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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第一章 ログイン開始
9/79

007 闇魔法

「ん……あれ? 私……」


 瞼を擦りながらも目を覚ます。

 思いっきり目やにが付いている。

 いつの間にかぐっすりと眠ってしまっていたらしい。


「あー……。確かに補習授業が続いて、レポート提出とかもあったから徹夜続きだったし……」


 大学の教授の顔が脳裏に浮かぶ。

 あー、嫌だ嫌だ。

 仮想世界に入ってまで学校の事なんか思い出したくも無い……。


 のそり、と起き上がり大きく伸びをする。

 どれくらい寝ちゃってたんだろう……。

 まだ日が高いから3~4時間くらいだろうか。


 辺りを見回す。

 相変わらず心地良い風が吹き、滝の音が聞こえている。

 まるで田舎にでも帰ったような感覚。

 おばあちゃん、元気かな……。


「……さて、と。夜になるまでに街を探さなきゃ」


 予定では2~3日は現実世界にログアウトするつもりはない。

 一度ログアウトしちゃったら、次にログイン出来るまで制限が掛かってしまうかも知れないし。

 サービス開始直後のVRMMOでは良くある話だ。

 どうせ現実世界ではほとんど時間が経過していないのだし、気楽に行こう気楽に。


「えっと……。こっちから降りるのかな……」


 滝の方角とは反対方向に進む。

 その先には薄暗い森が続いているが、目視できない程では無い。

 しっかりとシルバーナイフを握り締める私。

 注意すべきはモンスターの急襲……。


 森を進みながらもウインドウを開き所持金を確認する。



【3154G】


 

 先程のヅライムの群れでかなりお金を稼ぐことが出来た。

 ドロップアイテムのヅラは何に使えるのかは定かではないが、【緑色の液体】、【薄緑色の液体】、【濃緑色の液体】、【赤く染まった液体】などは何かの調合アイテムなのだろう。

 この仮想世界では『ものづくり』のシステムがかなりやり込める様になっているらしい。

 牧場経営から飲食店、洋裁店、武器・防具店。

 様々な分野で『ものづくり』を極められる。


「……私には向いてないなぁ。お店の経営とかは……」


 やっぱりダンジョンに潜ったりお宝探したり。

 モンスターをばったばったと倒して良い武器をガンガン装備してしゃきーんしたい。

 あとは確か【モンスター捕獲システム】があった筈。

 モンスターを仲間にして戦闘に参加させたり、お店の手伝いをさせたり――。


「……でも流石にさっきのハゲ軍団はなぁ……」


 一瞬、ヅライムを仲間にしようとか考えたが、頭を振り考え直す。

 奴らに一体何が出来るのか。

 恐らく初級モンスターだろうし、仲間にするのならもっと強そうな――。


『オーッホッホッホ!』


「うわ! びっくりした!」


 いきなり頭上から女の笑い声が聞こえて来て腰を抜かす。

 咄嗟に立ち上がりシルバーナイフを構え、声のした方向へと振り返る。



【NAME】うぃっち【HP】450/450【性格】えっち



「・・・」


 …………うん。


『あ! いま貴方、心の中で『うぃっちなのにえっちってギャグ!? うわさぶっ!』とか思ったでしょう!』


「うん」


『いやうんて』


 しゅたっと木から飛び降りて来たのは、魔道師風の女モンスター。

 胸の部分を大きく開いた挑発的な魔道着を来ている。

 えっちというよりビッチな感じ……?


『……まあいいわ。貴方、私の縄張りであるこの森を素通りしようなんざぁ、いい度胸しているじゃない』


 そう言い腰に手を当てながらも睨みつけて来るうぃっち。

 アレか。攻撃魔法とか使って来るのかな。

 見てみたい気もするが、先程のヅライムよりは多少強そうだし……。


 私は生唾をごくりと飲み込む。

 その様子を見てか、うぃっちがニヤリとゲスっぽい笑みを浮かべる。


『……はっはーん。貴方……私のこの身体が目当てなのね』


 身をくねらせながらも何故か嬉しそうにそう言い出すうぃっち。

 うん。

 ただの馬鹿なのかもしれない。


「あの、ビッチさん」


『うぃっちです』


「あ、すいません。あの、うぃっちさん。この森を抜けたら、どこかに街とかありますかね」


『え? あー、うん。この森を南に抜けて、そこから東に向かうと大きな街があるよ』


「そうですか。有難う御座います」


 お礼を言った私は軽く会釈をして横をすり抜ける。

 良かった。大きな街があるのならば、そこで装備品とかも揃えられるだろうし。

 お腹も空いて来たから食事もしたいし。


『途中、凶暴なモンスターとか出てくるから気をつけるんだよ――――っておい!』


 何かに気付いたのか、背後で声を荒げるうぃっちさん。

 いちいち甲高い声で叫ばないで欲しい。

 寝起きなんだから頭にガンガン響くし……。


『なんでわたし親切に道案内なんてしてんのよ! この森を抜けたいなら金を払いなさいよ金を!』


「お金……?」


『そうよ! 通行料をよこしなさいって言っているの!』


 通行料……。

 えー?

