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雪花 ~四季の想い・第一幕~  作者: 雪原歌乃
第十話 雪花舞う季節に
39/57

Act.3

 紫織はあれから、家から少し離れた場所で降ろされた。

 やはり宏樹は、朋也へ対しての罪悪感は拭いきれないらしい。


「高校を卒業するまで、か……」


 雪の降る中をトボトボ歩いていると、ちょうど反対側からひとりの少年が歩いてくる姿が目に飛び込んだ。

 宏樹の弟――朋也だった。


 朋也もまた紫織に気付いたらしく、足早にこちらに近付いて来て、「よ」と声をかけてきた。


「紫織もどっか行ってたのか?」


「あ、うん。まあ……」


 紫織は不自然な受け答えをしてしまった。


 朋也は一瞬、怪訝そうに紫織を見つめていたが、すぐにいつもの表情に戻り、彼女の隣に並んで歩いた。


「あ、そうだ!」


 歩き出すなり、朋也が急に声を上げた。


「な、なに……?」


 紫織は、今日のことがバレてしまったか、と焦ったが、どうやら違ったらしい。


 朋也はコートのポケットから何かを取り出すと、それを紫織の前に差し出してきた。

 よく見ると、包装紙で綺麗にラッピングされ、赤いリボン付きのシールが貼られている。


「――これは……?」


 目を丸くして紫織が訊ねると、朋也は「見りゃ分かるだろ」とぶっきらぼうに言い放った。


「クリスマスプレゼントの礼。ちょっと日が経っちまったけど、やらないわけにはいかないよなあ、と思ってさ。――ま、そんなに重たいもんじゃないから貰っとけよ」


 そう言うと、朋也は半ば強引にプレゼントを押し付けてくる。


 紫織は呆気に取られたまま、それを受け取ってしまった。


「――それにしたってお前、センスがあるのかないのかよく分かんねえよなあ」


 紫織にプレゼントを渡してから、朋也は笑いを噛み殺しながら続けた。


「まさか、紫織からのプレゼントが、シャーペンとボールペンのセットだとは思いもしなかったよ。まあ、実用性があるから別に構わねえけどさ」


「――別にいいじゃん」


「いや、悪いなんて言ってないし」


 朋也と会話を交わしながら、紫織はふと、こうして軽口を叩き合うのはずいぶんと久しぶりだな、と思っていた。


 高校生になって初めての冬は、本当に色々なことがあった。


 宏樹のために泣き、朋也の想いに苦しみ、涼香の気持ちを知ってからは、さらに胸を痛めた。


(でもまだ、宏樹君には応えてもらえないんだよね……)


 帰りの車の中で告げられた、『高校卒業するまで』という一言。

 紫織は宏樹にずっと片想いを続けていたから、これからもずっと想い続ける自信はあるが、果たして宏樹はどうだろう。


「――朋也」


 紫織に呼ばれた朋也は、「なに?」と顔を向けてきた。


 紫織は少し間を置いてから口を開いた。


「朋也は、好きな人が出来たら、ずっと心変わりしないって自信、ある?」


 紫織の質問に、朋也はあからさまに表情を曇らせた。

 目を忙しなく泳がせ、思考を巡らせている。

 だが、やがて、思いきったように口にしてきた。


「――兄貴になんか言われた?」


 紫織はビクリとした。

 瞠目したまま朋也を見つめていると、朋也は呆れたように溜め息をひとつ吐いた。


「ここんトコずーっと、兄貴の様子がおかしかったからな。それに、あの時の電話、紫織だろ? 兄貴がちょっと焦り気味だったから、俺も何となく勘付いた。――ま、気付かねえふりしてやったんだけど」


「――どうして……?」


「考えるまでもねえだろ」


 朋也は口元に小さな笑みを浮かべた。


「俺は、紫織のために知らんふりをしてやっただけだ。兄貴だって結局は、紫織のことはまんざらでもなさそうな雰囲気だったしな。

 確かにムカつくけど、かと言って、紫織が不幸になるのも見てらんねえし」


 そこまで言うと、朋也は悪戯っ子のように白い歯を見せた。


 もしかしたら、相当無理をしているのかもしれない。

 しかし、だからと言って、朋也の気持ちに応えることも決して出来ない。


「――ごめん……」


 紫織は謝罪を口にした。

 それ以上、何も言葉が出てこなかった。


 そんな紫織を朋也はどう思ったのだろう。

 朋也もまた、よけいなことは何も言わず、ただ、紫織の髪を何度も撫で回していた。


 ◆◇◆◇


 家の前まで来ると、先ほどよりも雪がさらに積もっていた。


「それじゃあ」


 朋也が背を向けた瞬間、紫織は「待って!」と引き止めた。


 朋也はその声に反応して振り返った。


「これからもずっと、朋也は私の大切な〈家族〉だよ」


 気休めにもならないだろう、と紫織は思いつつ、言わずにはいられなかった。


 朋也は驚いたように目を見開いている。


「――〈友達〉よりはレベルが上だな」


 皮肉とも捉えられる言葉だったが、紫織は嫌な気持ちには全くならなかった。


 朋也もきっと、紫織の台詞を喜んでいる。

 そう信じているから。


「また明日ね」


「ああ、また」


 それを潮に、朋也は今度こそ自分の家へ入って行った。


 紫織はそれを見届けてから、未だに降り続く雪を眺めていた。


 一粒だけを見れば小さな結晶。

 しかし、宏樹が言っていた通り、時間をかけて降り積もれば、全てを銀世界へと変えてゆく。


(宏樹君への想いも、また少しずつ育んでいけばいいよね)


 紫織は自分に言い聞かせると、手を翳しながら雪の花を一身に浴び続けた。


[第十話-End]

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