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雪花 ~四季の想い・第一幕~  作者: 雪原歌乃
番外編・二 幸福の条件
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Act.4

 当日、私は宏樹君と共に式場に向かった。


 ドレスの試着だけでも緊張したけれども、今日はその比じゃない。

 宏樹君がふざけて口にした、『限界に達して、そのまま大勢の前で失神しちゃうんじゃないか?』が現実に起こってしまいそうな予感がした。


「どうした?」


 私の緊張が伝わったのか、宏樹君が心配そうに顔を覗き込んでくる。


 私は笑顔を取り繕おうと思ったものの、いつものように自然に笑えなかった。


 式の最中にコケたらどうしよう。

 指輪交換で、指輪を落としてしまったらどうしよう。

 他にも何かヘマをして、みんなを失笑させてしまったら……。


「無事に終われるのかな……?」


 つい、弱気になって宏樹君に訊ねた。


 宏樹君は何も答えなかった。

 その代わり、小さく震える私の手を、宏樹君のそれで優しく包み込んできた。


 不意に、一緒に海に言った時のことを想い出した。

 あの時も、宏樹君は力強い手で私を温めてくれた。



 大丈夫だから――



 彼の手は、そう私に伝えてきた。


 ◆◇◆◇


 式本番が近付き、宏樹君は先にチャペルへ向かった。


 そこでは、大切な〈家族〉の朋也と、大切な〈親友〉の涼香も待っている。


 それぞれの顔を代わる代わる想い浮かべながら、私は何度も深呼吸を繰り返した。


「時間ですよ」


 とうとう呼ばれた。


 私はゆっくりと椅子から立ち上がると、スタッフさんの案内の下、一歩、また一歩とチャペルへと近付く。


 胸の鼓動は次第に高鳴りを増し、また、良からぬことを考えてしまう。

 けれども、宏樹君の手の温もりを想い出したら、少しは緊張が解けた。


 ――大丈夫。宏樹君を信じていれば……


 私は再び深呼吸して、扉の前で待機していたお父さんの腕に手を回した。


 お父さんを上目で見つめると、その表情はいつにも増して固い。

 もしかしたら、私以上に緊張しているのかもしれない。


「しっかり、お父さん」


 自分のことを棚に上げて、私はお父さんを励ます。


 お父さんは、「ああ」と頷きはしたものの、すっかりガチガチになっている。

 こうなると、私自身よりも、お父さんが何かしでかすのではと心配になってしまう。


 そのうち、チャペルからパイプオルガンのメロディが流れてきた。入場の合図だ。


 扉が開かれると、みんなが一斉に私達に注目する。


 ひとりひとりの顔を見比べる余裕なんてあるはずがない。

 私は、お父さんと並んで、ヴァージンロードをゆっくりと歩いてゆく。


 お客さん達の側を通りかかるたびに、カメラのシャッター音と、同時にフラッシュが焚かれる。

 多分、朋也と涼香も、カメラ片手に私達を撮ってくれているかもしれない。


 宏樹君の元へ着くと、私はお父さんから離れ、今度は宏樹君の腕に手を絡める。

 付き合い始めてからは、こうしたスキンシップは当たり前のようになっているものの、場が場だからか、いつにも増して胸が高鳴っている。


 みんなの前で結婚宣言をするまで、あと少しとなった。


 ◆◇◆◇


 式は厳かに進み、無事に終わった。


 今日は晴天に恵まれたので、チャペルの外にも出ることとなった。


 先に外に出ていたお客さん達は、私と宏樹君を見るなり、割れんばかりの拍手と喝采を送ってくれた。

 式とは対照的に、ずいぶんと賑わいでいた。


「紫織紫織!」


 ざわめきの中で、私の名前を連呼する声が聴こえてきた。

 もしや、と思ったら、やっぱり、涼香が私に向かって手を振っている。


「おふたりさーん、こっち向いて笑ってー!」


 涼香はカメラを構えると、何度もシャッターを切る。


 ふと、宏樹君を仰ぎ見ると、涼香の要望に応えたのか、小さく笑みを浮かべていた。


 今度は、朋也が私達の前に現れた。

 涼香同様、しっかりカメラを握っている。


「兄貴、表情かてえよ。もうちょっと愛想良く出来ねえのかよ?」


 憎まれ口を叩きながら、レンズを私達に向けてくる。


 そんな朋也に、宏樹君は苦笑いし、「朋也、あとで憶えてろよ」と呟いた。


 ◆◇◆◇


 式当日までは、毎日のようにバタバタしていたのに、いざ終わると、急に拍子抜けしてしまう。

 あとは、新婚旅行だけだ。

 と言っても、宏樹君の仕事の都合上、国内で済ませることになっているのだけど。


 宏樹君には、悪い、と謝罪された。

 でも、私は場所の拘りは特にないし、少しでも長く宏樹君と過ごせる時間が持てることが何よりだと思っている。


 しばらくはふたりだけの生活を楽しんで、ある程度の時間が経ったら、新しい家族を増やすことを考えても良いだろう。


「あ、涼香に一応、お土産何がいいか訊いた方がいいかな?」


 私はひとりごちると、携帯を手にし、メールを打ち込んだ。


 送信して間もなく、涼香から返信が届いた。



 お土産?

 何だっていいよ。

 てかさ、私はもう、あんたらのラブラブっぷりにお腹いっぱいなんだけど――



 メールの一番最後には、呆れ笑いの絵文字も添えられていた。


「それはお粗末様でした」


 メールに向かって頭を下げた私は、さらに涼香へ返信を送る。



 私達の幸せでお腹いっぱいになったんなら、涼香も今度こそ幸せになれるよ。

 きっとね――


[幸福の条件-End]

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