 それは嫌だなぁ……。


「断ったら……どうなるんですかね?」


 恐る恐るそう聞いてみる私。

 見る見るうちに怖いお姉さん顔に変化するうぃっち。


『貴方……泣く子も黙る、この大魔道師うぃっち様の怖さを知らないのね……』


「はい」


『正直すぎてびっくりした』


 いや、そんな事言われても……。

 実際知らないんだし……。


『……まあいいわ。知らないのだったら教えてあげるわ……!』


 そう答えたうぃっちは右手を高々と上空へ掲げる。

 その手に黒いモヤのようなものが集まってくるのが見える。

 あれは……【魔法マジック】?


『ふふふ……。貴方も男なら、私の【闇魔法ダークネス】からは逃れられないわ……!』


 不敵な笑みを浮かべたうぃっちは私に向かい魔法を放つ。

 黒い霧に包まれる私の身体。

 絶体絶命のピンチ――。


「・・・」


『・・・』


「・・・」


『…………あれ?』


 黒い霧が払われる。

 別に、どこにも異常は見られない。

 不発……だったのかな?


『どうして私の【魅了チャーム】が効かないの! どんな男だって虜にする、私の得意魔法なのに! 貴方、どっかおかしいんじゃないの!』


 いやおかしいとか言われても……。

 というか男……?

 あー、なるほど。


「えーとですね、ビッチさん」


『うぃっちです』


「あ、すいません。あの、うぃっちさん。私、じつは女なんですよ」


『・・・』


 無言になるうぃっち。

 私の頭から足の先まで、物凄い形相でガン見している。


『またまた』


「あ、いや、ホントなんですけど……」


『えー? じゃあ確認してもいーい?』


「いやです」


 にじり寄って来るうぃっちが凄くいやらしい顔をしていたので即答する私。

 どう確認するのかが想像できるだけに余計こわい。


『確かに女の子っぽい顔はしてるけど……でも私のオスセンサーはびんびんに反応してるし……』


 私の匂いを嗅ぎ始めたうぃっち。

 オスの匂いなんてあるのだろうか。

 というか近い。

 暑苦しい。


「あの、ですから。ここは《Trans Sexual Online》っていうゲームの世界で――って触ろうとすんじゃねぇ!」


 勝手に私の身体をまさぐろうとしていたうぃっちの頭を叩く。

 【性格】がえっちというのは本当みたいだ。

 あまり関わらない方が良いなこいつは……。


『くっ……! じゃあ私の【魅了チャーム】は貴方には効かないっていうの……! そんな筈はないわ! じゃあ聞くけど、この私のぼいんな身体を見ても何とも思わないって訳!?』


「いや、何とも思わないというか、何か凄く無理してるなーとか」『無理してない!』


「ちょっとストレス溜まっちゃって奇行に走ってるのかなーとか」『走ってない! なに奇行って!?』


 私の耳元で精一杯否定するうぃっち。

 凄くうるさい。

 頭がガンガンする……。


 でも、私に【闇魔法ダークネス】が効かないのだったら――。


『……な、何よ。その怖い笑みは……。嫌……来ないで……ごめん、謝るから……!』


 私の殺気に気付き後ずさるうぃっち。

 指の関節をポキポキと鳴らしながら、ニヤリと笑う私――。


『お金ならいらないから……! あ、いや、むしろ払うから……! だから、だからどうか見逃して……!』


 どうせこのモンスターを倒しても、他の『うぃっち』と意識を共有しているのだろう。

 ならば徹底的に恐怖を与えて、今後悪さをしない様にした方が良いのかも知れない――。


『嫌……なにこの子すごい怖い……! もしやこれが……本物のオカマの怖さ――』


「オカマ言うんじゃねえええええええええええええええ!!!」


ずどーん。


 猛烈アッパーをかました私。

 一瞬にして消滅するうぃっち。

 そしてドロップアイテムとゴールドが出現する。



【破れた魔道着】【闇の書⑤】【585G】



「【闇の書】……? なんだろう、これ……」


 手に取ると裏には大きく⑤という数字が刻まれている。

 という事は②とか③とかもあるのだろうか。

 何にせよ、早く街に向かった方が良いかもしれない。

 情報も色々と収集しておきたいし。



 こうして、魔道師うぃっちとの壮絶な戦いを乗り切った私――。


















USER NAME/佐塚真奈美さづかまなみ

LOGIN NAME/マナ

SEX/男?

LOGIN TIME/0004:05:11

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