのだけど、今は違った。


 考えてみたら、去年は紫織からプレゼントを貰っていたのに、俺は何もしていない。

 もちろん、海に連れて行った帰りに一緒に飯は食ったが、それだけだ。

 さすがに、今年は何かプレゼントした方がいいかもしれない。


 休みは今日だけじゃない。

 しかし、後回しにしたら、また用意するタイミングを失ってしまう。

 そう考えた俺は、メシを食い終わってからプレゼントを買いに行こうと決めた。

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